よろず屋ステラ   作:かえるけろけろ

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学校編――ステラ、養子になる

### 中学二年生

 

中学二年生になったステラ、ジーミー、南原さんは、学校側の配慮によって、引き続き同じクラスになった。

 

当初、学校関係者が心配していたのは、ステラが何かとんでもない騒動を起こすことだった。

 

しかし、実際にはその心配は、少々違った形で裏切られていた。

 

学校でのステラは、見事なまでにコミュ障を炸裂させていたのである。

 

授業中は大人しく、休み時間も積極的に輪の中心へ入ろうとはしない。南原さんに話しかけられれば答えるが、自分から友達を増やそうとする様子もない。

 

結果として、クラスでは「南原さんの妹分」という立ち位置に落ち着いていた。

 

二年生になっても、南原さんは変わらずクラスのリーダー的存在だった。

 

その妹分であるステラも、自然と周囲から受け入れられていたのである。

 

ジーミーもまた、ステラと同じくコミュ障だった。

 

こちらも「南原さんの弟分」として認められていた。

 

南原さんを中心に、姉妹のようなステラと弟のようなジーミー。三人の関係は、クラスの中でうまく機能していた。

 

少なくとも、あの日までは。

 

### 編入生

 

環境が変わったのは、基地にアメリヤ星系から赴任してきた軍人や科学者たちの子供が、学校へ編入してきたことだった。

 

彼らの多くは、ステラに対して良い感情を持っていなかった。

 

当然だろう。

 

アメリヤ宇宙軍は、ステラとの戦闘によって壊滅的な被害を受けた。二百万人近い人々が命を落とし、その家族や友人、同僚、知人まで含めれば、ステラを恨む人間の数は膨大なものになる。

 

アメリヤ国民のステラに対する感情が、極めて悪いものになったとしても不思議ではなかった。

 

この問題は、ステラ研究班でも以前から懸念されていた。

 

遅かれ早かれ、起きる問題だった。

 

そのため、編入生の両親が基地に赴任する際には、ステラの存在と事情について改めて説明が行われた。

 

ステラがどれほど危険な存在なのか。

 

彼女の周囲にいる人間が、どれほど特殊な立場に置かれるのか。

 

そして、場合によっては生命の危険すらあること。

 

両親たちは説明を受け、理解したうえで赴任してきた。

 

しかし、子供たちは違う。

 

「少なくとも、お子さんたちには選択の余地があります」

 

説明を担当した者たちは、そう伝えていた。

 

事情を知ったうえで、その学校に通うかどうか。

 

その選択は、子供たち自身に委ねられるべきだった。

 

両親たちには覚悟があった。

 

だが、子供たちの全員に、同じ覚悟があったわけではなかった。

 

そして、編入初日。

 

自己紹介の場で、事件は起きた。

 

「お前がステラか!」

 

編入生の一人が、教室中に響く声で叫んだ。

 

「人殺し!」

 

教室の空気が凍りついた。

 

ステラは、特に反応しなかった。

 

自分に向けられた悪意には、慣れている。

 

罵声を浴びせられることも、恐れられることも、今さら珍しいことではない。

 

だから、今回も放っておけばよいと思っていた。

 

しかし。

 

「姉さんに何を言うんだ!」

 

ジーミーが立ち上がった。

 

「ソラさんは、そんな人じゃありません!」

 

南原さんも、毅然として言い返す。

 

「あなたは、何も分かっていないのに、そんなことを言うべきではありませんわ!」

 

「うるさい!」

 

編入生は、南原さんを叩いた。

 

乾いた音が、教室に響いた。

 

「あぁぁ――!」

 

ステラの口から、悲鳴のような声が漏れた。

 

次の瞬間。

 

空間が軋んだ。

 

何かが起きる。

 

教室にいた全員が、本能的にそう感じた。

 

目に見えない圧力が、周囲を押し潰そうとしていた。

 

机が震え、窓が小さく鳴る。

 

ステラの赤い瞳が、南原さんを捉えていた。

 

南原さんは、すぐさまステラにしがみついた。

 

「ソラちゃん! 私は大丈夫だよ!」

 

「……」

 

「大丈夫だから! ねっ?」

 

南原さんは、ステラの服をぎゅっと握った。

 

ジーミーは、その間に編入生へ飛びかかっていた。

 

