Q.ここから入れる保険はありますか?   作:様子のおかしい人

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第3話 捨てちゃいなよ!そんな矜持なんか!

 

 

 

───外郭地区、その少し手前にて

 

 

 

連邦生徒会から「シャーレ」と呼ばれる施設への道を、4人の生徒と1人の大人が歩いていた

 

歩く生徒のうち、

ひとりは、ミレニアムのセミナーの会計ふともも担当、早瀬ユウカ

ひとりは、ゲヘナの風紀委員会の天使混浴担当、火宮チナツ

ひとりは、トリニティの正義実現委員会の副委員長胸部装甲担当、羽川ハスミ

ひとりは、同じくトリニティの白い自警団閃光弾担当、守月スズミ

……前世の偏った知識が思考を汚染しているあたり、自分も大概なのだろう。前世からの思考汚染はフミエがトップだろうが、まさか、2番目に自分が居たりするのだろうか……

まあ、それはさておき、

 

そんな生徒達の真ん中を歩くのが

 

 

「(……先生)」

 

 

遠目でしか見ていないからよくわからないが……しかし、予想の内の外見をしているようだ。いかにも優しそうな、大人の男性

 

 

「(男性、なら大丈夫でしょう…)」

 

 

男性ならば、災厄の狐───狐坂ワカモが一目惚れする可能性が大いにあり得る。逆に先生が女性だった場合は、その可能性が大いに下がると予想できる

…まさか、それでも惚れたとなれば、百合厨のメグミが黙っていないだろう

 

などと、下らない思考に浸りながら、私は先生達を数十メートル離れた地点から尾行していた

単に尾行している訳ではない。自慢のホログラム投影機をフル活用し、自身の姿を背景と完全に同化させている

ホログラム投影機「厚化粧」はミレニアムの監視カメラすら欺ける。ミレニアムでもないようなここの監視カメラなど、警戒する必要もないだろう

 

 

「(……っと、もうですか…)」

 

 

目先の5人は足を止め、戦闘を始めようとしていた

先生の指揮をここで見定めておくと同時に、もしもがあった時に備え、隠し持っている球を握る

この球はエンジニア部のフミエではなく、セミナーのメグミが作った秘密兵器だ。曰く、投げると球を中心に大きなバリアを展開するもの……らしい

およそ、ぶっつけ本番で使うものではないだろうが……使うことが無いことを祈りつつ、私は先生を見る

 

 

「(………先生も、転生者なのでしょうか…)」

 

 

個人的な予想では先生は転生者ではないだろう。しかし、同じ転生者であった場合、かつ協力を得られた場合、私達は大いに動きやすくなるのだ

今、先生が転生者か否かを知れるなら、それに越したことはないだろうが、まさか直接聞くわけにもいかない。向こうがボロを出すのを待つのが安牌だ

 

 

「(…まぁ、良いでしょう……私は遠巻きに見物させてもらいます)」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

───シャーレ、その手前にて

 

 

 

装甲戦車が、大破した

戦車の搭乗者達は散り散りになって逃げていく

 

それは、何を意味するか

 

 

「(チュートリアルでの戦闘は、もう終わり……)」

 

 

よし!じゃあ後はウィニングランだな!なんて、気を抜いたが最期、先生は撃たれて〇にます

勿論、それくらいの気概で行けという冗談だが…しかし、この先の展開によってはそれが本当になりえてしまう

今、あの5人は戦闘終了に喜んでいたり、安堵していたりしているが、ああやって慢心した瞬間、後ろから先生が撃たれてそのままポックリ……みたいな可能性だって普通にあり得る

その点、この伝説のスーパーメイドは違うのだ。慢心などは決してしない、プロフェッショナルの精神でいつもを過ごしている

 

ただ、しかし…改めて、この戦場において先生という人間がいかに儚い存在かを認識した。銃弾1発ってなんだ、1発って

転生してからもう16年。前世の価値観は失われつつあったが、今になってそれを少し思い出してきた

 

 

「(……先んじて、地下室の方へ向かいましょうか)」

 

 

だからこそ、私は最悪を想定して、先にワカモが入っていった地下室に、先生が来るより前に入って行くことにした

ここさえ越えてしまえば、次に先生の生命を脅かしかねないのはエデン条約編のミサイルの時だろう、多分

 

曖昧になりつつある原作知識を頭の片隅に、私は階段を降りていった

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「むむむ………」

 

 

 

「(……いた…)」

 

 

階段を降りていった先で、やはりと言うべきか、当然と言うべきか、ワカモは件のタブレット端末───先生の生命線たるシッテムの箱と向き合っていた

 

 

 

狐坂ワカモ

災厄の狐と謳われた、破壊と略奪が趣味の問題児

原作において、右に出る者が居ないレベルの純愛FOX

例え先生が死んでも、先生以外には決して惚れない一途さを感じるほどの圧倒的な愛の持ち主

 

 

そして……半年前の、戦禍の金曜日事件の主犯

 

キヴォトス基準で見ても、あれはまさに地獄絵図そのものだった

まさか、半日足らずでブラックマーケットの一角が消し飛ぶとは思わなかったなぁ(遠い目)

 

 

嫌な事件を思い出し、思考を切り替えるため小さくため息を吐く。見るのは過去ではなく未来だと、ムトンも言っていた。きっと古事記にも書かれているだろう

……などと思っていたら、後ろから階段を降りてくる足音がしてきた。大方、先生だろう

 

 

「(あとは…)」

 

 

ワカモに警戒しつつ、経過を見─────

 

 

 

 

 

「………そこ、何者です、の……」

 

 

 

 

 

「(えっ)」

 

 

”えっ、と…私は、先生だよ。よろしくね”

 

 

 

ワカモは、先生をまじまじと見ている。ここで惚れるかどうかが分かる

 

いや、違う。待て

 

 

 

ワカモは、今、何に───いや、誰に銃を向けた?

