よろず屋ステラ   作:かえるけろけろ

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電子要塞

。### 大富豪と吸血姫

 

軍は、ステラがお金を欲しがっていることを知っていた。

 

知っている。

 

などという生易しいものではない。

 

彼女が今までの依頼でいくら稼ぎ。

 

何にいくら使い。

 

現在いくら持っているのか。

 

ほぼ正確に把握している。

 

さらには――

 

ジーミーのアルバイト代まで。

 

「……金銭に関しては、対象は極めて分かりやすいですね」

 

研究員が資料をめくる。

 

「欲しい物がある」

 

「金がない」

 

「仕事を受ける」

 

「金が入る」

 

「使う」

 

「なくなる」

 

「また仕事を受ける」

 

「はい」

 

実に単純だった。

 

問題は。

 

「どうすれば、対象の癇に障らずに試験できるか」

 

そこだった。

 

ステラが怒った場合。

 

軍には対抗手段がない。

 

過去のデータからシミュレーションした結果は、すでに出ている。

 

対象が本気で敵対行動を取った場合――

 

軍事力による制圧は困難。

 

というより。

 

**不可能に近い。**

 

200ktの核の直撃に耐え、拳で戦車の装甲を叩き割る様な存在に対抗手段が有るはず無い。

 

そして、そのシミュレーションですら。

 

あくまで今まで確認された能力から推測したものだ。

 

ステラがまだ見せていない能力については、一切考慮されていない。

 

「つまり……」

 

研究員が言う。

 

「我々は、彼女の限界を知らない」

 

「はい」

 

「そして、彼女自身も我々が限界を知らないことを知っている」

 

誰も答えなかった。

 

それが一番厄介だった。

 

「研究班から要望が出ています」

 

別の研究員が画面を切り替える。

 

「電子戦能力の確認」

 

そこに映し出されたのは、過去の駐屯地事件の記録だった。

 

「そして、駐屯地で何が起きたのか。その検証」

 

「……」

 

「あの事件では、電子錠、監視装置、非常設備、通信設備。そのすべてに異常が発生したにもかかわらず、異常として認識したのは人間だけで異常を起こした機械類は正常値を示し、原因が特定できていません」

 

「ならば、もう一度やらせる」

 

「はい」

 

新しい計画が表示された。

 

一棟のビル。

 

内部は電子的に要塞化されている。

 

監視カメラ。

 

電子錠。

 

警報。

 

通信設備。

 

複数の監視系統。

 

独立した電源から供給される電源から動くセンサー類、記録装置。

さらに同様の処置を施した上に外部との通信制御手段すら物理的に無くした記録装置にセンサー群。

 

ステラがどの様な方法で干渉しようとも、何らかの記録が残るはずであるものだと研究班では思われていた。

 

 

 

そして。

 

「人質役は?」

 

「軍人です」

 

即答だった。

 

当然だった。

 

ステラが何をするか分からない。

 

そんな相手に、本物の民間人を人質役として差し出すなど論外だ。

 

軍人ならば。

 

最悪の場合にも対応できる。

 

ただし。

 

「警備役は?」

 

画面に複数の男たちが映し出された。

 

「町の破落戸です」

 

「……彼らを?」

 

「はい」

 

軍が雇った。

 

ただし、詳細は知らされていない。

 

「多少の負傷は問題ありません」

 

研究員が淡々と言う。

 

「対象が警備員に対して、どの程度の力を使うのか。それも観測します」

 

ここにも理由があった。

 

ステラは、この町に来てから。

 

一人も殺していない。

 

暴力事件。

 

重装兵器。

 

戦車。

 

犯罪組織。

 

数え切れないほどの戦闘を経験している。

 

それでも。

 

死者はゼロ。

 

重傷者はいる。

 

骨折。

 

内臓損傷。

 

意識喪失。

 

だが、命は奪っていない。

 

「偶然ではない」

 

研究員が言った。

 

「彼女は人間を殺さないようにしている」

 

「なら、それも確認しましょう」

 

今回の試験では。

 

