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…って、作者の中に居るヒヨリが言ってました
───それは過去
『待ってよ!イズナーー!!』
『イツコ殿も早く来てください!!』
その背中は、いつも遠かった
同じところから、走り始めたはずなのに
同じ分だけ、走ったはずなのに
思い切り走る
届かない
手を伸ばす
届かない
名前を呼ぶ
届かない
どれだけ走っても
その背中は、いつも遠かった
今も、ずっと
*****
───ブラックマーケット、某所にて
「作戦会議!作戦会議ィ!!」
あまりにも急すぎる作戦会議が行われていた
立ち上がったムトンはどこからかキャスター付きのホワイトボードを引きずってきて、そこにマーカーで「作戦会議」と大きく書いた
会議の内容は言わずもがな、今しがた見た映像に映っていた刀を差した生徒のこと
16年、なんなら前世からの分も含めればそれ以上も前の記憶である桜花爛漫のイベント。もう正直覚えていないが、それでも刀を差してるあんな生徒なんて私のデータには存在しない。そしてそれは他ふたりも同じようで
「ミゾレ!フミエ!あの黒髪の生徒に見覚えはあるか!?」
「…ありませんね」
「(見覚え)ないです」
「こんなの僕のデータにないぞ!」とかほざくデータキャラってこんな感じなのかな、などと呑気なことを考えつつ、私はムトンに尋ねる
「…やっぱ、あの子も転生者なのかね?」
「………まだ分からん。
「……希望的観測って言うんですよ、それは」
ムトンのそんな言葉に、ミゾレは疲れたように希望的観測だと言う
「(……久々に聞いたな、ムトンの「
ムトンの素であるかつての一人称が出てきているあたり、相当動揺しているのだろう
……まぁ確かに、なくはないか
可能性は限りなく0に近いだろうけど、あり得る話だ
私個人としては、ムトンがロクに確認してなかったために発見が遅れた転生者であると推測している。この大人には意外とあるのだ、ガバっていうが
「なぁ、コイツどこ向かってんだ?」
そんな折、カラスは映像を見ながらそういう
視線を向けると、件の生徒がどこかへ歩いて向かっているようだ
「…フミエ、あの方向には何がある?」
「……私のデータが正しければ百夜堂…ですかねぇ…」
「……………」
「……やっぱ、あの子は転せ」
「いや待て……偶然、本当に偶然先生の行き先とが被った可能性も……」
「ないです」
「……いい加減、諦めましょう。あの生徒は転生者です」
ムトンは信じたくないようだったが、次の先生の目的地である百夜堂にまっすぐ向かっているあたり、ほぼ確定演出と言って差し支えないだろう
自分に見落としがあったという事実をようやく信じたムトンはソファに崩れ落ちていた
……転生者、あの子をそうだとするのなら
「あの子が転生者ならさ……問題は、あの子が「保守派」か「革新派」かどうかってことだよねぇ…」
「………」
保守派
原作非介入、即ち原作崩壊をしない、あるいはさせないというムトンの思想に限りなく近いもの
対して革新派
保守派の逆、即ち原作に積極的に介入し、物語を大きく変えようとする思想だ
あの子が革新派であった場合、保守派である私達……というよりムトンは、どうするのか…
「…どうする?ムトン」
「……どうするも何も、動かなければ始まらんだろう…」
そう、ムトンは格言っぽく言いながらソファから立ち上がり、姿勢を正した
「ミゾレ、カラス、フミエ」
「はい」
「んだぁ?」
「……百鬼夜行のあたりに、旅行に行こうと思うのだが、どうかな?」
……まぁ、そうなるよね。一度は話しに行くよね
「……なるほど。私は、行きたいです」
「百鬼夜行ってとこに行くのか?アタシも行きてぇ」
「ミゾレ、カラス……!」
「ごめん、私予定あるから無理だわw」
「フミエ……ッ!!」
「お前ノリ悪ぃな」
…まぁ、そういうことだ
そもそも、今日は週末とはいえ平日の昼。こちらには部活があるのだよ
「しょうがないじゃん。使えそうな素材買ってくるって言って抜け出したままなんだし、このままポカすわけにはいかないでしょ」
「それはそう。………まぁいい、こっちはこっちでなんとかするさ」
「大丈夫かなぁ……」
心配はしつつ、でも心の中では「まぁ大丈夫だろう」と楽観的に、私はそう言う
………さて、そろそろ帰ろう
ミゾレの『厚化粧』やカラスの銃のメンテナンスは終わったし、これ以上長居する理由はない
それに、あの会長に怪しまれたりでもしたら面倒だろうしね
*****
───修行部の部室、その付近にて
”そういえば、シズコ”
「はっ、はい、どうかしましたか?」
”さっき手伝ってくれた刀を持った生徒って分かる?”
