――あれから半年。
「…………」
ステラは、自宅のテーブルに突っ伏していた。
不機嫌である。
ものすごく。
理由は単純。
**お金がない。**
「……失敗した」
半年前。
賞金稼ぎの仕事は、結構な頻度で舞い込んできた。
機械化トーチカ。
人型戦車。
危険な犯罪者。
軍用兵器。
その他いろいろ。
おかげで、そこそこまとまった金が手に入った。
そしてステラは――。
調子に乗った。
「このパーツ、いいなぁ」
「こっちも欲しい」
「おお、こんなのまである!」
「……買っちゃえ♪」
趣味に散財。
それはもう、見事なまでに散財した。
結果。
現在。
「…………お金がない」
大事なことなので、もう一度。
「お金がない!」
しかも。
半年前とは状況が違う。
最近、来る依頼はというと――。
『近所の八百屋さんの一日店員をお願いします』
『逃げたペットを探してください』
『酔っ払いの保護を……』
「…………」
金にならない。
いや。
正確には、少しはもらえる。
だが。
ロボットの部品を買うには。
**まったく足りない。**
そして、見るに見かねたジーミーが――。
「姉さん。俺、コンビニで働く」
と言い出した。
「…………」
ステラは止めた。
止めたのだ。
姉として。
ちゃんと止めた。
だが。
ジーミーは働き始めた。
「…………」
姉として情けない。
そして。
ちょっと悲しい。
家の中で、不貞腐れるステラ。
「ロボット弄りたい……」
ごろり。
「新しいパーツ欲しい……」
ごろごろ。
「もっと大きい工具も欲しい……」
ごろごろごろ。
そこで、ふと思いついた。
「……廃材屋でも覗きに行くか」
立ち上がりかけて――。
止まった。
「…………」
思い出した。
「……つけの支払い」
再び座った。
「…………」
行けない。
行きづらい。
非常に行きづらい。
となれば――。
「……人間?」
ステラは顎に手を当てた。
「こんな時は、ろくなことを考えないものだねぇ」
暇つぶし。
憂さ晴らし。
上手くいけば――。
お金も手に入る。
「……よし」
ステラは立ち上がった。
「スラム街に行こう」
この町でも、特に危険だと言われる場所。
通称――。
**スライム街。**
「どうせなら……」
ステラは、クローゼットを開けた。
「襲われやすい格好でもしてみようかね」
しばらく探す。
「あった」
町に来たばかりの頃。
まだ右も左も分からず。
悪い連中に騙されて、危うく働かされそうになった時に用意させられた服。
ずっと処分せずに残っていた。
「ふふん」
着替える。
「ヨシ」
鏡を見る。
「これなら、バカな下等生物が寄ってくるはずさ」
本人は大満足だった。
「ふふん♪」
――ただし。
第三者から見れば。
背伸びした大人の服装を身につけた、どう見ても年少の少女。
しかも、本人だけが「完璧」と思っている。
なんとも言えない姿だった。
なお。
この時のステラを撮影した写真は――。
後日。
軍のステラ監視班から廃材屋の兄さんへ大量に回ってくることになる。
もちろん。
兄さんは――。
「…………」
写真を見る。
「…………ぷっ」
笑った。
そして。
「いや、これは……」
しばらく笑いを堪えられなかった。
ステラ自身、軍に監視されていることは知っていた。
写真を撮られていることも知っていた。
だが。
「まあ、悪いことじゃないし」
と放置していた。
後になって。
さすがにデータを消そうとした。
しかし。
「……届かない」
軍の深部にあるデータ。
複数のバックアップ。
独立した記録媒体。
そして、ステラ自身がまだ把握していなかった軍のネットワーク。
すべてを消すことはできなかった。
この一件をきっかけに。
軍は逆に――。
ステラの電子戦能力の一端を確認することになる。
そして後に。
対策が研究されることとなった。
本人は。
そんなことになるとは知らない。
――いや。
たぶん。
知ったところで。
「へぇ」
で終わる。
そんな少女だった。
◆
「…………」
そして。
現在。
警察署の一室。
ジーミーは顔を真っ赤にしていた。
怒り。
恥ずかしさ。
情けなさ。
全部入りである。
隣にはライアン警部。
さらに、その隣には婦警。
二人とも――。
困惑していた。
何と言えばいいのか分からない。
そして当の本人は。
「早く帰って蕎麦食べようかなぁ」
あっけらかん。
「今日はご馳走が食べられるよ」
お気楽。
「…………」
ジーミーの額に青筋が浮いた。
事の発端は。
スラム街を警ら中だったパトロール隊からの連絡だった。
『騒ぎです!』
『場所はスラム街!』
『虎の会の本部ビルからです!』
それを受け。
市警本部からライアン警部指揮下の部隊が急行。
よりにもよって。
スラム街でも特に危険だと評判の――。
マフィア組織。
**『虎の会』本部ビル。**
そして現場に到着してみれば。
「きゃはははは!」
楽しそうな笑い声。
何かが吹き飛ぶ。
さらに別の何かが倒れる。
爆発音!
