習作:マブガル世界にTS転生した一般レイヴンのお話 作:ぱんそうこう
『頼んだぞ双頭の斧。私はここで終わるわけにはいかないのだ』
「はぁ……何を言うかと思えば。AD社の専務ともあろう方が自分のことばかり。小さい男」
『よく聞こえなかったが、何か言ったか?』
「いいえ、別に。それでは最後の依頼に取り掛かるわ。クライアント様」
随分と大胆な、というより無法なやり方をしてくる。仮にも表で立場のある人間が企業へ直接襲撃をかけるなんてどっちが無法者よ。
敵は4機の「フロンティア」、LOCの実験機ね。確かに性能ではあちらの方が上だけれど、機体の性能差だけが全てじゃない。数と質の差で私たちは勝つ。
気がかりなのはあの「イレギュラー」。柊校舎に属するアレがここに出てくる可能性は低いけれど……何をしでかすのか。
ブレード一本の「イレギュラー」に敗れたあの日から、万が一に備えてアレと戦うことを想定した訓練はずっと続けてきた。だからこそアレが如何に規格外なのか、身体で理解している。けれどあの程度は超えられなければ本懐は遂げられない。そう信じて戦い続けて、少しでも前より強くなった実感を得た。
もうあの時のような無様は晒さない。そう思って、接近する熱源反応を検知して、その方向を見ると。
見覚えのある、黒いMG。炎の翼を生やした黒い鳥が、そこにいた。
「………は?」
『こちら柊校舎の『スティールヘイズ』だ。違法パイロット集団『双頭の斧』を発見した、これよりこれを撃滅する』
「出たわね『イレギュラー』!……自校舎の外だからって遠慮するわけないか」
……相対した者を焼き尽くす黒い鳥。記録からは分からない、機体越しの圧力が心臓を締め付ける。
あの4機のフロンティアならいくらでも料理できる、でもアレが来たなら前提の何かもが変わる。この場所は今、あたしたちにとっての死地となった。
……落ち着くのよ。逆に言えばアレと接触する機会を得たということ。見極めるにはちょうどいいわ。
「A小隊とB小隊は私に着いてきなさい!『イレギュラー』はこっちで抑えるわ。あとはそのまま残りの4機を圧殺!これより指揮権を各小隊長に一部委譲、フォーメーションを使い分け、確実に戦闘能力を奪うように!」
了解、と部下の返答が聞こえてくる。ここから先は綱渡りになる。数ではこちらの方が圧倒的に有利だっていうのに背中を冷や汗が伝う。少しでも気を抜けば、これまで積み重ねてきた全てが水泡に帰す。
「私はこんなところで終わるわけにはいかないのよ……!」
負けるわけにはいかない。たとえ相手が何であっても。
自分にそう言い聞かせて心を奮い立たせる。気力で負けたら、あたしの敗けだ。
◇◆◇
「ハハハ!選り取り見取りだ!ホテルのビュッフェみたいだぜ!!」
『羽音ちゃん!?こっち来て大丈夫なんですか!?』
「何のことだフルート?俺はたまたまそこにテロリストがいたから来ただけだぜ?」
『うわ。後輩クンもメチャクチャしてきたわね。全部の責任をあっちに被せる気よ』
『でも助かるよ!これだけの数は私たちでも辛いからね!』
「ああ任せな。……さあ、準備はいいな怖いもの知らずども!!!愉快な遠足の始まりだ!!!!!!」
『これを遠足と言い張る度胸……』
レイラがジト目で見てくるが知らん知らん。企業襲撃の一番槍なんて一番美味しいところ持っていったんだ、お前らだって大概だろ。これぐらい気にするなって。
『羽音ちゃんは連携とか考えなくていいので好きに暴れちゃってください!お願いします!』
「喜んでそうさせてもらうッ!」
フルートに返事をするのと、機体のブースターを吹かして敵中に突っ込むのはほぼ同じだった。
「よく来たなオードブル!歓迎するぜ……盛大にな!!!!」
開幕の花火はミサイルの爆炎だ。とはいえ今回は片方の肩にしか付けていない。手数と弾数を優先してウェポンハンガーに二挺目の突撃砲を懸架して来ている。あとはいつも通りのブレードと突撃砲。それが今回のアセンブルだ。
『オ、オードブルだとぉ!?』
『ナメやがって、このまま叩き落としてやる!』
「やってみろや!……さあ、飛ぶぜ」
前菜呼ばわりされた連中がキレ散らかしている。まあこれで操縦が雑になってくれるなら御の字だろ。