陰陽部の言葉から修行部に向かっている途中
先程、百夜堂の目の前での戦闘にて加勢してくれて、そして気付けば消えていた不思議な生徒について、私はシズコに尋ねた
その際に聞いたあの声は、私がイズナと出会った時に後ろから追ってきていた声と同じだった…と思う
ただ、それ抜きにしても、イズナとその生徒に何らかの関わりがあるのは事実だと、感じた
「うう〜ん……ご、ごめんなさい、知らないです…刀を使う生徒なんて全然……」
”いいよ、全然”
そう言いつつ、私はその生徒のことについて考える
その生徒は、銃ではなく刀(と何らかの小道具?)を使って戦っていた。シズコとフィーナを指揮していたため、よく見てはいなかったが
”(カッコよかったなぁ…)”
そう心の中で呟く
憧れは捨てられるものではない
大人になってなおカイテンジャーロボを買い、もやし生活になったところをユウカにこっぴどく怒られた私が保証しよう
そんな事を考えていたその時、目の間で爆発が起きた
下手人はやはりと言うべきか、魑魅一座であった
*****
「イズナ流忍法!四方八方くもくもの術!」
身を隠していると、イズナの───忍者を夢見る、幼馴染の声が、聞こえてきた
イズナを相手取るのは恐ろしいが、しかし、機を伺うために、友として止めるためという大義名分をもってその場に出る
「─────…燕狩り」
イズナの忍術……くもくもの術で見えなくなった空間に居た魑魅一座目掛けて、黒くて細い針のような苦無を複数投擲する
「がッ!?」
「い゙っだぁ!?」
「ッ!!」
所々で、そんな悲鳴が聞こえる
私は、その声を気にせず、煙の中心で足を止めて、何やら悲しそうにこちらを見ている友に声をかける
「……さっきぶりだね」
「イツコ殿、どうして……」
……原作的には、どうしてと言いたいのはこっちの方なんだが
騙されているとは知らないイズナにそう思うが、ただ、ここで事実を伝えるのは違うため……今後のために、適当に答える
「どうしてだろうね?」
「っ…!」
イズナが何を思ってるのかは分からない。けど、この場において敵であることは変わらない
私はおもむろに抜き放った、刃毀れだらけの愛刀の鋒を、イズナに向ける
「…じゃあ、始めようか?」
「……イツコ殿の目も、覚まさせて上げます」
イズナは私にその銃を向ける
……私は、このまま君の敵であり続ける方が気が楽だし、そしてそれを望んでいる
そうすれば、きっと君は─────……
そんな思考を頭の隅に追いやりながら、私は刀を持つ手と逆の手で、懐に忍ばせてある黒く細い苦無と爆竹手裏剣を取った
開戦の合図はなかった
*****
『……ミゾレ』
「はい」
『例の生徒の行動の目的は分かるか?』
「久田イズナとの戦闘を優先している点から、おそらく、久田イズナを止めることが目的である可能性が高いです」
ステルス機能全開にしながら、ムトンからの言葉を小声で返す。ムトンは「上空から観測するにしても限界がある」と言い私になるべく近くでの観測を頼んだため、私はこうして彼女らの付近で観測している
尤も、シッテムの箱を持つ先生が向こうにいるため、私のこのステルスが剥がされる可能性を恐れて多少距離を離したところからではあるが
「(……独特な戦法ですね)」
件の生徒は銃を使わず、刀と小道具のみでイズナと張り合っている。小道具は、針のような苦無や爆竹を付けた手裏剣、煙幕、糸を結び付けた苦無など、様々だ
個人的に、イズナはこのキヴォトスでは上位に食い込むほどの実力者になり得るポテンシャルがあると思っている。軽やかな身のこなしや超人じみた機動、また、いつぞやのイベントでは海の上を走ったりなどの常人には不可能なそれを可能とする圧倒的なフィジカル
