───ブラックマーケット、某所にて
「それで、何か言い訳はあるか?」
「お前、依頼の上なら何しても良いっつったよな?」
「原作に関わらなきゃ良いって言ったんだよ」
「あのナントカカントカ団が原作に関わるとか知らねぇよ」
バケツはムトンから説教を食らっていた
原作を知らないカラスからしたらたまったものじゃないだろうが……どこかで、助け舟を出すべきだろう
なぜ、こうなっているのか
それは、およそ2時間前に遡る……
阿慈谷ヒフミが先生達と接触し、そして同行を確認した後、私はムトンの指示によりシャーレに侵入し、盗聴器を仕掛た
スーパーメイドである私は、ものの1時間で渡された盗聴器の全てを仕掛け、そして迅速に拠点まで帰還しました
ここまでは良かった
……いや、良くなかった
私がシャーレに侵入していた1時間の間、ムトンは私に付きっきりで盗聴器を仕掛ける場所を考えてました
つまりは、ムトンは先生達から目を離していた
その間に
覆面水着団こと対策委員会と阿慈谷ヒフミは、銀行を襲撃。そこに、仕事を終えて歩いていたカラスことバケツは、襲撃にあった銀行員から依頼を受ける
自分からは動かないカラスは、依頼の上であったがため、覆面水着団を襲撃。覆面水着団は壊滅する手前になる
ここでムトンが原作の様子を確認して発狂する
そして、ムトンはカラスを呼び出して、今に至る…と…
「あ゙ぁ!?先生ってのは生徒の犯罪を止めねぇ野郎なのかァ!!?」
「そうだ……そうなんだよ…!!」
「おかしいだろうがァ!!!そんなヤツが先生名乗ってんじゃねぇえ!!!」
……まぁ、カラスの言い分も分からないでもない
しかしこれから先、この大人は生徒の犯罪を止めないどころか、足を舐めたり、混浴したり、ペットプレイをしたり、踏まれたり、押し倒されたり……と、一部は銀行強盗が霞むレベルの問題行動もしてくるのだ。一線を越えていないだけマシと言うべきか………いや、逆に言えば、一線を越える以外はしたとも言うか……
先生の姿か?これが…
なんだか、頭が痛くなってきた
今は記憶にしか存在しない故郷の法律が、これ以上なく恋しくなった
ムトンもどうやら私と同じようで、頭を押さえていた
カラスも、バケツの上から頭を押さえていた
……そりゃあ、押さえたくもなるだろう
私達は揃って頭を押さえていた
「……とりあえず、カラスはここに謹慎な」
「…あ゙ァ!?冗談じゃねェ!!」
「当たり前だろうが!!謹慎中にその頭に原作を叩き込んでやるから覚悟しておけ!!」
「アタシの記憶力が弱いことぐらい、お前だって分かってんだろうがァよォ!!?」
「だからこそだろうが!!」
いつになく荒れているムトンを見て、私はため息を吐く
…さて、そろそろ助け舟でも出してあげるか
カラスを擁護する理由を「原作を知らないから」以外に考えつつ、私はカラスの側まで歩いて寄った
*****
あれから
銀行から強盗した集金記録により、現金洗浄の真実を知った私達は、これからについて語り合っていた
”話は変わるんだけどさ、ホシノ”
「うん?どしたの先生」
”ホシノは、さっきの傭兵……バケツについて何か知ってるの?”
