よろず屋ステラ   作:かえるけろけろ

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第1話 よろず屋の仕事

「はーい、いらっしゃい。よろずやだよ。なんでも屋のよろずやさ」

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よろずやステラ

――趣味人、今日も町はずれで巨大ロボットを組み立てる――

 

第一章 よろずやの看板娘(という名の変人)

「はーい、いらっしゃい。よろずやだよ。なんでも屋のよろずやさ」

 

町はずれ。

大通りから一本外れた、寂れた商店街のいちばん端。

 

色褪せた看板には、こう書いてある。

 

よろずや――金さえもらえば、なんでもやります

 

看板の下には、小さくこうも書いてある。

 

(ロボット修理も、します。たぶん)

 

私の名はステラ。

 

このよろずやを営む、ハイブリッドの女店主――ということになっている。

 

周りには、そう言ってある。

 

ハイブリッドってのは、生まれつき体の一部が機械になっている人間のことさ。

 

「機械化度」って言葉があってね。

 

全身が生身ならゼロ。

全身が機械なら百。

 

生身と機械が混ざっていれば、その割合に応じて数字が上がっていく。

 

私の機械化度は?

 

そう訊かれたら、

 

「レディの秘密」

 

と笑ってごまかす。

 

本当のことを言えば――私はハイブリッドじゃない。

 

全身を機械に置き換えた機械化兵でもない。

 

工廠で組み上げられたアンドロイドでもない。

 

そのどれでもない。

 

その先の何か。

 

何なのかと訊かれても困る。

 

私にも、うまく言えないのだから。

 

ただ、ひとつだけ確かなことがある。

 

この体は、私のものだ。

 

それで十分だろう?

 

ふふん。

 

で、私の見た目の話だ。

 

腰まで伸びた銀の髪。

赤い目。

 

全体に華奢で、角がひとつもない。

 

顔は、我ながら――

 

驚くほど整っている。

 

……自慢じゃないよ。

 

事実さ。

 

人間の十歳くらいの少女に見える。

 

……見えるというのが、大事なところだ。

 

私がこの町に流れてきたのは、十年前。

 

町はずれの古い工場跡に住み着いた。

 

それから十年。

 

私は――

 

変わらない。

 

十年前の町の記念写真がある。

 

写り込んでいる私を見てごらん。

 

髪の長さも。

顔も。

目の色も。

 

……今と、まったく同じさ。

 

だから、町の人たちは私のことを、こう呼ぶ。

 

吸血姫。

 

……決して本人の前では言わないけどね。

 

本人の前では、

 

ヨロちゃん。

 

よろずやのヨロちゃんさ。

 

愛想のいい呼び方だ。

 

私は、それがけっこう気に入っている。

 

さて。

 

そんな私には、ひとつだけ人に言えない――いや、言いふらして逆に引かれている趣味がある。

 

趣味人。

 

それが私の裏の顔さ。

 

何が趣味人かって?

 

暇さえあればロボットを作っているから。

 

ただのロボットじゃない。

 

人が乗ることを前提とした、大型二足歩行ロボット。

 

もうこの時点で頭がおかしいと言われる内容だ。

 

自分でも分かっている。

 

だって考えてみておくれよ。

 

二足歩行ってだけで、実用性が一気に落ちるんだ。

 

使い道は、ほぼ家庭用に限定される。

 

なんでかって?

 

一般家庭の移動経路ってのは、人間の行動域に合わせて作られているんだよ。

 

嘘だと思うんなら、家の中で両手をいっぱいに広げて歩いてみな。

 

通路は間違いなく、両手が壁に当たる。

 

扉はどうだ?

 

そういうことさ。

 

人間サイズで動くのに最適化されているから、家庭用もそれに合わせてある。

 

じゃあ企業ならどうかって?

