今回ちょろっとだけしゃべる月人、無駄に口調に苦戦していたりします。
なにせサンプルがコラボライブの時のあれしかないからね、思い込みで書くしかないんだなこれが。
一気に技術を推し進めたい。
君からそう提案をもらったのは、随分と時間が経ったある日のことだった。
日本中を旅し、現時点ではもと光る竹に通用する技術がないと判断した頃。
次に僕達がとった行動は最も技術が進んでいる都市に定住し、一握りの天才を見つけ出すことだった。
相も変わらず勉強は続けているものの、中々良い結果は得られていない。
ゴール付近での必要な技術はわかるのだが、現時点からそこに繋がるまでの道中がさっぱりわからないのが現状だった。
そんなこんなで足踏みすること数百年。
このままでは危ないと判断した君から、今回の提案をもらった。
なんでも時間制限が迫ってきており、現在の発展速度では到底その時代の文明レベルにまで到達できないとのこと。
そこで特殊な自分の出自を活かして行動することで、土台を一気に引き上げることが目標だ。
僕はもちろん賛成し、君の言葉を伝えることができる霊能力者としてとある研究者に接触した。彼を起点として徐々に影響力を増し、それに応じて提出する技術も増やしていく。
この作戦は順調に進み、この国の技術は急速な発展を遂げていった。
君が知る技術を何とか今の時代に合わせて再翻訳し、あくまで数歩進む程度の草案として提供する。流石に最高峰の科学者たちが集まっているだけあり、切欠さえ与えればあっという間だった。
このままいけば、十分間に合う。
君はそう喜んでいた。もしかしたら自分が手を貸すことであの時代に辿り着けるのではないかと、そう言っていた。
その様子を僕は眺めていた。……のだが、その時なぜか常に魂のどこかを揺さぶられる感覚があった。
何か見落としているような、何かから目を逸らしているような。
目の前には見えないのに、視界のどこかで蠢く淀みに気づけていない、そんな感覚。
その正体を探るため、組織内は常に監視していた。
しかし、特に問題は見受けられない。上層部には伝えず、あくまで研究組織内での超重要機密だったため、君の存在がバレることはなかった。
だから、安心した。
出る杭は打たれる。
その言葉の意味を真に理解したのは、漆黒の夜空の中に巨大な爆撃機を認識した時だった。
――ヤチヨ。
舞台に上がり、照明がつく前。
準備を整えつつ、この時私はどうしても聞きたいことを彼女に聞いた。
『ん、どったの?』
――ヤチヨのデビュー曲って、もう歌わないの?
Remember。
本当に辛かった時期、この曲のおかげで生き残れた、私が一番好きな曲。
ただある日を境に彼女は歌わなくなり、もう一度生で聞きたいと私はずっと考えていたんだ。
『あぁ、あれ? あれはもう届いたから、お仕事完了!』
そして彼女からの答えはこう。
そのままの意味で捉えると、あの曲は誰かに向けてのものだったらしい。その相手に届いたことが確認できたから、もう歌わないのだろうか?
そう考えていた時。
正面を向いた彼女から零れた、あの言葉が聞こえてきた。
『うん!……だから、もう歌えないんだ』
歌えない。
歌わない、ではなく、歌えない。
それはつまり、何かしらの事情があって歌うことができなくなっているということ。
この言い方の違いに、私は違和感を覚えていた。
……と言っても、これから始まるライブの緊張感で一気にこの考えは吹き飛んでしまったわけなのだが。
ってか、なんか変じゃない?
