───ブラックマーケット、某所にて
「…動きだしたな」
「原作では、これからブラックマーケットに乗り込み、阿慈谷ヒフミを籠絡した後、そして銀行強盗しますね」
「籠絡て。……まぁ、事実か…」
「えぇ」
私はミゾレと、アビドス砂漠に飛ばしたドローンからの映像を見ていた
先生がキヴォトスに来てからおよそ2週間、先生はアビドス対策委員会と活動していた。現状、対策委員会編では特に大きな問題はなく、先生は砂漠で遭難し、先生はシロコと間接キスをし、セリカは誘拐されたりした
……大きな問題はないが、倫理的な問題はあるかもしれない。この先順調に行けば、生徒の足を舐めるという問題行動に走るが……原作通りなので、我々がとやかく言う必要性はない
と言うより、我々はそれを咎めるのではなく肯定し、無理にでも舐めさせる立場にあるのだろうが…
まぁ、ともかく
先生らはこれからブラックマーケットに来る。そのために色々と手は回してある
「……ヒフミはどうだ?」
「阿慈谷ヒフミなら、既にブラックマーケットに来ています。指示を出し次第、仕掛け人の不良生徒達も動かせます」
「…素晴らしい」
ここでヒフミと先生達とが巡り合わず、ヒフミがファウストにならなかった場合、エデン条約編で詰む可能性があるため、ここの誘導は念入りに行った
……生徒を犯罪者にしなきゃ詰む原作ってなんなんだろうか、本当に…
頭を抱える代わりに頭の角に触れつつ、私は次にすべきことの準備に入る
「先生ら対策委員会とヒフミが巡り合い次第、今度はシャーレに乗り込んで、そして盗聴器を仕掛けるぞ」
「かしこまりました」
これからやることは今言った通り、シャーレに盗聴器を仕掛けること。某ヴェリタスの部員とほとんど同じことをすることになるが、これには明確な理由がある
それは、シッテムの箱の中にアロナが居るのかどうかを知るため
厳密には、中に居るのがアロナなのかプラナなのかを知るためである
シッテムの箱を扱えるのは先生のみであり、それ以外の人間がシッテムの箱を見ても、中に何があるのかはわからない
しかし、シッテムの箱に侵入することの無謀さは、原作のカイザーやデカグラマトンが証明済み
故に、先生から聞くしかないだろう
とは言え、プラナも最終編の終わり際までは先生からはアロナと呼ばれていた
正直、先生がシッテムの箱の少女の髪色などに言及してくれなければ、断ずるのは無理だろう
かと言って、直接聞くのは一番ダメだ
シッテムの箱の住人の存在は先生しか知り得ない。故に、直接聞くということはその存在を認知していることの証左であり、先生達から大いに怪しまれるだろう
遠回しに聞いても、はぐらかされるのがオチだ
故に……回りくどいが、先生の零した言葉から断ずる他ないだろう
「……はぁ…」
そのことは一旦置いておくとして、今は先生達だ
今はそのことに集中…
「そういえば、カラスはまた仕事ですか?」
「……ああ、そうだ」
突然、ミゾレはバケツを被るカラスのことを尋ねてきた
カラスならば、今ブラックマーケットで依頼をこなしているが……あぁ、なるほど
「…対策委員会やヒフミなら、アイツに関わる前に逃げるだろう」
「………そうだとは、思いますが…」
鳥澤カラス
ただただ戦闘に狂った最強の傭兵
マーケットガード以上に恐れられる恐怖の象徴
戦禍の金曜日事件の被害者にして主犯
そう呼ばれるカラスには依頼か、あるいは喧嘩を売られた際しか戦闘をするなと言いつけてあるため、自分から問題行動はしないはずだ
まさか、先生達から喧嘩を吹っ掛ける事はないだろうし…
まぁ、大丈夫だろう
などと、中途半端に信頼していたのが良くなかったらしい
*****
「バケツ?」
「はい…」
探し物をしていた生徒ら対策委員会とヒフミは、しかし、一切の収穫を得られず、小休憩としてたい焼きを口にしていた。そんな先生達は、ブラックマーケットで最も警戒するべき存在について、ヒフミから話を聞いていた
「バケツの他にも、身体中に包帯を巻いていたり、正義実現委員会のものよりもずっと黒い制服を着ていたり、赤いスカーフを付けている……らしいです」
「らしい?」
「…はい。噂でしか、知らないので…」
あははと困ったように笑うヒフミを見て、シロコは尋ねる
「その傭兵って、どれくらい強いの?」
「ど、どれくらい………えっと、皆さんは戦禍の金曜日事件を知っていますか?」
「戦禍の金曜日事件…?」
「はい。半年前、七囚人の災厄の狐が率いる不良生徒達の大隊とバケツが戦い、マーケットガードが止めに入るほど大暴れして、最終的にブラックマーケットの一角が消えた事件です」
そんな事件あったんだ、という顔をする一同
しかし、アビドスは自治区外からの情報がロクに入ってこない状況であったし、先生に至ってはそもそも半年前までキヴォトスには居なかったため、知らないのも無理はないだろう。ヒフミはそう思い、知らなかったんですか、と問う言葉を飲み込む
「…その、バケツはたったひとりでその軍勢に立ち向かったの?」
「? はい。終始優勢だったらしいですよ」
「バケツ側が?」
「はい」
「えぇ……」
セリカは遠い目をしていた、アホみたいな人数差を覆す戦闘力を有しているであろうバケツに対して
そもそも、大隊とはおよそ300人〜1000人の軍勢のことを言う。ヒフミの言葉通りに考えると、どんなに低く見積もっても300対1という絶望的な人数差があるのだ
さらに、相手は大半がスケバンやヘルメット団などの不良生徒であったとしても、頭には七囚人が…それも災厄の狐というキヴォトス全体で見ても屈指の化物が居るのだ
それを……終始、優勢で?