それもデータになる。

 

ステラが攻撃対象をどう認識するのか。

 

どの程度の力で止めるのか。

 

相手を殺さずに制圧できるのか。

 

あるいは――

 

必要以上の力を使わないのか。

 

「すべて記録してください」

 

「了解」

 

そして最後に。

 

ステラへ依頼を持ち込む人物が決まった。

 

---

 

「こんにちは」

 

よろず屋。

 

ステラがいつものように店番をしていた。

 

そこへ。

 

見るからに金持ちそうな男が入ってきた。

 

高級そうな服。

 

高級そうな時計。

 

そして。

 

妙にぎこちない笑顔。

 

「き、君がステラ君だね!」

 

「はい」

 

「私は……大富豪だ!」

 

「……」

 

ステラの表情が消えた。

 

大富豪。

 

なるほど。

 

そういう設定らしい。

 

男は続ける。

 

「じ、実は娘が誘拐されてしまった!」

 

「そうですか」

 

「犯人からは、警察に知らせれば娘を殺すと言われている!」

 

「なるほど」

 

「だから警察には相談できない!」

 

「はい」

 

「しかし!」

 

男が大きく息を吸う。

 

「軍にいる知人から、君なら何とかできると聞いた!」

 

ステラは男を見つめる。

 

「……」

 

完全に軍だ。

 

しかも。

 

演技がダイコンすぎて、隠す気があるのかないのか分からない。

 

「頼む!」

 

男は頭を下げた。

 

「娘を助けてくれ!」

 

そして。

 

「金ならいくらでも払う!」

 

そこで。

 

ステラの目が変わった。

 

「……いくらでも?」

 

「いくらでもだ!」

 

「そう」

 

少しだけ考える。

 

今回提示された金額は。

 

今までの依頼とは比較にならない。

 

ステラは。

 

「分かりました♪」

 

即答した。

 

男は内心で安堵する。

 

だが。

 

ステラはすでに別のことを考えていた。

 

――軍。

 

――私を直接呼んだ。

 

――警察を介さない。

 

――電子的に要塞化された建物。

 

――人質。

 

そして。

 

自分の能力を測ろうとしている。

 

「ふふん」

 

ステラは心の中で笑った。

 

分かりやすい。

 

あまりにも分かりやすい。

 

「それで、場所は?」

 

男が答える。

 

「この先の――」

 

ステラは聞きながら。

 

もう今回の試験内容を組み立て始めていた。

 

---

 

目的は明白。

 

軍が知りたいのは。

 

私の電子戦能力。

 

そして。

 

駐屯地で何が起きたのか。

 

たぶん。

 

それに加えて――

 

人間を相手にした場合の行動。

 

殺すのか。

 

殺さないのか。

 

どこまで手加減するのか。

 

どの程度の力を使うのか。

 

「なるほどねぇ」

 

ステラは楽しそうに笑った。

 

でも。

 

「まだ早いかな♪」

 

電子戦能力については。

 

まだ教えない。

 

駐屯地で何をしたのかも。

 

まだ教えない。

 

なら。

 

「今回は――」

 

ステラは、ふふん♪と笑った。

 

「物理で解決しよう」

 

電子錠。

 

壊す。

 

監視カメラ。

 

無視する。

 

警報。

 

鳴らせておく。

 

扉。

 

壊す。

 

壁。

 

必要なら抜く。

 

警備員。

 

殺さない。

 

人質。

 

助ける。

 

そして。

 

「軍には、軍が欲しいデータを渡さない」

 

それだけ。

 

ステラは楽しそうに歩き出した。

 

その姿を。

 

遠くから軍の監視班が追っている。

 

「対象、移動開始」

 

「了解」

 

「各班、待機」

 

「ビル内、配置完了」

 

電子要塞。

 

人質役の軍人。

 

そして。

 

ステラを止めるために雇われた破落戸たち。

 

準備は整った。

 

軍は。

 

今度こそステラの能力を知れると思っていた。

 

だが。

 

彼らは一つだけ。

 

