「よぉ、クソ兄貴達。今日も元気にぶっ殺されに来たのかい?」
冬の荒野へ降り立ったのは美少女だ。蒼い瞳を意地悪に細める。
金髪ポニテがフリフリと揺れている。北風は冷たく強かった。
「お、おぉ……。カインだ。カインが帰って来たぞ」
「俺の、俺たちの所にカインが」
大勢の同じ男は同じ顔。血走った眼は濁っていて、その下半身は勃起している。数えきれない程、荒野へひしめく男達。
「相変わらず、汚ねぇヤツらだな。マジで同じ血なのかよ。最悪なんだけど」
対する少女は二人きり。翡翠の光を肩に乗せ、槍を構える美少女だ。少しイキったファッションも、中々に奮っている。
身に纏う白のコートは聖骸布。インディゴブルーのジーンズに、編み上げブーツが黒く輝く。
黒のタンクトップで臍出しだ。そしておっぱいは、とても豊満だった。
「本当、アベルってば美しくないわね。雑魚の癖に、ざぁーこ、ざぁーこ」
翡翠の光は少女の形をしていた。絶対領域の眩しいゴスロリだ。立派なメスガキであった。乳はない。
「ああ、ああカイン、カイン。くんか、くんか、ハァ、ハァ、ハァ……」
男達、群体にして単体たるアベルの視線は二つのものへと向けられている。豊満なものへと。
「……オエ。相変わらず最悪だな。それが妹に向ける視線かよ」
アベル達。彼等は皆、同じ顔。
そして同様に、下半身を勃起させている。
目を血走らせ、息を荒げて実の妹の豊満なお胸やらお臍やらをガン見していた。
「カイン。さっさと片付けて、私のキューティーちゃんとのデートに戻りましょ」
小さな死霊聖女が提案すれば。
「だから、お前のじゃねーって。まぁ、さっさとは同意だけどな」
兄殺しの少女は槍を構える。
「おおぅ! カインが、カインが棒を握っているぞ! 最高のオカズだっ!」
そしてお兄さん、お兄ちゃん、兄上、兄君、兄様、にーにー、などとは決して呼ばれないアベル達はとても色めき立った。
「いつもだけど、生まれて来た事を心底後悔するぜ」
「まぁ、アレの妹に産まればそりゃね」
少女二人は頷きあって、視線に殺意を乗せた。
「おうらっ! 鏖殺だっ!」
槍を振るったカイン。彼女の一閃は光の矢となって、アベルの群れ、その一角を吹き飛ばした。
肉片さえも残しはしない。アベルの再生能力だけは並外れている。
「やっちゃえカインちゃん! GOGOGO!」
そしてインカムから流れてくる声は、相変わらずな陽気なものとなる。営業さん達のノリは益々、絶好調であった。
カインはメギドファイアを取り出そうと胸の谷間へ手を突っ込み掛けて、止めた。
「どったのカイン? 駄肉がかゆいの? あせも?」
不思議そうなマグダレナに、カインは眉を下げた。
「あー。ちっと、こりゃ使えねーなってな。伸びろ、鼻の下。なんてな」
胸元に手を突っ込んだまま、槍を構えている。そのまま突き出せば。アベルの肉体が次々と貫かれていった。
「あー、そういう事ね、なら。がんばれ、がんばれ、大きくなぁれ❤️」
マグダレナが応援すると、槍の体積が膨れ上がる。
貫かれたアベル達は、内側からの超質量により爆発四散した。カインは槍から手を離し、手榴弾を取り出した。
「ピッチャー第一球……」
カインは手榴弾を持ったまま腕をぐるぐると回し。
「きたー! ナックルボール! GOGOGO!」
観客達が湧き上がる。ノドの街の人々は、意外と野球が大好きだった。
「投げましたーっ!」
そして充分に遠心力が乗った後、マグダレナが叫ぶと同時に放つ。
下手投げ。アンダースローである。投げ様にピンは抜かれていた。