素直なセリカは心底ゾッとしていたが、他はそうではなかったらしく
「うへ…流石に話を盛りすぎじゃないかな?ヒフミちゃん」
「そ、そうでしょうか…」
「噂でしか知らないんでしょ?噂ってのは尾ひれがどんどんついていくものだからさ」
流石にデマだろう、と先生らはそう思った
逆に、そんな戦闘力を持っていたり、災厄の狐もとい狐坂ワカモを撃退しているのであれば、それなりに有名になるはずだろう。ヴァルキューレや連邦生徒会だって、目を付けるはずだ
「そのバケツさんについて、他に何か情報とかはありますか〜?♧」
「えっとぉ……名前不明、年齢不明、素顔不明、所属する学園も不明……分からないことだらけの謎の傭兵って事だけ……」
「何も分かってないじゃない!!」
「ん、分からないってことが分かってる。ヒフミは賢い」
「シロコ先輩?」
「あ、でも!…色々調べて分かったは、生粋の戦闘狂であることや戦禍の金曜日事件の日から「戦禍の八咫」とも呼ばれていること、活動域がブラックマーケットだけであること、受ける依頼はどれも戦闘が絡むものだけであること………」
「あと、自分から問題を起こすようなことは決してしないこととか」
心なしか、ヒフミの最後の声だけトーンが落ちた
その言葉に何かが引っかかった先生は、今まで閉ざしていた口を開いた
”……ヒフミ、それは”
「え、あれって…」
しかし、先生の声はセリカの声によって遮られた
セリカの目線の先にあったのは、先程アビドスに来た現金輸送車だった
*****
仕事を終わらせ、近くにあるたい焼き屋を目指してアタシはぶらぶらと歩いていた
今日はもう、仕事はない。今日はこのまま帰って、銃の整備でもしようか
「?」
そう思っていたが、何やら騒がしい。不良共の小競り合いか?いや、にしちゃあやけに大事っぽい
あの辺、たい焼き屋の他に何かあったっけか……
「あ、あぁ!!バケツ!依頼だ!依頼を頼む!!」
「あぁ?」
何があったか思い出そうとしてた時、いきなり野郎が走って依頼を頼んできた。あと少しで出てきそうだったってのによぉ
「てめぇ、どこの野郎だ?まず名乗れよな」
「カイザーローン!すぐ後ろの銀行の職員だよ!!」
「……そんな銀行がどうしたんだ?まさか強盗にでも入られたわけでもねぇだろうによ」
あぁ、そうだそうだ、カイザーローンだ。カイザーって付くやつ多いからまどろっこしいんだよな
……カイザーローンって結構デケェ銀行で、普段はあの無能ロボット共がすぐ近くにスタンバってるんだったな。まさか、強盗にでも入られて、押し切られたか?
