習作:マブガル世界にTS転生した一般レイヴンのお話 作:ぱんそうこう
あとランは別に兵士級を食ったりしません!
指揮官とのお話が終わる頃には朝もそれなりの時間。もうそろそろ登校しないとヤバそう。まさか、こうやって遅刻させることで私の信用を落としていこうという「管理者」の陰謀だった……?などと世迷い言を頭に浮かべながら身支度を進める。
視線の端にはまだランが映っている。今度は美しい姿勢で正座をしていて、私の挙動を待っているように見える。わざわざ正座する意味とは?という疑問も湧くがそれは些細な事だ。
兎にも角にも、私はこれからこのあからさまに「管理者」側っぽいAIと付き合っていかないといけないのだから。
「どうした。私の顔に何かついているか?」
私からの視線に気付いたのか、彼女が正座したまま私に問いかけてきた。
その表情は読めない。指揮官のピコとは真逆で、無闇に騒がないし冷静沈着。表情も殆ど変わらないし印象通りの生真面目っぷり。規則とかそういうのを大事にしてそうなタイプ。日本刀とか持たせたら似合いそうだよね。
「いや?今日学園でこれからどうしようか考えてたとこ」
「ふむ。貴女の『黎明』はオーバーホール中であったな。であれば機体に乗ることは出来ないのではないか?」
「いや、シミュレータは出来るからさ。……そうだね。8時間ぐらい予約入れようかな。空いてたっけ?」
「待て。8時間通しで訓練をするつもりか?それは……過去に同様の記録があるようだが、身体的、精神的負荷の観点から勧められない。1時間から2時間程の訓練を行うごとに、一度休息を挟むべきであろう」
「要らないよ、そんなの。ちょっと初心に帰って一から修行し直さないといけないからさ。最近は歯応えがある奴も増えてきたし、私ももっと頑張らないとね」
この真面目ちゃん、正直何が地雷か分かんないんだよね。けど他人の顔色を気にして立ち振る舞いを変えるのは好きじゃない。好きなように生きて、好きなように死ぬ。それが私の、レイヴンのやり方なんだから。
まあ、話してればその内わかるでしょ。なるようになーれの精神で。
お、シミュレータの予約通った。ラッキー。今日の……昼から?じゃあそれまでにあれこれ済ませちゃおう。
授業は今日は無しにして、新着メッセージは、うーん、特に無し!じゃあ心置きなく練習できるね!
「初心……そういうことか。養成学校期にカリキュラム終了後5時間ほど通して自主訓練を行っていた記録を確認した。しかしここには教官からの叱責もあったとあるが」
「だから?そんなものになんの価値があるのさ」
この頃にやった極限の練習が今の私を作ったと言ってもいい。機体を操縦する上での基礎の基礎。どんな疲労状態でも切れない集中力。弾幕の中へ突っ込む度胸。どれも今の私に無くてはならないもので、これ無しに切り抜けられなかった戦いは多い。一から鍛え直すなら、ここにも力を入れないとね。
「規則の問題だ。貴女の行動は些か野放図に過ぎる。それでは徒に秩序を乱すだけに他ならぬ」
「あ、そうなんだ。で、それが何か問題?……私のやる事は変わらない。私は戦いを通して自分の可能性を追求するだけだよ」
「疑問だ。戦いが、貴女の可能性だと?」
「そうだよ。私がどこまで行けるのか、どこまで強くなれるのか。その先にこそ私が望む空がある」
「……やはり、理解不能だ」
「それでいいよ。私には私の意志があって、ランにはランの意志がある。そしてランは私の意志を理解できなかったし、私も無理に理解を求めない。ただそれだけの話」
黙りこくるラン。
さて、その頭の中ではどんな計算が舞っているのやら。眉を顰め、少し苦しそうに思考に耽る彼女はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「私の役目は、貴女の補佐だ」
うんうん。それで?
