習作:マブガル世界にTS転生した一般レイヴンのお話 作:ぱんそうこう
会長とのお話を終えた俺と翠蘭は、指揮官が拉致された先と思われるガレムグラード山に向けてMGを走らせていた。その最中だった、オペレーターに専念していた筈のランが徐に俺に話しかけてきたのは。
「一つ聞かせてほしい。貴女はユリア・バーンズがパイロットを辞める発言をしたと聞いて、それでも尚引き留めるつもりなのか?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
分かりきったことを……と思ったが、ランの考えはどうやら俺とは違うらしい。考え込むような表情で、俺に一つの疑問を投げかけてくる。
「貴女にされた『意志と選択』の話を思い出していた。それに則るならば、彼女が辞めることを選択した以上、それを尊重すべきではないのか?貴女、そして彼女は何故引き留めようとする?」
得心がいった。なるほど、そこで引っかかったってわけだ。
……いい傾向だ。選択の自由、意志の自由についての興味は着々と根付きつつあるらしい。
「言いたいことは分かった、なら例え話をするか。……もしも、もしもだ。俺が今いきなり、『パイロットを辞める』と言ったらどうだ?」
「天変地異の先触れであろうな。悪いことは言わぬ故、即座に撤回することを勧める」
そこまで言うか????間違っちゃないが。
「中々言ってくれるなあ。ま、要するに今のランは俺の言葉が信じられなかったわけだ。俺も同じで、いくらスランプになったからといってあのユリアがいきなりパイロットを辞める、なんぞ言われてもそうそう信じられない、と。そういうわけだ。だからそれを確かめる。これが1つ」
「もう1つは、それでも辞めると言った時にそれが本心かどうかを確かめるためだ。覚えとけよ?人間ってのは自分の言った言葉と意思が食い違うことだってある生き物だ。厄介なことに、本人はそれが自分の意思だと本気で思い込んでいる時すらある」
「つまりそれは、決して本心でなく偽りの意思であると」
「俺はそう思う。ま、受け取り方次第だな。本人がそうだと強く思い込んでいればそれが本物の意思に化けることもあるわけで。……ま、今回に関しちゃ大丈夫だろ。むしろこの後の方が、な」
「何か根拠でもあるというのか?」
「本気で辞めるんなら何も言わずに退学届でも何でも出して、さっさと辞めてるだろうよ。だがわざわざ機体に乗って指揮官を攫ったってんなら、まだやる気が残ってるってことだ。そこに活路がある」
「そういうものか……うむ。言いたいことは分かった」
おう。理解してくれたようで何より。そのままいい感じに育ってくれよ?お前がお前の翼を手に入れられるように、な。
「しかし、だ。己の意志と、偽りの意志。いずれも己の裡から発せられたものであるならば、そこに境界は存在するのか?その真贋を決定づけるものは一体何なのだ?」
「さて、な。そんなものはあるかもしれんし、無いかもしれん。そこまで行くと小難しい哲学の領域だしな。だから俺は俺の主観で決めることにしている」
さすが、AIなだけあって学習能力が高いらしい。なかなか幸先がいいぞ、これは。この短期間でここまで育つなら、もう少しギア上げてもいいかもな。
「俺の根幹。MGに乗りたい、MGで飛びたいと願ったことは絶対に嘘じゃないし、嘘にはさせない。例え俺自身であってもな」
「それは、なんとも。貴女らしいものだ」
◇◆◇
青い空。
白い雲。
のどかでゆっくり流れる時間。自然の中ってやっぱいいよなぁ。
「おお、見て見て!すっごい集まってきた!こっちこないかな!おーい!鳥ー!こっちこーい!」
遠くではしゃぐユリアの声が聞こえる。
……のどかで落ち着くなぁ。風も気持ちいい。
「はあ、誰か早く、脱走したあたし達を追いかけてきてくれないかしら?」
早く構ってほしいと言わんばかりの、アニスの弾む声が聞こえてくる。
……うん。おちつくおちつけ。へいじょうしん、平常心。
「やっほー!ふふ、この山は俺のものだ!……んん、登山家だともうちょっと疲れてるから違う?」
(夢じゃ、ないなぁ……!)