なにかがおかしいような――――
『ほら、時間だよ!』
その言葉とともに、舞台の照明が上がる。
そこからはもう、怒涛の連続だ。
練習した甲斐もあって、ライブは大成功。
かと思ったら妙な連中が急に現れ、それに手を掴まれたかぐやは崩れ落ちて動かなくなり。
排除しようと切り裂いた所、見慣れた花弁ではなく黒い液体のようなものをまき散らし。
他の連中に囲まれたと思った矢先、ヤチヨが侵入者を追い払ってくれた。
……うん? おかしい、やっぱり変だ。
だってあの時、私が話しかけたのは――――
「…………」
枕元で鳴り響くアラームを消し、ゆっくりと体を起こす。
「いや、ごちゃ混ぜにもほどがあるでしょ」
今まで見ていたのが夢だと悟り、その内容を思い返して思わず呟く。
普段なら鳴る前に起きているし、昨日あった出来事のせいで眠れないと思っていた。……のだが、流石にライブの疲れが勝ったらしい。おかげでぐっすり眠れたのだが、そのせいで妙な夢をみていたらしい。
昨日の出来事だというのに、登場する人物が滅茶苦茶だった。あの時話しかけたのはヤチヨだったはずなのに、夢の中ではなぜかかぐやが回答していた。なのに侵入者に手を掴まれたのはかぐやで、追い払ったのはヤチヨ。ヤチヨがかぐやで、かぐやがヤチヨで――――?
「いかんいかん、夢は夢」
混乱してきた思考を打ち切り、部屋を出て一階に降りる。
そこには同じくコラボライブを終えたかぐやがおり、どこからか手に入れた大きな魚に出刃包丁を入れていた。
「これは一体?」
「シロアマダイ! 炭で焼きたいんだけど……駄目~?」
「やめなさい。……ハァ」
……いつものかぐやだ。そう思った。
昨日、ライブが終わった後。
感想を話し合っている時の彼女は、どことなく取り繕っているような不自然さがあった。今日になって聞くべきか悩んだが、おどける彼女を見て思わず笑ってしまう。
「私、もう出るね」
「ん、いてら~」
かぐやにそう告げ、玄関で靴を履きながら昨日の出来事を思い返す。
あの侵入者に触れられた途端、かぐやの様子がおかしくなった。つまりはその時に何かされたと考えるべきだろう。
何があったのか、何をされたのか。
普段なら考えられない程早起きをしているかぐや。彼女にそれを聞きたかったのだが、あの様子を見る限り向こうから話すつもりはないらしい。
「いってきます」
……今は難しそうだ、対策は学校で考えよう。
そう結論付けた私はキッチンにいるであろうかぐやにもう一度声をかけ、扉を開けて外に出た。
――だから、私は気づけなかった。
「あ……」
扉の向こう側。
キッチンにいるかぐやがスマコンを付けていて、リビングに既に入っている存在に視線を向けていたことに。
「ハッ、なんだあれ。逃がす隙は与えないって感じ?」
「……あれなぁ。多分あれでも見守っているつもりっぽいんだよね」
「……え、マジ? 見張っている、じゃなくて?」
「マジもマジ、大マジ」
二人の家に不法侵入し、見守りという名の監視をしているリョウサン型月人。
その様子を僕達は、別の建物の屋上からこうして眺めていた。
「にしても、本当に見えるんだな」
「なんだ、疑ってたの?」
「半分。ボク達にとって、あれはもう見ることはないと思っていたモノだったんだよ」
「……あぁ、あの話か」
そう話す彼の両眼を見ると、淡い蒼光に包まれていることを確認できる。
なんだ、やっぱりできたんだな。
そう思いつつ僕もまた蒼光を目にまとわせ、視界に月人を収めながら口を開く。
「そこから考えるに、やっぱり彼らの立ち位置って神の子って感じ?」
「あいつと同じとは思えないな。精々が【魂】だけが定められた人間、もしくは人格を与えられたアーティファクトと考えた方が近いと思う」
「魂だけ?」
「そう」
話す内容に疑問を抱き、問いかける。
それに彼は答えつつ、立ち上がって目を凝らしながら口を開く。
「月人、だったっけ? あいつらは魂だけの存在だ。死なないから焦らないし、変化がないから嫉妬しない」
そう言いつつ、彼はただ静かに見つめる。
それはまるで、目の前を見ながらどこか遠い昔のことを思い返しているかのようだった。
「無謀に動かず、対立せず、殺し合わず、衰えず、忘れず、敵もおらず、病に侵されることもない」
「そのうえ高度文明持ちなうえ、必要があれば器も簡単に作れると来た。……う~ん、普通に人間の上位存在じゃない?」
「本気で言ってる?」
「まさか」
彼の言葉を聞き、率直な感想をぶつける。
それを聞いた彼は詰まらなさそうにこちらをジト目で見つめる。そしてそれを見た僕もまた、肩をすくめながら推測していた内容を伝えるために口を開く。
「ああなったのは多分、生みの親の影響じゃないか? 唯一造った理が、あいつなんだろ?」
