第十五話 よろず屋の技術指導
ここ最近、ステラは欲求不満だった。
小さな依頼はある。生活に困ることはないし、店を維持する程度の収入もある。
だが、ロボット作りとなると話は別だった。
作りたい。思う存分、ロボットを作りたい。
しかし、金がない。金がなければ材料も買えない。材料がなければロボットは作れない。そもそも、まともな仕事がない。
趣味人にとって、これほど深刻な問題もないだろう。
そんな折、ステラは学校での出来事をうまく利用し、ちょっとした憂さ晴らしと、最近低下していた自身への評価を上方修正するため、軍からの依頼を受けることにした。
もちろん、それだけではない。
本命は、今回のロボット製作である。
正直なところ、ロボットを作らせてもらえるのなら、それだけで十分だった。だが、最近の自分に対する評価を見ていると、どうにも納得がいかなかったらしい。
ならば、ここらで少しばかり実力を見せつけておこう。
そうすれば、今後ロボットを作る際にも、あれこれと面倒な制限を課されずに済む。
彼女にとっては、実益を兼ねた憂さ晴らしというわけだ。
一方、研究班にとっても、ステラの提案は渡りに船だった。
地上での戦闘データの収集は、すでに頭打ちになっていた。
これ以上強力な兵器を投入したところで、地上への被害を考えれば、そう簡単には使用できない。宇宙空間での戦闘データを参照しても、地上で同等の兵器を運用することなど、被害の大きさを考えれば現実的ではなかった。
結果として、地上で残された研究課題は、ステラの電子戦能力を解明することくらいしかない。
そして、もう一つ。
彼女が持つ、謎の知識をどうにかして引き出すことだった。
ステラが製作する二足歩行ロボットは、我々研究班からすれば謎技術の塊である。
別に、彼女が独自開発した未知の機械が組み込まれているわけではない。
使われているのは、人類が開発した既存のパーツだ。構造も、使用部品も、調べれば分かる。こちらで同じパーツを集め、同じ組み合わせで組み上げることだってできる。
実際、我々はシミュレーションだけでなく、実機を製作して検証まで行っていた。
それなのに、同じ性能が出ない。
ステラのロボットは、既存の技術だけでは説明できない出力と強度を発揮する。計算上は成立していても、現実の機体では到底実現できないはずの性能を、当たり前のように引き出してしまうのだ。
彼女はいったい、何をしているのか。
その秘密を知りたい。
今回の依頼は、これまで彼女のロボットを研究しても解明できなかったノウハウについて、製作現場で直接教えを請うものとなるはずだった。
そして、我々は準備を始めた。
*
ステラが必要とするパーツ。
選別に使うための、同一パーツの大量の予備。
彼女があらかじめ設計したフレーム。
その他、製作に必要な基本資材。
それらを集めた結果、用意された資材は大型トラック四台分に達した。
さらに、数十人の科学者、技術者、記録係、文官が招集された。
ロボット製作のための作業場も、航空機の格納庫を利用して用意した。
というのも、ステラの普段の作業場は、今回のような大人数で短期間に作業を進めるには狭すぎるのだ。
例えるなら、家のガレージで自家用車をレストアするようなものだろう。
時間をかけて、一人で一つずつ部品を組み付けていくにはいい。だが、大勢の人間が集まり、短期間で一気に組み上げるとなれば、圧倒的に場所が足りない。
ちなみに、ステラの最初のロボットが形になるまでには、五年かかったらしい。
その後の二号機から五号機までは、基本フレームをほとんど変更せず、パーツの交換を中心に改良を重ねたものだ。
つまり、我々ロボット観察チームとしては、今回製作する機体こそが、本当の意味での二号機に相当するのではないかと考えていた。
もっとも、そんなことを本人に言えるはずもない。
言えば、死にそうだからだ。
長生きしたければ、人の趣味にケチをつけない。
これは大事なことである。
さて、そんな我々の苦労も知らず、ステラは作業場に案内されると、今にも飛び上がりそうなほど喜んだ。
大量の資材。
整然と並べられたパーツ。
十分な広さを持つ作業場。
そして、思う存分ロボットを作れるだけの人員。
趣味人にとって、これ以上の環境があるだろうか。
ステラは満面の笑みを浮かべた。
さらに驚いたことに、彼女は整列していた作業員全員のもとを回り、一人ひとりの名前を呼びながら握手までしてくれた。
恐ろしいのは、初対面の人間ばかりであるにもかかわらず、名前だけでなく、それぞれの担当職務まで正確に把握していたことだ。
「吉田君。君はいつも、私のロボットを熱心に研究してくれていたね。今回もよろしく頼むよ。『真の二号機』のために!」
そう言って、ステラは私の手を握った。
……待て。
今、何と言った?
