よろず屋ステラ   作:かえるけろけろ

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第1話 よろず屋の仕事

「はーい、いらっしゃい。よろずやだよ。なんでも屋のよろずやさ」

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町はずれ。

大通りから一本外れた、寂れた商店街のいちばん端。

 

色褪せた看板には、こう書いてある。

 

よろずや――金さえもらえば、なんでもやります

 

看板の下には、小さくこうも書いてある。

 

(ロボット修理も、します。たぶん)

 

 

私の名はステラ。

 

このよろずやを営む、ハイブリッドの女店主――ということになっている。

 

周りには、そう言ってある。

 

ハイブリッドってのは、生まれつき体の一部が機械になっている人間のことさ。

 

「機械化度」って言葉があってね。

 

全身が生身ならゼロ。

全身が機械なら百。

 

生身と機械が混ざっていれば、その割合に応じて数字が上がっていく。

 

私の機械化度は?

 

そう訊かれたら、

 

「レディの秘密」

 

と笑ってごまかす。

 

本当のことを言えば――私はハイブリッドじゃない。

 

全身を機械に置き換えた機械化兵でもない。

 

工廠で組み上げられたアンドロイドでもない。

 

そのどれでもない。

 

その先の何か。

 

何なのかと訊かれても困る。

 

私にも、うまく言えないのだから。

 

ただ、ひとつだけ確かなことがある。

 

この体は、私のものだ。

 

それで十分だろう?

 

ふふん。

 

で、私の見た目の話だ。

 

腰まで伸びた銀の髪。

赤い目。

 

全体に華奢で、角がひとつもない。

 

顔は、我ながら――

 

驚くほど整っている。

 

……自慢じゃないよ。

 

事実さ。

 

人間の十五歳くらいの少女に見える。

 

……見えるというのが、大事なところだ。

 

私がこの町に流れてきたのは、十年前。

 

町はずれの古い工場跡に住み着いた。

 

それから十年。

 

私は――

 

変わらない。

 

十年前の町の記念写真がある。

 

写り込んでいる私を見てごらん。

 

髪の長さも。

顔も。

目の色も。

 

……今と、まったく同じさ。

 

だから、町の人たちは私のことを、こう呼ぶ。

 

吸血姫。

 

……決して本人の前では言わないけどね。

 

本人の前では、

 

ヨロちゃん。

 

よろずやのヨロちゃんさ。

 

愛想のいい呼び方だ。

 

私は、それがけっこう気に入っている。

 

さて。

 

そんな私には、ひとつだけ人に言えない――いや、言いふらして逆に引かれている趣味がある。

 

趣味人。

 

それが私の裏の顔さ。

 

何が趣味人かって?

 

暇さえあればロボットを作っているから。

 

ただのロボットじゃない。

 

人が乗ることを前提とした、大型二足歩行ロボット。

 

もうこの時点で頭がおかしいと言われる内容だ。

 

自分でも分かっている。

 

だって考えてみておくれよ。

 

二足歩行ってだけで、実用性が一気に落ちるんだ。

 

使い道は、ほぼ家庭用に限定される。

 

なんでかって?

 

一般家庭の移動経路ってのは、人間の行動域に合わせて作られているんだよ。

 

嘘だと思うんなら、家の中で両手をいっぱいに広げて歩いてみな。

 

通路は間違いなく、両手が壁に当たる。

 

扉はどうだ?

 

そういうことさ。

 

人間サイズで動くのに最適化されているから、家庭用もそれに合わせてある。

 

じゃあ企業ならどうかって?

 

企業の施設なら、通路も扉も広い。

 

だから二足歩行が――とはならないんだな、これが。

 

実際は、

 

ケンタウロスタイプ。

 

つまり、脚がキャタピラやタイヤになっているやつが主流さ。

 

段差も関節で静かに越えるし、安定性は段違い。

 

二足歩行の出る幕はない。

 

……そこまで分かっていて、なぜ私は二足歩行を作るのか。

 

趣味だから。

 

それ以上の理由があるかって話さ。

 

ふふん。

 

第二章 全高十五メートル、という狂気

そして私を「趣味人――頭おかしい」とまで言わしめた代物が、これだ。

 

全高、

 

十五メートル。

 

人が乗ることを前提とした、二足歩行の巨人。

 

試作だけで、もう四体になる。

 

四体とも、動かないなんて不完全な部分は一切ない。

 

歩く。

走る。

しゃがむ。

掴む。

 

基本動作は完璧だった。

 

問題は、ひとつだけ。

 

私以外、誰も乗れない。

 