 

 

 

顔をこちらに向けるまで、ワカモは先生の存在には気付いてないようだった

 

つまり、別の誰か

この部屋には私とワカモ、先生以外の人間は居ない

 

すると必然、それは消去法で……

 

 

 

「(まさか……私の存在に…気付いた、だと……ッ?)」

 

 

 

かのチビでヤンキーな先輩ですら気付けなかった私の存在を、ワカモが見破ったという事実に私はかなり驚いていた

驚いていたというより、ショックを受けていたが正しいが

 

ワカモは「あらあらあら…」と言っている裏で、私は思考に囚われていた。多分、今ワカモが先生を撃ったら私は対処できなかっただろう

 

私がフリーズしている裏でも、物語は進むようで

 

 

 

「しっ、失礼しましたぁぁぁ〜〜!!!」

 

 

 

ワカモは目にも止まらない速度で地下室から退場していった

 

原作の通りに事が進んだというのに、自分の矜持を砕かれた喪失感だけが身体を満たしていた

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

パッと、地下室に電気が付いた

ショックのあまり地下室から動けなかった私は、ようやく思考が戻ってくる。立ち直った訳ではないので、帰ったらすぐに涙で濡らした枕を作る予定だ

 

 

「(…電気が付いた、ということは)」

 

 

地下室の端で待機していた連邦生徒会の行政官───七神リンは電話越しの誰かから何かを確認した後、先生の下へ向かった

それが何かを伝えるためだと分かった私は聞き耳を立てる

 

 

 

「サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。これからは───………」

 

 

 

…なるほど

つまり、これでチュートリアルは終わりということだ

 

 

「(……はぁ…なんだか、すごく疲れました…)」

 

 

単純に気を張り続けたからか、それとも涙を溢せば足がつくと思い、今も涙をずっと堪えてたからか。まぁどうでも良いことか

 

私は、足音を立てないよう地下室から出ていく

 

この後、先生とリンはシャーレの執務室にでも足を運ぶのだろう

それから、色々あって……

 

 

「(先生………)」

 

 

貴方と直接話すことはないだろうから、心の内で言う

 

 

 

「(…キヴォトスを、よろしくお願いします)」

 

 

 

先生が転生者か否かなど、関係はない

キヴォトスの未来は、どの道、貴方に委ねられているのだから

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

『あれっ?』

 

 

 

それは深夜だった

 

タブレット端末の中に居る少女は、首を傾げた

 

 

”アロナ?どうしたの?”

 

『あの、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に返した後、電気が復旧しましたよね?』

 

”うん、したね”

 

『それで、監視カメラの映像も復活したんですが…』

 

”……そこに、何か映っていたの?”

 

 

少女はそれを肯定して、ひとつの映像をタブレットの画面に映す

 

一見、その映像には先生やリンが映っていたが、それ以外、特にそれらしい何かは映っていない

ただの、シャーレの地下室の映像だ

 

 

『ここ』

 

”うん?”

 

画像ホログラムを何重にも厚塗りして、何かが隠れているんです!』

 

 

しかし、アロナが指し示した場所には何かが隠れているようだ

 

 

”……よく、気づいたね?”

 

『ふふん!アロナちゃんはすごいんですよ!!』

 

 

目を凝らさなければ多分気付けなかった、という事実を伏せた少女は胸を張る

 

 

”ところで、この画像ホログラムって…”

 

『ふっふっふ……スーパーアロナちゃんにかかれば、こんな画像ホログラム、すぐ剥がせちゃいます!!』

 

 

実は、どこぞの全知ですら苦戦を強いられる特殊な画像ホログラムなのだが、スーパーコンピューターもドン引きするレベルの少女のハッキング能力を前に、そんな画像ホログラムは成す術なく、剥がされていく

 

 

そして、それは露呈する

 

 

 

”この子は……”

 

『め、メイド服?』

 

 

 

 

 

ワカモが地下室から出ていってすぐに、ミゾレもさっさと出ていき、姿を眩ませば、先生にその存在を知られることはなかった

そうしなかったのは、矜持を砕かれただなんだと言って、バカみたいにショックを受けて地下室から動かなかったからだった

 

ミゾレは、慢心はしていなかった

 

だが、ショックを受けていた

 

 

 

 

 

ガバは、些細なことから生まれるのだ

 

 

 




チュートリアルからやらかすのが転生者クオリティ



・ホログラム投影機「厚化粧」
雨村ミゾレが愛用する特殊な機械
かつての仲間達の中で、最も隠密と裏工作に長けていた彼女の大切な右腕である
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