よろず屋ステラ   作:かえるけろけろ

27 / 49
戸籍を手に入れた

###  ソラ・ステラ

 

反重力バイクを作ってから。

 

ステラは、しばらくその乗り物を楽しんでいた。

 

基地内を走り回る。

 

建物の間を抜ける。

 

階段を無視する。

 

道路も必要ない。

 

「便利だねぇ♪」

 

ただ。

 

使っているうちに、一つ問題が出てきた。

 

「……これ」

 

ステラは、廃材屋――

 

もとい、今では基地のすぐ近くに移転してきた「お兄さん」の店を見た。

 

「買った物を運ぶには、小さいね」

 

バイクには荷物を積む場所がほとんどない。

 

ステラが買うものは、普通の人間が持ち帰るには大きすぎることも多い。

 

ロボットの部品。

 

機械部品。

 

金属の塊。

 

工具。

 

古い電装品。

 

そして。

 

「お兄さんのところで買った物を、毎回トラックで運ぶのも面倒だし」

 

ステラは少し考えた。

 

「じゃあ、作ればいいね♪」

 

また始まった。

 

---

 

数日後。

 

基地の整備区画に。

 

今度は、見慣れない小型車両が置かれていた。

 

大きさは小型トラック程度。

 

荷台があり。

 

運転席がある。

 

しかし。

 

タイヤはない。

 

「……またですか」

 

研究者が呟いた。

 

「まただね♪」

 

ステラは運転席に座っている。

 

「今回は荷物を運ぶための車さ」

 

反重力ユニットによって車体そのものを浮かせる。

 

バイクよりも大きな車体。

 

その分、安定性を重視した制御系。

 

荷台には、かなりの重量物を積める。

 

そして。

 

「二人乗りだよ♪」

 

「二人?」

 

「うん」

 

ステラは助手席を指差した。

 

「ジーミーの席」

 

「……」

 

ジーミーが隣から覗き込む。

 

「俺の?」

 

「そうさ♪」

 

「……ありがとう」

 

「弟を置いていくわけにはいかないからね」

 

ステラは当然のように言った。

 

そして。

 

小型運搬トラックが浮かび上がる。

 

静かに。

 

ほとんど揺れもなく。

 

そのまま前へ進んだ。

 

「おお……」

 

研究者たちが見守る。

 

バイクよりも重い。

 

それでも。

 

速度は十分。

 

しかも。

 

「止まれ!」

 

ステラが操作すると。

 

ぴたり。

 

その場で停止する。

 

「右!」

 

旋回。

 

「左!」

 

今度は逆方向へ。

 

「バック!」

 

後退。

 

さらに。

 

「上♪」

 

車体が上昇する。

 

「下♪」

 

ゆっくり下降する。

 

「……」

 

研究者たちは黙って見ていた。

 

これは単なる荷物運搬車ではない。

 

道路という制約から解放されている。

 

段差を無視できる。

 

狭い場所にも入れる。

 

建物の間を移動できる。

 

荷物を積んだまま、必要な場所まで直接移動できる。

 

そして。

 

「お兄さんのところで買った物を運ぶのに便利なんだよ♪」

 

ステラは笑った。

 

目的は極めて私的だった。

 

だが。

 

この車両に目をつけた人物がいた。

 

「……あれは、いいな」

 

ライアン副署長だった。

 

「担当さん?」

 

ステラが振り向く。

 

「その車、俺にも一台作れないか?」

 

「ほう?」

 

ステラの目が輝く。

 

「依頼?」

 

「正式な依頼だ」

 

「ふふん♪」

 

ステラはにっこり笑った。

 

「担当には、これからもお世話になるしねぇ♪」

 

「……いくらだ?」

 

「それは仕様を決めてから相談しようか」

 

「分かった」

 

こうして。

 

ライアン副署長の反重力運搬トラックが作られることになった。

 

---

 

数日後。

 

基地の中を。

 

一台の小型トラックが走っていた。

 

いや。

 

飛んでいた。

 

運転しているのはライアン副署長。

 

「これは便利だな……」

 

基地内の道路を使わない。

 

渋滞しない。

 

段差を気にしない。

 

狭い場所にも入れる。

 

荷物を積んだまま、目的地へ一直線に移動できる。

 

そして。

 

何より。

 

「……速い」

 

ライアンが呟いた。

 

「副署長!」

 

整備兵が駆け寄ってくる。

 

「その車両、どこで手に入れたんです?」

 

「ステラに作ってもらった」

 

「……」

 

整備兵は車両を見る。

 

そして。

 

自分の所属する部署を思い出した。

 

「これ、うちにも欲しいんですが」

 

「俺に言うな」

 

ライアンは苦笑した。

 

「正式に依頼しろ」

 

その言葉が。

 

基地中に広がった。

 

---

 

数日後。

 

ヨークシャー将軍の執務室。

 

机の上に。

 

一枚。

 

また一枚。

 

さらに一枚。

 

書類が積み上がっていた。

 

「……これは何だ」

 

副官が答える。

 

「陳情書です」

 

「何の?」

 

「反重力運搬トラックを、各部署にも配備してほしいという」

 

「……」

 

将軍は一枚目を読む。

 

整備部。

 

二枚目。

 

補給部。

 

三枚目。

 

医療部。

 

さらに。

 

基地施設管理。

 

研究施設。

 

輸送部門。

 