「姉さんの悪口を言うな!」

 

拳が飛ぶ。

 

「南ねえに何するんだ!」

 

ジーミーは相手を押し倒し、馬乗りになって殴りかかった。

 

「やめなさい!」

 

「誰か、先生を!」

 

教室は一瞬で騒然となった。

 

ステラは動かない。

 

いや、動けなかったのかもしれない。

 

彼女を止めていたのは、南原さんの腕だった。

 

やがて教師たちが駆けつけ、ジーミーを引き離した。

 

南原さんの怪我は大きなものではなかった。

 

編入生も、ジーミーも、命に別状はない。

 

それでも、教室にいた全員が理解していた。

 

今のは、ただの喧嘩ではなかった。

 

もし南原さんがステラを止めていなければ。

 

もしステラが、何か一つでも行動を起こしていたら。

 

この教室は、無事では済まなかったかもしれない。

 

### 放課後の保護者会

 

放課後、関係者による保護者会が開かれた。

 

集まった顔ぶれは、学校の問題を話し合うための会合としては、あまりにも物々しいものだった。

 

ステラ側からは、総責任者としてヨークシャー将軍。保護者として、警察副署長のライアン。

 

南原家側からは、基地工兵隊総司令官である父親と、基地の福祉担当部長である母親。

 

二人は、ステラとジーミーが学校へ編入した際にも関わった人物だった。

 

学校側からは、担任と副担任。

 

ただし、二人ともステラ研究班に所属する児童心理学者でもあった。

 

そして編入生側。

 

父親はアメリヤ空軍所属の大尉。母親は看護師。

 

さらに、アメリヤ駐留軍司令官であるジョン中将まで出席していた。

 

基地の最高意思決定機関でも集まったのか、と言いたくなるような顔ぶれである。

 

最初に口を開いたのは、ライアンだった。

 

「まずは、こちらから謝罪させてください。ジーミーが手を出してしまい、申し訳ありませんでした」

 

ライアンは、真摯に頭を下げた。

 

続いて、アメリヤ側も謝罪した。

 

「こちらこそ、娘さんに手を上げさせてしまい、申し訳ありませんでした。本人の感情を、十分に制御できていなかったようです」

 

双方とも、穏やかで理性的だった。

 

誰かを一方的に責めることもなければ、感情的に声を荒らげることもない。

 

ジーミーが暴力を振るったこと。

 

編入生が南原さんを叩いたこと。

 

その背景に、アメリヤ宇宙軍の損害と、ステラに対する感情があること。

 

それぞれの事情を踏まえ、今後どうするべきかを話し合っていた。

 

このまま互いに謝罪し、手打ちにする。

 

そう思われた頃だった。

 

ジョン中将が、静かに口を開いた。

 

「……本当に、これで大丈夫なのかね?」

 

全員の視線が集まる。

 

「親同士が謝罪し、手打ちにした。それで、ステラと編入生の間にある確執まで収まるのだろうか」

 

ジョンは、先ほどまでの穏やかな表情を崩さなかった。

 

「聞けば、かなり危なかったそうじゃないか」

 

彼はステラの能力を知っている。

 

アメリヤ宇宙軍が何を失い、何を目撃したのかも知っている。

 

「ステラは、自分に向けられた悪意には強い。だが、親しい人間に向けられた悪意には、驚くほど耐性が低い」

 

ジョンは一度言葉を切った。

 

「人間として見れば、悪いことではないのだろう。自分の大切な人を守ろうとするのは、自然なことだ。だが、彼女が持っている力は、あまりにも大きすぎる」

 

誰も口を挟まなかった。

 

「ジーミー君が相手を殴れば、殴られた側が怪我をする程度で済むかもしれない。しかし、ステラが殴ればどうなる?」

 

ジョンは、参加者たちを見回した。

 

「今回は、ステラが大事にしている南原さん自身が、彼女を止めた。だから止まった。だが、例えば私が、今回の南原さんの代わりにそこにいたら?」

 

彼は、苦笑した。

 

「止まらなかっただろう。むしろ、私自身が肉片になっていたかもしれん」

 

冗談めかした言い方だった。

 

しかし、誰も笑わなかった。

 

その懸念に対し、初めてヨークシャー将軍が口を開いた。

 

「そう。まさしく、その懸念があったからこそ、この施設が作られたと言ってよい」

 