重要なのはそれがまだ15歳、つまり1年生でのスペックであるということ
3年生にもなれば、学園最強格にまで上り詰められるだろうと推測している
そんなイズナと、タメを張る例の生徒
今その生徒は、イズナの放つ銃弾を刀で弾いていてる
……いかにも、カラスが喜びそうな生徒だ
ああいう、小細工などで相手を翻弄するような戦いはカラスの大好物なのだ
「……ところで、まだ名前は割れないんですか?」
『ミレニアムと違ってデータ上で生徒の情報を管理してるわけじゃないんだよ。多分割れないよ』
「やっぱ無能ですね」
『なんだって?』
やはり無能か、あの羊は。せいぜい他のゲマトリアメンバーの相手(という名のお膳立て)しかできないような彼には無理な話であったか
変装して、人から話を聞くようなことができれば良いのだが、頭の角が邪魔過ぎてマトモな変装ができないという致命的すぎる欠陥があの男にはある。マトモな変装として成り立つのが、遊園地なんかを歩いている着ぐるみぐらいしか無いというのが終わっているとしか言いようがない
「…カラスは今、どうしていますか?」
『カラスなら今……三色団子を呑気に食べているようだ、問題はない』
「……なら良いですが、目は離さないでおいてくださいね」
『無論だ』
百鬼夜行には今、カラスも居る
今のカラスは赤い和服にバケツではなく狐の面を被り、さらに銃は4丁の内のHG以外は取り上げている
ムトンに相手の銃を奪うという発想があったかはさておき、ひとまずカラスが普段よりは大きく暴れる心配はないだろう。普段よりは
閑話休題
目の前で繰り広げられていた戦闘が静かになった
どうやら、先生側での魑魅一座の対処が終わり、後はイズナだけになったようだ
「次は絶対に負けませんから!ニンニン!」
そう叫んだイズナは、例の生徒を憂いげな目で見て何かを呟いた後、圧倒的な跳躍力で建物の屋根の上を転々と跳んで行った。魑魅一座も、それに合わせてどこかへと走って行った
残ったのは、先生と河和シズコ、修行部の面々、そして例の生徒(とスーパーメイドの私)のみである
”…えっと……”
銃撃戦がなくなり静かになったため、先生の声が届く。やはり、先生も彼女のことは知りたいらしい
”君は、イズナの…………あっ、待って!!”
しかし、例の生徒は何も言わず、糸付き苦無を建物の屋根に投げ、それを支えに、イズナとは別の方向に跳んで行ってしまった
今、この場において彼女を追えるのは、私くらいしかいないようだった
*****
今もずっと思っている
私は君と同じだけ頑張っても、同じ場所には立てない
だからこそ、君が知らないところでずっと走っていた
互いの夢のために、君と笑うために
ずっと、ずっと
けれど、届かない
もはや、はるか遠く届かないところを走る君を見て、そう思う
当たり前だろう
才がない私がないなりに努力したとて、才がある上で努力する君に追いつけるはずがないのは、自明の理と言う他ないだろう
当たり前だろう
始めから、諦めていたのだから
今もずっと思っている
私は、君には釣り合わない
私は、君の足手まといにしかなり得ない
私は、君と同じ場所には立てない
ずっと、ずっと
だからこそ、私は探している
君の友をやめる言い訳ができる、絶好の機を
今も、ずっと
なんか色々拗らせてそうなヤツだな……
改めて、桜花爛漫のイベント見直したんですが、これ下手すればイズナの夢やらメンタルがものの見事にへし折れるようなシナリオですな……
・久田イズナ
イズナには夢がある
友と共に最高の忍者になるという、かつて否定された、確かな夢が
友が自分と同じ場所に立てなくとも、友を見捨てる気はない。ただ、始めからずっと、そのつもりだ