警備部門。

 

「……」

 

ヨークシャーは目を閉じた。

 

嫌な予感がする。

 

「何台必要だ」

 

「まだ集計中です」

 

「……」

 

将軍は深く息を吐いた。

 

そして。

 

「ステラを呼べ」

 

---

 

「何だい?」

 

ステラは楽しそうにやって来た。

 

将軍の机の上に積まれた書類を見る。

 

「おお」

 

「君の車だ」

 

「うん♪」

 

「各部署から欲しいという声が出ている」

 

「へぇ」

 

ステラは嬉しそうに笑った。

 

「売れるね♪」

 

「……」

 

将軍は頭を抱えた。

 

結局。

 

軍が必要としている以上。

 

ステラ一人に作らせ続けるわけにもいかない。

 

かといって。

 

彼女の技術を勝手に量産することもできない。

 

そこで。

 

「ライセンス契約を結ぶ」

 

「ほう?」

 

「設計と製造について、軍側が一定の範囲で利用する」

 

「その代わり?」

 

「君に使用料を支払う」

 

「ふふん♪」

 

ステラの顔が、とても嬉しそうになった。

 

「いいよ♪」

 

こうして。

 

軍とステラの間で。

 

反重力運搬トラックのライセンス契約が結ばれることになった。

 

――ところが。

 

契約書を作る段階になって。

 

別の問題が発生した。

 

「……ステラ」

 

「何だい?」

 

「君の身分証明書は?」

 

「ないよ?」

 

「……」

 

「住民票は?」

 

「ないね」

 

「戸籍は?」

 

「ないよ」

 

「国籍は?」

 

「知らない」

 

「……」

 

執務室が静まり返った。

 

ヨークシャーはゆっくりと顔を上げた。

 

研究者たちも。

 

軍人たちも。

 

誰も何も言わない。

 

今まで。

 

なぜ問題にならなかったのか。

 

簡単だった。

 

ステラは金を受け取る。

 

店を経営する。

 

町に住む。

 

基地に住む。

 

軍から仕事を受ける。

 

それで全部、なんとなく成立していた。

 

しかし。

 

正式な契約を結ぼうとした瞬間。

 

書類の上では。

 

**ステラという人物が存在していなかった。**

 

「……ジーミーは?」

 

「俺もない」

 

隣にいたジーミーが答えた。

 

「……」

 

ヨークシャーは頭を抱えた。

 

研究班も頭を抱えた。

 

「ジーミーだけなら……」

 

研究者の一人が呟く。

 

「養子縁組など、方法はあります」

 

「そうだな」

 

将軍も頷く。

 

「しかし」

 

全員の視線がステラへ向く。

 

「彼女は……」

 

言葉が続かない。

 

年齢。

 

出自。

 

出生記録。

 

身体的特徴。

 

過去の記録。

 

何一つ、通常の制度に当てはまらない。

 

しかも。

 

軍が過去に把握している記録をそのまま公的記録に使えば。

 

別の問題が大量に発生する。

 

「……どうするんだ」

 

誰かが呟いた。

 

その場にいた全員が沈黙した。

 

そして。

 

数日後。

 

政府との協議が始まった。

 

軍だけでは処理できない。

 

しかし。

 

このままというわけにもいかない。

 

基地に住んでいる。

 

店を持っている。

 

仕事をしている。

 

人間社会の中で生活している。

 

ならば。

 

人間社会の側から、彼女に正式な立場を与える必要がある。

 

最終的に。

 

政府と軍の協議によって。

 

ステラとジーミーには、新たな身分が与えられることになった。

 

移民としての登録。

 

国籍。

 

住民としての記録。

 

そして。

 

もう一つ。

 

名前だった。

 

「……名前?」

 

ステラが首を傾げる。

 

「君には姓が必要なんだ」

 

「ステラじゃ駄目なの?」

 

「公的な登録では姓が必要になる」

 

「ふーん……」

 

ステラは少し考えた。

 

長く考える必要もなかった。

 

「じゃあ」

 

彼女は言った。

 

「ソラ」

 

「……ソラ?」

 

「うん」

 

ステラは何でもないことのように頷いた。

 

「空って、いいじゃないか♪」

 

それだけだった。

 

こうして。

 

正式な登録名が決まった。

 

**ソラ・ステラ。**

 

そして。

 

ジーミーも。

 

「俺も?」

 

「もちろん」

 

「じゃあ……」

 

少し考えて。

 

「ソラ・ジーミー」

 

こうして。

 

二人は初めて。

 

公的な名前を持った。

 

ソラ・ステラ。

 

ソラ・ジーミー。

 

書類の上にも。

 

社会の上にも。

 

二人は、正式に存在することになった。

 

その書類を眺めながら。

 

ステラは小さく笑った。

 

「ふふん♪」

 

そして。

 

「これで正式に、よろず屋だね♪」

 

隣でジーミーが苦笑する。

 

「そこ?」

 

「そこだよ♪」

 

ヨークシャーは、その様子を見ながら思った。

 

軍が長年追い続けた謎の存在。

 

正体不明の少女。

 

パンドラ。

 

その彼女が。

 

今では。

 

一人の弟と一緒に。

 

正式な住民として。

 

基地の中で暮らしている。

 

そして。

 

そのきっかけを作ったのは――

 

たった一台の。

 

空飛ぶ運搬トラックだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。