「私は役目を果たすためにも、貴女を理解したい。そう思っている」
……へえ。いいんじゃない?役目に重きを置くにしても、別に私を理解する必要なんかない。だってただ求められた時に求められたことをすればいいだけなんだから。でも、もし自分でそうすることを「選んだ」って言うのなら。それを私が無碍にしちゃいけないよね。
「ならさ、オペレーターやってよ」
「オペレーター?」
「そ。戦場で戦う私を補佐する仕事。せっかくだし今日のお修行、さっそくオペレーターとして参加してもらおうかな。初めはわかんなくても続けてれば勝手も分かってくるでしょ」
「待て。そのような機能、私には付いてなど……」
「付いてるかどうかは問題じゃない。問題なのはやるかどうかだよ」
ぴしゃり、と彼女を制止する。この期に及んで何日和ってるのさ。
(たぶん)私の監視役なんでしょ?せっかく人が気付かないふりして懐に入れようとしてるんだから。そこは迷わず飛び込むとこでしょ。
「極論、言語機能と分析能力さえあれば出来る。AIなら得意でしょ?そういうの。どんなに不恰好でも、どんなに役立たずでもいい。そこに必要なのはランの意思だけ」
「自分で選ぶんだ。やるか、やらないか」
逡巡するラン。うーん、そんな迷うことある?AIだし判断する事は多いと思うんだけど。
あー、それともAIだから逆に自分で自分のやる事を選んだ事があんまし無かったりする?理解したいっていうのもじゃあどうするかまでは深く考えてなかったとか?それは良くないね、もう昔とは違うんだから。
ピコやランが言った彼女の成り立ちを、私は信用していない。私のナビAIは恐らく、学習ログだけをそのままにランに差し替えられたと考えてる。でもだからって遠ざけるような真似はしない。毒を食らわば皿まで。罠なら罠ごと焼き尽くす。懐に迎え入れ、逆に彼女に食べさせてやろう。自由な選択という甘美な「毒」を。
「……分かった。誠心誠意、務めを果たさせてもらう」
ん、いい返事。まだお堅いけど性格が見えて好きだよ、こういうのもね。
じゃあオペレーターとして最初のお仕事だ。
「じゃあラン。オペレーターとして最初の仕事だけど、戦闘前には『メインシステム、戦闘モード起動』、戦闘終了後は『作戦終了、戦闘システム解除』って言ってね」
「……??????」
あ、首傾げてる。ちょっとかわいいな。
◇◆◇
当初の予定通り、昼前から8時間ぶっ続けで戦闘訓練をする。した。
よろよろとシミュレータの中から這い出て、ふらふらと少し歩いた辺りでそのままぶっ倒れる。今回はかなり訓練の強度高かったからね。おまけに他のチームも巻き込んで突発非公式戦もやったとなればそりゃもう疲労困憊よ。
あまりの疲労で脳みそが溶けそうだ。IQが0以下と化した今の私はお口ゆるゆるだしひらがなでしか言葉をしゃべらないぞう!
「作戦終了。戦闘システム解除……まさか本当にやり遂げるとは」
「あぁぁぁぁああ〜〜〜〜のうみそとけるぅ〜〜〜」
ランの声が震えている。ドン引きでもしてるのかな?
彼女のオペレーターとしての腕は、まあ初めてだしこんなもんだよね、って感じ。とりあえず何が必要かは練習中に全部話したし、生真面目なランのことだから多少の練習くらいはしてくるんじゃない?
しかし本当に何も考えられない。今の私は反射で喋る存在だ、尋問するなら今がチャンスだぞ。
「だから言ったのだ。本当に8時間続けて訓練する者があるか!」
「いるさっここにひとりな!」
「胸を張って言うことか!全く……私は貴女がつくづく分からない」
「わたしのこと、りかいしたいんじゃなかったのー?」
「そうは言ったが!限度があろう!」
ああ〜いいツッコミ。思わず私もにへらって顔になっちゃう。このAI思ったよりおもしれー奴だな。推定「管理者」の手先であることを忘れそうだ。ていうか思ったより心配してくれてない?なんかここまで来ると一周回ってコレジャナイ感がする。もうちょっとこう、私のこと雑に扱うものだと思ってたから。
「なにー?しんぱいしてくれてるのー?」
「それはっ……。貴女をサポートするのが、私の役目なのだから当然であろう!ともかく、このままにしておくわけにはいかない。私とて貴女を動かせぬ以上、何か手立てを講じねば!」
「だいじょうぶだよー。もうちょっとしたらふっかつするからー」
それにシミュレータの中で水分とエナジーバーも軽く摂ってたからね。おかげでホントのホントに限界を極めたわけじゃない。人って本当に限界を超えると吐いちゃうんだよね。昔それでここを事件現場にしちゃって大事になりかけたから分かるよ。