我々が普段どんな話をしているのか。連絡会で何を議論しているのか。誰が何を担当し、どんな意見を持っているのか。
そこまで把握しているというのか?
これまでの会議でも、彼女の情報収集能力については何度も危険性が指摘されていた。
しかし、実際に自分の身で体験すると、話はまったく違う。
笑顔で握手を求めてくる少女を前に、私は背筋が寒くなるのを感じていた。
この子は、いったいどこまで見ているのだろうか。
*
組み立て作業が始まると、ステラの指示は驚くほど的確だった。
何より、やり直しが一度もない。
初めて組み上げる機体なのだ。
普通なら、実際に部品を組み合わせてみて初めて分かる寸法の誤差や、取り付け位置の微妙なずれ、加工上の問題などが次々に発生する。
それらを一つずつ修正し、ときには組み直し、場合によっては設計そのものを見直す。
それが工業製品を作るということだ。
ところが、ステラにはそれがない。
まるで、組み立てる前から実際の部品を組み合わせ、すべての適合性を確認していたかのように、指示が飛んでくる。
このボルト穴は、ここを基準に加工する。
この部品は、指定された寸法ではなく、こちらの個体を使う。
この箇所は、組み立てる前に切削加工を追加する。
その判断に迷いはない。
しかも、あらかじめ同一パーツを複数用意するよう指定されていた部品については、現物を見ただけで使うものを選び出していく。
当然、気になる。
「ステラさん。何か選別の基準があるのでしょうか?」
私が尋ねると、彼女は待ってましたとばかりに顔を輝かせた。
「おっ、吉田君、いいところに気がついたね!」
そこから始まったのは、彼女による技術講義だった。
普段、何をするにも利用料金を要求するステラとは、まるで別人である。
趣味人なら分かるだろう。
自分の好きなことについて、誰かに教えたくてたまらなくなる、あの感覚だ。
どうやら、人間も化け物も、そのあたりは同じらしい。
「まずね、パーツは一つずつ性能を見ればいいってものじゃないんだよ」
ステラは手近な部品を持ち上げ、楽しそうに説明を始めた。
「パーツの数が増えるほど、相性の影響が大きくなる。単体では優秀なパーツでも、組み合わせによっては性能が落ちることがある。逆に、相性がいいもの同士なら、それぞれの性能を何倍にも引き出せるんだ」
単純な話のように聞こえる。
だが、彼女の言う相性とは、単なる寸法や規格の適合性ではない。
出力、応答速度、振動、熱、制御特性、負荷の変動。
個々の部品が持つ特性と、それらが組み合わさったときに生じる影響を、すべて考慮するのだという。
「AとBの相性がよかったら、次はそこにCを加えてみる。すると、AとBだけならプラスだったものが、Cを加えた途端にマイナスになることもある。だから、組み合わせ全体を見て、最終的にプラスになるように組んでいくんだよ」
「それは、各パーツの特性を数値化し、組み合わせごとの影響を計算するということでしょうか?」
「うーん、それだけじゃ足りないかな」
ステラは少し考えるような仕草をした。
「数値にできるものは数値にしてもいいけど、単純な足し算じゃないからね。全体のバランスが大事なんだよ」
彼女は嬉々として話し続けた。
私たちがこれまで膨大な計算を繰り返してきた問題を、まるで趣味のプラモデルについて説明するかのように語っている。
そして、話題は機体の制御へと移った。
「慣性中和装置と反重力装置も同じだよ。君たちがこの二つを一つの機体で使うときには、専用の制御装置が必要になるんだよね?」
「ええ。両者の制御を統合し、機体全体の挙動を調整する必要があります。ただ、装置自体が高価なうえに、搭載スペースも限られますから……」
「そう。だから、私のロボットでは、その制御を機体全体に分散させているんだ」
「分散……ですか?」
「うん。機体に搭載されているプロセッサ全体に、少しずつ制御を担当させるの。一つの専用装置に全部やらせるんじゃなくて、それぞれが自分の役割を果たしながら、全体の調整にも参加する。そうすると、専用の制御装置を追加しなくても、機体全体で制御できるんだよ」
私は思わず黙り込んだ。
それは、単純に制御装置を省略したという話ではない。
各パーツが本来の専門的な役割を果たしながら、同時に全体のバランス調整にも参加する。
そのような仕組みを成立させるには、個々のパーツの性能だけでなく、相互の関係性まで把握していなければならない。
「君たちがうまくいかなかった理由の一つは、そこだね」
ステラは、にこりと笑った。
「一つのパーツは一つの役割だけを果たす。そう考えていると、なかなかうまくいかないんだよ」
私は、彼女の言葉を頭の中で反芻した。
そして、ふと、ある疑問に行き着いた。
仮に、パーツ一つひとつの相性を何らかの形で数値化できたとしよう。
では、その組み合わせの総数はどれほどになる?
