→「うぅ!脳にシナリオが…溢れる…ッ!消化せねば!!」
→「けどこんなシナリオ、面白いのか?転生モノでは偉大なる先人方が多いと言うのに……」
→「まぁいいかァ!よろしくなァ!」
第1話 終わりの始まり
───ブラックマーケット、某所にて
ある深夜、
事務用の長机を縦に並べた、まるで会議室のような部屋の中に、複数の影がその長机を囲むように座っていた。そして、今にも話しださんとする大人の姿は、学園都市───キヴォトスでも中々見ないタイプの大人であった
何も知らない人が見れば、それは、後ろめたい企業の秘密の会議のように見えたであろう
事実、ここはブラックマーケット。灰色寄りの黒な組織、企業が犇めく違法の溜まり場であるため、そう見える方が普通だ
「皆、揃ったか」
おもむろに、大人が口を開く
複数の人影はその大人を見る
「この場に集まってくれたこと、感謝しよう。…こうして集まってもらったのは、他でもない、ある事実を伝えるためだ」
事務的で、厳格な雰囲気をまとった大人は集まった人影の顔を順に見、感謝を述べた後、勿体ぶる事なく、集めた理由であるその事実を口にした
「連邦生徒会長が失踪した」
超人とも呼ばれた、このキヴォトスの頂点に立つ存在の失踪
それは、平時なら起こり得ないこと
「………」
部屋に、沈黙が流れた
重く、深い、沈黙が流れ─────
「……え、それだけ?」
……ていなかった
素っ頓狂な声が、部屋に響いた
何も知らない人が見れば、それは、後ろめたい企業の秘密の会議のように見えたであろう
だが……いや、確かに秘密の会議ではあるのだが、ここに居るのはそんな後ろめたい者達ではない
ただの、阿呆の集まりに過ぎない
*****
「…つまり、連邦生徒会長が消えた事を伝えるがためにわざわざ私らを呼んだって?」
「……そうだ」
「そっか、帰るね」
この部屋の中で最も背の小さいその少女はそそくさと自分の職場に帰ろうとし、それを眼鏡を掛けた少女が羽交い締めにしていた
「離せ!私にはまだ仕事があるんだ!!」などと叫び暴れる少女は、体格差も相まってろくな抵抗をできていなかった
かなり重大な事実を聞いたはずの一同は、しかし然程驚いてはいなかった
「…その、驚かないのか?」
「驚かない!?原作知っててかつこの現状見りゃ大体分かるでしょうよ!!」
「…矯正局から七囚人が脱走したと聞いたのでな。大方、会長が失踪したのだろうと察していた」
「………そうか…」
「ところでそのナントカ会長って何なんだ?どっかの偉い人なのか?」
背の小さい少女に続いて、黒い紺の制服と軍帽を被った少女も口を開いた
一部論外も居るが、それを除けばここに居る全員が現状を把握していた。皆驚くだろうか、などと思っていた大人は、このあんまりな結果にしょげていた
「えっと…連邦生徒会長っていうのは、その…国で一番偉い人、みたいな感じの人…だと、思う……」
「マジで?今どこに居るか分かんねぇの?」
「えぇっとぉ……」
「一番有力な説だと、タブレット端末の中に精神を移して、そこで赤ちゃんプレイをしてるらしいよ()」
「えぇ……」
論外───バケツを頭に被った奇天烈極まりない外見の少女に、小さな黒い羽を持つ少女と、現在進行形で先程の小柄な少女を羽交い締めにしている眼鏡を掛けた、どこか知的に見える少女が連邦生徒会長が何かを教える
バケツ頭の少女はイマイチ理解をし切れていなかったが、問題は無いとして、大人は口を開く
「ひとまず、私が言いたいのはこれからの行動には十二分に注意してほしいということだ」
「ほ〜ん…」
「特にお前だぞ、お前」
「…アタシ?」
「原作を知らないのはお前だけだからな」
いきなりピンポイントで刺されたバケツ頭の少女は、当然だろうと言う大人を見て、やや不服そうに頭を掻いた
原作
それが何を意味するのか、キヴォトスにおいて、彼ら以外は知り得ない
頭部が羊の頭骨の、執事服を着込む怪しげな大人、
黒い紺の制服と軍帽をまとい、「風紀」と書かれた腕章を身に着けた、盾を背負う生徒、
「Justice」と書かれた黒い制服を着込み、黒い羽を背に生やした、前髪で目元が隠れている地味な生徒、
丸眼鏡を掛け、どこか知的な雰囲気をまとった糸目の生徒、
黒い制服の上から白い上着を羽織り、青いタイが特徴的な最も背の小さな生徒、
「05」と書かれたメイド服を着込む、すました顔をする生徒、
赤黒いスカーフを着け、バケツを被り、身体中に包帯を巻いた生徒、