 

企業の施設なら、通路も扉も広い。

 

だから二足歩行が――とはならないんだな、これが。

 

実際は、

 

ケンタウロスタイプ。

 

つまり、脚がキャタピラやタイヤになっているやつが主流さ。

 

段差も関節で静かに越えるし、安定性は段違い。

 

二足歩行の出る幕はない。

 

……そこまで分かっていて、なぜ私は二足歩行を作るのか。

 

趣味だから。

 

それ以上の理由があるかって話さ。

 

ふふん。

 

第二章 全高十五メートル、という狂気

そして私を「趣味人――頭おかしい」とまで言わしめた代物が、これだ。

 

全高、

 

十五メートル。

 

人が乗ることを前提とした、二足歩行の巨人。

 

試作だけで、もう四体になる。

 

四体とも、動かないなんて不完全な部分は一切ない。

 

歩く。

走る。

しゃがむ。

掴む。

 

基本動作は完璧だった。

 

問題は、ひとつだけ。

 

私以外、誰も乗れない。

 

まず、二足歩行は振動が凄まじい。

 

前後左右に、容赦なく振り回される。

 

歩いているうちはまだいい。

 

二、三歩なら、コクピットの緩衝装置でも耐えられるだろう。

 

でも、

 

走ったらもうダメだ。

 

一分も持たない。

 

生きていたら、めっけものってやつさ。

 

人間が耐えられる限界なんて、とっくに超えている。

 

乗れるのは、全身機械化した機械化度九十五%以上の者か、アンドロイド。

 

あるいは――

 

慣性中和装置を使えば、理論上は可能だ。

 

慣性中和装置。

 

大戦期の軍用機などに搭載されていた、古い技術だ。

 

こいつの仕事は、機体を軽くすることじゃない。

 

搭乗者に伝わる加速度や衝撃を抑えること。

 

つまり、人間を守るための装置だ。

 

もっとも、これだけで巨大ロボットの問題が全部解決するわけじゃない。

 

十五メートルの機体そのものが重い。

 

脚には、とんでもない荷重がかかる。

 

関節にも負担がかかる。

 

だから、機体側にも手を入れる必要がある。

 

そこで登場するのが、

 

反重力ユニット。

 

こちらは逆に、機体側の重量と接地荷重を軽減するためのもの。

 

慣性中和装置が、

 

「人間を守る」

 

なら、

 

反重力ユニットは、

 

「機体を扱いやすくする」

 

ためのものだ。

 

二つは別物。

 

役割も違う。

 

……まあ、どちらも今じゃ旧式だけどね。

 

現代の軍用機には、もっと高性能な装置が使われている。

 

わざわざ大戦期の骨董品を引っ張り出す必要なんて、本来ならない。

 

だから――

 

普通なら。

 

旧式装備を二つ積んだところで、最新鋭機に匹敵するような性能なんて出ない。

 

普通ならね。

 

私は?

 

「どちらでもないよ」

 

……え?

 

なんで私だけ乗れるのかって?

 

だから、教えないって言っただろう。

 

レディの秘密さ。

 

ふふん。

 

――ハイブリッドというのは、あくまで対外的な看板さ。

 

本当のところ、私という存在を一言で言い表せる言葉を、私はまだ知らないんだよ。

 

第三章 ライアン警部からのコール

何のために作っているのかって?

 

はっは。

 

それを聞くかい。

 

趣味としか言いようがない。

 

誰とも知れない所員の私物データの中にあった映像。

 

それを見て、思った。

 

「カッコいい」

 

巨大ロボットに乗って戦う話。

 

普通に考えたら、理不尽極まりないよな。

 

地面を走る巨大ロボットが、戦車を、航空機を、一方的に蹂躙する。

 

戦車の主砲も。

戦闘機のミサイルも。

 

まるで効かない。

 

あり得ないだろ?

 

けど私は――

 

カッコいい

 

と思ってしまった。

 

いつか私もロボットに乗りたい。

 

そう思ったのさ。

 

間違えないでおくれよ。

 

戦いたいとか、そういうんじゃない。

 

ただ、

 

カッコいい。

 

それだけだ。

 

……もちろん、ロボットばかり作っているわけじゃない。

 

お金を稼がないと、生きていけないからね。

 

普段は社名のとおり「よろず屋」。

 

金さえもらえば何でもやる。

 

最近は警察からの依頼で、賞金稼ぎの真似事が多い。

 

あいつら、金払いがいいからね。

 

と――

 

言っているそばから客だ。

 

卓上の端末が、けたたましく鳴る。

 

このコールサインは……

 

ライアン警部。

 

『悪いなステラ。来てくれないか』

 

「内容は?」

 

『違法改造された機械化トーチカだ。かなりの重装甲、重装備。うちの所轄のADは別件で出ていて、こちらには対抗手段がない』

 