「あぁ〜〜ゆかつめたくてきもちいい〜」
今なら床に頬擦りだってできちゃう。火照った身体にこの無機的な冷たさがよく沁みるんだ。制服に埃としわがつくけどね。
「くっ……私に実体があれば引きずってでも連れて行けたものを……!」
「いいじゃん。おやすみなんだし、こっちのがらくだよ。たおれるまでたたかって、そのままねおちするのもいいもんだよー?」
「そ、そのようなみっともない行い……!貴女はもう少し躊躇いや恥じらいというものを……!」
「ラン」
彼女の注意を遮って、彼女の名を呼ぶ。真剣な声色の私の呼びかけ。それだけでランの動きはぴた、と止まった。さっきまで口うるさくしてたのに、一度真面目な声で呼びかけてやるとこうだ。本当に生真面目だよ。
……よし、復活した。やっと頭の回転が戻ってきたぞう。二人っきりの閉鎖空間、時間が押してることもなく、学園の生徒もこんな遅くにここには来ない。お話するには一番いいタイミングだ。
「初めてのオペレーター、どうだった?」
「……どう、などと言われても。無様だったろう。目まぐるしく変わる戦場にリアルタイムで対応できぬまま、結局全てを貴女に任せてしまった。私としたことが情けない」
「朝言ったでしょ。不恰好でも、役立たずでもいい。大事なのは自分で選んだっていう事そのものだって」
こく、とランが頷く。地べたに仰向けで寝転ぶ私の前に正座して、真剣な表情で私の顔を覗き込んでくる。朝も見たな、こんな景色。
「質問を変えようか。役目でも使命でもない、自分のこれからを自分で選んだ気分はどう?」
「それは……分からぬ。そのように感じる心は……」
「生まれたばかりで分かんない?」
「……そうだ。選べ、などと言われても実感が湧かない。ましてや突然オペレーターなどと……貴女は私に何を求めている?」
「ん?なにも」
唖然とするラン。そうだよ、その顔が見たかった。
今日一日接して感じたのは、ランは私が思うより純粋だったということ。
冷静なようで、私の健康とかが絡むことには熱くなりやすい。規則や秩序を重んじ、それをおざなりにしがちな私に根気よく説き続けるぐらいには生真面目。そして生真面目だからこそ面倒見もいい。自分の役目に忠実。
総括すれば、普通にいい子だ。身構えていたけど毒気が抜かれた。
「強いて言うならランが、自分の意思で『選ぶこと』を求めてるかな。オペレーターの件は選ばせるみたいになっちゃったけど、本当は何をするか、何をしたいかを自分で決めてほしい。それが翼持つ者の特権だから」
「否定する。私の身体に翼は備わっていない。貴女にも無いように見受けられるが」
「比喩だよ。翼は『意思』だ。自分の足で立ち、自分の意思で選ぶ。例えその結果がどうなったとしても、自分で選んだ事実に責任を持つ。私はそれを、『自分の翼で飛ぶ』と呼んでる」
例え今ある秩序を守ろうと。例え秩序に背を向けてでも未来を拓こうと。例え人類種の天敵に成り果てようと。
例え星を焼こうと、例え可能性を守ろうと、例え賽を投げようと。
「自分がそれを『選んだ』という事実だけは裏切っちゃいけないんだよ。それは自分で自分の翼を折ることだから」
「自分の翼で、飛ぶ…………」
「だからラン。貴女も自分で『選んで』。自分がどこへ飛びたいのか。自分が何のために飛びたいのかを。……オペレーターの仕事はその参考にしてくれればいいよ。私の側で、私の選択を見て、その果てに得られる貴女の『答え』を私は見たい」
これから私はこの子を自分好みに育てるんだ。
「いいこと」も「わるいこと」もたくさん教えてやろう。この子が本当に「管理者」の側にいるなら、いつか「破綻」がやってくる可能性はある。
だったらそうなる前に。
ただ役目のために働くんじゃない、どっちの側に着くのかを自分で選んでほしい。
ただ仕事の為に動くんじゃない、自分の意志で、自分が為すべきことを決めてほしい。
その果てに私との決裂が待っていてもいい。私と共に戦う未来が待っていてもいい。
私は、どちらでもいい。
「選ばない奴は、敵にも味方にもなれない」
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精神的BLタグ要りますか?
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