まず、二足歩行は振動が凄まじい。

 

前後左右に、容赦なく振り回される。

 

歩いているうちはまだいい。

 

二、三歩なら、コクピットの緩衝装置でも耐えられるだろう。

 

でも、

 

走ったらもうダメだ。

 

一分も持たない。

 

生きていたら、めっけものってやつさ。

 

人間が耐えられる限界なんて、とっくに超えている。

 

乗れるのは、全身機械化した機械化度九十五%以上の者か、アンドロイド。

 

あるいは――

 

慣性中和装置を使えば、理論上は可能だ。

 

慣性中和装置。

 

大戦期の軍用機などに搭載されていた、古い技術だ。

 

こいつの仕事は、機体を軽くすることじゃない。

 

搭乗者に伝わる加速度や衝撃を抑えること。

 

つまり、人間を守るための装置だ。

 

もっとも、これだけで巨大ロボットの問題が全部解決するわけじゃない。

 

十五メートルの機体そのものが重い。

 

脚には、とんでもない荷重がかかる。

 

関節にも負担がかかる。

 

だから、機体側にも手を入れる必要がある。

 

そこで登場するのが、

 

反重力ユニット。

 

こちらは逆に、機体側の重量と接地荷重を軽減するためのもの。

 

慣性中和装置が、

 

「人間を守る」

 

なら、

 

反重力ユニットは、

 

「機体を扱いやすくする」

 

ためのものだ。

 

二つは別物。

 

役割も違う。

 

……まあ、どちらも今じゃ旧式だけどね。

 

現代の軍用機には、もっと高性能な装置が使われている。

 

わざわざ大戦期の骨董品を引っ張り出す必要なんて、本来ならない。

 

だから――

 

普通なら。

 

旧式装備を二つ積んだところで、最新鋭機に匹敵するような性能なんて出ない。

 

普通ならね。

 

私は?

 

「どちらでもないよ」

 

……え?

 

なんで私だけ乗れるのかって?

 

だから、教えないって言っただろう。

 

レディの秘密さ。

 

ふふん。

 

――ハイブリッドというのは、あくまで対外的な看板さ。

 

本当のところ、私という存在を一言で言い表せる言葉を、私はまだ知らないんだよ。

 

第三章 ライアン警部からのコール

何のために作っているのかって?

 

はっは。

 

それを聞くかい。

 

趣味としか言いようがない。

 

誰とも知れない所員の私物データの中にあった映像。

 

それを見て、思った。

 

「カッコいい」

 

巨大ロボットに乗って戦う話。

 

普通に考えたら、理不尽極まりないよな。

 

地面を走る巨大ロボットが、戦車を、航空機を、一方的に蹂躙する。

 

戦車の主砲も。

戦闘機のミサイルも。

 

まるで効かない。

 

あり得ないだろ?

 

けど私は――

 

カッコいい

 

と思ってしまった。

 

いつか私もロボットに乗りたい。

 

そう思ったのさ。

 

間違えないでおくれよ。

 

戦いたいとか、そういうんじゃない。

 

ただ、

 

カッコいい。

 

それだけだ。

 

……もちろん、ロボットばかり作っているわけじゃない。

 

お金を稼がないと、生きていけないからね。

 

普段は社名のとおり「よろず屋」。

 

金さえもらえば何でもやる。

 

最近は警察からの依頼で、賞金稼ぎの真似事が多い。

 

あいつら、金払いがいいからね。

 

と――

 

言っているそばから客だ。

 

卓上の端末が、けたたましく鳴る。

 

このコールサインは……

 

ライアン警部。

 

『悪いなステラ。来てくれないか』

 

「内容は?」

 

『違法改造された機械化トーチカだ。かなりの重装甲、重装備。うちの所轄のADは別件で出ていて、こちらには対抗手段がない』

 

「なるほど」

 

『金は二割増で払う。頼む』

 

私は二つ返事で了承した。

 

「ジーミー、聞いていたな。ちょっと行ってくるよ」

 

「はいよ、姉さん。気をつけて」

 

ジーミーは、うちの……まあ、弟みたいなもんだ。

 

返事はいつも素っ気ない。

 

私は上着を羽織ると、バイクにまたがり、現場へ向かった。

 

第四章 戦場と化した街角

指定された現場は、

 

戦場だった。

 

パトカーがあっちこっちでスクラップになっている。

 

こりゃあ、一般警察じゃどうにもならんわ。

 

どうやらヤクザの事務所に突入しようとして――

 

居たのか。

 