「なるほど」

 

『金は二割増で払う。頼む』

 

私は二つ返事で了承した。

 

「ジーミー、聞いていたな。ちょっと行ってくるよ」

 

「はいよ、姉さん。気をつけて」

 

ジーミーは、うちの……まあ、弟みたいなもんだ。

 

返事はいつも素っ気ない。

 

私は上着を羽織ると、バイクにまたがり、現場へ向かった。

 

第四章 戦場と化した街角

指定された現場は、戦場だった。

 

パトカーが、あちらこちらでスクラップになっている。

 

車体はひしゃげ、窓ガラスは砕け散り、道路には破片が散乱していた。建物の壁には無数の弾痕が刻まれ、路面には何かが爆発したような痕跡まで残っている。

 

こりゃあ、一般警察じゃどうにもならんわ。

 

どうやら、ヤクザの事務所に突入しようとして――。

 

「……居たのか」

 

無駄に頑丈そうなビルが、ビル街の一角に鎮座していた。

 

周囲を雑居ビルに囲まれた、窓の少ない建物。正面玄関は一つだけ。裏口には、すでに警官隊が突入しているらしい。

 

ああ、聞いた聞いた。

 

正面と裏口から同時に突入したものの、正面側はトーチカに阻まれた。裏口からは目的を達成できたものの、トーチカが入口から動き出さないようにするだけで精一杯だった、と。

 

なるほどね。

 

「奴は自動モードで動いているのか?」

 

近くにいた警官に尋ねる。

 

「警官隊の突入を攻撃と判断して自動迎撃。その後は、近づくものを無差別に攻撃しているようです」

 

「闇市か何かで流れてきたやつを、そのまま使ったな?」

 

「おそらく……。実際に動き出したら、止めることもできなくなった、という話です」

 

「バカじゃない」

 

思わず口に出た。

 

AI様が入っているなら、入念に検査と整備をしないとダメなんだよ。

 

ましてや、軍用の自律戦闘兵器だ。

 

どんな識別機能を持っているのか。どこまでが攻撃対象なのか。どうすれば安全に停止させられるのか。

 

それを確認もせず、闇市で手に入れたものを、そのまま実戦投入するなんて。

 

馬鹿じゃねぇの。

 

まあ、使う側にしてみれば、軍用兵器を手に入れたというだけで舞い上がったのかもしれないけどね。

 

おかげで、こっちは余計な仕事を押しつけられたわけだ。

 

ライアン警部はどこかと思ったら、向かいのビルにいた。

 

なるほど。現場を直接見渡せる場所に陣取っているらしい。

 

電話をかける。

 

『どうだ?』

 

「どうだも何も、ひどい有様だね。あれ、軍用の機械化トーチカでしょ?」

 

『そうらしいな』

 

「そうらしいな、じゃないよ。あれ、普通の警察でどうにかできる代物じゃないよ?」

 

『だから君を呼んだんだ』

 

「ふうん。まあ、いいけど」

 

承認印を送ってもらい、依頼内容と報酬の確認を済ませる。

 

よし。これで正式な仕事だ。

 

「じゃ、仕事しましょうか!」

 

私は人気のない場所へ移動した。

 

周囲を確認し、人目がないことを確かめる。それから、おもむろに服を脱いで、見つからないように隠した。

 

「隠密モード、オン」

 

身体が、ふわりと浮き上がる。

 

地面から、およそ十センチ。

 

そのまま、何事もなかったかのように移動を始めた。

 

送ってもらった位置情報に従い、目標へ接近する。

 

「……ああ! こりゃあ駄目だ!」

 

機械化トーチカの姿を確認して、私は思わず声を上げた。

 

「ライアン警部が割増を出すわけだ」

 

あれは、大戦中に基地防衛用として配置されていた機体だ。

 

それも、最高級品。

 

機械化トーチカというのは、簡単に言えば、トーチカに短い足を六本つけて、任意の場所へ移動できるようにしたものだ。

 

戦車との違いは、移動能力が最低限しかないこと。

 

高速で走り回ることはできないし、長距離を移動するための兵器でもない。基本的には、設置した場所を防衛するためのものだ。

 