重大なことを忘れていた。

 

ステラは。

 

軍が何を知りたいのかを。

 

すでに知っている。

 

「ふふん♪」

 

銀色の髪を揺らしながら。

 

ステラは。

 

電子要塞へ向かって歩いていった。

 

 

 

###  命の値段

 

 建物の奥。

 

 そこには、今回の「人質」がいた。

 

 女性軍人。

 

 そして、その周囲には三人の兵士が配置されている。

 

 ひとりは生身の人間。

 

 ひとりは全身の大半を機械化した機械化兵。

 

 もうひとりは、人間そっくりの外見を持つアンドロイド兵だった。

 

 いずれも軍の人員である。

 

 今回の実験では、あえて種類を分けていた。

 

 生身の人間。

 

 機械化された人間。

 

 そして、人間ではない兵士。

 

 ステラが、それぞれをどう扱うのか。

 

 それもまた、観測対象だった。

 

 もちろん。

 

 彼らには本気で抵抗するよう命令されている。

 

 手加減をすれば、実験にならない。

 

 軍側としては、本来ならステラにとって「手加減することが難しい状況」になるはずだった。

 

 ――少なくとも、軍はそう考えていた。

 

 建物の外では、破落戸たちが武器を構えている。

 

 拳銃。

 

 短機関銃。

 

 軍用の強化弾。

 

 さらに、通常の町のチンピラには到底扱えないような強力な武器まで与えられている。

 

 彼らには、すでに説明されていた。

 

 あの少女を殺せば、追加の賞金を出す。

 

 金額は、彼らが一生遊んで暮らせるほどだった。

 

 だから最初は、誰も逃げるつもりなどなかった。

 

「来るぞ!」

 

「撃て!」

 

 一斉に銃声が響いた。

 

 ――だが。

 

 ステラは、歩いていた。

 

 弾丸が飛び交う中を。

 

 まるで散歩でもしているように。

 

「……ふふん♪」

 

 弾丸が頬をかすめる。

 

 別の弾丸が肩に当たり服が弾ける。

 

 強化弾が胸元に直撃、上衣が大きく弾けた。

 

 それでも。

 

 ステラは止まらない。

 

「え?」

 

 最初に声を上げたのは、破落戸の一人だった。

 

 銃を撃ち尽くした。

 

 それでも目の前の少女は倒れない。

 

弾は確かに当たっている、その証拠に少女の上半身は服の残骸がこびり付いているだけになっている。

 

少女は恥じるまでも無くは平然としている。

 

まるで虫か何かの前にいる様な様子だった。

 

「な、なんだよ……こいつ……」

 

 ステラは首を傾げる。

 

「どうしたの?」

 

 次の瞬間。

 

 姿が消えた。

 

「――え?」

 

 男の背後にステラが立っていた。

 

 首筋に指を添える。

 

「はい、おやすみ♪」

 

 軽く叩く。

 

 男は、その場に崩れ落ちた。

 

 殺してはいない。

 

 呼吸もある。

 

 脈もある。

 

 ただ、しばらく動けない。

 

「一人」

 

 ステラは指を一本立てた。

 

 そして次の男へ。

 

「う、うわぁぁぁっ!」

 

 ひとりが武器を放り捨てた。

 

 逃げる。

 

 それを見た別の男も逃げ始める。

 

「お、おい! 逃げるな♪」

 

「無理だ! あんなの相手にできるか!」

 

 彼らは初めて理解した。

 

 これは賞金首ではない。

 

 自分たちが殺す側ではない。

 

 ――殺される側なのだ。

 

 だが。

 

 ステラは逃がさなかった。

 

「待ってよぉ♪」

 

 楽しそうな声。

 

 次の瞬間には、逃げた男の前にステラがいる。

 

「ひっ!」

 

「逃げちゃだめだよ♪」

 

 男が方向を変える。

 

 ステラも動く。

 

 男が路地へ入る。

 

 ステラは、その出口で待っている。

 

「な、なんで……」

 

「だって、そっちに行くと思ったから」

 