「そう、他の理を造った神はもう片方だ。……とは言え、現時点で既に地球から影響は受けているらしい。あのかぐやって子がその最たる例だろ?」
「……だね。この世界に最適な器を作った分、より顕著に理の影響を受けたんだろう。元々の乖離は……ま、偶然の揺らぎってことにでもしておこうか」
色々推察できることはあるが、別にこれは本筋ではない。
ある程度のことまで考えればそれでいいので、そこで思考を中断して一度伸びをする。
「とにかく、今日見せたかったのはこれ。君にも一度見てもらうことで、最後の確証が欲しかったんだ」
「あっそ。……で、どうすんの?」
「変わらないよ。次が最大で最後のチャンスだ、そこで僕は
そう答えつつ、凝り固まった身体をほぐす。
なにせ月人が先走ってかぐや達に変なことをしないよう、長時間監視していたんだ。いくら子供の身体でも、骨がきしむ音の一つや二つくらい鳴るってものだ。
「そこから先は、誰も知らない物語だ。どのくらいかかるかなんて想像もつかない。……そこでお願いなんだけど」
「嫌だ」
「えー」
「保存手段はあるんだろ? それに僕らはあくまで観測者側だ、そこまで手伝う義理はないね」
「あらら、それは残念」
断られてしまったのは残念だが、まあしょうがない。
そう考えつつ、ヘリポートの階段を下りる。そして下に続く扉へ近づきつつ、監視を続けている彼に声をかける。
「そろそろ時間だ、僕は行くよ」
「ま、せいぜい頑張りな」
「ありがとう」
言葉を交わし、扉を閉める。そしてエレベーターに入り、一階に向けて移動を開始する。
……うーむ。前のボロアパートより遥かにマシな環境に住むようになってくれたのは嬉しいんだけど、想像以上に生活水準跳ね上がったな。しかもちゃんと上層階だったから、こうして同規模のマンションに侵入しないと様子を確認できなかった。
そう考えていると音が鳴り、一階に到着。まだ人の少ないエントランスを堂々と通る。
先程言ったとおり、僕はここの住人じゃない。本来ならば複数あるセキュリティが移動を妨げるはずなのだが、なぜそれらは僕が近づくだけで勝手に解除され、その道を開ける。
そしてこれらの現象に対し、僕自身は関与していない。
だがこれが起きているということこそが、僕が待っていた準備が整ったという合図であることを理解していた。
「やぁ、君が使者かな?」
《――――》
マンションの入り口。
まだ朝だが通勤時間帯であることもあり、人通りはそこそこにある。そんな中、明らかに異様なそれは座ってこちらを見つめていた。
「すぐに答えてくれてありがとう。それで、僕はどうすればいい?」
《――――》
「ついて来いって事ね」
僕の問いに言葉で返すことはなく、その四足獣型の月人はこちらを一瞥した後に立ち上がって歩き出す。どう考えても目立つ風貌なのだが、周囲の人々がそれに気づく様子はない。
そのまま静かに歩きだし、数分後。
表通りを抜け、見覚えのある裏路地に入る。ここは監視カメラの目もなく深夜探索の際によく活用していた休憩スポットだ。どうやらそれは、月人にとっても都合が良いということらしい。
《――――》
「初めまして、月の君」
そして案内された先、少し開けた空間にそれはいた。
見た目は他の月人――所謂リョウサン型なのだが、その身に纏う存在感がまるで違う。さすがに本体が来ることはなかったが、こうして直接話をするところまでは持って行けたようだ。
「今回は話を聞いてくれてありがとう。……すまないが、僕に名乗れる名前はないんだ。そこは許してほしい」
《――――》
「ただ一つ言えることは、僕は彼女の協力者だということだ。……貴方達もあの場で、不思議な状況に出会っているはずだろう?」
《――モクテキハ?》
少しだけだが相手から感じる存在感が増し、僕にも理解できる言語が聞こえてくる。この会話だけで、僕がどの立ち位置にいるのかを理解してくれたみたいだ。
……そしてこの反応。どうやらコラボライブは、脚本通りに進んでいたみたいだ。
「輪廻を滞りなく回すこと。……ただせめて、その道中を華やかにしたいんだ。そのために、貴方達にも協力していただきたい」
《――――》
「貴方達はかぐやを、できる限り穏当な方法で連れ戻そうとしてくれている。できれば僕達だって、その方が好ましい」
《ナイヨウヲ》
ありがたいことに、話を聞いてくれる気になったらしい。
とりあえず最初の一歩を踏み出せた事に安堵しつつ、事情と内容を説明する。
「彩葉……あの姫様の傍にいる子は、必ず貴方達に抗う方法を模索する。そこで先んじて僕達が、そのための舞台を用意しよう。貴方達にはそこで行われる戦のルールに則り、正面から彼女達にぶつかってほしい」
《――――》
「ルールはKASSEN、中でも昔あった特殊ルールからギミックを少し引っ張り出す予定だ。……一旦はここまでかな」
協力してもらえるだろうか?