ただし、足があるおかげで、地形に合わせて位置を調整できるし、必要なら別の場所へ移動することもできる。

 

武装は機体の大きさや用途によって異なる。

 

そして、こいつは――。

 

「対人特化型かぁ」

 

全周回転式のレーザーガン。

 

接近する敵を迎撃するための各種センサー。

 

さらに、周囲へ散布されたマイクロ対人地雷。

 

基地防衛用としては、実に合理的な装備構成だ。

 

接近すれば地雷があり、地雷を避ければセンサーに探知され、探知されれば全周旋回式のレーザーガンが襲いかかる。

 

しかも、相手は自動迎撃モード。

 

敵味方識別が正常に働いていないなら、近づくものすべてが攻撃対象だろう。

 

普通に、安全を確保しながら倒そうとするなら、戦車を持ち出す必要がある。

 

いや、戦車を持ち出したところで、周辺の建物ごと吹き飛ばすような戦闘になりかねない。

 

今どきの新人なら、相手が何なのか分からなかったんだろうね。

 

ライアン警部も、詳しいところまでは把握していないらしい。

 

……いや、警部は見ていないな。

 

もし、この機体の正体を知っていたら、私に依頼する前に軍へ相談しただろう。

 

軍なら、正面から火力を叩き込んで破壊することもできる。

 

その代わり、この辺りは更地になるだろうけど。

 

「うん。追加請求決定だね」

 

私はいったん後退した。

 

それからライアン警部へ連絡し、現場で撮影した映像を送る。

 

『……これは』

 

「ね? 普通の仕事じゃないでしょ?」

 

『機械化トーチカか。しかも、かなり古い型だな』

 

「古いって言っても、大戦中の基地防衛用だよ。装甲も武装も、対人戦闘を想定したものとしては最高級。安全に処理しようと思ったら、結構な手間がかかるね」

 

『どれくらいだ?』

 

「S級の三倍なら、手を打つけど?」

 

電話の向こうで、しばらく沈黙が続いた。

 

そりゃあ悩むよね。

 

最初の見積もりから三倍だもの。

 

でも、安く引き受けて、こっちが危険を冒したり、周囲の建物を壊したりする理由はない。

 

私はのんびり返事を待った。

 

やがて、承認印が送られてきた。

 

「よしよし。一年はこれで働かなくていい」

 

これで当分、好きなことをして暮らせる。

 

では、もう一度。

 

「隠密モード、オン」

 

私は機械化トーチカへ向かった。

 

機体の周囲には、警戒用のセンサーが張り巡らされている。

 

地面には、マイクロ対人地雷。

 

一歩間違えれば、地雷が作動する。センサーに見つかれば、レーザーガンがこちらを向く。

 

本来なら、そうなるはずだった。

 

けれど。

 

私の身体は、地面から十センチほど浮いたままだった。

 

足は地面に触れない。

 

散布されたマイクロ地雷と、直接接触することはない。

 

もっとも、それだけなら、地雷を避けているだけにすぎない。

 

本当に問題なのは、こちらだ。

 

隠密モードが作動している限り、機械化トーチカのセンサーは私を感知できない。

 

光学センサーにも、熱源探知にも、その他の探知装置にも。

 

私がそこにいるという事実そのものが、相手の認識に引っかからない。

 

私は、何事もなかったかのように進んでいった。

 

トーチカの脚の間を抜け、機体の側面へ回り込む。

 

全周回転式のレーザーガンは、別の方向を向いたまま。

 

警戒用センサーにも、異常はない。

 

地雷も作動しない。

 

そもそも、敵が近づいているという認識すらないのだから、当然だ。

 

私は機体の真横まで接近した。

 

手を伸ばせば、触れられる距離。

 

それでも、トーチカは反応しなかった。

 

「ふむふむ。中枢は……ここかな」

 

装甲の構造を確認する。

 

この手の兵器は、外装を多少傷つけたところで止まらない。脚部や武装を破壊して動きを封じても、内部の制御装置が生きていれば、攻撃を続ける可能性がある。

 

確実に止めるなら、中枢を一撃で破壊するのが手っ取り早い。

 

私は、拳を握った。

 

「さて、と」

 

おもむろに腕を引き、拳を振りかぶる。

 

その瞬間、私の身体を覆うように、力場が展開された。

 