今、目の前で組み上げているロボットに使われるパーツの数を考えただけでも、膨大な数になるはずだ。
しかも、単純に二つずつの相性を調べれば済むわけではない。三つの組み合わせ、四つの組み合わせ、それ以上の相互作用まで考慮する必要がある。
それらを総合的に評価し、最適な組み合わせを選び出す。
いったい、どれほどの演算能力が必要なのだろうか。
この星に存在する演算リソースをすべて投入したとして、実現できるのだろうか?
私は、ようやく理解し始めていた。
我々は、ステラの演算能力を高く評価していたつもりだった。
これまでの情報収集能力や電子戦の実績から推測し、彼女の能力は、我が軍が保有する最高の演算能力を誇るシステム『コロッサス』と同等か、それ以上だと考えていたのだ。
だが、今の説明が正しいとするなら、その評価は根本から間違っていたことになる。
スマートフォンと『コロッサス』を比較するようなものではないか。
いや、そもそも比較対象として成立しているのか?
私は、これまでの出来事を思い返した。
軍の暗号が解読される。
セキュリティ対策が次々と無効化される。
こちらが隠していた情報を、彼女は当たり前のように把握している。
今までなら、それらを驚異的な能力として個別に評価していた。
だが、もしも彼女の演算能力が、我々の想定を何桁も上回るものだったとしたら?
むしろ、今までの出来事は当然の結果だったのではないか。
過大評価しているつもりだった。
しかし、そもそも評価の土台そのものが、あまりにも低すぎたのだ。
私の顔色が、みるみる悪くなっていく。
それを見ていたステラは、相変わらずの笑顔だった。
「吉田君は同好の士だからね。特別に教えてあげたんだよ!」
にこり。
……笑いやがった。
私は、その場に立っていられなくなった。
「すみません。少し気分が悪くなったので、失礼します」
そう言って、私は急いで作業場を後にした。
向かう先は、将軍のもとだ。
報告しなければならない。
今、我々が相手にしている存在について、認識を根本から改める必要がある。
そして私は、廊下を歩きながら確信していた。
この行動も、きっと読まれている。
どこかから、あの少女がこちらを見ているのではないか。
そう考えずにはいられなかった。
*
ロボットの製作は、驚くほど順調に進んだ。
いや、順調という言葉では足りない。
昼間はステラが学校に通っていて不在にもかかわらず、機体はわずか一か月で完成したのだ。
当たり前といえば当たり前だった。
何しろ、設計変更も、寸法の修正も、組み直しもない。
試行錯誤という工程そのものが、ほとんど存在しないのだ。
ガレージキットを組み立てるほうが、よほど手間がかかるのではないか。
そんな冗談まで飛び出すほどだった。
そして、本日は起動試験の日である。
完成したロボットをクレーンで吊り下げ、まずは基本動作を確認する。
歩行や腕の動き、関節の可動、各種制御装置の応答。実際の動作データと設計時の予測値を比較し、その誤差を検証するのだ。
設計値との誤差が許容範囲に収まっていることを確認するまで、三日間をかける予定だった。
その後、機体を地面に降ろして荷重をかけ、同じ検証を繰り返す。
こちらでも問題がなければ、いよいよ転倒防止用の吊り下げワイヤーを外す。
そして、パイロットであるステラが搭乗し、同様の試験を行う。
安全確認には時間がかかる。
だが、必要な工程だった。
もちろん、当のステラは不満たらたらだった。
「ねえ、もう歩かせてもいいんじゃない?」
「駄目です。まずは基本動作の確認からです」
「でも、設計どおりに動くのは分かってるでしょ?」
「分かっていることと、確認することは別です」
「むう……」
彼女は、いかにも納得がいかないという顔をした。
そこで私は、少しばかり説教をすることにした。
