───ミレニアムサイエンススクール、セミナーにて
「もう怒ったわッ!!!」
ダンッ!と、机を両手で叩き、少女は思いっきり立ち上がった。菫色の髪を揺らす少女の顔は、まさに怒り心頭といったところか
一体、何に怒っているのか……などと聞くのは野暮だろう
積まれた書類の山、指数関数的に増える仕事、止まらない治安の悪化、風力発電の停止、問題児達の対処などetcetc…
現在進行形で増え続ける仕事に、頭を抱えて対処していた私たちは、しかし色々と限界も近かった
だからこそ、爆発したのだろう。まあ、無理もない。誰だって学生の時にこんなアホみたいな量の仕事をやらされ続ければそりゃあ壊れるだろう
……そもそも、学生がこんなオーバーワークしている方がおかしいのではないだろうか
学生の姿か?これが…?
「ユ、ユウカちゃん…?」
同じく終わりなき激務の犠牲となっていた白髪の少女───生塩ノアは、菫色の髪を揺らす少女───早瀬ユウカを心配そうに見ていた
「……別に、大丈夫よ」
「ですが…」
不安がったノアはユウカに近付き、そっと側に寄る
…デフォであの距離?ガチ恋距離じゃん、百合じゃん……
「(ユウノアてぇてぇぇ……)」
私は遠目にその光景を眺めながら、そんなことを思っていた。正直、この激務を耐えて来れたのはこのふたりの百合があったからだった
やはり百合、百合は全てを解決する
とは言え、それでも補えきれない限界はあるらしく、視界の端がぼんやりと霞み始めていることに気が付いた
……まぁ、無理もないか。こちとら三徹目なのだ。あの日の集会から一度も寝ていないのだ。ユウカ達が寝ていた裏でずっとキーボードと向き合っていたのだ
ほな、ちょっとくらい寝ても許されるか…などという甘えすら許してくれないのか、少し居眠りしようと机に頭を預けた瞬間、携帯からモモトークの着信音が鳴った
「(……?フミエからだ……)」
モモトークを送ってきた相手は同じ転生者のフミエからだった
肝心の内容については
『いいさ拉致鍵せねs』
「………」
『スマン、間違えたwww』
「は?」
神経が苛立った。それもめちゃくちゃ
もし、権利があるのなら今すぐエンジニア部を廃部にしてやりたかったが、生憎、そんな権利はない
まぁ、仮にあったとそんなことはしないだろうが
「(…えぇと?なになに……?)」
度々、フミエは私にこう意味の分からない文を送っては中身のない謝罪をしてくる。その都度頭に来るし、わざわざ殴りにだって行きたくなる
傍から見れば、それは嫌がらせのように見えるだろうが、だが、それにはしっかりと意味があるのだ
フミエは有事の際しかこの意味不明な文を送ってこない
送ってくるその文は、裏で情報屋の顔を持つフミエが考えたあまりにも稚拙で、幼稚で、単純で、つまらない暗号なのだ
「(分解して、iisaratikagisenes……反転すると、ええと…senseigakitarasii……「先生が来たらし、い」……)」
「え?」
「「え?」」
思わず、素の声が出てしまった。それも結構大きな声で。その声のせいで向こうでやいのやいの言っていたユウカ達もこちらを見た
…声を抑えろと言う方が無理があるだろう。三徹目の人間に、いきなり「先生が来たらしいよw」などというどデカい情報をぶつけて動ずるなと言う方が無理だろう
「メグミ?どうかしたの?」
「(やっべ)」
嫌がらせ地味た暗号からの原作開始というビッグニュースに、私の脳は限界を迎えていた。今は上がっていないが、あと少しすれば頭から煙が上がるだろう、きっと
脳がパンクしてしまいそうな手前、ムトンからユウカを連邦生徒会に送るよう言われたことを思い出した
今すぐ休みたいが……多分、寝たらユウカは私に付きっきりで看病するだろう。なぜなら、あの目は風邪を引いたモモイを見ていた目と全く同じだからだ。私は詳しいんだ()
モモイと私の扱いが同じなのは、1年以上ユウカと共にしてきた経験があるから分かる……本当に、付きっきりで看病してくるだろう…
そして、そうなったが最期、ユウカが連邦生徒会に行くのは明日以降になるか、それかユウカではなくノアが連邦生徒会に行くことになるか
どの道、私がここで寝たら原作は崩壊するのだ……
それは、それだけは避けなければならない
では、どうするのか?