トン、トン、トン。放物線を描いた後、重力に従い落ちていった手榴弾。
「妹からのプレゼント!」
転がった物へと群がってゆく男達。
「俺のだ! 俺にだって渡さんぞ!」
アベル同士が合い争った。
「ざけんなっ!」
醜く争いながら、妹からの贈り物へと群がる。
チュッドーン。
地へ落ちた手榴弾は、アベル達の群れの中で爆発した。
轟音、閃光、爆風。爆発はニュークリアには及ばなくともそれなりの範囲を薙ぎ払う。
「やっぱ、範囲がなぁ」
「だったら地道な駆除が一番よ。被害、出したくないんでしょ?」
メギドファイアを使わない事には理由があった。
この一帯、割と荒野ではあるが草木が生えている。
不毛の大地とはしたくなかったし、そう離れていない場所には観客達もいた。
「大家くらい、皆頑丈なら問題ねーんだけどな」
老若男女が多数いる。誰もが皆、核融合反応に耐えるだけの頑健さを持ち合わせているわけでない。
「コラ、カイン。お婆様を呼び捨てにしないの」
放射線はガンの元にもなるしで、あまり浴びるべきでない。たまに怪物になったり超能力を身に付けたりする事があっても、それはたまたまだった。
医療機関なども常日頃、放射線の接種は適量を守りましょうと宣伝していた。
「おぉ……。俺の妹、可愛いカインよ……」
槍を振る。世迷言を口走りながら、アベルはどんどん死んでゆく。
「おぉ、昔からツンデレなのは変わらぬな……。お兄ちゃん、嬉しいぞ」
悍ましい呪詛を撒き散らしながら、死んでゆく。
手応えはない。だが精神的には疲労があった。
「デレねーよ。頭アベルか? いや、コイツら皆アベルだったな」
だからこそ、殺してく。大量虐殺は続いている。
「本当によ、Gみたいなヤツらだよな」
だがあまり、数が減っている気がしない。
当然だ。地平を埋め尽くす程に夥しいアベル達が地に満ちている。
「まぁ、ここのを全部殺せば多少は減るわよ」
一匹のアベルを見たら、三百匹のアベルがいると思え。それは二人共通の認識だった。警報時点での推定数は千。ならば三十万匹はいる。
「でも、あんま長引くとよぉ……」
槍を振るい、爆弾を投げつけながらもカインの顔色はあまり優れない。どこか、心あらずといった様子であった。
「そうね、始まってしまうわ」
今夜はナショナルバスケットボールリーグの開幕戦であった。平日の夜であるが明日は祝日が設けられている。貴重な第一戦を見逃しては、日常に潤いがなくなった。
「しかもよ、開会式ヨハネが出るんだぜ。オレ、マジアイツリスペクトしてっし」
エヌビーエルは国際的な興行であり、ファン数も多い。確かアベルも熱狂的な支持者であった。
ヨハネは世界的トップアーティスト。彼のファーストアルバム、ファッキン四文字は世界的大ヒットとなっている。その彼が、開会式で生歌を披露する。
「それならコツコツ真面目にやって、片付けるしかないじゃない。そういえば、私の名前と同じアイドルグループも出るのよね。頑張って頂戴カイン」
マリア・マグダレナ。彼女達もまた、トップアイドルグループである。キュートでポップな楽曲と本格的なダンス、そしてちょっとしたお色気で、カリスマ的な人気を呼んでいる。
「いや、このベースじゃ絶対間に合わねーって」
「愚痴なんて、美しくないわねぇ……。ほら、手が止まってる。アベルが減ってないじゃない」
カインと違いマグダレナは熱狂的なファンではないが、同じ名前のアイドルには結構好感を抱いている様だった。
カインにとってヨハネの生歌は福音であるが、マグダレナもまた結構楽しみにしている。