その言葉を含みながら静かに見つめ、しばしの間沈黙が続く。
時間にしてみればほんの十数秒なのだろうが、嫌に長く感じてしまう。そんなことを考えながら返事を待っていると、眼前の月人はゆっくりと顔を上げてこちらを見た。
《――キョウリョクシマショウ》
「それは良かった。……すまないがこちらの事情で、VR機器を通してデータを渡すことができない。参考になるものをいくつか教えるから、動き方はそちらで決めてほしい」
《カマイマセン》
「では短い間だけど、これからよろしく」
そう言いながら手を差し出す。
どうやら握手の文化は学習済みだったようで、その月人も手を出して握手をする。
「ところで今後の連携のため、またどこかで話し合いたいんだ。この場合は誰に話せば?」
《コノコニ》
「……なるほど。これからよろしく」
《――――》
今後また話す必要がある可能性が高い。そう考え、連絡手段について相談する。
するとその月人は、いつの間に僕の足元で寝転がっている四足獣型の月人に目を向けてそう言った。どうやらこの子が案内役だったのも、今後の連絡係として顔通しするためのものだったらしい。
挨拶がてら声をかけると、こちらに顔を向ける。その様子は本当に犬みたいで愛着がわいてしまいそうになるが、この子だって立派な月人。リョウサン型と違って確固たる姿を持っている以上、その実力は折り紙付きなのだろう。
「ではまた。こちらも準備があるので今すぐとはいかないけど、早いうちにわかりやすい形で目途を建てるよ」
言葉を締めくくり、掌を振って踵を返す。
そして表通りに出て、人混みの中を歩く。周囲の様子を確認したが、どうやら彼らには尾行という概念はまだないらしい。
「…………」
警戒を解くことなく、建物の中に入る。そこで何度も確認を行い、本当に追手がいないことを実感した。
フラフラと歩みを進め、裏路地の場所と同じように監視の目の隙間がある場所へ向かう。そして、そこにおいてある椅子に座って大きなため息をつく。さすがに休憩しないと、次の予定までに集中力が保ちそうになかった。
「ハァーー……とりあえずなんとかなったのか、これ?」
正直なことを言うと、この交渉はかなり綱渡りだった。
月人についてはかつて彼女から聞いた印象と、僕達の考察しか判断材料がない。その中で出していい情報と出してはいけない情報、その天秤の調節に苦労していたのだが……一先ずは協力体制を築くことができた。
向こうには向こうの事情もあるんだろうけど、それはこちらも同じ事。あくまでこれから行われる一大イベントにおいてのみ、僕達は手を取り合えると判断したからこその行動だったのだから。
「……ま、そこはお互い様か。なにせ僕だって、脚本前提で動いているわけだし」
そう、あの交渉の際に言った言葉。
舞台をこちらで整える。その言葉に嘘はなかったが、同時に真実を隠してもいた。
なにせ僕から動く予定はないし、わかる形で発表する予定もない。なにせ誰もが見てわかる形で発表されるよう、既に物語は動いているのだから。
『ツクヨミトップライバーのかぐや、卒業発表!! 卒業ライブ開催の噂も!?』
「……きた、か」
そして二日後。
夜中に投稿されたニュースの見出しに入っている言葉を読みつつ、僕はとある場所に辿り着く。
「前提条件はここまでオールクリア。……だからここから集めるのは、より上を目指すための追加人員」
手に持つそれを確認。
宛先および付属品に問題がないことを確認し終え、封をする。
「妙だと思ってたんだよね。あれほど熱心に二人を推していた君が、コラボライブの日だけ姿を見せてなかったことがさ」
だからこそあの日、見つけることができた。
唐突に現れたはずの月人、それを最初から探しているかのような動きを現実で行っていた人物を。