私はかねてよりの疑問をホシノに尋ねた
バケツを見てから、ホシノから元気が無くなった。そして、ヒフミがペロロを投げる直前、バケツを「カラスちゃん」と呼んだ
だからもしかしたら、ホシノはバケツについて何か知っていると思ったのだ
「……うん、知ってるよ」
目を伏せ気味に、答えた
その表情から、過去に彼女と何かがあったことがすぐに分かった
あまり、喋りたくないようだ
ホシノの心情を慮って、私はそこで話を切り上げようとした
「ホシノ先輩は知ってるの?バケツのことを」
しかし、シロコは話に興味を持ってしまったらしく、ホシノから聞き出そうとしている
自分から言い出したのだが、止めようかと思ったが、ホシノは自分から口を開いた
「……うん…バケツ───カラスちゃんは2年前、アビドスに遊びに来てた子だよ。戦うのが大好きで、いっつも私やヘルメット団に勝負を仕掛けてきたんだ」
「…そうなんだ」
懐かしむように、ホシノは言う
ヒフミはバケツ───いや、カラスを「生粋の戦闘狂」と言っていたが、この頃からだったのか。シロコはどうやら、同族の気配を感じていてるようで、ホシノの次の言葉を待っている
だが、次に口を開いたのはホシノではなかった
「……あれ、カラスって……」
「アヤネ?アヤネも何か知ってるの?」
「ほら、中1の時の……」
「?……あああああっ!!?アイツね!!」
アヤネの言葉でセリカは何かを思い出したようだった。まさか、ふたりも知っているのか
「えっと、ふたりはそのカラスちゃんと知り合いなんですか?」
「知り合いも何も同級生よ同級生!!」
「えぇ、鳥澤カラス…さんは、中学校でも一番の問題児でして……」
「そう!!中学校の生徒全員ぶちのめして!もっと強いヤツと戦いたいだとか言って中学校から出てってそれっきりだったヤツ!!」
「まさか、ここに来ていただなんて……」
セリカは怒りを顕わにし、アヤネは終始困ったように力なく笑っていた
ノノミやヒフミは中学校にいた時のカラスについて色々知りたいようで、ふたりから話を聞いていた
「ん…ってことは私の年下?」
”そう、なるかな?”
「………年下に、負けた…」
ボソリとシロコは呟く
16歳のシロコは、セリカ達の同級生ということから推定年齢が15歳のカラスに負けたという事実に悄気げているようだ。しかしすぐに、めげないシロコは次会った時に備えての対策を考えているようだった
先程の現金洗浄の真実を知った時とは打って変わって、この場の空気は大きく和んでいた
「………あの子も、居ればなぁ…」
ただ、ひとりを除いて
*****
───それは数日後の昼時
「……来たか、空崎ヒナ」
「いきなり呼び出して、何の用?」
ゲヘナの万魔殿、その執務室にふたりの人物がいた
片方は万魔殿の議長、羽沼マコト
もう片方は風紀委員会の委員長、空崎ヒナ
ヒナは、いつものイチャモンかと思いうんざりしたようにこの場に足を運んだが、しかし、久方ぶりに真剣な表情をするマコトを見て、只事では無いことを感じ取る
「あぁ、今日は風紀委員会の副委員長がトリニティの生徒と付き合っている情報について聞こうかと思っていたが、それ以上に聞きたいことができたのでな」
「ちょっと待ちなさい。何、その情報」
エデン条約を前にあのバカは何をしているのだろう、とヒナはマコトから情報を聞き出そうとしたが、マコトは聞く耳を持たず、本題を話し出す
「……お前は、シャーレの先生を知っているな?」
「………えぇ、連邦生徒会が立ち上げたとかいう超法規的機関、そこの顧問。その大人が、どうかしたの?」
「その大人が、バケツと遭遇したらくてな」
「………」
バケツ
戦禍の八咫、あるいは火種の運び屋
戦禍の金曜日事件の主犯のひとり
そんな災いの象徴たる傭兵に、先生が遭遇したとのことをマコトは伝え、そして、可能性を語る
「連邦捜査部、一種の超法規的機関。聞くに、キヴォトスに存在する生徒たちを、制限なく加入させることが可能で、各学園の自治区で、制約なしに戦闘活動を行うことも可能らしいな」
「……まさか」
「そう……もし、その先生という大人が、そのバケツをシャーレに加入させて、その戦力を私欲のために振るう大人であったら?」
「……最初から、それだけの権力はあるのに、わざわざ戦力を持とうとだなんて思うかしら」
「どうだろうな……ただ、保険として用意しておくことはあるだろう」
「………」
先生はそんなことをする大人では断じてないが、しかし、ふたりは先生を知らないため、そのような可能性を否定できない
「そこで……無いとは信じたいが、バケツがゲヘナに攻めてきた際の対策を講じておきたくてな」
「…なるほどね」
バタフライエフェクト
それは、とても小さな出来事から展開、あるいは結末が大きく変わること
ひとつの出来事から、物語は思いもよらぬ方向へと乖離し、歪んでいく
やがて、乖離は連鎖し、収拾が付かなくなってしまう
その果てに待つのは破綻か、あるいは─────
……まあ、つまり
カラスの行動により、原作は崩壊の一途を辿り始めていた……
新しく来た生徒は……長ズボン…だと…?……素晴らしい、それは私の性癖だ……
これは早急にお迎えしなければなら、な………何、緊急メンテだと…ッ!?(MADNESS)