───それは過去
『オイ!!盾役がなんで後ろに居るんだよ!!?』
『ふ、ふたりがどんどん前に出るから遅れちゃったんだよぉ〜!』
『何のための盾なんだよ!?そんなんじゃあ守れるもんも守れねぇだろうがよォ!』
『ひぃぃぃん!!!』
『ちょっと!!先輩になんなんですかその口の聞き方は!!?』
『前にも出れねぇやつが先輩名乗ってんじゃねぇっての!!…オイ!そっちに手榴弾行ったぞ!』
『ッ!!……ユメ先輩!!後でコイツに先輩の威厳を理解らせてやりましょう!!!』
『い、威厳!?』
『おう!ミリでもあるんなら出してみやがれよ!その先輩の威厳ってのをよォ!!』
『先輩!!威厳の貯蔵はありますか!!?』
『う、うーん、う〜〜ん……多分無い、かなぁ?』
『どこで失くしたんですか!!!本当に!!』
『ダハハハハハ!!!どうせその胸に全部吸われたんだろ!!お前と違ってなぁ!!』
『─────殺す』
『あ゙ぁ!!?やれるもんならやってみやがれよこんの生意気チビ野郎がァよォォ!!』
『喧嘩はダメだよぉぉぉっ!!!』
『………な、なんでアイツら、仲間割れしてるんだ…!?』
『わ、分かんねぇッス…』
……ああ、懐かしいな
今は失くした、あるいは私が壊した
あの日を、思い出す
*****
さっき、ヒフミちゃんから聞いたブラックマーケット最強の傭兵、バケツ。彼女が手に持った手榴弾のピンを抜いた瞬間、戦いの火蓋は切られた
ピンの抜ける音を聞いた私達は一斉に射撃を始め、バケツに銃弾の雨を降らせる
バケツは手に持った手榴弾を空へ投げつつ、右横へステップを踏み、銃弾の雨を回避する
「っ!先輩!!」
シロコちゃんが、手榴弾のことを警告する。軌道から私に向かっていることに気づいたのだろう。私も左にステップを踏んでそれを避け
「させるとでも?」
バケツの持ったSRが、火を吹いた
避けた先で、私の右手首は撃ち抜かれた
回避狩り
確か、あの子はそう言っていた
「!!」
「先輩っ!」
衝撃のあまり、思わず手からSGが落ちそうになったが、どうにか堪えて、グリップを握り直す
……今の動きは、知っている
わざと、見えるように投げた手榴弾に気を向けさせ、そして、それを避けるべく動いたところを狩るあの子の得意技「挟撃戦術」
やっぱり、バケツは─────
『”みんな”』
そこまで考えた瞬間、先生の声が聞こえた
『”ちょっと離れた場所からだけど…指揮をするよ”』
「……うへ、じゃあお願いするよ」
バケツには聞こえないように、極力小さな声で言葉を返す
これなら…心強い
「何独り言言ってんだぁ?アタシにも聞かせてくれよなぁ!!」
その時、バケツは手に持ったARを撃ちながらこちらに突っ込んできていた。言葉から察するに、先生の存在には気づいてないようだ
『”ホシノ、右だ!”』
「!」
バケツは、私が回避行動を取った瞬間、瞬時に持ち替えたSGを、私が元いた場所の左に向けて放った
左
さっき私が回避した方向だ
「あぁ?流石にそこまでのアホじゃねぇってか…」
『”みんな、今だ!セリカとホシノは回避したら右に撃って!”』
狙いを外したバケツが足を止めて一憂していたところを、みんなは一斉に射撃する
バケツは右へステップを踏んで、回避しようとする
「っと」
「!!」
バケツが回避してから、回避先であろう右側を、私達は射撃した
けれどバケツは、それを見てから、ステップの途中で無理矢理もう一度ステップを挟み、回避した
私は、咄嗟にSGで追撃するが、バケツは見てから右へ左へ、最小の動きでそれを回避する
反応速度がおかしい
放たれる弾丸のことごとくを避ける様は、まるで、こちらが撃つ前から弾道を読んでいるような、そんな気がする
そこまで考えた瞬間、視界の上部に落ちてくる手榴弾が見えた。おそらく、同じ手だろう
私とて、そこまでのバカではない
今度は、バケツを正面に捉えたまま、回避を狩られないよう盾を構えながら、左に回避をして
『”ダメだ…!ホシノ!!”』
「ぐッ!?」
───後ろから、大きな衝撃が走った
全くの想定外の衝撃に、体勢が大きくよろける。今の衝撃は、あの手榴弾と同じものだろうか
手榴弾
それは、ピンを抜いてから数秒後に爆発するものであり、任意のタイミングで起爆することはない
故に、敵の後ろに回った瞬間に、起爆するようなことはなく、そうしたければ、予めピンを抜いておく必要があるのだ
つまり、私の後ろを爆破した手榴弾は……私が回避する数秒も前から、投げていたものだ
それが何を意味するのか、分からない私ではない
「敵の回避先を読んで狩るのは、オセアニアじゃあ常識らしいぜぇ!!」
よろけた私に、バケツは突っ込んできた
その手には、SGが握られていた
「っ!!」