将軍の声は、重かった。

 

「ステラは、ジーミーを育てながら、大人たちから向けられる悪意に耐えてきた。ステラだけなら、これからも耐えられるだろう」

 

彼は、ゆっくりと首を振った。

 

「だが、ジーミーは成長する。いつまでもステラの手の中にいるわけではない。いずれ、一人で行動するようになる。その時、ジーミーが悪意にさらされたら、どうなる?」

 

答えは、誰にも分からなかった。

 

「そして、それを見たステラが、どのような反応をするのか。私たちが恐れているのは、そこなのだ」

 

ヨークシャーは、一同を見回した。

 

「実際のところ、二人とも見た目以上に幼い」

 

研究班の心理学者たちが作成したレポート。ここにいる児童心理学者たちの分析。

 

それらを総合すると、ジーミーもステラも、精神的な発達という点では七、八歳程度に相当するという。

 

「ジーミーは、ステラに育てられた。ステラは、両親の愛情を知らないまま、見よう見まねでジーミーを育てた。その過程で、彼女自身も愛情の一端を知ったのだろう」

 

将軍は、少しだけ表情を和らげた。

 

「最近では、ライアンや南原さんたちのおかげで、甘えることも覚え始めた。そういう意味では、彼女も本当の子供なのだよ」

 

だが、次の言葉は厳しかった。

 

「だからこそ、必要なことを学ばないまま、社会に放り出すのは危険すぎる」

 

子供は怖い。

 

ステラを見ていれば、それが分かるはずだった。

 

「だから、この施設が作られた。軍属だけで構成された、特殊な複合施設がな」

 

ここにいる大人たちは、単にステラを監視しているのではない。

 

彼女が人間社会で生きていくために、必要な経験を積める環境を作ろうとしている。

 

「ここは、彼女が大人になるために作られた場所なのだ」

 

ヨークシャーは、ジョン中将を見た。

 

「アメリヤ星系で、ステラの能力を知った今だからこそ、理解してほしい。これは、人類の存亡をかけた問題なのだ」

 

静かな声だった。

 

「アマテラス政府と地表軍は、この施設が全滅する可能性すら考慮している。大げさな話ではない。そういう前提で、すべてを整えているのだ」

 

そして、編入生の父親である大尉に向き直った。

 

「本当に申し訳ないが、今から息子さんを再編入させる、という選択はない。ここに赴任し、ここで生活する以上、ステラと折り合いをつけていくしかないのだ」

 

ヨークシャーは、はっきりと告げた。

 

「この基地に来るとは、そういうことなのだ。我々は、安全装置のない核爆弾の上で生活している。そのことを、どうか忘れないでほしい」

 

会議室に、重い沈黙が落ちた。

 

そして、ヨークシャーは何もない空間に声をかけた。

 

「ステラ。聞いているのだろう? こっちに来い」

 

少し間を置いて、続ける。

 

「お前の意見が聞きたい」

 

### ステラが欲しかったもの

 

扉が開いた。

 

入ってきたステラを見て、誰もが言葉を失った。

 

彼女の目は真っ赤に腫れていた。

 

南原さんとジーミーが、両側から付き添っている。

 

いつもの不敵な笑顔はない。

 

からかうような口調も、余裕たっぷりの態度もなかった。

 

ただ、泣き腫らした顔の小さな少女が、そこに立っていた。

 

南原さんの母親が、真っ先に駆け寄った。

 

「ソラちゃん……!」

 

彼女は、ステラを抱きしめた。

 

その瞬間だった。

 

ステラが、声を上げて泣き始めた。

 

それまで必死に堪えていたものが、堰を切ったように溢れ出した。

 

「……っ、う……っ、うわぁぁ……!」

 

ジーミーも、ステラの服を握りしめた。

 

南原さんの父親が二人を抱き寄せる。

 

「大丈夫だ。大丈夫だからな」

 

会議室は、たちまち混乱に包まれた。

 

南原家の両親は、二人を抱きしめている。

 

南原さんも泣きそうな顔でステラの背中を撫でている。

 

ライアンは困ったように立ち尽くし、ヨークシャー将軍は深々と息を吐いた。

 

そして、意外なことに、編入生の両親まで涙ぐんでいた。

 

彼らもまた、自分の子供が何を抱えているのか、十分に分かっていたのだ。

 