だからこそ、さっさと終わらせたい。雑に槍を振るいながらも効率の良いアベル駆除方法を彼女は模索していた。
そうしながらもカインはグルグルと槍を回転させる事により、竜巻を起こす。
巻き込まれ、裂けてゆくアベルの肉体。
だが、ムラのある竜巻では仕留め損なう事もある。
仕方がないので撃ち漏らし達は、丹念に潰していっていた。
「あー、あー、あー。マジ、らちがあかねーな」
冬の日は短い。そろそろ薄暗くなってきている。
「はーい! かんぱーい! 一気、一気、GOGOGO」
観客達も宴会に突入していた。インカム越しにエヌビーエルの開幕戦直前特番が放映されてもいる。
「ヘイ、オールオーバーファッキン、テトラグラマトン! チェキラッチョ!」
ああ、ヨハネの生声が聴こえる。見たい、出来るなら声だけでなく、彼のあのイかれたファッションを参考にして、お洒落を楽しみたい。
カインはアベルを虐殺しながら、血涙を流す。
ヨハネは男の娘。パンクロックな男の娘。カイン一押しの、一流アーティストである。
だが、アベルの数はあまり減りはしなかった。
アベルは数が多いだけでなく、再生能力というかしぶとさが半端じゃなかった。
広範囲高威力の攻撃でないと撃ち漏らし、時間をおけば復活していた。
「あー、なんか、良い手は……」
「一纏めにして、ぶっ飛ばすとか?」
ポク、ポク、ポク、チーン。
その時、カインに電流走る。比喩である。しかしここに来て、彼女は妙案を思いついていた。
「マグダレナ、オレの槍の太さと幅をよ……」
冴えたやり方を思いついたカインであった。彼女は相棒へと作戦を披露する。
「やるじゃないカイン! 冴えてるわっ!」
喜色満面で叫ぶマグダレナ。地道に確実にコツコツとなどと言っておきながら、彼女だって開会式は見たいのだ。その気持ちには頷いてしまう。
「うるせぇ……」
だが、それとこれとは別物だった。耳元で叫ばれていてはカインといえど、耳が痛くなる。
カインは付近のアベル達を一掃すると、槍を大地へ突き刺した。
「わかったな? 頼んだぜマグダレナ。伸びろ、我が槍。意の如く」
槍が掘る。長大化した槍が土を押し除けて、大地を深く突き穿つ。
「はーい、良い子ねお槍さん。みんないっぱい、元気になぁれ❤️」
そしてマグダレナが応援すれば、槍は大地そのものを抉り取り、長大な峡谷を作り出していた。
「うん、良い感じだな。世話になるなマグダレナ」
「それなら、さっさと作戦始めなさいよ」
せっかくお礼を言ったのに、マグダレナはにべもない。だがこの深さ、この広さ、丁度良い。
アベル達は驚き竦んでいる。そうだろう。この高さや深さ見れば臆病者の兄貴達の足が竦む。
そんな結果は見えていた。
「じゃ、頼んだぜ」
マグダレナが飛んでゆく。巨大な燃料缶を手に。
そしてカインはゆっくりと、ジーンズのボタンを一つずつ外していった。露わとなる、白きパンティ。
それを目にしたアベル達が、次々と峡谷へと落ちてゆく。
——マジでアイツら、猿みてーだな。気持ち悪ぃ。
峡谷の中へマグダレナが、燃料缶の中身を降り注いでいった。
カインは冷めた思考でいても笑顔を失わない。この作戦の肝が笑顔であるのだから、仕方がないでいる。
そして、かなり際どくローライズ。地肌に張り付く生地から覗くのは、毛の一本も生えていない滑らかな素肌。元々カインのそこは幾つになっても毛が生えず、ツルツルであった。手入れ要らずである。下の毛の心配は要らなかった。
カインでもこんな格好はかなり恥ずかしい。