倒れる手前と言うのに異常なほど頭が回る……いや、多分回っていない
おそらく、溜まりに溜まったキチゲが私にファンブルを出させるべく、ぐちゃぐちゃに頭の中をかき混ぜているのだろう
そんな、キチゲに脳をシェイクされた私は答えを出した
それは
「……連邦生徒会かい?今から1時間後に連邦生徒会長をブン殴りに行くぜ。名前は早瀬ユウカです……」
「「………」」
「……あとは、たのんだ………」
「ちょっ!?はああ!!??」
連邦生徒会への電話を終えると、すぐにガクリと項垂れ、視界が急激にブラックアウトする
私が出した答え
それは、ユウカ名義で連邦生徒会にカチコミに行くという脅迫状を送ること
そうなれば、ユウカは連邦生徒会に謝りに行くだろう……行くよね?なんだかものすごく不安になってきたが、しかし私は限界だ
もう後は、信じるしか無いだろう
「(…ゆるせよ…ユウ、カ………)」
*****
「おやぁ?貴方はセミナーの会計様……ま、まさか、エンジニア部の部費を………あれ?違う?」
「………連邦生徒会に、ですか…」
「なるほどなるほど、いや〜そうですよねぇ?色々問題なってますしぃ?そりゃあ上に文句だって言いたくなりますよねぇ?」
「え?何?謝罪しに??なんで?????」
*****
───ゲヘナ学園、風紀委員会部室にて
「(……ハゲそう)」
俺は、ストレスでハゲないか心配をしていた
元から治安が悪いというのに、その治安がさらに悪化するなど、一体何の罰ゲームだというのか……
我々は何か悪いことをしたのだろうか、そう思ってしまうくらいの仕事量であった
「………」
現在、この部屋には自分以外誰も居ない。ヒナやイオリは勿論だが、アコやチナツまで出張っていた
久々に…本当に久々にひとりの時間だ。これを無碍にするのは勿体ないと思い、バカデカいため息を吐いてやろうと息を吸う
「…すぅぅぅ…………はあああぁぁぁ……」
「しっ、失礼しますッ!!」
「ミ゜」
突如として部室の扉が明け放たれる
ノックをしてくれ、せめて
そう言いたかったが、変な息の吸い方をしてしまい、むせてしまった
「イバラ副委員長!!?だ、大丈夫ですか!?」
「ゲホッ、ゲホ…ハァ……だ、大丈夫だ、問題ない」
大きくむせたが、しかし、他人…なんなら後輩の前で無様な姿を晒すわけにはいかないため、気合で持ち堪える。醜態を晒した後で言うのもアレなのだが
改めて、部屋に来た生徒を見る。部屋に入って来たのは、眼鏡を掛けた、前世でも今世でも全身赤タイツなのではないかと噂された後輩───火宮チナツであった
「チナツか…どうかしたか」
「あの、ですね……その、イオリが怪我をしてしまい…」
「…代わりに戦線に立って欲しい、と?」
「ッ………はい…」
「……そうか…」
………
その…なんだ……
なんで…そんな怯えてるの?俺そんなに怖い?別に怒る気なんてこれっぽっちも無いのに……そんな、俺は雷帝か何かなのか?
ただ、こうして怯えられている時点で、自分は人から見れば怖い存在なんだろう…
……別にいいもん。書類仕事から逃げられる口実もできたし。べ、別に悲しくなんて………ンナアアァァ…(泣)
「…イオリはどうした」
「い、イオリなら救急医療部に…」
「……そうか」
イオリの現状を知った俺は、心の中でメソメソと泣きながら、僅かに震えるチナツの横を通って戦線に向おうとする。後でイオリの見舞いに行くかなぁ、なんて思っていた矢先であった
自分のポッケに入れていた携帯から、モモトークの着信音が響いた
歩きながらポッケから携帯を取り出し、相手を確認する
相手は─────ムトンであった
「………」
足が止まる
この時期で、ムトンから連絡が来るということ、それだけで、内容はなんとなく分かった
『先生が、来たらしい』
「……チナツよ」
「…へ?はっ、はい!?」
まさか、自分が呼ばれるとは思っていなかったのか、チナツは素っ頓狂な声を上げる
…私は、なるべく自然な形でチナツを誘導する
「…君は、今のゲヘナの治安を見て、どう思う?」
「えっ、と……普段よりもひ、ひどいものかと…」
「そうだな、私もそう思う」
「は、はぁ…」
「では……何故、こうなったと思う?」
「え…と……それは…えぇぇと…」
「…そうだな、上が無能だったからだな」
「え゙」
少々…いや、結構強引な答えに、チナツは目を見開いていた。……強引ってか暴論に近いものだろうが