そんな事より向こうの機体はリーダー機の簡易量産型、という奴だろう。武器腕故に換装が効かず、見れば何をしてくるかよく分かる。しかし不意打ち気味かつ戦力が分散していた前回とは違って、今回は前提がまるで違う。
……俺1人に2チーム分の機体をぶつけてきたか。おまけに例のリーダー機もこっちにいる。よほどこの前のが堪えたらしいな。
俺が滑るように飛ぶと、展開した機体が一斉射を放つ。これはジャンプ、これは右、今度は側転。上下運動で照準を切り、左右へのブーストで撹乱。前と違って、今回はそれなりに精鋭を集めてきたらしいな。対応力が格段に上がっている。さらにそれをリーダーの指揮で底上げしている構造、今のシリウスシュガーに指揮官が加わればこういう風になるのか?いずれにせよ油断できない相手だ。
『来るわよ!上!』
ほう、今度は俺が動くより先に察知したらしいな。組まれたフォーメーションが滑るように切り替わっていて、練度の高まりを感じる。これは面白くなってきた。
どうも例のリーダー、おそらくこいつが「コトハ」か?かなり腕を上げてきているな。この短期間でここまで仕上がってるとは驚きだ。早くやり合いたい、そういう気分になってくる。
……取り巻きが邪魔だな。先に潰すか?
標準装備されている近接迎撃用ナイフを取り出しノールックで投げる。こういうのはユリアの方が上手いからな、真似させてもらおう。狙うは頭、メインカメラ。
———ひとつ。これで取り巻きはあと8匹。
『チッ……脱出レバーはいつでも引ける状態にしておきなさい!私が前に出る!』
「待ってたぜ!メインディッシュ!」
『そう言ってられるのも今のうちよ、イレギュラー!!!』
「イレギュラー認定とは嬉しいじゃねえか!俺がなにかやらかしたか!?」
『あんたは自分の価値を何も理解していない!その翼は何のためのものよ!?』
「分かりきったことを聞くなよ!どこまでも高く!どこまでも遠く!俺の意志であの星の向こうへ飛ぶための翼だッ!」
しかし、前よりずっと上手いぞ。俺相手の戦い方をかなり分かってきてる。
近接武器なんか持ってないのにガンガン前に出てきて、ターンとブーストを繰り返して俺との間合いを維持しながらガン=カタみたく武器腕の突撃砲で落としにかかってくる。おまけに前以上に機動力をモノにしていると来た!そうだ動け動け!機動兵器が機動しなくてどうする!
ホント、敵でさえなきゃな……。ここでぶちのめして豚箱にぶち込まなきゃならないのが残念で仕方がない。
お前、落とせば落とすほど不屈の闘志で成長してまた向かってくるタイプだろ?俺が一番好きなタイプだ。戦い甲斐がある。
しかしこの感じだと今はちょっとブレード使えそうにないわ。デッドウエイトになりかねんし、一旦捨てるついでに取り巻きの方に投げつけとこ。……よし、2機目を撃墜。ウェポンハンガーから二挺目の突撃砲を構え、両手持ちで迎え撃つ。ミラーマッチしようぜ!
『また圧力が増した……!?』
「ハハハハ!もっと踊ろうぜ!夜はまだまだ長いんだからよ!」
『羽音ちゃん目的!目的忘れてないですかー!?』
あーあー聞こえなーい。でもいいだろ?「双頭の斧」の戦力の中核は間違いなくコイツだ。コイツが直接指揮を執り続ける限りこっちはひたすら不利な消耗戦をさせられる。だったら、その前提から何もかもぶち壊してやればいい。数じゃ不利だが、それもその差を活かすことができたのならの話だ。
『相っ変わらずメチャクチャな奴……!なんであんたは……!』
おっと、動きが変わったな。ミサイルが飛んでくると踏んで即飛翔。案の定だ、飛んで1秒としないうちに両肩のミサイルがフルバーストされる。ついでに取り巻きも一斉にフルバースト。もうちょっと飛ぶのが遅れてたらガチでヤバかった物量だ。だがまだ完全に難を逃れたわけじゃない。追ってくるミサイルを振り切るように飛ぶ。そして空中で振り返るように半回転。軽く弾をバラ撒いて、まとめて一気に誘爆させる。
これで俺はまだ無傷。空は抑えた。
さあ次の一手はなんだ?見せてみろ、もっともっとお前の力を。俺はそれを超えていくだけだ。
またしてもフォーメーションが切り替わる。散開し、各方角から俺の進路を潰すための波状攻撃が飛ぶ。細かいのも大きいのも、微妙に撃つタイミングをずらしているな?いっそ芸術的だ、少しでも俺の見切りが外れれば落ちかねない。
これだよこれ!このヒリつく感覚!最高だろ!