「おらおらぁ!」
銃撃音!
そして――。
「…………」
ライアンは固まった。
そこには。
楽しそうに笑いながら『虎の会』の構成員を次々と、のしているステラがいた。
「…………」
「…………」
「…………」
警官たちが沈黙する。
ステラが振り返った。
「あっ、警部!」
にこっ。
「ちょうどよかった♪」
そう言って。
ステラは、人の背丈ほどもある金庫を指差した。
「これ、今ちょうど警部のところに持っていこうとしていたのさ」
「……それは?」
「『虎の会』の悪事が詳しく載った書類」
ライアンは眉をひそめた。
「どうしてお前が持っている」
「私が勝手にやったことだし」
ステラは胸を張る。
「違法捜査にはならないでしょ?」
お金欲しいなぁ♪
「…………」
「それに私、連れ込まれて――」
一拍。
「いかがわしいことされかけた被害者だし?」
「…………は?」
ライアンは、周囲を見渡した。
倒れている男。
倒れている男。
倒れている男。
血まみれの男。
武器を持った男。
そして。
その中央に立つ。
**妙に元気なステラ。**
「……どっから見ても、被害者はあちらに見えるが?」
「えっ!」
ステラは本気で驚いた。
「警部、目が悪いの?」
「…………」
「ここにいるのは――」
ステラは自分を指差す。
「被害者の美少女だよ!」
そして倒れている男たちを指差す。
「あっちは、どっから見ても凶悪そうなマフィア!」
「…………」
「見て!」
ステラが指差す。
「あいつら武器持ってる!」
「うん」
「それに引き換え、私は素手だよ!」
「うん」
「大丈夫?」
「何がだ」
「もう一度言うよ!」
ステラは満面の笑みで。
「被害者は――」
胸を張る。
「**わ・た・し♪**」
「……言葉だけならな!」
ライアンが頭を抱えた。
「お前は返り血で真っ赤かでピンピンしている!」
ステラを見る。
「向こうは血だらけで、ほとんど意識を失っている!」
そして。
「どちらが加害者か分からんな!」
「…………」
「署まで来てもらおうか」
「えー」
「えー、じゃない」
ライアンは警官たちを見る。
「おい! 無駄だと思うが――」
一拍。
「機械化兵用の手錠をこいつに掛けて、署まで連れていけ!」
「了解!」
警官が二人がかりでステラの腕を後ろに回す。
そして。
通常の人間なら両腕ごと拘束できるほどの巨大な拘束具を装着する。
「……」
ステラは拘束具を見る。
そして。
ちらり。
ライアンを見る。
何か。
悪戯を思いついた顔。
「警部!」
「なんだ」
「こんなんじゃ、私を大人しくはできないよ?」
「…………」
バキッ。
金属音。
次の瞬間。
拘束具が――。
**あっさりと砕けた。**
「ネッ!」
ステラはニコニコ。
それはもう。
最高に邪悪な笑顔だった。
「…………」
拘束具を持っていた警官の顔が引きつる。
「お前……」
震える声。
「Sクラス用に開発された物を……」
警官は完全に怯えていた。
あり得ない!