周囲の空気も、地面も、建物も。

 

私の身体が生み出す加速の影響を受けないよう、力場が作用する。

 

拳が加速を始める。

 

一瞬で、音速を超える。

 

さらに加速。

 

音速の十倍。

 

二十倍。

 

そして――音速の三十倍。

 

通常なら、これほどの速度で物体を動かせば、空気との激しい相互作用によって衝撃波が発生し、周囲に甚大な被害をもたらす。

 

しかし、力場はそれらの影響を周囲へ伝えない。

 

空気が吹き飛ぶこともない。

 

地面が砕けることもない。

 

衝撃波が街を駆け抜けることもない。

 

拳に与えられた加速は、対象へ向かう力として制御されていた。

 

そして。

 

拳が、装甲へ突き入れられた。

 

轟音が響いた。

 

それは、抑え込まれた力が一点に集中し、装甲へと叩きつけられた音だった。

 

分厚い装甲が、まるで紙細工のように貫かれる。

 

拳は装甲を突き抜け、その奥にある機器を破壊し、機体の中枢を一瞬で粉砕した。

 

トーチカは、戦車のレールガンに撃ち抜かれたかのように、こぶし大の穴を開けて沈黙した。

 

脚部の動きが止まる。

 

レーザーガンの旋回が止まる。

 

内部の駆動音が消える。

 

それで、おしまい。

 

「はい、終了!」

 

私は拳を引き抜いた。

 

外側から見れば、装甲に小さな穴が一つ開いただけ。

 

派手な爆発もない。

 

周囲の建物にも、路面にも、目立った損傷はない。

 

けれど、内部は――。

 

まあ、ぐちゃぐちゃだろうね。

 

中枢を貫かれた機械化トーチカが、再び動き出すことはない。

 

私は機体を軽く見回し、仕事が終わったことを確認した。

 

「さて。服を回収したら、警部に連絡して、ジーミーのおみやげでも買って帰ろうか♪」

 

一年は働かなくていいくらいの報酬が入るのだ。

 

せっかくだから、何かおいしいものでも買って帰ろう。

 

ジーミー、喜ぶかな?

 

そんなことを考えながら、私は来た道を戻っていった。

 

地雷は、一つも作動していない。

 

センサーにも、異常な反応は残っていない。

 

機械化トーチカは、ただ静かに停止していた。

 

まるで、最初から何も起きなかったかのように。

 

* * *

 

――ライアン警部は、困惑していた。

 

「……どういうことだ?」

 

目の前には、沈黙した機械化トーチカがある。

 

装甲には、こぶし大の穴が一つ。

 

それ以外に、目立った損傷はない。

 

爆発した様子もない。

 

砲撃を受けた形跡もない。

 

周囲の建物にも、大きな被害は見当たらなかった。

 

「地雷は?」

 

「散布された状態のままです。爆発した形跡はありません」

 

「センサーの記録は?」

 

「異常なしです。警官隊の突入以降、周囲の警戒記録に不自然な変化はありません」

 

「……何だと?」

 

ライアン警部は、もう一度、現場の映像を確認した。

 

警官隊が正面から突入する。

 

トーチカが迎撃する。

 

警官隊は撤退を余儀なくされ、裏口から突入した部隊が内部の制圧を進める。

 

そこまでは、記録に残っている。

 

だが、ステラが現場に到着してからの記録には、何もなかった。

 

いや、正確には、何も起きていないようにしか見えなかった。

 

センサーに反応はない。

 

地雷も作動していない。

 

トーチカは、誰にも接近されていないはずだった。

 

なのに、気づけば破壊されている。

 

「……どうやって壊した?」

 

誰に尋ねるでもなく、警部はつぶやいた。

 

分厚い装甲を貫通するなら、それなりの火力が必要になる。

 

しかし、砲撃の痕跡はない。

 

爆発物を使った様子もない。

 

何より、あの穴だ。

 

あまりにも小さい。

 

まるで、装甲の一点だけを狙い、そこにすべての破壊力を集中させたかのようだった。

 

だが、そんなことが可能なのか。

 

仮に可能だとしても、どうやって接近した?

 

あれだけの地雷とセンサーを突破して、どうして一度も検知されなかった?

 

そもそも、ステラはどこから侵入したのだ?