無駄に頑丈そうなビルが、ビル街の一角に鎮座している。

 

入口は正面のみ。

 

周囲は雑居ビルに囲まれている。

 

裏口には、すでに突入済み。

 

ああ、聞いた聞いた。

 

同時に突入したものの、正面はトーチカに阻まれた。

 

裏口から目的は達したものの、トーチカを入口から動かさないようにするので精一杯だった、と。

 

「奴は自動モードで動いているのか?」

 

「警官隊の突入を攻撃として自動迎撃。その後は無差別に、近づくものを攻撃……ってところか」

 

「闇市か何かで流れてきたやつを、そのまま使ったな?」

 

「実際に動き出したら、止めることもできなくなった……てところか」

 

「バカじゃない」

 

AI様が入っているなら、入念に検査と整備をしないとダメなんだよ。

 

それを、そのまま使うなんて。

 

馬鹿じゃねぇの。

 

ライアン警部はどこかと思ったら、向かいのビルにいた。

 

電話で聞く。

 

やっていいという。

 

承認印を送ってもらい、確認が取れたら――

 

「仕事しましょうか!」

 

人気のないところへ移動して、周囲を確認する。

 

そして、おもむろに服を脱ぎ、隠す。

 

「隠密モード、オン」

 

送ってもらった位置情報に従い、相手へ接近する。

 

「ああ! こりゃあ駄目だ! ライアン警部が割増を出すわけだ」

 

相手は、大戦中に基地防衛へ配置されていたやつだ。

 

それも、

 

最高級品。

 

普通に、安全に倒そうとするなら戦車が必要になる。

 

今どきの新人なら、相手が何か分からなかったんだろう。

 

警部は見ていないな。

 

見ていたら、私より軍に依頼するだろうからな。

 

代わりに、この辺は更地になるけど。

 

「うん。追加請求決定だね」

 

そうと決まれば、いったん後退して警部に映像を見せる。

 

「どうする?」

 

少し間を置いて、

 

「S級の三倍なら、手を打つけど?」

 

しばらく悩んだ後、承認印が送られてきた。

 

「よしよし。一年はこれで働かなくていい」

 

では、もう一度。

 

「隠密モード、オン」

 

無造作に機体へ近づく。

 

奴のばらまいたセンサーにも、マイクロ地雷にも引っかからない。

 

真横まで接近。

 

もはや触れるほど近くに来ても、奴のセンサーには引っかかっていない。

 

中枢は、ここからが一番近い。

 

おもむろに手を振りかぶる。

 

そして、

 

突き入れる。

 

その瞬時。

 

私の手は、音速の三十倍まで加速した。

 

トーチカの装甲を、一気に貫く。

 

音速の壁を破る衝撃音と、拳が装甲へ激突する音が混じり合い、凄まじい音が響き渡る。

 

トーチカは、戦車のレールガンに撃ち抜かれたように、こぶし大の穴を開けて沈黙した。

 

外側は綺麗なものだ。

 

だが内部は――

 

まあ、ぐちゃぐちゃだろう。

 

さて。

 

服を回収したら、警部に連絡して、ジーミーのおみやげでも買って帰ろうか♪

 

――ライアン警部は困惑していた。

 

一体どうやって破壊したのか。

 

サッパリ分からなかった。

 

散布されていたマイクロ地雷だけでも手に余る。

 

なのに、散布後が乱れた様子もない。

 

作動した形跡すらない。

 

やり口が、

 

サッパリ分からなかった。

 

 

第五章 廃材屋の掘り出し物

おみやげを買っての帰り道。

 

私は廃材屋に寄った。

 

そこの兄さんが、

 

「掘り出し物がある。見ないか」

 

と言うんで、見せてもらう。

 

「うん。掘り出し物だった」

 

なんと、

 

大戦中のZ27型戦闘機用・慣性中和装置。

 

しかも、

 

新品。

 

軍の倉庫で眠っていたものだそうだ。

 

「……これ、本物?」

 

「本物、本物。軍のデッドストック品だ」

 

慣性中和装置は、めちゃくちゃ高い。

 

大きな家が買えるくらいだよ。

 

安くすると言われても、今日の稼ぎをほぼ丸ごと持っていかれる。

 

「……この兄さん、警部と繋がっているんじゃないのかしら?」

 

「なんで俺が警部と繋がってるんだよ」

 

「だって、欲しい物を稼いだ直後に出してくるじゃない」

 

「偶然だよ、偶然」

 

「怪しい」

 

結局、買ってしまった。

 

明日、届けてくれるという。

 

「ジーミーにバレるの、嫌だなぁ」

 

まあ、バレるんだけどね。

 

第六章 人型戦車と、月光のダンス

翌日。

 

朝一でまた警部から連絡。

 

S級が出た。

 

ADはまた別件。

 

「どうなってるの、この町の治安は!」

 

ジーミーに出かけてくると言って、家を出る。

 

警部の位置情報を頼りに、バイクで現場近くまで行く。

 

すると――

 

警官隊の包囲の中。

 

人型戦車。

 

そう呼ばれる重装甲型の機械化兵が、道の真ん中で仁王立ちしていた。

 

うん?

