ダネルとマルコムもいて……マイアミロイアルナイツにあるまじき快進撃が続いた。
とはいえこれまでの成績もあってレギュラーシーズンでは上手くいかなかった。
アメリカの野球は大きく五段階に分けられる。
2月から3月頃の『春のキャンプ』。
3月から9月か10月まで行われる全30球団による『レギュラーシーズン』。
10月に行われるレギュラーシーズンを勝ち抜いた12球団による『ポストシーズン』。
10月の終わりか11月の頭の頃に行われるポストシーズンを勝ち抜いた代表による最終決戦『ワールドシリーズ』。
ワールドシリーズが終わってから春のキャンプまでが『オフシーズン』である。
レギュラーシーズンで成績の良かったチームは10・11月にポストシーズンで戦う。
ただレギュラーシーズンの段階で成績が悪ければその段階でオフシーズンになる球団もある。
追い上げはしたものの2勝足りず……レギュラーシーズンの段階でナイツのシーズンは終わった。優勝争いなんて考えようもない程遠い。
思えば色々あった。
カリビアンシリーズまでは絶好調だったが、アメリカに来て人間関係に悩んだ。タイラーはクズだし、チームメイトはよそよそしい。地球1周分ぐらいは車で移動した。
移動は人任せで良かったけど……こっちにはこっちの美味しいものがあってかなり食べた。クレアは2歳しか違わないのに子ども扱いして距離感が近いしマルコムはいつも無表情で何考えているのか分からない。
……あぁ、良い思い出も悪い思い出も巡ってくる。
数々の選手との対戦……強い選手が次々出てきて本気で勝負してくれた。
楽しかった。一球一球に「負けてたまるか」って気合を入れて……その人の積み重ねとぶつかってきた。
嫌な思い出の中にタイラーの顔がチラホラ、ストレスだったもんな。……今では呆れる出来事もあった。
「え?サードが……いない」
「トレードでな大丈夫大丈夫、そのうち来るって」
「いない間はどうすんの?」
「大丈夫大丈夫、誰かが代役するか……上が考えるだろ」
「……なんてチームだ」
契約の更新、考えることが多くある。
まだ分からないが自身の成績は良かった。ダネルが来るまでの大半は打たせるような投げ方もしたしイマイチな成績だったとは言え、後半は本気を出し切った。
先発から9イニングを100球未満かつ無失点で抑えきる『マダックス』。
球数に関係なく無失点で投げきる完封『シャットアウト』。
一本も安打を許さない『ノーヒットノーラン』。
1人として塁に出さずに完璧に抑えきる『パーフェクトゲーム』。
1イニング、3人の打者に対して3球三振の9球で抑える『イマキュレート・イニング』。
1試合27アウトのうち20を三振で抑えた場合『20奪三振』。
ダネルがいたからこその全部1度は達成した成果だ。
ナイツでの日々を改めて考えても……うん、終盤ダネルが来てくれて吹っ飛んだね。
野球を続けるとして、25歳ルールの範囲内で貰える金額は弱い球団ほど多い。そのためナイツよりも給料も条件も良い場所は他にはないだろう。どこの球団も契約金と年俸は最高金額を設定し、残りは待遇やボーナスで差をつけようと躍起だ。早々に景子ねーさんのもとには連絡が行っている。
とはいえ条件だけ考えればナイツとそう変わるものではないが……半年ぐらいはナイツで嫌な思いをしたのも確かだ。
そもそも嫌いな野球を続ける意味はあるのか?
野球をやろうと考えたのは母の治療費のためだ。
前世は過酷な人生だった。誰かに動かされるかのように前世の自分は過酷な道ばかり選んで……とにかく苦しかった。幼い頃は何度も夢に出てきたし、きっと母さんを困らせただろう。母さんを助けたかった。
でも今はどうだ?
予想以上の契約金をもらえた。10億円あれば、税金で半分持っていかれたとしても生涯年収は1-3億と聞いたことがある。残りの人生は山口で余生を過ごすって選択肢もある。
治療費だって高額になったとしてもそうかかるものじゃないだろう。ならやめたって良いはずだ。
キッズイベントに行って、何の成果も得られなかったら……会社に就職するか学生をやりながらアルバイトを掛け持ちするつもりだった。
日本に戻ってサラリーマンとして一生野球と縁のない生活をするって選択肢もある。
野球は嫌いだ。
でも拒絶するほどじゃない。嫌いな野球でも、全部が全部嫌いじゃない。
体を動かすのは心地良いし、仲間と一緒になにかするのも面白い。……静かにグローブの手入れする時間も嫌いじゃない。
なにより強い相手を倒すのは楽しい。対戦は好きだ。好きになっていた。
どうやって打つか、どうやって打ち取るか。考えて、その瞬間その瞬間の一球で勝負する。強い相手に勝てれば嬉しいし、負ければ悔しい。
嫌いな野球でも、全部が嫌いじゃない。今じゃ好きな部分の方が大きいかもしれない。
嫌なこともあった。
一条、飛行機、タイラー、キャッチャー共…………きっとこれからもそういう相手とは会うこともあるだろう。きっとムカついて、どうしようもないこともあるかもしれない。
それでも、許されるなら野球を続けたい。そう思えるぐらいには野球に夢中になっている。
やれるとこまで、どこまでも。
一応本編完結!少しでも楽しんで頂けたなら幸いです(*´ω`*)
こっからは数話蛇足つけるか迷ってます。掲示板会とおまけ。いらねって意見が多ければここで終わります。