恥ずかしいのだが、作戦のためである。今もまた、峡谷へ数十匹のアベル達が落ちていっていた。
アベルの身体能力では、這い上がってはこれまい。何匹かは落下の衝撃で死ぬだろう。だからこそ、この状態はまだ前座。カインには秘策があった。その秘策とは——。
「お兄ちゃーん!」
思いっきり、裏声を使う。
コートの下は臍出しタンクトップに思い切りの良いローライズ。白い肌が映えた。
「カインと、あ、そ、ぼ?」
そして渾身のセクシーポーズであった。
二の腕でお胸を強調し、視線誘導のために片手はお尻へ添えている。
もう片方の手は親指を立て唇へと。キス顔を決めながらの、ほんの少しだけ上目遣いもしてやった。
「カ・イ・ン! カ・イ・ン!」
「お兄ちゃんが、今行くぞ!」
怒号と共に響く足音。
ドサリ、グチャリと遠く音が鳴る。
次々と大量のアベル達が峡谷の中へと消えてゆく。
「ねぇ、お兄ちゃん達は、もうカインと遊んでくれないの?」
ダメ押しに、お尻だって振ってやる。
下半身をいきり立たせたままの兄達が、吸い込まれる様に峡谷の中へと消えていった。
「マジでバカで良かったぜ。——着火」
マグダレナはまだ燃料を注ぎ続けていた。彼女までもが長大な炎柱に巻き込まれる。が、何ら問題はなかった。
「BBQね!」
死霊であるので当然ながら、物理的な影響を受けない。炎など、マグダレナには意味がなかった。何故幽霊属性が火に弱いとされるのか、カインにはわからないでいる。
「油はもういいや。マグダレナ、蓋をするからオレに合わせてな?」
そしてカインの手は再び己が胸元を弄った。
取り出したるは、美しき小瓶、ニュークリアボムであるメギドファイア。
それを峡谷へと放り込む。地上では既にアベルの姿が見えないでいた。
「ほいじゃ、点火。あわせろよ、相棒」
「おっまかせー!」
呟きと共に放り投げられる、槍であり術具。
「んーじゃ、丁度良い長さまで、伸びろ如意槍」
「がんばれ、がんばれ❤️、丁度良い大きさまで、元気になぁれ❤️」
少女二人の声が重なった。地下で核反応が起こる。
地が揺れて、やがて鎮まった。
「ふぅ。なんとか間に合いそうか? ちょっと自然環境とかは心配だが……」
増殖するとはいえど、アベルの肉体は人のもの。特に遺骸も変わりない。
壊れもすれば腐りもする肉は、誰のものとも変わりがなかった。
二人は仲良し相棒同士。足りない所を補いあって、アベルを殺して回ってる。
「ま、あんなんでも肥料くらいにはなんだろさ」
一人はおっぱいの大きな妹属性の女の子。ニヒルにその子が呟けば。
「なると良いよねー。カイン、はしたないからボタンを閉めなさい」
もう一人はおっぱいの小さなオカン属性の女の子。その子だって明るく笑う。
二人はアベルを殺す者。兄殺しと幼馴染聖女の名コンビ。
「さっさと帰ろうぜ」
試合が見たいから。そんな理由で早退けだ。
「開幕戦、見よー」
二人は仲良し相棒同士。アベルを殺す、殺戮者。
ビンボンパンポーン。
——えー。皆様、申し訳ございません。カインさんを眺めていて忘れてましたが、北北東からもアベル達が来ております。詳細は未確認。取り敢えず、ぶっ飛ばしといてー。カインさん、眼福でしたわよー。繰り返します——。
「にゃろう、こうしちゃいられねぇ! ぶっ飛ばすぞマグダレナ! 開会式の前に!」
「ざっつおーらい! ふあっきゅーあべる!」
小さな少女を肩へと乗せて、金髪ポニテの美少女は駆け出した。世に蔓延る変態兄達を殲滅するために。
お読みいただきありがとうございます。