どうにか盾を構え、放たれる散弾を受け止める
防げたことに息を吐く間もなく、バケツは、私の盾を思い切り踏みつけながら、跳ねるように後退した
後ろに跳んでいる僅かな間、バケツはSGではなくSRを構え、2発撃った
「い゙っ…だ!!」
「っ!?」
私は、それにロクに反応できず、狙いであったセリカちゃんとシロコちゃんが撃たれたようだった
……中空からの射撃で、今の精度
やはり、並の相手ではない
着地したバケツは、左右の手にそれぞれHGとARを持ち、それを乱射しながら駆け出してきた
「…!」
これも、知っている
あの日、これにまんまとハメられたから、覚えている
「(確かこれは、相手の気を引くように戦場を走って、全員からの視線が集まった瞬間に……)」
バケツは、私達に向けて2丁の銃を乱射し、居場所を明らかにするように、目立つように、大きく弧を描くように、私達の真横まで走る
そして、走った先で
「!!?」
『”みんな!!”』
閃光弾によって、皆の目を灼く
それを覚えていた私は、盾で目を閃光から守った
「ハハハッ!!てめぇらも閃光対策にバケツ被りゃいいんじゃねぇかァ!!?」
そうしたら、あの子は、私達全員の───私の目を灼いたと思って、突っ込んでくる
あの時と、一緒だ
「…そうかもね。でも、バケツじゃなくてもいいんじゃないかな?」
「ッ!?」
そう言いながら、出待ちで散弾を放つ
バケツも不意を突かれたようで、回避が一瞬だけ遅れた。私は先ほどの借りを返すべく、その一瞬を狩ろうとする
そして、私の放ったペレットは、避けた先のバケツの腹部に、半分ほど命中した
…たったの、半分
それも、散弾の
思わず、気が滅入りそうになるが……しかし、これまでに与えられたダメージのことを考えれば、これは大きな進歩と呼べる……かも知れない
「へぇ…閃光弾を読んでたのか……やっぱお前、そんじょそこらの雑多じゃあねぇな……」
隠れている顔は、きっと笑みの形に歪んだのだろう
そんな、喜色でいっぱいの声がバケツから聞こえた
もし……もしも
バケツが、あの子ならば
あの時からいっそ恐ろしいまでに、成長して─────
………やめろ
今を生きてる人に、死人を重ねるな
重ねても、あの子は……先輩は、戻ってこない
そんなこと、分かっている
分かっている……はずなのに……
『”─────ノ…ホシノ!大丈夫!?”』
「ぁ…」
先生の声によって、思考が戻る
息が、荒くなっていた
手汗が滲んで、手は小刻みに震えていた
「………うん、大丈夫だよ」
嘘
本当は、今すぐにでもこの場から逃げ出したかった
バケツをあの子に、重ねてしまいそうだから
「なんだぁ?いきなりぼーっとしやがってよぉ」
分かっている
それがどれほど身勝手で、最低なことか
分かっている
人違いの可能性だって、あるのに
分かって、いる…のに……
「ほんじゃあ、もう終わらせちまおっかなァ!!?」
バケツは次々と手榴弾を上へと投げ、逃げ場を失くすように絶え間ない射撃を繰り出してくる
「…!」
みんなはまだ、閃光で目がやられて動けない
先生は必死に指揮を送っているが、それでも限界はある
私は……みんなの前に立って、少しでも銃弾が当たらないように盾を構えた
けれど、本調子とは程遠い今では、盾で受け切ることすら精一杯だったらしく、横から投げ込まれていた無数の手榴弾の存在に気付けなかった
「…あ……」
それが爆発する直前に、先に上に投げられていた手榴弾が爆発したらしく、まず後ろ───ちょうど、みんなのいた辺りから爆風がきた
そしてすぐ、横の手榴弾が炸裂して─────
*****
「チェックメイト、ってな」
終わらせちまおうか、なんて言ったがまさか、本当に終わるとは思ってなかったなぁ……
なんて思いつつ、アタシは、膝をついたピンク頭巾の頭にSGを押し付けた
コイツ、一番やる気がなさそうだったのに動きだけは良かったなぁ……まぁ、途中から欠片もやる気失くしたっぽかったが
やる気がねぇのは、単に面倒なだけなのか、性に合わないからなのか、それとも別の理由か
…どうでもいいことか
「ま、それなりには楽しかったぜ?お前らとの潰し合いはよぉ」
えぇと、なんだったか。こいつら捕まえて……あぁ、あの銀行員に盗られた金と一緒に突き出すんだったな
面倒臭ぇが……仕事は仕事だしな
んじゃ、とっとと気絶するまで叩き撃って、引きずってアイツんとこまで……
「……カラス、ちゃん…」
「………あ?」
名前を、呼ばれた
バケツの姿で、他人から呼ばれた
前提として、アタシの名前を知ってんのは身内か、羊野郎の下に付く前に関わったやつらだけだ
そして、身内にこんなやつはいない
じゃあ
つまりコイツは、アタシがムトンと関わるより前のやつ…ってことか…………?