「上とは、なんだ?」
「…えと、それは……パ、万魔殿?」
「違うな。そこはいつも無能だ」
「………(言い方ァ……!!!)」
普段より辛辣な言葉が出て来るが、まぁ事実だし……しょうがないということだ
「…上とは、それは連邦生徒会だろう」
「……え…」
「治安が悪化しているのは、ゲヘナだけではない。キヴォトスのすべてだ。故にこれは、ゲヘナではない、ゲヘナ以上の何かのせいということ。つまりは、連邦生徒会のせいだろう……」
「(なんでしょう、万魔殿の議長に似た何かを感じます…)」
「そこで、だ」
背景に宇宙が浮かべつつあったチナツに、ようやく本題をぶつける
その本題とは
「チナツ……君は直接、連邦生徒会に聞きに行って欲しいんだ」
「は、はい?」
「どうしてこのような惨事なったのか、どうしてすぐ良くならないのか…どうして万魔殿と同じレベルの無能なのか……聞きに行って欲しいんだ」
「……その、政治にまつわる話は、万魔殿の仕事なのでは…」
「あのタヌキ共が行くと思うか?」
「………思えませんね」
「だろう?だから、君に行って欲しいんだ」
もしかしたら、俺が転生した後で、万魔殿にまつわるストーリーが幾らか更新されているかもしれない……そこにマコト達の株が大暴騰する話があるのだとしたら自分は相当罰当たりな事を口走っているかもしれないが…
しかし、まぁ…マコトに限ってそんな話は無いだろう()…無いよね?まさか百花繚乱2章の後に新しいストーリー更新されてないよね?
まぁ、それはひとまず置いておくとして
「…分かり、ました」
「助かるよ」
チナツは、連邦生徒会に行ってくれるようだ
いや、これは「行ってくれるようだ」じゃなくて「行かせた」が正解なのではないか?
……もしかして自分、相当パワハラ地味たことをしていたのだろうか。めちゃくちゃ怖くなってきた
「そっ、それではっ!行って来ます!!」
「……あ、チナ……」
まるで逃げるように、チナツは部屋から出て行ってしまった……な、なんだこの罪悪感は…
なるだけ優しい口調で接しているつもりだが、なおも距離を置かれるのは流石に傷つく。俺だって人間っていう繊細な生き物なんだ。だからこれ以上心を殴るのはやめてくれ(泣)
某被害者面をするハムスターを想起させる自分の内情にうんざりしながらひとつ、息を吐く
「……はぁ……まぁ、良い…」
良くないが、なんにも良くないが、ひとまずそう思うことにしておこう
チナツは連邦生徒会に行った。私の頼みを聞いて動いてくれた
ならば私は、チナツに頼まれた通り、イオリの代わりを果たすとしよう
スイッチを切り替え、盾を背負い、愛銃を手にし、軍帽を被る
ゲヘナの風紀委員会副委員長、花山イバラとして、部室を後にする
「………さて、潰すか」
暴れる、問題児共を
*****
「………連邦生徒会に早瀬ユウカ及び、火宮チナツが入って行きました」
『……そうか…ふたりは誘導に成功したのだな』
「えぇ、恐らくは」
『トリニティからは既にハスミとスズミが来ているんだったな』
「はい。原作のチュートリアルメンバーは全員揃っております。これ以上増える事がなければ原作通りになるかと」
『……………その心配が、あったか…』
「…まさか、考慮されてなかったのですか?」
『………うん…でも、大丈夫だろう…』
「私は、すごく心配になりました」
『ごめんて……』
「………これより先、連邦生徒会からは先生達が出てくると予想されます。私は、そこから追跡すればよろしいでしょうか」
『あ、あぁ……それで頼む』
「かしこまりました」
「………さて、久々に見せてやりましょうか」
「”幻惑の霙”と謳われた伝説のスーパーメイドを、今一度、ご照覧あれ」
『……………そういうのは、通信を切ってからの方が良いぞ』
「聞かせているんですよ、わざと」
『厨二病か?』
「そうですが?」
お、おかしい……シナリオにはこんな話はなかったはずなのに……(ちなみに次回もシナリオにはない話らしい)
以下、一応の補足
この転生者達はブルアカの進行度がそれぞれで違います
第一部を完結まで走ったマジモンの先生も居れば、アビドス2章やそこらで止まったままの先生も居ますし、そもそもブルアカをやっていない人も居ます
イバラの場合は、原作知識が百花繚乱編2章で止まってます
…ちなみに、ここに第二部を知る転生者は居ません(風呂敷が広くなりすぎてしまうため)