ヤオヨロ〜、彩葉の同級生であり友達の∩∇∩です! 作:Yuuzei
1話、彩葉のもう一人の友達
私、
が、悲しいかな。特筆して何かができるわけでもなく、自信をもてる特技もない。やはり、母に認めて貰うには最低限、東大には合格しなければならないだろう。母は、兄弟を養いながら京大に通った。同じ遺伝子を受け継いだ私も、そのくらいはできて然るべきだと思う。
でも、母と比べて今の自分は圧倒的に経験と実績が不足しているのは事実。なので、今日も気張っていかなきゃなと気合いを入れ直すこの頃なのだった。
隣の席には、うーんと背伸びをして呑気にあくびを噛み殺している少女がいるのだが、だからといって私がサボっていい理由にはならない。まだ今日の授業の予習が終わってないから、朝の空き時間に終わらせないと。
「ねぇ、彩葉? 今から予習するの?」
隣に座る彼女が、彩葉に声を掛けた。こちらを向く彼女のパールホワイトの艷やかな髪と、淡いピンクのグラデーションがよく似合っている。彩葉を見つめる空色の瞳は思わず引き込まれるほどに美しく、その端正な顔立ちも相まって美少女を体現したかのような風貌である。
彩葉の友達の
当然ながら彼女、
誰なのか凄く気になって、私や芦花は千代を問い詰めたこともあったけど、結局はわからずじまいだった。いつか千代が、その運命の人を紹介してくれる日が来たら嬉しいな。
だが、その声色にはかすかに、心配の気配を孕んでいた。たとえるなら、娘の体調を案ずる母親のような気遣いの言葉。そのように思えた。
「うん、今日は古文の現代訳しとかないとだから」
「そか。じゃあ、はいこれ!」
そういって、千代が手渡したのは古典のノートだった。語句の意味調べや品詞分解、現代訳まで要点がわかりやすくまとめられているもの。それが彩葉の手に渡る。
「ありがたいけど、こういうのは───」
「てもね、彩葉。独り暮らししてバイトもして勉強まで全部完全にこなすのは流石に無理あると思うよ。彩葉はホントに十分頑張ってるんだし、ちょっとはズルしちゃってもいいんじゃない?」
「あまり否定できないけど───」
結局のところ、暫しの間の葛藤があった末に彩葉が折れた。千代は、考え込んでいる彩葉の表情が二転三転する様子を横目で眺めながら微笑む。
「──わかった、ノートちょっと借りるね」
「かしこまりー。ありがとね、彩葉」
「いやいやいや、なんで千代が感謝するのよ。こちらこそありがと」
麗らかな春の陽射しを受ける2年棟の教室には、心地よい風が靡いていた。もうそろそろ、ゴールデンウィークの季節だろうか。
午前の授業を終え、昼食の時間となった。私たち4人は、昼休みは集まってご飯を一緒に取ることが習慣化していて、今日もこうして集合している。
4人というのは、私、
今後も同じ生活を続けられるように頑張らないと! と自分に喝を入れる。が、こちらをみる彼女たちの反応はあまりよくない。真実は、やれやれといわんばかりにため息をついてジト目だし、芦花と千代は心配そうに、顔を僅かに歪めている。
みんなの目には、私が危なかっしく映っているようだった。そんなに子供っぽいかな、私? でも、友達に迷惑掛けちゃってるわけだし、なんとか改善したいなぁ。
しかしそのために頑張ろうとしたところ、逆にみんなの心配が加速した
そのように、少し考え事をしていたからだろうか。手元にある弁当の中身を凝視して怖い顔をしている千代に気づくのに一歩遅れたのは、普段から酷使して疲労が溜まりに溜まっている私の脳が原因なのだろう。
「彩葉〜?