機械化兵でも人の形を模している以上は力の入る方向はどうしても人と一緒だ、後ろ手に拘束されては力が入らず外れるはずが無いのだ。
もし、この力で暴れられたら。
自分など。
ひとたまりもない。
無意識に。
手が腰の拳銃へ伸びる。
その動きを。
ステラはしっかり見ていた。
そして。
警部に最高の笑顔を向ける。
「ねっ!」
警官が固まる。
け・い・ぶ♪
「一緒に帰ろうね!」
「…………」
完全に負けた。
こうして。
ライアンはステラとの間で、帰り道、現実的な落としどころを探した。
署まで来る。
事情を説明する。
シャワーを借りる。
服を借りる。
簡単な事情聴取を受ける。
そして。
ジーミーを呼ぶ。
――それが。
現在の状況である。
◆
「うん?」
ステラはジーミーを見る。
「かなりの激おこだねぇ」
「…………」
ジーミーは無言。
「警察まで来てもらって正解だったねぇ!」
にこにこ。
「ヨシ」
ステラはライアンを見る。
視線で訴える。
――あとは任せた。
ライアンは。
「……!」
ハッとした。
そして。
突然。
にやり。
「……そういうことか」
ライアンは婦警を見る。
「この場は二人にしよう」
「え?」
「俺たちは外に出る」
婦警も事情を察したらしい。
二人は立ち上がった。
部屋を出る。
そして最後。
ライアンはステラを見る。
ステラも。
最高の笑顔。
「警部!」
ライアンは振り返らなかった。
そのまま扉を閉める。
「あっ!」
ステラが立ち上がる。
「「けいぶ」――」
しかし。
ガシッ。
「…………」
ジーミーに捕まった。
「え?」
「座れ」
「はい」
その日の夜。
いや。
朝まで。
ステラは。
泣きながら説教されることになった。
「許さんぞ!姉ちゃん!」
「はい……」
「なんであんな格好でスラム街に行くんだ!」
「はい……」
「なんでマフィアの本部に一人で乗り込むんだ!」
「はい……」
「なんで警察に連れていかれてるんだ!」
「はい……」
ステラは正座。
ジーミーは涙を流しながら説教。
そして。
ステラは思った。
「……警部め」
と。
「弟に泣かれて説教されるなんて……」
少しだけ。
胸の奥が温かくなる。
「……本物の兄弟みたいじゃないか?」
怒られているのに。
なぜだか。
嬉しかった。
ステラは、こっそり笑う。
そして――。
「……まあ」
明日は。
蕎麦でも奢ってやろう。
そう思った。
たぶん。
それで機嫌は直る。
たぶん。
「おあとがよろしいようで。」
エサ
あの事件から、数日。
町では、ひとつの事件が妙な形で噂になっていた。
スライム街にあるマフィア組織――『虎の会』。
その本部が壊滅した。
警察が踏み込んだ時には、構成員のほとんどが倒れていた。
武器は散乱。
金庫は持ち出され。
内部資料まで押収された。
そして。
犯人は――。
「…………」
廃材屋の兄さんは、店の奥で一枚の写真を見ていた。
写真に写っているのは。
笑顔の少女。
ステラ。
「…………怖いな」
ぽつり。
彼はそう呟いた。
もちろん。
腕力が怖いわけではない。
銃弾が効かないことが怖いわけでもない。
あんなもの。
とっくに知っている。
扉を素手で引き剥がす。
機械兵器を玩具のように扱う。
光学迷彩で姿を消す。
電子機器を自在に弄る。
核兵器級の爆発の中心に立っていた。
今さら。
マフィア数十人を叩き伏せた程度で驚くものではない。
兄さんが恐れているのは。
もっと。
ずっと。
日常的なものだった。
たとえば。
ステラは、よく笑う。
よく喋る。
ロボットの話になると子供みたいに目を輝かせる。
蕎麦を食べれば「おいしい」と言う。
ジーミーが心配なら、本気で心配する。
怒れば怒る。