「面白くなってきたな!」
『減らず口を!』
もっとだ!もっとギア上げていくぞ!ジェネレーターもフルドライブだ!これが終わったらオーバーホール確定だが知ったことかよ!
死中に活を見出せ、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ!急降下して匍匐飛行へ移行、弾幕の中へ躊躇いなく突っ込む!
『やっぱりね!あんたならそうするって分かってたわ!』
「だったらどうする!?」
『分かりきったことを、聞くなッ!」
「違いねえ!一本取られたな!」
ここからは真っ向勝負だ。バレルロール、飛翔。コース変更しつつ人力ACSで細いのは弾く。ミサイルは突撃砲で迎撃、お返しにこっちもミサイルを投射してやる。上下左右全方位360度、全部に目を向けろ。背中にも目を付けろ。そら、横面をキャノンが殴りに来ているぞ。条件反射で上へ飛べば、今度は上から垂直にミサイルだ。左からはさらに突撃砲の弾が飛んでくる。ならこっちは軌道を微調整。下に0.5秒、左上へ抜けるように0.7秒、すかさず上へ機体を動かして振り切り、その勢いのまま飛翔。のち再びバレルロールで反応が遅れた奴を即撃墜。
足を止めるな。動け動け。耐G効果のある制服でも抑えきれないGの感触が内臓を圧迫するが、それすらも心地いい。闘争の快感でアドレナリンが噴き出し、その熱で全身の血液が沸騰する。今俺はこの上ない幸福感を味わっている。
———もっと、もっとだ。俺はもっと高く飛べる。
「黎明」は夜を切り裂いて飛ぶ。ミサイルも、砲弾も、重力も、何もかもを振り切って、置き去りにして。
「ハハハハ!!!気分いいぜ!
『なんで、どうして……!』
空を舞う俺と、地を走る推定「コトハ」。
感じるぜ。立場は違えど、胸から湧き出る想いは同じ。
———故に息を合わせるまでもなく、言葉を走らせる時は同じだった。
「俺は今、世界で一番自由だ!!!」
『アンタはそんなに、自由でいられるのよ!!!』
何をそんなに怒ってるんだよ。空はいいぜ?何もかもから解き放たれる感覚は何にだって代えられない。お前だって飛んでみろよ、出来るはずだろ?
「好きなように生きて!好きなように死ぬ!俺は、俺たちはいつだってそうだ!」
「パイロットなんぞいつ死ぬか分からんだろ!?だから飛ぶんだ!後悔なんてしない!自分で選んだ道で、そんな事してる暇なんか無いからな!」
『……っ。偽りの空で、満足している奴が言うこと!?』
敵機の気迫が増し、動きがさらに鋭くなる。
滲み出てきた圧力。こいつは「本物」だ。機体越しにも匂い立ってくる。
『私には、このザルトゥームで為すべきことがある!』
『あんたはどうよ、イレギュラー!背景もなく!本当の自由も知らず!ただ刹那に生きるだけの奴が!『箱庭』の中で飛んでいるだけの奴が!』
血を吐くような叫びが聞こえる。滲み出る気迫が、炎のように揺らめいて見える。今なんとなく、こいつの「背景」が見えた気がした。それは自由への執着。それが怒りとなって今まさに立ち上っているのか。
……何やら嫌な予感がする。こう、どこかから見られているような。背筋がぞわぞわするような。肌が粟立つような。
『この『箱庭』に本物の自由なんかない!本物の空なんかありはしない!なのにあんたは!自分だけの力で!翼で!何もかも振り切ろうとしてる!一体何なのよ!あんたは!』
「俺は俺だ!!それ以上に、何かが必要かよ!!!」
……自由なんかない、か。俺はそうは思わなかったが、こいつの「背景」は違うんだろう。だとしたら「本当の自由」ってのは何なんだろうな。
っ、と。他ごとを考えるのは後だ。今は目の前の闘争に専念しないとあいつに失礼だ。
地上を激走するあいつと、空から強襲する俺。再び2機のMGが激突する。互いに両手に構えた砲を撃ち合う。交わるように、踊るように。
もはや取り巻きさえ手出しができなくなった二人だけの世界の中で、
風切り音。
瞬間、直感に導かれるまま、互いに示し合わせるでもなく距離を取り合う。
直後、着弾する砲撃。一発どころじゃない、二発、三発、四発。奴を俺ごと撃つように、周辺一帯を丸ごと面制圧しようとしているように見える。
あ、コンテナがやられちまった。中身もったいね。
『……!やはり干渉してきたわね!各機!こっちは私一人に任せて!あの4機の方に合流しなさい!』
「何だ!?何処からだ……?風紀か?いや、あいつらはこんな武器使ってないはずだ」
……ダメだ。何も分からん。直接トリガーを引いたのは恐らくあいつ。だが切欠が分からん。何が誰の琴線に触れた?