千代の顔は貼り付けたような笑顔で彩葉に有無をいわせぬ圧を醸している。また、あとから私の弁当を一瞥した芦花、真実の顔が僅かに歪む。
「あの、みなさん聞いてください。これには訳があって───」
「知ってる」
「察したよ」
「いつものだねぇ〜」
無慈悲にも、彩葉の言い訳は詠唱キャンセルされてしまう。このような荒んだ食生活は彩葉自身の問題なのだが、色々とあった結果この話題において当の本人は発言力を失っている。そもそも3対1で人数不利なので、端から彩葉が押し切られることも多かったのだが。
「でもね、彩葉。流石に食べ盛りの高校生がその量はちょっとどうかと思うよ」
「私もそう思うな」
「流石にこれはね」
「ぐぅッ」
いつも彩葉のことを案じている千代や、食事には何かと口酸っぱく注意してくる真実はともかく、彩葉の意見を尊重してくれる芦花でさえも今回ばかりは向こう側についてしまった。彩葉的にこの状況はかなりマズい。というのも、彩葉が普段は断っている様々な申し出をいよいよ拒めなくなるからだ。
「ねぇ、今日という日は流石に受け取ってもらうから」
そういって、こちら側に千代が差し出してきたのは惣菜コーナーで販売されている菓子パンの類。とある大手コンビニのロゴがパッケージに印刷されていることから、コンビニパンであることが読み取れる。
「ほら、手ぇ出してよ」
「承りました──」
あくまで軽い口調を意識しているようであるが、明らかに圧を感じる声色と貼り付けたような笑顔*2で話し掛けてくる千代に負けてしまう憐れな彩葉。
手渡されたパンはスイーツ系だけでなく主菜になりそうな具材が載ったものもあった。てか、それがいくつかあるせいで、彩葉の持参した弁当が脇役みたいになっている。
「たんとお食べなさい、彩葉よ」
「ははぁー、ありがたき幸せ」
「なんていうか、上下関係がはっきりしてきたね」
「こういうときの彩葉はチョロいからねぇ」
な、なんだってー?! 流石にそれは違うよ真実。私はチョロくなんてない。確固たる意思をもってますから。
「いや、私はチョロくないから!」
「へー。そうなんだ、ちょろ葉」
「知らなかったなぁ」
「自覚なしとは恐ろしい──」
「いや、ちょろ葉いうなし。人の名前で遊ばんといてや」
不服申立てを行う私であるが、この流れが既に定番の茶番的な部分もある。だから、次の言葉もお決まりのやつである。でも、私がチョロいっていうのはまだ納得してないから!
「でも、本当のことだし──」
「客観的事実を述べたまでです」
「ちょろ葉───いとかわゆし」
一人だけ湿度が高い気がしないでもないが、この返しもいつもの恒例行事。きっと勘違いだから深くは考えないでおこう。てか、午後は小テストあるから対策しなきゃだし、今は学業のことを考えないと───。
私が住んでいるのはボロアパートの賃貸だ。風呂やエアコンは一応備え付けられているが、それ以外は何もない。そもそも、無駄な電気代が掛かるからエアコンはつけられないし、あってないようなものだけど。
そして、私の隣人は同級生の友達である。名を夜月千代となむいいける。どうやら、彼女も色々ワケがあるらしく、こうしてボロアパートに住んでいるそうだ。
深くは聞いてないから、詳らかなことはわからない。人の事情にはいかに心を許した友といえども、簡単に共有できないのだ。
むしろ、親しき仲にも礼儀ありという言葉があるように、同級生であろうと隣人であろうと友達であろうと、超えてはならない一線というのは確かに存在するのだろう。この表現が適切かはわからないが、つまりはそういうことである。
相手の事情に深く入り過ぎてしまえば、今の関係が崩れてしまうかもしれないし、第一、私自身に余裕がないのだ。だから、私も千代も互いに踏み入り過ぎることはない。
それはそうと、部屋に招いたり招かれたりという機会はしばしばあって、一緒に勉強したりゲームしたりヤチヨの配信をみたりして過ごす。今日もそういう日だった。
「イロ、前方右に敵接近!」
「オーケー、ちゃんと処理しとく!」
シャキン、といかにも斬撃っぽい効果音と共に敵を薙ぎ倒す。いやはや愉快爽快! 何年もこのKASSENというゲームをプレイしているだけあって、腕もかなりのものだという自負がある。たとえるなら、中の上。平均よりちょい上くらい。
大量の雑魚敵が迫ってくるのだが、プレイヤーにとってそれらはウルトを溜めるエネルギー源に過ぎない。被弾なく進んでボスを撃破ッ!