拗ねれば拗ねる。
眠れば寝言まで言う。
――完璧だ。
人間にしか見えない。
だからこそ。
怖い。
兄さんは、以前から何度も思っていた。
**あれは、本当に「人間らしい」のだろうか。**
人間なら。
危険な場所へ入る前に、一瞬くらい足が止まる。
殴られれば痛い。
銃を向けられれば怖い。
誰かを傷つければ、手が震える。
取り返しのつかないことをすれば、眠れなくなる。
大切なものを失えば、立ち直るまで時間がかかる。
それが。
人間だ。
少なくとも。
兄さんはそう思っている。
だが。
ステラには、それがない。
いや。
正確には――。
**あるように見える。**
そこが。
一番気味が悪かった。
たとえば。
ステラは危険な場所に入る時、怖がる。
「ちょっと怖いねぇ」
そう言う。
だが。
その直後には笑っている。
まるで。
「怖い」という感情を確認しただけで。
それ以上の意味を持たせていない。
銃を向けられても。
「危ないねぇ」
で終わる。
仲間が傷つけば怒る。
だが。
怒りに任せて我を忘れることはない。
逆に。
楽しそうな時は。
普通の少女よりずっと無邪気に笑う。
だから。
兄さんには。
彼女の感情が偽物だとは思えなかった。
むしろ。
**本物なのに、人間のものとは少し違う。**
そんな感覚だった。
それは。
長く見てきた人間にしか分からない。
ほんのわずかな。
「間」だった。
悲しい話を聞いた時。
普通なら。
一瞬、顔が曇る。
ステラは。
曇る。
だが。
その次の瞬間には。
もう別のことを考えている。
誰かが怒っている時。
普通なら。
自分まで緊張する。
ステラは。
相手がなぜ怒っているのかを理解して。
必要なら怒った顔をする。
でも。
その怒りに飲み込まれてはいない。
まるで。
自分の中にある感情を。
**一歩外側から見ている。**
「…………」
兄さんは写真を見る。
笑っている。
いつものステラだ。
なのに。
今は。
その笑顔が怖かった。
彼女には。
人間が持っているはずの「無意識の制限」がない。
ここから先は怖い。
ここから先はやめておこう。
これはやりすぎだ。
相手が死ぬかもしれない。
自分も死ぬかもしれない。
そんな。
考えるより前に働く何か。
そういうものが。
彼女には薄い。
あるいは。
最初から存在しない。
だから。
兄さんはふと。
嫌な想像をしてしまった。
――もし。
ステラが。
「人間として振る舞うこと」を。
全部、自分で選んでいるだけだったら?
笑う。
怒る。
悲しむ。
心配する。
眠る。
食べる。
誰かを好きになる。
そういうものを。
彼女が一つ一つ理解して。
「人間とはこういうものだ」
と再現しているだけだったら。
なら。
その「人間らしさ」を。
やめることもできるのではないか。
「…………」
兄さんの喉が鳴った。
それは。
超高性能な機械を見る恐怖とは違った。
もっと根本的な。
**人間のふりをしている何かを、ずっと人間だと思って接していたかもしれない。**
その恐怖だった。
そして。
虎の会の事件が。
その考えを。
初めて現実的なものにした。
ステラは。
怒っていなかった。
復讐したわけでもない。
誰かに恨みがあったわけでもない。
ただ。
暇だった。
金がなかった。
ロボットの部品が買えなかった。
だから。
危険な場所へ行った。
そして。
暴れた。
それだけ。
それだけなのだ。
だからこそ。
怖い。
もし彼女が。
明確な悪意を持っていたのなら。
まだ分かる。
怒りなら。
鎮めればいい。
憎しみなら。
話し合えばいい。
恐怖なら。
逃げればいい。
だが。
暇だから。
という理由だったら。
どうすればいい?