ステラを許せないという感情。

 

それでも、目の前で泣いている少女を見てしまったこと。

 

そして、自分たちの子供が、今後この少女と同じ学校で生活していかなければならないこと。

 

それぞれの思いが交錯し、しばらくは誰もまともに話せなかった。

 

やがて、ステラは少しずつ泣き止んだ。

 

南原家の母親に抱きしめられたまま、ぽつりぽつりと話し始める。

 

「……今の話を聞いて……分かったんだよ……」

 

声は、まだ震えていた。

 

「私が……探していたもの……」

 

言葉が途切れる。

 

「分かっていたんだ……。でも、手が届かないって……そう思って……ずっと、見ないようにしてたんだ……」

 

ステラは、顔を伏せた。

 

「……だから、分かったら……涙が止まらなくなっちゃった……」

 

誰も、すぐには返事ができなかった。

 

彼女が何を探していたのか。

 

本当は、何を欲しがっていたのか。

 

それは、特別なものではなかった。

 

帰る場所。

 

自分を叱ってくれる人。

 

何かを失敗しても、もう一度やり直せる場所。

 

そして、自分が誰かを守るだけではなく、自分自身も守ってもらえること。

 

ステラは、ジーミーを育てることで愛情を知った。

 

ライアンとの関係を通して、甘えたり、叱られたりすることを覚えた。

 

南原さんたちとの交流によって、自分が誰かに可愛がられることも知った。

 

それでも、自分が誰かの娘になれるとは、考えられなかったのだろう。

 

自分の正体が分からない。

 

普通の人間とは違う。

 

自分が持っている力は、あまりにも大きすぎる。

 

そんな自分が、普通の家庭に入ってよいはずがない。

 

心のどこかで、そう思っていたのかもしれない。

 

南原家の父親が、静かに口を開いた。

 

「……なあ、ソラちゃん」

 

ステラが、顔を上げる。

 

「もし、君たちがよかったら……二人とも、うちに来ないか?」

 

ステラは、目を見開いた。

 

「……え?」

 

「私も、妹と弟が欲しかったの」

 

南原さんが、少し照れたように笑った。

 

「ステラみたいな妹と、ジーミーみたいな弟。ずっと、いいなって思ってたんだよ?」

 

「……南原さん……」

 

ステラの声が震えた。

 

ジーミーも、顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。

 

「……本当に……いいの?」

 

ステラが、何度も確かめるように尋ねた。

 

「私たち、本当に……いいの?」

 

「もちろんだ」

 

南原家の父親は、二人をもう一度抱きしめた。

 

「今日から、家族が増えるんだ。そう考えてもいいだろう?」

 

ステラは、答えられなかった。

 

ただ、ジーミーと一緒に、再び泣き始めた。

 

### 新しい家族

 

「……本日は、ここまでにしましょう」

 

しばらくして、ヨークシャー将軍が告げた。

 

「また日を改めて、話し合うことにします」

 

今回の問題が、これで完全に解決したわけではない。

 

編入生の子供たちが抱える感情も、ステラとジーミーの心の問題も、これから時間をかけて向き合っていかなければならない。

 

それでも、一つだけ、確かなことがあった。

 

ステラとジーミーには、新しい居場所ができるかもしれない。

 

会議が終わり、帰り際。

 

ライアンは、南原家の両親に深々と頭を下げた。

 

「……こいつらのことを、お願いします」

 

普段の彼からは考えられないほど、真剣な声だった。

 

「もちろんです」

 

南原家の父親は、力強く頷いた。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

ライアンは顔を上げると、ステラとジーミーを見た。

 

「お前ら。ちゃんと、ありがとうと言うんだぞ」

 

「……ありがとう」

 

「ありがとうございます……」

 

二人は、まだ泣き腫らした顔で頭を下げた。

 

「よし。それじゃあ、今日は家に帰ろう」

 

南原家の父親が、明るく言った。

 

「今日は、新しい家族ができたお祝いだ!」

 

「……本当に、いいの?」

 

ステラが、もう一度尋ねた。

 

南原家の父親は、笑った。

 

「何度でも言うぞ。いいんだよ」

 

そして、ステラとジーミーを両腕で抱き上げた。

 

「さあ、帰ろうか!」

 

「……!」

 

ステラは、父親の首にぎゅっと抱きついた。

 