やっばりストレス解消にはゲームが有効だと思う。勝てたときの達成感は一塩。KASSENは現実に凄く近い造りになっているから、あたかも現実でなにか成し遂げたみたいに錯覚してしまう。
「やるねぇ、イロ!」
「いやいや、それほどでもありますよぉ」
「あるんかい!」
私の腕を褒めているけど、千代はサポート型だから目立ってないだけでKASSENの腕は実際のところ、かなりのものだと思う。でも、ちょいちょいバグをみつけて挙動がおかしくなるのは、どうにかならないのかなぁ。
「でも、チヨも隠れてるだけで実はゲームの才能あるでしょ?」
「まぁ、それほどでもありますがねぇ」
「うん、やっぱないよn───いや、認めるのかよ」
「もういいかなって。というか、褒めて褒めて」
ぴょんぴょんと飛び跳ねているその仕草は、そこはかとなく私の推しの御姿を想起させるのだが、千代もといチヨのアバターはあまりヤチヨっぽさがない。現実のほうが全然ヤチヨみたいな風貌してるんだよね。
ツクヨミでの彼女は、一つに纏めた黒髪に可愛らしいヘアピンを付けた装い。身長はかなり低めで、淡い水色のパーカーをそれとなく着こなしている。
「うーん、チヨはどう褒められたい?」
「そうだなぁ」
千代はうーん、とこめかみに人差し指をあてて考える素振りをみせた後に、ふざけてるときの顔になる。
「お前の苦労をずっと見ていたぞ、本当によく頑張ったな? 遂に我慢が報われ莫大なとm───」
「まって、完全詠唱はしなくていいから」
「オンドゥルルラギッタンディスカー!!」
千代の悪ノリにスイッチ入れちゃったかなぁ、これ。ヤチヨの影響からか、千代もネットミーム大好き人間になったみたい。ちなみに、千代のこの状態を解除するのは結構大変なので、停止の合図が前もって存在している。
「33-4(ボソッ)」
「なんでや!阪神関係ないやろ!」
まぁ、それもネットミームなのだけど。
「落ちついた?」
「さようです」
「にしても。チヨはミーム好き過ぎじゃない? 私もヤチヨの影響である程度は把握しているつもりだけど、たまにめっちゃ古いネタとか出してくると反応に困るというか──」
「ぬるぽ」
「? なにそれ?」
「ガッ(絶望)」
なんだろう? ぬるぽって。現実に帰ったら後から調べてみようかな。
こういった具合で私達は残り数試合ほどをこなし、満足したのでゲームの時間は切り上げることにした。スマコンを外し、ボロアパートの一室を目視する。
この後は夕飯を食べて、授業の復習をする予定だ。睡眠はまぁ、4。いや、3 時間もあればいいか。
私はショートスリーパーじゃないし、できるならたくさん寝れたほうがいいのだけど。その前に、やらなきゃならないことをしないと、逆に気になって寝付けない。だから多少無理をしてでも、私にとってはこれが効率的なやり方なのだ。
時間ないならゲームなんかするなって? 確かにド正論──。でも、ゲームで息抜きすることも大切だと思う私なのですよ。
『ピンポーン』
扉の方向からインターホンの電子音が響く。こんな時間に訪ねてくる人の心当たりは一人しかいない。千代だ。
なんの用だろう? さっきツクヨミで別れたばっかだし、伝え忘れたことでもあったのだろうか。でも、それならメールで済ませればいい話。生身で会わなきゃならない用事ってなんだろう。
思考を巡らせつつも、扉の方へ向かう。一応は鍵が掛かっているから、解除しにいかないといけない。そうして、ドアノブのとこに付いてるサムターンをくるっと回した。
「お隣さぁん、そうめんのお裾分けでーす」
扉を開けて開口一番そう言い放った千代の手元には、いくつかそうめんの入ったビニール袋が据えられていた。だが、季節感どうした? 今は春だよ?