「これは依頼です。最低限の安全確認と動作確認は行います。それが技術者としての良心ですし、何より、後に続く同好の士のために残すべき遺産でもあります」
すると、ステラは一瞬きょとんとした。
それから、にっこり笑った。
「なるほど。うまく私を納得させたね、吉田君」
そう言いながら、私の肩をぽんぽんと叩く。
……うまく納得させた、ね。
どうにも、彼女に言いくるめられたような気がしてならない。
だが、少なくとも試験を省略するという話は立ち消えになった。
それでよしとしよう。
*
各試験の間には、点検、整備、検査の時間が必要になる。
そのため、実際に歩行試験を行えるのは、製作開始から二十日ほど経過した頃となった。
途中、何度かステラがこっそり格納庫に忍び込んだ形跡があった。
そこで我々は、夜間警備員を配置するだけでなく、起動に必要なパーツを分散して保管するなどの対策を講じた。
さすがに、これだけやれば勝手に起動させることはできないだろう。
そう思っていたのだが。
「吉田君、分かってるね!」
ある日、ステラは妙に機嫌よく私の肩を叩いてきた。
……何を分かっているというのだろう。
いや、聞かないほうがいい。
私は黙って頷いた。
ところで、叩かれた肩が後から爆発したりしないよな?
*
そして、いよいよ歩行試験の日がやってきた。
格納庫には、研究者、技術者、作業員、記録係など、関係者のほぼ全員が集まっていた。
吊り下げ用のワイヤーは、万が一の転倒に備えて接続されている。
機体の周囲には安全確認のための人員が配置され、各種計測機器が作動していた。
ステラが操縦席に乗り込む。
ハッチが閉じられ、機体の各部に灯がともった。
計測値に異常はない。
各制御装置も正常に動作している。
そして――。
ロボットが、一歩を踏み出した。
続いて、もう一歩。
さらに、もう一歩。
安定している。
姿勢制御に乱れはない。関節の動きも滑らかだ。設計時に想定した数値からの逸脱も、許容範囲に収まっている。
大丈夫だ。
その瞬間、格納庫に歓声が響き渡った。
「やったぞ!」
「成功だ!」
「本当に歩いた!」
誰かが叫び、誰かが拍手を始める。
それは、研究者としての喜びであり、技術者としての達成感だった。
ステラは操縦席のハッチを開けると、両手を高く掲げた。
顔も、心なしか赤くなっているように見える。
……実に、人間らしい反応だった。
このまま走行試験に移りたいというステラを、我々は必死になだめた。
試験は、まだ終わっていない。
ここから、また点検と整備を繰り返す必要があるのだ。
「ええーっ、なんて非効率なの!」
ステラは不満そうに頬を膨らませた。
私は、再び説教を始めた。
「高性能な工業製品ほど、地道な作業の繰り返しが大切なのです。この積み重ねが、明日の同好の士へと続く道になるのです!」
……またやってしまった。
しかし、この「同好の士」という言葉は、どうやらステラに非常に受けがよいらしい。
彼女は不満を口にしながらも、どこか上機嫌だった。
*
二日後。
いよいよ走行試験の日である。
今回の作業場は、もともと航空機の格納庫だ。格納庫の前には十分な広さの空間があり、走行試験を行うには申し分ない環境だった。
機体がゆっくりと動き始める。
そして、走り出した。
滑らかだった。
驚くほど滑らかだった。
重力制御と慣性中和装置、その両方が効果を発揮しているのだろう。巨大な機体が、まるで自分の身体の延長であるかのように動いている。
ステラは、歩かせるだけでは満足できなくなったらしい。
走る。
跳ぶ。
着地する。
さらに、バク転まで披露した。
巨大な二足歩行ロボットが、空中で身体を回転させ、何事もなかったかのように着地する。
計測機器の数値が、次々と更新されていく。