「最後の協力者、か。……ごめん、これしか方法がなかった」
FUSHIに聞き出せば確証は得られるのだろうが、それをするつもりは今回ない。彼女に手伝ってもらうのはあくまで最終盤、それ以外で迷惑をかけるつもりはなかったからだ。
そしてこれから件の協力者に降りかかるであろう不安を考えると申し訳なくもなる。なにせツクヨミ……もとい、電子の海を介さない連絡手段なんてこれくらいしか思いつかなかった。やっていることはグレー……と言うか多分ほぼ黒なので、その辺りは機会があった際に全力で謝らせてもらうとしよう。
「さてさて。……君の忠義は、何を基準に彼女に向いているのかな?」
そう呟きつつ。
ポストに向けて、一通の手紙を差し出した。
運命のいたずら、そう形容するしかないのだろう。
遂に始まった電子世界、ツクヨミ。
万が一にもバレないよう、そもそもの身体データから改竄した状態で僕はログインした。
普段の廻りを知っている君なら、間違いなく子供の姿を探すはず。
そこから欺くため、この世界で僕は成人男性の姿で降り立った。
久々で身体を動かす感覚に難儀したものの、それはすぐに慣れ。
個性を引き出すために早速主要街をめぐり、様々な装飾品を購入していった。
そこで何人かと知り合い、交流を重ねる。
その中の一人と意気投合した際、良いことを教えてやると言ってついていった先が、まさかの彼女のツクヨミ初ライブだったんだ。
当日決まった即興ライブのため、逆に気付くことができなかった。
とは言えここまで来て断るわけにもいかないので、他の人達と一緒に、舞台で歌う姿を見ていた。
彼女はワラう。
嬉しそうに、楽しそうに。
月見ヤチヨになってしまった君の笑顔を見ていると、どうしようもない気分にさいなまれてしまう。
偶に顔をこちらの方向に向けることがあったのだが、それを直視できそうにもない。
……このままじゃ、周りに心配をかけてしまうな。
そう思った僕は周囲にバレないよう、表情を隠すために仮面をかぶる。ついでにその仮面に合うよう、大きな山羊角も染色することにした。
大分ド派手な、和風ピエロ。
これこそがこの世界において、道化になることを決めた僕の姿。
どうせだし口調も変えようか。
参考は……あのうさん臭い神職にでもしようか。
意識を切り替えた矢先、ライブは終了する。
君は周囲に集まる神々を見渡した後、話をしたいと言って分身を大量に出し始めた。
凄い数だ、ここにいる全員と話すつもりなのか?
隣にいた彼もヤチヨと話している。
凄いデレデレしていた表情の彼に呆れていると、僕の前にも彼女は現れた。
彼女が話す前に、大袈裟な演技で自己紹介を僕は始める。
崩れてしまわぬように。
溶けて消えぬように。
中身を決して見られないように。
更に合言葉を言わないことで、確実に別人だと認識させるための大一番。
過剰な厚化粧で、心すら笑顔に塗り固めて実行した。
それでもこの魂を蝕むのは、自責の念なのだろう。
ワラって話す僕は最後まで、君の顔を見ることはできなかった。
※月人に関する設定
クロス先の影響で魔改造が施されることに。もしクロス先を知らずに読んでいる場合は、なんか意味深なこと言ってるな~、くらいの感覚で読んでおいてください。物語自体に大きな影響はないはず。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
夜叉若さん、感想ありがとうございました!
徐々に滲み出してくるクロス先の要素。正味ここまで出すと知っている人はうっすら分かっているんじゃないかと思い始めたり。
とは言えこれが分かると最終盤のギミックが早バレしてしまうので、それが出るまでは変わらず名前を伏せておくことにします。もうしばしお待ちを。