……いや、誰だ?
中学のやつに、こんなのいたっけ……
最終学歴が中学生……いや、小学生のアタシは2年や3年前のクラスメイトの顔すら覚えていない
割と動揺してたアタシは、思わず聞いた
「……なんでお前、アタシの名前を……」
「…どうして」
「…??」
「どうして、こんなこと……」
質問で返された
質問を質問で返すなと教わらなかったのだろうか……まぁアタシも教わってないから、きっとコイツも教えてくれる人間が居なかったのだろう
かと言って哀れむわけでもねぇが……どうして、か
「そりゃあ、お前─────」
「お願い……しますっ!!」
言葉が出る前に、視界の端で紙袋が何かを投げてきていた
……マズったな、いつもはこうはならないんだが……やっぱ、予想外が起きると人は弱くなるもんだ
…冷静に対処しろ。あの円盤はなんだ?地雷か?にしちゃあ目立つ色合いだ、多分違う。じゃあなんだ?罠か?なら撃ち壊せば…いや待て、アレが爆弾だった場合、この距離だと回避は不可能だ。そもそも、アレは避けられる攻撃か?分からない以上、回避が安牌だろうが、もしそれを見越したものだったら?
一瞬の内に思考し、しかし結局どうすればいいか分からなかったため、その場からできる限り離れることを選んだ
けど、円盤はアタシがそうする前に炸裂し、白い何かが出てきた
煙幕、いや違う。物体がある
これは……
これ、は………
「なんだこのカバ!?!?」
カバだった
違う、カバじゃない…鳥か?
……いや、カバだろうが鳥だろうが、そんなことはどうでも良い
アタシは今すぐ、このどう見てもラリってるようにしか見えないバケモノを破壊しなければならない
「カバじゃありません!!ペロロ様です!!!」
インフルエンザに掛かった時の夢に出てくるバケモノを蜂の巣にしてると、どこからかそんな声が聞こえる
……なるほど、ペロロと言うのか。このバケモノは
この知性の欠片も無いようなバケモノにも名前があったことに驚きつつ、アタシは攻撃の手をやめない
早く、破壊しなくちゃあな…!
それから、白いゲテモノが見るも無残な残骸になるのにそう時間は掛からなかった
憎ったらしい顔をしたバケモノの、哀れな姿に思わず笑顔になる
「……あー…あ?」
……あれ
アタシ、何してたんだっけ
確か、バカイザーの野郎から依頼を─────
「そうだアイツらッ!?」
覆面ナントカ団とやりあったんだったなそういや!?