 にっこり。

 

 男が腰を抜かした。

 

 ステラはしゃがみ込み、その肩を軽く叩く。

 

「はい♪」

 

 それだけで、男は動かなくなった。

 

 少し離れたところでは、別の破落戸が武器を捨てて両手を上げている。

 

「降参! 降参する!」

 

「うん」

 

 ステラは普通に近づいた。

 

「じゃあ、寝てね♪」

 

 そして無力化。

 

 次々と。

 

 誰も殺さない。

 

 誰も逃がさない。

 

 抵抗する者は倒す。

 

 逃げる者も捕まえる。

 

 武器を捨てた者には、それ以上の攻撃を加えない。

 

 その判断に、一切の迷いはなかった。

 

 軍の観測室では、研究員たちが黙って画面を見つめていた。

 

もはやホラーであった。

 

「……全員、生存しています」

 

「確認しろ」

 

「全員、脈あり。重傷者なし」

 

「……」

 

 研究員の一人が、別の画面を見る。

 

「まだ本命があります」

 

 建物内部。

 

 人質のいる区画。

 

 扉が吹き飛んだ。

 

「来た!」

 

 生身の女性軍人が構える。

 

 その横で、機械化兵が腕を変形させる。

 

 アンドロイド兵も戦闘モードへ移行した。

 

 三人とも、本気だった。

 

 手加減をしない。

 

 そう命令されている。

 

 だから。

 

 ステラも手加減する必要はない。

 

 ――普通なら。

 

「こんにちは♪」

 

 ステラが手を振った。

 

 三人が同時に攻撃する。

 

 銃撃。

 

 機械化兵の拳。

 

 アンドロイド兵の高出力ブレード。

 

 すべてが、ステラへ集中した。

 

 そして。

 

 数秒後。

 

 三人とも床に転がっていた。

 

「……」

 

 女性軍人は気絶。

 

 機械化兵は関節を完全に封じられている。

 

 アンドロイド兵は動力系統を停止させられていた。

 

 破壊されてはいない。

 

 ただ、動けない。

 

 ステラは三人を順番に確認する。

 

「よし」

 

 そして人質の女性軍人を見る。

 

「助けに来たよ♪」

 

 人質役の女性軍人は唖然としていた。

 

「……あなた……」

 

「なぁに?」

 

「私たちを……殺さないの?」

 

 ステラは少し考えた。

 

 ほんの一瞬。

 

 人間から見れば、それは一瞬だった。

 

「殺す必要、あるの?」

 

 笑顔。

 

「ないよね?」

 

 その答えに、人質役の女性軍人は言葉を失った。

 

 研究室も静まり返っていた。

 

 研究員の一人が呟く。

 

「……殺傷能力は十分にある」

 

「ええ」

 

「それでも、殺さない」

 

「今のところは」

 

 誰かがそう付け加えた。

 

 その言葉だけが、妙に重かった。

 

 ステラは人質の拘束を解く。

 

「じゃあ、帰ろっか」

 

 人質役の女性軍人は、呆然としたまま立ち上がった。

 

 その背後で。

 

 ステラは倒れている機械化兵を見た。

 

 そしてアンドロイド兵を見る。

 

 少しだけ首を傾げる。

 

「……これ、持って帰っていいのかな?」

 

 研究室の全員が固まった。

 

 ステラは笑った。

 

「冗談だよ♪」

 

 ――たぶん。

 

 その「たぶん」が。

 

 今回の実験で得られた、もっとも不気味なデータだった。

 

その後、今回のデータを集計、分析した研究班では本当の意味でステラの底知れなさを思い知った。

 

実際に残る物理的な行動の後から考えられる数値とそれに対して実際にその場で測ったセンサー類が計測した数値がオープンで計測されたデータとクローズ状態で計測された値が同じだったのだ、勿論ステラにとって都合の良い値であった、どうやって物理的にクローズされた機械類の記録まで改変出来たのかわからなかった。

 

さらにステラの計り知れなさが分かっただけであった。

 

 

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