 

いくつかのビルの屋上から、警官が奴を攻撃する準備をしている。

 

高速ミサイルが一つ。

 

高機動型のミサイルが三つ。

 

大口径の対物ライフルが二つ。

 

警部の動かせる重火器を、かき集めた感じかな?

 

うん?

 

これは……

 

様子見だねぇ。

 

失敗してから、金額を吊り上げたろ?

 

ふふん。

 

うん。

 

教科書通り。

 

高速ミサイルで奴の注意を引き、奴がどんな動きをしても追尾するミサイルで追い込み、止めは大口径の対物ライフルで釣瓶打ち。

 

なんだろうけど?

 

「ああ! 駄目か!」

 

先ずは煙幕で自身を隠す。

 

続けざまにマイクロミサイルで屋上の警官を攻撃。

 

対物ライフルの攻撃を阻止。

 

背中に背負った身代わりを射出。

 

ミサイルの前へ置く。

 

煙幕から出た直後のミサイルが、慣性だけで進んでいる瞬間を狙う。

 

かくして奴は、一歩も動かず。

 

警官隊の目論見は潰えた。

 

「ヨシ。警部に会いに行こう♪」

 

「けーいぶ、来たよ♪」

 

「お前は嬉しそうに来るな」

 

「だってねぇ! 賞金、上げて♪ もう打つ手ないでしょ?」

 

ニコリ。

 

「頼みのAD部隊は居ない」

 

ニコリ。

 

「軍に頼む?」

 

「時間がかかる上に、この辺、更地になっちゃう」

 

ニコリ。

 

「……うん」

 

「私に頼むしか、ないねぇ」

 

ニコリ。

 

「Sクラス、緊急性を考えて三割増しでどう?」

 

「高いわ!」

 

「え〜っ!」

 

警部と私の仲だし、負けてあげたのに〜ィ。

 

「二割! これ以上なら頼まん!」

 

警部が吠える。

 

「駄目なら、俺自ら警官隊を率いて特攻してやるわ!」

 

「そんなことしても、犬死だよ?」

 

「その時は、お前の枕元に全員で押しかけて、パーティーして眠れなくしてやるから覚悟しろよ!」

 

「はっはっは。ウケる」

 

仕方ない。

 

「警部と私の仲だし、受けてあげる♪」

 

さて。

 

「これ、預かっといて」

 

服を脱ぎ、下着だけになる。

 

高周波ソードを片手に、ビルの陰から出る。

 

姿を現す。

 

――奴の体に、ビクッと震えが見えた。

 

しめた。

 

私を知っている。

 

しかも、薬物をやっている兆候はない。

 

これ、大事。

 

この惨状。

 

一見、酷いことになっている。

 

だが、

 

誰も死んでいない。

 

派手なだけだ。

 

時間稼ぎをして、仲間が助けに来る?

 

無理。

 

逃亡手段?

 

それも無理。

 

じゃあ、自身は投降の流れが正解か?

 

だから派手なだけで、人的被害を最小限に留めている。

 

警部も分かっているな?

 

なら、私の役割は?

 

ここまでの考察を、0.1秒でまとめる。

 

私は歩みを進め、奴が許せるであろう、ぎりぎりの距離まで近づいた。

 

警官隊に見えないよう、奴の補助知覚へ通信を送り込む。

 

極小のレーザーによる通信。

 

探知されようがない。

 

私は問う。

 

投降の意思は?

 

条件を示せ。

 

長い。

 

どうして、こんな簡単な問いに、こんなに時間がかかる。

 

生体脳はこれだから、とか?

 

慣性中和装置どう取り付けよう、とか?

 

ジーミーの教育、どうしよう、とか。

 

脳内会議をしていると、実時間で十秒ちょっと。

 

なんか微妙に目が泳いでいる気がする。

 

レーザー通信、どこに当てていいのか悩んでいるな?

 

ふふん。

 

私は送る。

 

お前たち下等生物とは違うのだよ?