そしてここには居ない、羊のような角と耳を持つ色々と大きな生徒、
通う学校も違えば、所属する部活動の傾向も、年齢も、何もかもが違う彼ら
この、一見何の脈絡も無さそうな彼らは、しかし、ある明確な共通点が存在している
共通点
それは、このキヴォトスに生を受けるより前の記憶を持っていること
その記憶の終わりで、命を落としていること
有り体に言うと、転生していることである
「どれがどう原作に関わるか分かんねぇのに、注意しろってよぉ……てめぇは地雷を踏まずに地雷原を歩けんのか?あ?」
「好き勝手に動けば踏むだろうが、大人しくしていれば踏むことはまずあり得無いだろう。違うか?」
「……それさ、遠回しにアタシに落ち着きがねぇって言ってんのか?」
「そうだが?」
「表出ろよ、轢き殺してやる」
「……………さて、今後の動向について指示を出そうと思う」
「話逸らすなやオイッ!!」
比較的小柄なバケツ頭の生徒は羊頭の大人に飛びかかる手前で、後ろに忍び寄っていたメイド服の生徒に拘束される
今日はやけに辛辣だな、なんて思いながらメイド服の生徒は羊頭の大人に目線を送る
「連邦生徒会長が失踪したということ、それは原作の始まり…即ち先生がここ、キヴォトスに来るということ」
羊頭の大人が先程の真面目モードの雰囲気に戻る
暴れていたバケツ頭の生徒や、抵抗虚しく項垂れていた小柄な生徒は、静かに大人を見る
「先生が来てからすぐにチュートリアルは始まる。この世界、ブルーアーカイブのチュートリアルは、今後の展開を大きく変えうるものだ。故に、失敗は絶対に許されない」
「………」
「…そこで、お前らに指示を出す。…イバラとメグミは、それぞれチナツとユウカを連邦生徒会に行かせるよう誘導しろ」
「任せろ」
「りょーかい」
「チヨは……ハスミやスズミは大丈夫だと思うが、もし不味そうならばどうにか誘導しろ」
「ど、どうにかって言われても……うぅ…」
羊頭の大人は、黒い紺の制服を着る生徒───花山イバラと、最も小柄な生徒───安藤メグミに指示を出す。方やゲヘナの風紀委員会副委員長、方やミレニアムのセミナー庶務という組織の重鎮たる二人は各々返事をする
そして、そうでない黒い羽と黒い制服の生徒───鈴木チヨは、下手をすれば正義実現委員会の副委員長を連邦生徒会に行かせるよう仕向けなければならなくなる事実に涙が出そうになっていた
「ミゾレは……これも大丈夫だと思うが、一応先生達の後をついて行ってくれ。ワカモが先生に惚れなかった場合が恐ろしすぎる」
「かしこまりました」
「…その他は、各々普段通りに過ごしてくれ」
「あいよ〜」
「…わぁったよ」
先生の後をついて行くよう言われたメイド服を着た生徒───雨村ミゾレは恭しい一礼をする。
対して、普段通りに過ごすよう言われた眼鏡を掛けた知的な生徒───唐沢フミエとバケツを被った生徒───鳥澤カラスは分かったと返事をする
「そういやムトン、アイツは?」
「アイツ?」
「ほら、レンポー生徒会とやらに入ってるアイツ」
「アイツは……まぁ、大丈夫だろう…」
頭が羊の頭骨の執事服を着込む大人───ムトンはアイツと呼ばれた、今はここに居ない羊の角と耳を持つ生徒───芯入アマネを想う
今この場に居ないのは、単に忙し過ぎるからである。おそらく、想像を絶するような書類の山に忙殺されているであろうアマネに心の内で合掌しつつ、ムトンは目の前の生徒達を見て最後にひとつ言葉を伝える
「…それから……繰り返しになるが、もし、何かあったら、すぐ私に話を通してくれ」
「はいはい。大丈夫だと思うけど、ミレニアムでなんかあったらそん時は頼むわ」
「セミナーの陰謀で部費がないなったら頼むね」
「…細部までは把握しきれんだろうが、だが、ゲヘナは任せろ」
「……あ、えっ、えっと!と、トリニティの事をお願いします!!」
「お前も頑張るんだよ」
各々三大学園に通うメグミが、フミエが、イバラが、チヨが、応える
それを見て、ムトンは安心していた
一部不安な生徒は居るが、それでも、こう動いてくれる身内が居ることはとても心強いのだ。これならば余程のことがない限り、原作崩壊などしないだろうと、正直、高を括っていた
「ああ…頼んだぞ」
だから、だろうか
あんな結末を、迎える羽目になるのは
これが、先生がキヴォトスに来る3日前の夜である
モモイ先生監修の下、シナリオは完成しているのだが……大丈夫だろうか…