「箱庭」「自由」「本物の空」こんなところか?あり得そうなのは。
『羽音ちゃん!?どうしたんですか!?』
『一体どこから……支援攻撃、じゃないわよね?』
『まさか、もう風紀委員会が出てきたとか……?』
『でも、だったらおかしくない?なんでまだ誰も出てこないの?』
突然の砲撃に困惑したのか、トレブル・クインテットもこっちの様子に気付いて通信を入れてくる。
……俺とあいつの戦いに手出しできなくなった取り巻きがあっち側に合流しつつあるってのに。
「そっちは大丈夫か!?」
『まだまだいけます!だって、トレブル・クインテットはみんなを笑顔にする最高のチームなんですからっ!』
『それに、短い間でも指揮官さんの指導を受けたんですっ!これぐらいでへこたれたら怒られちゃいます!』
『ふふ、言いたいこと全部フルートに言われちゃった。それに羽音さんがずっと主力を抑えててくれたんだから、これぐらい応えられなきゃパイロットじゃないでしょ!』
『私達、まだまだやれるわよ!』
「了解だ!だったらもう少し耐えられるよな!?」
『もちろん!だって私達は、トレブル・クインテットなんだから!』
「いい返事だ!お互い生き残ろうぜ!家に帰るまでが遠足だ!!!」
数の差を相手にしてパイロットが消耗しているが、まだまだ行けるな、これなら。こういう時のフルート、か。トレブル・クインテットの強さが本当の意味で分かった気がする。……戦いたいな。疼いてきた。
いかんいかん。頭を冷やさないと。もう少しあの心地よい感覚に浸っていたかったが、仕方ないか。
普段メイズ内で使うレーダーを作動させるが何一つとして反応が無い。加えてこの精密性。この感じだとかなり遠いか、それともステルスか。いずれにせよ性能が違いすぎる。
てかこれ何気に俺の方も狙ってないか?割合的には俺が3、あっちが7ってとこか。おかしいだろ。俺一応ギリギリ秩序側に立ってんだけど。だがなんというか、中途半端だ。俺を殺したいのか殺したくないのかよく分からんな。
『はっ!あんたも『奴』に狙われてるみたいね!やっぱあんたは『イレギュラー』よ!この世界にとっての!』
こいつ、何を知ってる?まさか本当にオーバーシアー枠だってのか?そして俺がこの世界のイレギュラー?マジならこんなに嬉しいことはないが、本当に心当たりがない。いくら戦闘能力は高くてもナインボール倒したとかそういうことはしてないしな。
「お前は、俺の何を知ってる!?」
『さあ?けど、あんたが『奴』にとって、不都合な人間だってことくらいは分かるわ!』
『『双頭の斧』は諸刃の刃!自分を律する強い意志と自制心がなければ己すら傷つける!』
『龍宮ちゆるのT2元素応用技術だってそう!だというのに、その技術が誰のために使われるのか誰も分かってない!誰の手に渡ろうとしているのか誰も理解しようとしない!』
砲撃が激しさを増す。その中を掻い潜りながら戦う俺とあいつは、端から見れば気が狂っているようにも見えるかもしれない。だがここはもう俺たち二人の世界だ。
『己を律し、意志と理性の元に振るわれる力!』
『意志を介さず、己を介さず!無差別に傷つけるほどに振るわれる力!』
『あんたは!あんたの『全てを焼き尽くす暴力』は——どっちだ!!!!』
次回、4章エピローグ。
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