「あ〜、うち間に合ってるんで。ダイジョブです」
「嘘はよくないと思うなー、彩葉。どうせ冷蔵庫の中はスカスカなんでしょ?」
それはそう。完全に図星なのだが、友達に我が家の冷蔵庫事情を把握されてるのってなんだか複雑な気持ち。てか、こっちに手渡そうとしてくるそうめんの量、ちょっと多すぎじゃない?
「ほら、俺のそうめんが受け取れねぇってのか?」
酒ハラならぬ、そうめんハラスメントとは。これまた斬新なアイディア──。あ、そうじゃなくて! とにかくこれ以上、千代に恵んでもらうのは駄目だろう。お昼も実質千代か賄ってくれたようなものだし。流石に顔向けできなくなってしまう。
「いやー、でもぉ───」
「ねぇ、ところで睡眠は取れてる? 今日はいつ寝るつもりなの?」
「えっと、これから寝るつもりで──」
「嘘」
「──はい」
「そうめん受け取るか、今すぐ寝るか。選んで」
「じゃあ、寝よっかなぁ」
「わかった、ちゃんと寝たのを確認するために部屋入るね。キッチン使うから」
「へ? ちょちょちょ、待って」
悲しいかな。千代は聞く耳をもってくれない。キッチンに立って鍋で湯を沸かし始めちゃったし。てかこれ、端から2択じゃなかった説ない?*3
千代はなにをいったところで帰ってくれなそうなので、仕方なく勉強道具を取り出して机に向かう。いや、千代のしてくれることは凄くありがたいし助かるのだけど、いたたまれない心持ちになるというか。せっかく親元を離れて一人暮らしをしているのに、結局誰かに頼ってしまうのは駄目な気がする。
「ちなみに、彩葉は並の高校生より遥かに凄いから。普通の高校生は独り暮らししないし、彩葉くらい頑張れっていうほうが、むしろ酷だよ」
「え、エスパー?」
「彩葉の考えてることって単純だから、わかりやすいんだよ」
そうなの? 私って単純だったんだ。
「その通り、ようやく自覚した?」
「やっぱり心読んでるでしょ! ここまでくると、千代がエスパーなんじゃない?」
「実は、わたくし千代。読心術を極めた家系のひとり娘でして」
「嘘おっしゃい」
そんなこんなで千代と軽口を叩きながらも、時間は進んでいく。私は勉強。千代はそうめんづくり。ん? そうめんをつくるにしては時間掛かり過ぎなのでは。なにか嫌な予感。
「あなたー、ご飯ですよ♪」
「いつ結婚したのよ、私達?」
「酷い───私との関係は遊びだったのね!?」
「んなことより、明らかにそうめんどころではない香りがするんですが」
「あー、わかっちゃうかぁ。にぶ葉のくせに」
「な、私は鈍くなんてないし」
「はいはい、ソウデスネー(棒読み)」
ジト目でこちらをみてくる千代。いつの間に着替えたのかエプロン姿でテーブルの向かいに座っている。そして、テーブルの上には予想通りというべきか、そうめん以外のラインナップが集結していた。
次回から原作の時間に追いつきます。楽曲コードのやり方をこれから理解しなきゃなので、投稿遅れるかも。