 

「……分からん」

 

ライアン警部は、深く息を吐いた。

 

これまでにも、ステラが異常な能力を持っていることは知っていた。

 

普通の人間にはできない仕事を、平然と片づける。

 

警察では手に負えない相手でも、彼女に依頼すれば解決することがある。

 

だが、それはあくまで結果を知っているというだけだ。

 

彼女が何をしているのか。

 

どんな方法で問題を解決しているのか。

 

それについては、分からないことのほうが多かった。

 

今回も、同じだった。

 

いや、これまで以上かもしれない。

 

「……報告書、どう書けばいいんだ?」

 

警部は頭を抱えた。

 

機械化トーチカは破壊された。

 

警官隊に負傷者は出たものの、これ以上の被害は防げた。

 

依頼は成功だ。

 

それは間違いない。

 

しかし、肝心の破壊方法が説明できない。

 

センサーに探知されず、地雷にも触れず、装甲を一撃で貫通した。

 

そんな報告書を提出したところで、誰が信じるだろうか。

 

「……ステラに聞くしかないか」

 

そうつぶやいた直後、携帯電話が鳴った。

 

画面には、依頼相手の名前。

 

『ライアン警部、お仕事完了♪』

 

あまりにも軽い声だった。

 

『……ああ。確認した。ご苦労だった』

 

『うん! じゃあ、追加報酬の確認もよろしくね♪』

 

『……分かった』

 

『それじゃ、私、ジーミーのおみやげを買いに行くから! またね♪』

 

通話が切れた。

 

ライアン警部は、しばらく携帯電話を見つめていた。

 

そして、改めて目の前の機械化トーチカへ視線を戻す。

 

大戦中、基地防衛用として設計された最高級の軍用兵器。

 

対人地雷、各種センサー、全周旋回式レーザーガン。

 

本来なら、正面から攻略するだけでも相当な犠牲を覚悟しなければならない代物だ。

 

それが、今はただの鉄塊になっている。

 

しかも、破壊した本人は、もう現場にいない。

 

お土産を買いに行ったのだ。

 

「……まったく」

 

警部は、深いため息をついた。

 

「本当に、何者なんだ……あの子は」

 

答えは、どこにもなかった。

 

第五章 廃材屋の掘り出し物

おみやげを買っての帰り道。

 

私は廃材屋に寄った。

 

そこの兄さんが、

 

「掘り出し物がある。見ないか」

 

と言うんで、見せてもらう。

 

「うん。掘り出し物だった」

 

なんと、

 

大戦中のZ27型戦闘機用・慣性中和装置。

 

しかも、

 

新品。

 

軍の倉庫で眠っていたものだそうだ。

 

「……これ、本物?」

 

「本物、本物。軍のデッドストック品だ」

 

慣性中和装置は、めちゃくちゃ高い。

 

大きな家が買えるくらいだよ。

 

安くすると言われても、今日の稼ぎをほぼ丸ごと持っていかれる。

 

「……この兄さん、警部と繋がっているんじゃないのかしら?」

 

「なんで俺が警部と繋がってるんだよ」

 

「だって、欲しい物を稼いだ直後に出してくるじゃない」

 

「偶然だよ、偶然」

 

「怪しい」

 

結局、買ってしまった。

 

明日、届けてくれるという。

 

「ジーミーにバレるの、嫌だなぁ」

 

まあ、バレるんだけどね。

 

第六章 人型戦車と、月光のダンス

翌日。

 

朝一でまた警部から連絡。

 

S級が出た。

 

ADはまた別件。

 

「どうなってるの、この町の治安は!」

 

ジーミーに出かけてくると言って、家を出る。

 

警部の位置情報を頼りに、バイクで現場近くまで行く。

 

すると――

 

警官隊の包囲の中。

 

人型戦車。

 

そう呼ばれる重装甲型の機械化兵が、道の真ん中で仁王立ちしていた。

 

うん?

 

いくつかのビルの屋上から、警官が奴を攻撃する準備をしている。

 

高速ミサイルが一つ。

 

高機動型のミサイルが三つ。

 

大口径の対物ライフルが二つ。

 

警部の動かせる重火器を、かき集めた感じかな?

 

うん?

 

これは……

 

様子見だねぇ。

 

失敗してから、金額を吊り上げたろ?