その途中から、操縦席のほうよりステラの笑い声が聞こえてきた。
心底、楽しそうな声だった。
我々も、いつしか夢中になっていた。
機体が跳ぶたびに拍手が起こり、着地するたびに歓声が上がる。
誰かが声援を送り、誰かが記録を確認し、誰かが隣の人と肩を叩き合う。
気がつけば、格納庫の前はお祭り騒ぎだった。
そして、我々が特に注目していたのは、操縦席内部の加速度センサーの数値だった。
これまで、ステラのロボットは、その性能を人間が扱えるのかという問題を抱えていた。
機体が走り、跳び、激しく動く際に発生する加速度や衝撃は、通常の人間に耐えられるものではない。
だが、今回の試験データを見る限り、その懸念は解消されつつあった。
少なくとも、適切な制御のもとでは、人間が操縦することも十分に可能だと考えられる。
やがて、ひととおりの動作を終えたステラが、機体を格納庫へ戻してきた。
我々は、拍手で彼女を迎えた。
操縦席から降りてきたステラは、どこか照れくさそうにしていた。
少なくとも、私にはそう見えた。
そして、彼女は私の前まで来ると、いきなり抱きついてきた。
「ありがとう、吉田君!」
「えっ?」
これには、さすがの私も驚いた。
あまりにも予想外だったからだ。
年相応の少女のようではないか。
普段の彼女を知っているだけに、余計にそう思えた。
その場にいた者の中には、ステラの行動を観察するために参加していた心理学の専門家もいた。
彼もまた、驚いた顔をしていた。
学校生活での経験が、彼女の感情表現に何らかの影響を与えているのだろうか。
それとも、趣味を存分に楽しんだ人間が、自然に見せる反応なのだろうか。
その答えは、まだ分からない。
ただ、あのときのステラは、本当に嬉しそうに見えた。
*
その後、ステラの許可を得て、我々が用意した機械化度ゼロのパイロットにも操縦試験を行ってもらった。
結果は良好だった。
ステラと同様の動作が可能であることが確認され、操縦席内部の計測値にも問題はなかった。
これによって、今回のプロジェクトは、残すところ旧型ロボットの引き渡しなど、いくつかの事務的な作業を残すのみとなった。
我々にとって、実に有意義な時間だった。
もちろん、研究そのものが終わったわけではない。
むしろ、これからが本番だ。
今回得られたデータを検証し、各種制御の仕組みを分析し、再現可能な技術として整理する。
何年も研究室にこもることになるだろう。
それでも、我々は確かな一歩を踏み出したのだ。
そう思っていた。
……いや、実際に有意義な時間だったことは間違いない。
それは、今でも変わらない。
*
このプロジェクトを境に、ステラが私のもとへ顔を出す機会は増えた。
最初は、ロボットに関する技術的な話が中心だった。
今回の機体について、あのパーツの相性がどうだったとか、この制御方式を別の機体に応用できないかとか。
そうした話をするために、彼女は研究室へやってくる。
私もまた、ステラの工場へ足を運ぶことが増えた。
話題はロボットのことばかりだ。
だが、それでよかった。
同好の士というものは、そういうものなのだろう。
気がつけば、私はステラの友人枠に入れてもらえたらしい。
本人から明確にそう告げられたわけではない。
ただ、彼女の態度を見ていれば、そう考えてもよさそうだった。
悪い気はしなかった。
むしろ、嬉しかった。
……もっとも。
彼女が、私の名前だけでなく、私が何を考え、どんな行動を取るのかまで把握しているらしいことは、相変わらず気になっていた。
あの笑顔も、あの喜び方も、あの抱擁も。
本当に、私たち人間と同じ感情から生まれたものなのだろうか。
考え始めると、きりがない。
だから私は、あえて考えないことにした。
趣味を理解してくれる友人がいる。
それだけで、十分ではないか。
少なくとも、今のところは。