下着以外、どこでもよいから、バレないようにしろ。

 

すると返ってきた。

 

後五分で契約完了。

 

五分だけ見逃してほしい。

 

ふふん。

 

なら、しばらくダンスの相手をしてもらおう。

 

「君は殺す気できたまえ。本気でないと、バレるよ」

 

……実際には、警部にバレているけどね。

 

お前を生かした時点で、確定だけどな!

 

五分後。

 

奴の首筋に足を回す。

 

肩車のような形になり、腕を振りかぶる。

 

――音声と通信。

 

両方から、

 

『助けてくれ』

 

と叫びが聞こえた。

 

「いやぁ、そんな本気で怯えないでよ。心外だなぁ!」

 

到着から十五分。

 

よい稼ぎ♪

 

今日は真っ直ぐ帰ろう。

 

廃材屋に寄ると、今日の稼ぎもむしり取られそうな気がするから。

 

「けーいぶ、服返して♪」

 

警部の横にいるの、新人かな?

 

ビビりまくっている。

 

ウフフ。

 

おどかしてやろうか?

 

ちょっと近づいて、正面に立つ。

 

片足を地面に踏み抜いた。

 

――ドぉン!

 

……あっ。

 

力を込めすぎた。

 

地面が陥没する。

 

一瞬で状況を確認。

 

けが人、なし。

 

言い訳、どうしようか。

 

そう考えていると――

 

現実世界では、驚愕へ変わっていく新人の顔。

 

しかめっ面へ変わりゆく警部の顔。

 

私は、そのスローな時間の変化を楽しんだ。

 

そして彼らの時間に合わせて、

 

彼らが望む反応をする。

 

「……ごめん♪」

 

第七章 反重力ユニットと、爽やかな笑顔

家に帰ると、ちょうど廃材屋が届けに来てくれていた。

 

挨拶をすると、ニヤリと笑う。

 

「在庫を見ていたら、姐さんが喜びそうなものを見つけたんだ。見てみないか?」

 

「……お前、やっぱり警部と繋がっていないか?」

 

「だから、なんでだよ」

 

見ると――

 

戦車用の反重力ユニット。

 

しかも、

 

大戦中のデッドストック。

 

私は固まった。

 

「……」

 

「どうだ?」

 

「……ほ、欲しい!」

 

頭の中では、実時間換算で一時間は会議しただろうか。

 

だが、顔には出さない。

 

無表情。

 

「反重力ユニットか。ふ〜ん」

 

いかにも関心がなさそうに振る舞う。

 

「値段は?」

 

「そう来なくっちゃ!」

 

「……やっぱり、お前、警部と繋がっていないか?」

 

キッチリ。

 

今日の働き分を請求しやがった。

 

すったもんだの値引き交渉の末――

 

警部から手に入れた金の、

 

割増分を除いたほぼ全部。

 

持っていかれた。

 

嬉しいやら。

 

悔しいやら。

 

複雑な心情を見越してか?

 

廃材屋の兄さんは、

 

爽やかな笑顔

 

で挨拶して帰りやがった。

 

……まあ、いいさ。

 

今日の収穫は、

 

反重力ユニット。

 

昨日の慣性中和装置と合わせれば――

 

五体目の試作機。

 

いよいよ、本格的に組み上げられる。

 

機体の重量を抑える。

 

脚部への負担を減らす。

 

そして、搭乗者へ伝わる衝撃を抑える。

 

旧式とはいえ、この二つを組み合わせれば、理論上は十五メートル級の機体を人間が操縦できるところまで持っていける。

 

……理論上はね。

 

問題は、

 

どこまで動くか。

 

軍の人たちなら、きっとこう言うだろう。

 

「旧式装備の組み合わせで、そこまで性能が出るわけがない」

 

うん。

 

私もそう思う。

 

だから、

 

やってみるのさ。

 

そしたら、いつか。

 

いつか、あの日に見た、

 

カッコいいやつを。

 

私は町はずれのよろずや。

 

趣味人――頭おかしい――のステラさ。

 

今日も元気に、ロボットを組み立てている。

 

そして、そのうち誰かが気づくだろう。

 

なぜ旧式の軍用装備で、ここまでの性能が出るのか。

 

なぜ私は、この機体を平然と動かせるのか。

 

なぜ十年前から、姿が変わらないのか。

 

そして――

 

私は、一体何なのか。

 

……まあ。

 

今はそんなこと、どうでもいい。

 

だって、

 

ロボットは、

 

カッコいいからね。

 

ふふん♪

 

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