道路をど真ん中で見渡しても、既にアイツらはいない
まんまと…罠にハメられたらしい
「〜〜ッ!こんのクソ野郎がァ!」
衝動で、残骸と化したペロペロだとかを蹴り飛ばす
当然そんなことをしたとて、アイツらは戻ってこない
しゃあねぇ…追うか
そう思い、ブラックマーケットの外方面に走り出そうとしたタイミングで電話が掛かってきた
「あぁ?こんな時に誰だ…って、ゲェ…」
相手は、羊野郎だった
*****
「…い、行ってもいいのかしら…?」
「バケツがア、アル様の邪魔をするなら、私が…!」
「う〜ん、勝てないからやめた方が良いんじゃないかな?」
「……ムツキに賛成するよ」
アルの意向により覆面水着団───と名乗ったアビドスともうひとり───を追っていた最中、私達は彼女らがあのバケツとやりあっているのを、横転した車の影からずっと見ていた
最終的には、バケツは覆面水着団を負かしたが………あの……謎の白い鳥の囮によって、覆面水着団は全員逃げることに成功していた
結果として、勝負ではバケツの勝ちだが、バケツが受けた依頼としては覆面水着団の勝ちだった
そして今、バケツは囮を完全に破壊し、覆面水着団を追おうとしたところで、掛かってきたであろう電話に出ていた
「(……誰と話してるんだろう)」
バケツは電話をしている
一見、依頼主と話をしているのかと思えるが、しかし、バケツのことを知っていればそうではないと気付ける
バケツは仕事用の携帯を持っていない
故に、私達と違い、電話番号を持たないバケツに依頼をするには、直接頼むしかない
つまり……今バケツが話している相手は、彼女にとってプライベートな関係の人間である可能性があるということが分かる
「(ここからじゃ、聞こえない)」
何かを話している───いや、言い合っていると言った方が正しいだろう───が、いかんせん、距離が距離だ。ほとんど聞こえない
もう少し近付こうか
そう思ったところで、バケツはくるりとこちらを向いて歩き出した
「!」
「み、みんな隠れて…!」
アルの声により、私達は車の影に隠れる。それからすぐに足音が聞こえてきて、段々と大きくなってくる
そして、その足音は……私達の隠れている車の前で止まって
「……で、コソコソと隠れて何してんだ?」
バケツは私達に向けて話しかけてきた
アルは白目を剥いて、ハルカはおどおどとしていた。いつも通りなふたりにため息を吐きつつ、私はみんなに「待っていて」とだけ伝えて、車の影から出た
「盗み見だよ…悪い?」
「あー、お前か……見世物じゃあねぇんだが……ま、見んのはタダだもんなぁ…」
噂で聞いていた「こちらから手を出さなければ襲ってこない」というもの。それを信用しての行為だったが……どうやら、デマではないようだ
「それで?お前はアタシにまた喧嘩を売りにでも来たのか?」
「…今回は違うよ」
「ほ〜ん……本当に盗み見しかしてねぇのか、つまんねぇの」
「アンタの強さを知ってれば、喧嘩なんて売る気を失せるよ」
以前、私達はバケツを討伐しに喧嘩を売ったことがあるが……あれは思い出したくもない
惨敗以上の何物でもない苦い思い出にかぶりを振る
「ま、今喧嘩を売られても、こっちから拒否するがな」
「?」
「ねぇ!それってどういうことー?」
「うわ出た」
今まで隠れていたムツキが出てきた。待っていて、と言ったはずだが……まぁ、ムツキなら大丈夫か
「何その反応〜」
「お前はアタシの言葉の裏捲ってくるから嫌いなんだよ」
「それならカヨコちゃんの方がもっと捲ってくるよ?」
「……お前”も”、アタシの言葉の裏を捲ってくるから嫌いなんだよ」
「ふ〜〜〜ん……ところでさ、さっきのってどういうこと〜?」
「……あ?それはー、えーー……」
「あ、あとさっき誰と電話してたの?」
「質問を重ねてくんなよ」
会話が一向に進まなかったらこちらから切り出そうとしたが、どうやらムツキも先程の電話について気になっていたようだ
「………こっちの話だよ。お前らにゃ関係のねぇことだ」
バケツは、やや乱暴に話を終わらせた
面倒だと思ったのか、それとも話す時間も惜しいのか
よくは、分からなかった
「アタシゃもう行くぜ、じゃあな」
「えー?どこに行くのー?」
「言うわけねぇだろうがよ!えっと………カ、カヨ…お前も、じゃあな」
「…うん………アンタに隠したい人間が居るってことが分かったからいいよ」
「…チッ、これだからインテリ野郎と話すはイヤなんだよ」
「…野郎じゃないんだけど」
「るせぇなァ!?」
……なんだか、締まらないな
戦闘描写って難しいですね(白目)
※そういえば、評価を付ける際に「10文字記入」みたいなものを設けると、10文字以上書かなきゃ評価つけられないという制限があることに今更気づいたので外しました。「読者様からの言葉が聞けたらいいな〜((o(´∀`)o))ワクワク」程度のクッソ軽い気持ちで設けた自分を少し殴りに行きたいです
・バケツ
4種の銃を巧みに扱い、敵を翻弄し、そして狩るという、独特の戦法をしている彼女は、超越じみた先読みができるため、裏では「未来が見えているのでは」と囁かれている
ただ、その代わりなのか、バケツは記憶力に乏しく、依頼の内容さえも忘れることがあるが、これについてはあまり知られていない
そんな彼女が、一度たりとも忘れたことがないのは、彼女が慕う大人ただひとりだけである