 

ふふん。

 

うん。

 

教科書通り。

 

高速ミサイルで奴の注意を引き、奴がどんな動きをしても追尾するミサイルで追い込み、止めは大口径の対物ライフルで釣瓶打ち。

 

なんだろうけど?

 

「ああ! 駄目か!」

 

先ずは煙幕で自身を隠す。

 

続けざまにマイクロミサイルで屋上の警官を攻撃。

 

対物ライフルの攻撃を阻止。

 

背中に背負った身代わりを射出。

 

ミサイルの前へ置く。

 

煙幕から出た直後のミサイルが、慣性だけで進んでいる瞬間を狙う。

 

かくして奴は、一歩も動かず。

 

警官隊の目論見は潰えた。

 

「ヨシ。警部に会いに行こう♪」

 

「けーいぶ、来たよ♪」

 

「お前は嬉しそうに来るな」

 

「だってねぇ! 賞金、上げて♪ もう打つ手ないでしょ?」

 

ニコリ。

 

「頼みのAD部隊は居ない」

 

ニコリ。

 

「軍に頼む?」

 

「時間がかかる上に、この辺、更地になっちゃう」

 

ニコリ。

 

「……うん」

 

「私に頼むしか、ないねぇ」

 

ニコリ。

 

「Sクラス、緊急性を考えて三割増しでどう?」

 

「高いわ!」

 

「え〜っ!」

 

警部と私の仲だし、負けてあげたのに〜ィ。

 

「二割! これ以上なら頼まん!」

 

警部が吠える。

 

「駄目なら、俺自ら警官隊を率いて特攻してやるわ!」

 

「そんなことしても、犬死だよ?」

 

「その時は、お前の枕元に全員で押しかけて、パーティーして眠れなくしてやるから覚悟しろよ!」

 

「はっはっは。ウケる」

 

仕方ない。

 

「警部と私の仲だし、受けてあげる♪」

 

さて。

 

「これ、預かっといて」

 

服を脱ぎ、下着だけになる。

 

私は基本警察の仕事の時は服を脱ぐ、装備も何もかも必要ないものは全て省く。

 

理由は簡単、人間が作った物は、私の動きについてこれないのさ。

 

それに、撃たれたり切られたりしても、私は大丈夫なんだけどね、服だって安くないんだよ。

 

だから、私はやるときは最低限の物しか身に付けない、お陰で痴女ステラなんて綽名も有るぐらいさ!

 

 

高周波ソードを片手に、ビルの陰から出る。

 

姿を現す。

 

――奴の体に、ビクッと震えが見えた。

 

しめた。

 

私を知っている。

 

しかも、薬物をやっている兆候はない。

 

これ、大事。

 

この惨状。

 

一見、酷いことになっている。

 

だが、

 

誰も死んでいない。

 

派手なだけだ。

 

時間稼ぎをして、仲間が助けに来る?

 

無理。

 

逃亡手段?

 

それも無理。

 

じゃあ、自身は投降の流れが正解か?

 

だから派手なだけで、人的被害を最小限に留めている。

 

警部も分かっているな?

 

なら、私の役割は?

 

ここまでの考察を、0.1秒でまとめる。

 

私は歩みを進め、奴が許せるであろう、ぎりぎりの距離まで近づいた。

 

警官隊に見えないよう、奴の補助知覚へ通信を送り込む。

 

極小のレーザーによる通信。

 

探知されようがない。

 

私は問う。

 

投降の意思は?

 

条件を示せ。

 

長い。

 

どうして、こんな簡単な問いに、こんなに時間がかかる。

 

生体脳はこれだから、とか?

 

慣性中和装置どう取り付けよう、とか?

 

ジーミーの教育、どうしよう、とか。

 

脳内会議をしていると、実時間で十秒ちょっと。

 

なんか微妙に目が泳いでいる気がする。

 

レーザー通信、どこに当てていいのか悩んでいるな?

 

ふふん。

 

私は送る。

 

お前たち下等生物とは違うのだよ?

下着以外、どこでもよいから、バレないようにしろ。

 

すると返ってきた。

 

後五分で契約完了。

 

五分だけ見逃してほしい。

 

ふふん。

 

なら、しばらくダンスの相手をしてもらおう。

 

「君は殺す気できたまえ。本気でないと、バレるよ」

 

……実際には、警部にバレているけどね。

 

お前を生かした時点で、確定だけどな!