ジーミーも、反対側からしがみつく。

 

「あらあら、甘えたさんが二人もいるわね」

 

南原家の母親が、微笑んだ。

 

「お父さん、そのままじゃ歩けないわよ。どちらか、こっちにいらっしゃい。抱っこしたげましょう」

 

「……えっ?」

 

ステラは、きょとんとした。

 

それから、遠慮がちに母親へ手を伸ばす。

 

「……いいの?」

 

「もちろんよ」

 

母親は、ステラを抱き寄せた。

 

ステラは、再び母親にしがみついた。

 

その様子を見ていた南原さんが、くすくすと笑った。

 

「殴られたら、可愛い妹と弟ができちゃった。私、得したわね♪」

 

その言葉に、ジーミーが笑った。

 

ステラも、涙を拭いながら笑った。

 

新しい家族ができた。

 

その事実が、二人にはまだ信じられなかった。

 

### 南原家の新しい生活

 

後日、南原家には、ステラとジーミーもゆったりと暮らせる広さの官舎が与えられた。

 

周辺の配置も、特別なものになった。

 

隣にはヨークシャー将軍の官舎。

 

その隣には、ライアンの官舎。

 

斜め後ろには吉田チーフ。

 

そして、真後ろには廃材屋のお兄さんの住居が配置された。

 

ステラが大切にしている人々を近くに集め、互いに守りやすくするためだった。

 

周辺では、機械化兵による二十四時間体制の巡回と警戒が行われる。

 

さらに、中隊規模の護衛部隊が待機する施設が周辺に設けられ、勤務地や学校の周囲にも小隊規模の待機所が配置された。

 

圧倒的なVIP待遇である。

 

ただし、当のステラは、その警備体制よりも新しい家のほうが気になっていた。

 

家族としての手続きが進み、二人は南原家の養子となった。

 

新しい家族の名前は、こうなった。

 

- **南原義雄**――父

- **南原美佐江**――母

- **南原美咲**――長女

- **南原ソラ・ステラ**――次女

- **南原ソラ・ジーミー**――長男

- **南原静香**――三女

 

ステラは、何度も自分の新しい名前を口にした。

 

「……南原、ソラ・ステラ……」

 

「そうよ。あなたの名前よ」

 

美佐江が笑った。

 

「……えへへ」

 

ステラは、照れくさそうに笑った。

 

その笑顔は、いつもの人をからかうようなものとは違っていた。

 

### 二週間後

 

あれから二週間。

 

南原家の兄弟姉妹たちは、引っ越しや新しい環境に慣れるためという名目で、家でごろごろと過ごしていた。

 

もちろん、ステラとジーミーも例外ではない。

 

学校から帰ると、居間でくつろぐ。

 

休日には、家族で食事をしたり、買い物に出かけたりする。

 

ステラは、何かにつけて美佐江に甘え、美咲にからかわれ、静香にまとわりつかれた。

 

ジーミーも、義雄に遊びに連れ出されたり、美咲に面倒を見てもらったりしていた。

 

二人にとっては、初めて経験することばかりだった。

 

もちろん、ステラが新しい家庭に入ったからといって、性格まで別人になったわけではない。

 

むしろ、安心して甘えられる場所を手に入れたことで、遠慮がなくなった部分もあった。

 

その結果。

 

隣のライアンの官舎には、ステラがたびたび押しかけるようになった。

 

吉田チーフのところにも行く。

 

廃材屋のお兄さんのところにも行く。

 

以前からの知り合いである彼らに、今まで以上に遠慮のないウザ絡みを仕掛けるようになったのである。

 

「お兄さん、遊びに来たよぉ♪」

 

「……またか!」

 

「暇なんだよねぇ♪」

 

「家で遊んでろ!」

 

「えーっ! お兄さんと遊びたいんだよぉ♪」

 

「……ウザさ四倍かよ!」

 

その一言に、すべてが集約されていた。

 

新しい家族ができた。

 

甘える相手も増えた。

 

帰る場所もできた。

 

そして、ステラの周囲は、以前よりもずっと騒がしくなった。

 

彼女が本当の意味で人間と同じ心を持つようになったのかは、誰にも分からない。

 

それでも、彼女が誰かに甘え、叱られ、笑いながら帰っていける場所ができたことだけは、確かだった。

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