まぁ、違うか
あそこを襲撃すんのは襲撃する無謀さを知らないようなバカぐらいしかいないしな。すぐに潰されておしまいだ
「そうなんだ!!強盗だ!!」
「あ?マジかよ?」
と思ったら、強盗だったらしい
無謀さを理解していたかどうかは知らんが、少なくともあの無能ロボット共を押し切れる実力はあるようだ
「覆面被った5人組だ!そいつらが金と集金記録を奪って行ったんだ!!」
「………」
「だから頼む!やつらを捕まえて、金を取り返してくれ!!」
「ふぅん……で、報酬は?」
なるほど、5人組な
どんなやつらなんだろうと期待に胸を膨らませながら、一応報酬金を聞いておく
「ッ…100万!100万出す!!」
「…いいじゃねぇか、乗ったぜ」
5人組。それも、ここでも一番デカいであろう銀行を強盗し、逃げられる実力のあるやつら
さらに、そいつらを潰せば100万も入ってくる
そんなおいしい話に、乗らない理由はないだろう
アタシは、たい焼きのことをそっちのけで、新しい依頼のために走り出した
確かに、カラスは自分からは動かない
ただ、依頼の上であれば、カラスは動く
どんなに軽い報酬でも、そこに争いがあれば飛んでいく
まさしく、戦禍の八咫なのだ
*****
私達はブラックマーケットから市街地方面に繋がるハイウェイの上を走っていた。マーケットガード達が幾つも出張ってきたが、けど、大した相手ではなかった
『このまま進めば出口です!』
『”みんな、急いで!”』
無線越しに、アビドスにお留守番しているアヤネちゃんと、先んじて合流地点まで移動していた先生から声が届く
「(まさか、銀行強盗をやっちゃうなんてなぁ)」
勿論、お金が目当てではない
しかし、集金記録を強盗した事実はあるため、これも立派な銀行強盗と呼べるだろう
「さ、みんな急ごう!」
それとなく鼓舞をしつつ、私達は走る
このまま行けば、覆面水着団という正体不明の組織は闇に葬られて終わるはずだ
……改めて、覆面水着団ってなんだろう。なんと言うか、その…もう少し別の名前はなかったのだろうか…名前だけではただの痴女集団ではないか
そんなふざけたことを考えていた時だった
『!?待ってください!後ろから、何かが─────』
アヤネちゃんの言葉を聞いてすぐ、私は即座に振り返る
その時には、後ろから銃弾が4、いや、5発、飛んできていた
狙いは─────……
「みんな!避けて!!」
大声を出して、みんなに指示を出しつつ、私はシロコちゃんに飛んできていた銃弾を盾で受ける
狙いは、全員だった
「いっだああああっ!?」
「っ!!?」
咄嗟のことにみんなは反応できず、セリカちゃんとノノミちゃんは後頭部に銃弾───大きさ的に、あれはライフル弾だろう───を受けていた
シロコちゃんは、私が弾を受け止めたから無傷。ヒフミちゃんは、奇跡的に足を止めたため、掠っただけで済んだようだ
走っている人間の、それも頭部を狙い、そして当てた
「(……)」
相手の実力を感じる間もなく、構えている盾の右横から投げられたであろう手榴弾に気付く。盾を向けて、対処しようとする、が
「!!」
それは、私の目に入った瞬間に炸裂した
衝撃が、左右から私を襲う
「!??」
「ピンク!!」
左右から、手榴弾を投げ込まれていたことに驚きつつ、その間に私達の後ろに回り込んでいた存在に意識を向ける
どうやら、相手は私達を通せんぼをしたいらしい
「大丈夫だよ、シロ……ブルー」
「み、みなさん!?大丈夫ですか!!?」
「ヒ…ファウストも、大丈夫だから」
まだその設定なのか、とは思いつつも、覆面水着団のピンクとして言葉を返す
ようやく、そこで私達は、攻撃を仕掛けてきた存在を見た
ボロボロの黒い制服、
身体中に巻いた包帯、
壊れかけのプロテクター、
赤黒いスカーフ、
背に携えた4種の銃、
そして……バケツ
先程、ヒフミから聞いたブラックマーケット最強の傭兵の特徴を全て備えている
アレが、噂の…
「雑多共は今のであらかた片がつくんだが……やっぱ、あの銀行を襲うだけの実力はあるようだなぁ」
「……ぇ…」
その声には、聞き覚えがあった
「こりゃあ、潰し甲斐がありそうだ……!」
バケツ。あるいは、戦禍の八咫
みんながその人物に身構える中、
私は、その人物に過去を重ねていた
知ってる?アビドスって全校生徒の10割が銀行強盗を経験済みらしいよ()
※そういえば……どこぞのアホンダラは、シナリオで生徒達を曇らせる予定なのに、曇らせタグを付け忘れたらしい…(誠にすまない)
・バケツ
ブラックマーケットで活動する傭兵のひとりである彼女は、戦禍の金曜日を境に「戦禍の八咫」として恐れられている
顔を隠す理由について色々と噂されているが、どれも確証には至らないでいる
「顔についた傷を隠すため」
などの下らない噂も、未だ確証には至っていない