もし。
次に彼女が退屈した時。
近くにいるのが。
自分たちだったら。
「…………」
兄さんは立ち上がった。
そして。
軍へ連絡した。
◆
その日。
軍に送った報告は短かった。
たった一行。
**『観測対象の鬱憤晴らしが、周辺人物へ向く可能性を考慮されたし』**
それだけ。
だが。
送信ボタンを押した兄さんの手は。
わずかに震えていた。
彼自身。
その文章を書きながら。
別のことを考えていた。
――違う。
本当は。
もっと怖い。
ステラが自分たちを襲うことではない。
もし。
彼女が。
自分たちを傷つけてしまったとして。
そのあと。
「ごめんね」
と笑ったら。
自分は。
その笑顔を見て。
**本当に「反省している」と思えるのか。**
それとも。
それすら。
人間らしく見せるためのものなのか。
「…………やめよう」
兄さんは首を振った。
考えすぎだ。
ステラはステラだ。
何年も見てきた。
ジーミーを心配して。
自分をからかって。
ロボットを作って。
蕎麦を食べて。
笑っている。
それだけだ。
それだけ。
――そう。
思いたかった。
だからこそ。
兄さんは。
軍から届いた次の暗号通信を見て。
背筋が冷たくなった。
**『近く、対ステラ作戦を実施する』**
彼は。
画面をしばらく見つめ。
「…………馬鹿野郎」
呟いた。
だが。
その言葉は。
軍に向けたものなのか。
ステラに向けたものなのか。
自分自身に向けたものなのか。
兄さんにも分からなかった。
ただ。
ひとつだけ分かる。
軍は。
ステラを。
「危険な少女」だと思っている。
だが。
兄さんは違う。
彼が怖いのは。
ステラが危険だからではない。
**危険という概念そのものを、人間とは違う形で理解しているかもしれないこと。**
そして。
そんな存在が。
今日も朝になれば。
「お兄~さん♪」
と笑顔で店に入ってくることだった。
その翌朝。
「お兄~さん♪」
「…………」
来た。
いつも通り。
満面の笑み。
何も知らない少女のように。
いや。
もしかしたら。
何も知らない「ふり」をして。
「おはよう!」
ステラは笑った。
兄さんは。
その笑顔を見て。
ほんの一瞬だけ。
――どこまで知っている?
と。
考えてしまった。
そして。
次の瞬間。
バシッ!
「痛っ」
「これで付けを払えるさ!」
「…………」
バシッ!
「これで!」
バシッ!
「今度こそ!」
「ちょ、痛い痛い!」
いつものステラだった。
だから。
兄さんは。
余計に怖かった。
彼女が。
何も知らないのか。
全部知っているのか。
それすら。
見分けられない。
そして。
ステラは楽しそうに笑った。
「今、欲しいものがあるのさ!」
「……何だ?」
「『アームズコア』製AF34クラス!」
「…………」
「腕!」
両手を広げる。
「セットで欲しいんだよ!」
兄さんは。
その瞬間。
理解した。
――知っている。
少なくとも。
餌が撒かれたことは。
知っている。
そして。
その餌を。
怖がるどころか。
喜んでいる。
「これも払えるんなら――」
ステラはニッコリ笑った。
「サービスすると伝えて欲しいのさ♪」
「…………」
兄さんは。
何も言えなかった。
やがて。
ステラは出口へ向かう。
そして。
振り返った。
「じゃあねぇ」
満面の笑み。
「**ヨークシャー将軍、よ・ろ・し・く♪**」
扉が閉まる。
兄さんは。
しばらく動かなかった。
「…………」
やがて。
小さく呟く。
「……軍の連中」
そして。
「**お前ら、絶対に分かってないぞ**」
何を。
どこまで。
分かっていないのか。
兄さん自身にも。
まだ分からない。
ただ。
彼には。
一つだけ。
はっきり分かったことがあった。
ステラは。
餌に食いついたのではない。
**餌を見つけて、喜んでいる。**
そして。
その餌の先に。
誰がいるのか。
彼女は。
最初から知っているのかもしれない。
「…………頼むから」
兄さんは。
誰もいない店内で呟いた。
「ほどほどにしてくれよ……」
もちろん。
そんな願いが。
聞き入れられるはずもなかった。
おあとがよろしいようで。