背中から笛の生えた兵器   作:あいいろ ののめ

3 / 4
まいご

 

 

 仕留めたフォノヴォアを運んで訪れた港町の祭りで見つけたのは、1人の女の子だった。

 その少女は強引に掴まれた男の腕に噛み付き、男の手を振り切ると周囲に視線を走らせ偶然視線の合ったこちらへと走り出す。怒声を背に走る少女を中心に大通りに密集していた人混みが、怒る男を避けるように開けていく。

 少女はおあつらえ向きとばかりにわたし達の翼の後ろに隠れてしまったため、怒声を奏でる男の怒りは当然の如くわたし達に向けられた。

 

「ソティス、その子どもお願いッ!」

 

「任せなさい!」

 

 わたしは走る男を前に見据えると姿勢を低く、自身の片翼を身体の前に拡げた。

 そして反対の片翼は後ろで構え、一気に風を噴射することで飛び出す。一気に加速した翼は男をすくい上げるように弾き飛ばし、わたしは空中でその脚を掴んだ。

 

「っは、離せっ!!」

 

「あまり暴れると落ちるよ。反省してもうあの子どもに手出ししないって言うまで降ろしてあげないけど、どうする?」

 

「分かった分かった、もうやらない!だから降ろしてくれ!!高いとこニガテなんだ!!頼むっ!!!」

 

 そんなこと言うなら最初からやらなければいいのにと思ったけども。

 大通りに逆さまになった男を降ろすと、彼は周囲の一連の流れを見ていた人々に笑われながら一目散に逃げていった。それで事件はひと段落…だったら良かったのだけど。

 

「ソティス、その子ども…」

 

「うーん、どうやら迷子みたい。ねえ貴方、一緒に来たお母さんのこと教えてくれる?」

 

 白い髪の女の子はこちらを見上げると新鮮そうなネギの飛び出た鞄を両手で握り締め、わたしたちの顔を交互に見ながら話し始めた。

 

「えっと、ママ…ママはね。わたしと同じ白い髪色で、リボンのついたつばの広いキャペリンハットとワンピースを身に付けてるの。真っ白だからもし見つけたらすぐに分かると思うのだけど…」

 

「白い服と髪の女性…見た事ないかも。ソティスは見覚えある?」

 

「うーん、わたしも記憶に無いわね。仕方ない、街の海兵隊にでも引き渡しましょうか?」

 

「え……」

 

「まってソティス」

 

 わたしは女の子の手を引いて歩きだそうとするソティスを引き留め、こう言った。

 

「まだ遊園地が開くまで時間はあるよね? だったらわたし達でこの子のお母さんを探さない?」

 

「ロア正気?…ただでさえ街は広いのに、今日は祭りで人も集まってるのよ?」

 

「うん、だって(・・・)…」

 

「…?」

 

 わたしが一瞬だけ言葉を詰まらせた間に、ソティスが首を傾げる。

 だって、その言葉は間違いなくわたしの我儘だったから。だから子供じみた『だって』という言葉が不意に口をついて出たのだろうと思ったから。

 

「だって、何よ?」

 

「むかしから、わたしに両親は居なかったから。だから、この子がママと再会できるまで探さないと絶対に後悔する。

 それに…よく分からないけど、多分…この子が言うママはきっと、わたしにとっての風唄いの孤島のみんなと同じぐらい大切な人…だと思うから。」

 

 わたしが話すのを静かに聞き続けたソティスは、大きく溜め息を吐いてからこう言った。

 

「はあ〜ぁ…仕方無いわね。って言うかそんな事言われて断れると思う普通?」

 

「ふふ、ソティスは優しいね」

 

「その人の優しさにつけ込むアンタのその打算的なとこはどうかと思うわ」

 

「ごめんソティス、優しいって言ったのやっぱりウソだったかも。」

 

 そんな冗談を交わしつつ、迷子の女の子と一緒に街を巡りながら彼女のお母さんを探すことにした。

 

「貴女…お名前は?」

 

「えると言いますっ」

 

「エルちゃん、良い名前ね」

 

「えへへ、そうでしょう!わたしの名前は天使の名前だってママが教えてくれました♪」

 

「ソティスって意外に面倒見いいよね」

 

「は?…ロア、普段アンタの面倒見てるの誰だと思ってるのよ?」

 

「え…?」

 

「え……???」

 

 会話をしながら歩いて少ししたとき、ソティスは思いついたようにこう声を上げた。

 

「あ、この街の子なら家まで送り届けた方が早いかも。エルちゃんはどこから来たの?」

 

「えっと……ごめんなさい、すごく遠いところから船に乗って来たので解らないです。ママなら知ってるかも知れないけれど…」

 

「船? だとしたら尚さら早いとこ見つけなきゃ、もしかしたら船の出航時間に間に合わないかも…」

 

「あっ!!」

 

「え! ちょっと!?」

 

 わたしやソティスが辺りを見回す中、一番に声をあげたのはエルちゃんだった。

 ときに子どものバイタリティは凄いもので、ソティスを引っ張って走ったその子が立ち止まったのは、魚屋さんの前だった。

 

「エルちゃんどうしたの?」

 

「今日はママと美味しいお魚さんを買いに来たことを思い出しまして!もしかしたらママもこの近くにいるかも!」

 

「そう、向こうもこっちを探してくれてると良いんだけど…」

 

 しかし、不思議なのはエルちゃんの方だった。

 何故か彼女は魚屋さんに並んだ色んな種類の魚を眺めている。まるでその中にお母さんがいるかのような、変な感覚。

 

「エルちゃん、何か探しているの?」

 

「何をって、そりゃお母さ…」

 

「ソティス話聞いてた?…エルちゃんに話し掛けたんだよ?」

 

「な…ぁっ!〜っ!アンタねえ…!!」

 

 わたしは後ろで何か言ってるソティスは無視して、その子の言葉に耳を傾ける。

 

「お母さんが今日、もしかしたら見たことないぐらい大きなお魚さんが来るかもって…だから大きいお魚さんの場所にお母さんも居るかなぁって…」

 

「大きな魚って…」

「もしかしてフォノヴォアのこと?」

 

 ソティスとほとんど同時に行き着いた言葉を聞いてぱっとこちらを見上げた少女をみた瞬間、わたしたちの目指す場所はもう決まっていた―――

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。