 

五分後。

 

奴の首筋に足を回す。

 

肩車のような形になり、腕を振りかぶる。

 

――音声と通信。

 

両方から、

 

『助けてくれ』

 

と叫びが聞こえた。

 

「いやぁ、そんな本気で怯えないでよ。心外だなぁ!」

 

到着から十五分。

 

よい稼ぎ♪

 

今日は真っ直ぐ帰ろう。

 

廃材屋に寄ると、今日の稼ぎもむしり取られそうな気がするから。

 

「けーいぶ、服返して♪」

 

警部の横にいるの、新人かな?

 

ビビりまくっている。

 

ウフフ。

 

おどかしてやろうか?

 

ちょっと近づいて、正面に立つ。

 

片足を地面に踏み抜いた。

 

――ドぉン!

 

……あっ。

 

力を込めすぎた。

 

地面が陥没する。

 

一瞬で状況を確認。

 

けが人、なし。

 

言い訳、どうしようか。

 

そう考えていると――

 

現実世界では、驚愕へ変わっていく新人の顔。

 

しかめっ面へ変わりゆく警部の顔。

 

私は、そのスローな時間の変化を楽しんだ。

 

そして彼らの時間に合わせて、

 

彼らが望む反応をする。

 

「……ごめん♪」

 

第七章 反重力ユニットと、爽やかな笑顔

家に帰ると、ちょうど廃材屋が届けに来てくれていた。

 

挨拶をすると、ニヤリと笑う。

 

「在庫を見ていたら、姐さんが喜びそうなものを見つけたんだ。見てみないか?」

 

「……お前、やっぱり警部と繋がっていないか?」

 

「だから、なんでだよ」

 

見ると――

 

戦車用の反重力ユニット。

 

しかも、

 

大戦中のデッドストック。

 

私は固まった。

 

「……」

 

「どうだ?」

 

「……ほ、欲しい!」

 

頭の中では、実時間換算で一時間は会議しただろうか。

 

だが、顔には出さない。

 

無表情。

 

「反重力ユニットか。ふ〜ん」

 

いかにも関心がなさそうに振る舞う。

 

「値段は?」

 

「そう来なくっちゃ!」

 

「……やっぱり、お前、警部と繋がっていないか?」

 

キッチリ。

 

今日の働き分を請求しやがった。

 

すったもんだの値引き交渉の末――

 

警部から手に入れた金の、

 

割増分を除いたほぼ全部。

 

持っていかれた。

 

嬉しいやら。

 

悔しいやら。

 

複雑な心情を見越してか?

 

廃材屋の兄さんは、

 

爽やかな笑顔

 

で挨拶して帰りやがった。

 

……まあ、いいさ。

 

今日の収穫は、

 

反重力ユニット。

 

昨日の慣性中和装置と合わせれば――

 

五体目の試作機。

 

いよいよ、本格的に組み上げられる。

 

機体の重量を抑える。

 

脚部への負担を減らす。

 

そして、搭乗者へ伝わる衝撃を抑える。

 

旧式とはいえ、この二つを組み合わせれば、理論上は十五メートル級の機体を人間が操縦できるところまで持っていける。

 

……理論上はね。

 

問題は、

 

どこまで動くか。

 

軍の人たちなら、きっとこう言うだろう。

 

「旧式装備の組み合わせで、そこまで性能が出るわけがない」

 

うん。

 

私もそう思う。

 

だから、

 

やってみるのさ。

 

そしたら、いつか。

 

いつか、あの日に見た、

 

カッコいいやつを。

 

私は町はずれのよろずや。

 

趣味人――頭おかしい――のステラさ。

 

今日も元気に、ロボットを組み立てている。

 

そして、そのうち誰かが気づくだろう。

 

なぜ旧式の軍用装備で、ここまでの性能が出るのか。

 

なぜ私は、この機体を平然と動かせるのか。

 

なぜ十年前から、姿が変わらないのか。

 

そして――

 

私は、一体何なのか。

 

……まあ。

 

今はそんなこと、どうでもいい。

 

だって、

 

ロボットは、

 

カッコいいからね。

 

ふふん♪

 

おあとがよろしいようで。

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