山の中ということで、登山家の演技をしているフィーの声が聞こえてくる。
空に流れゆく雲をぼんやり眺めていた俺は、否応なく現実に引き戻された。
LOCでカオスメイデンに誘拐されたのは、どう足掻いても俺の勘違いだったことにはなってくれないらしい。
元気なのはいいんだけどさぁ!俺を誘拐する必要がどこに……しかもそれでやることが山の中でのピクニックて。
前の温泉の時といい、これがスカラ流なのか……?などと馬鹿らしいことを考えていた俺の耳に届くのは、沙耶の嫋やかな声。
「すみません、お待たせしました指揮官さん。ユリアさん達もこうして山に登った経験が無かったので興奮しているみたいです。……さ、どうぞお召し上がりください。場所が場所ですし、作法などはお気になさらず」
「ああ、すまない。いただこう」
膝下に敷いたシートの上に座り、沙耶から差し出されるまま茶碗を受け取って一口すする。……う、苦い。一瞬だけ眉を顰めて、しかし点ててくれた相手の前だからとすぐに戻す。だが、そんな俺の努力はあっさりと見破られてしまった。
「……っ!申し訳ありません!苦すぎましたか!?」
「い、いや、こういうのも味があっていいと思うぞ」
「気を遣ってくださってありがとうございます。ですが本来はそのように苦味で顔を顰められる味にはならないのです。……やはり、お茶は心を映す鏡ですね。だから私たちの、私の心の迷いがこうして現れる」
「迷い、か。それが俺を誘拐した理由なのか?」
「……そちらに関してはユリアさんがどうしても連れて行きたいということでしたので」
「ああ、そういう……もし何か悩み事があるなら聞くぞ?それが俺の仕事だからな」
「はい……」
そして語られるのはカオスメイデンの現状。敗北を重ね、悪くなっていく雰囲気。チームとして噛み合わないこと。そしてそれに解決策を見出せていないことも。そしてその責任が自分にあるということも。
「ユリアさんのパイロットを辞めるという言葉にも魅力を感じてしまうほど、自分の不甲斐なさに嫌気が差すのです……」
「は!?パイロットを辞める!?」
「はい。楽しくないパイロットを続ける理由がないと……」
絶句する。とてもユリアの口から出たとは思えない台詞だ。
あの羽音の同類からそんな言葉が出るほどに。
(これは、重症だな)
「その話、羽音は知ってるのか?あいつとは普段からMGで『遊んで』るんだろ?
「……それは……」
やけに口ごもる沙耶。言いたくないのか、言えないのか。そういえば羽音からそういう話は聞いたことがなかった。もしやあいつも知らない?
「……彼女は、何も知りません。少し前に気遣う内容のメールを送ってくださったのですが……」
「言わなかった……いや、言えなかったのか」
こくり、と頷く沙耶。……どういうことだ?関わりが薄いならまだしも、羽音は半分ぐらいは身内みたいなもんだろ?多い時は毎日のようにユリアと「遊ん」で、それ絡みで関わりも深い。だったら相談ぐらいは出来たんじゃないか、とも思ったが。
(これは本格的に聞かないとまずいな……)
とにかく、他のメンバーからも話を聞かなきゃならない。彼女たちが現状をどう考えているのか。それを知らないことには何も言えない。
沙耶に一声かけ、話を終えるまで待ってもらう。次はフィーだ。
登山家の演技をしている彼女に近づいて、単刀直入に尋ねる。
「フィー、聞かせてほしい。カオスメイデン不調の原因は何だと思う?」
話しかけられたことで演技を中断した彼女は、普段通りの静かな口調でゆっくり語り出した。
「……分からない。でも、何かが噛み合わない。主演がいない演劇みたい」
「それってどういう?」
「バランスの悪い舞台。盛り上がりもないし、中心になるものがないから、上滑りして見ていても楽しくないし痛々しい演劇」
「……辛辣だな」
「……きっと、足りてないのは役者。だから私がその役を埋めないといけない。けど……」
どんな役がいいのか分からない。そう続ける彼女もまた、現状を自分の力不足が原因だと認識していた。
「ちゃんと演じる方向を見定めれば、私がそのパイロットの役を演じて完璧なカオスメイデンに出来る」
俳優出身で、普段から優秀なパイロットの演技をすることで戦っている彼女。こういった物言いはらしいといえばらしいのだが……。
「ふむ。分かった、ありがとう。それで話は変わるんだが、羽音から何か言われてたんだって?」
「そう。翠蘭に『最近調子悪そうだけど大丈夫?何か手助け出来ることとかある?』って。ユリアには『最近窮屈そうだ』ってメッセージが届いてた」
窮屈そう、か。恐らく戦闘の映像から察したんだろうな。そしてそういう時の羽音の直感は大体外れない。覚えておこう。ユリアの不調を分析する要素の一つになるかもしれない。
「だが詳しく相談までは出来なかった、と」
「何となくわかる。羽音は『炎』だから」
「遠くから見る分には明るくて鮮烈。舞台の主役として見る者の目を惹きつける。でも近づくほどに今度はその光と熱で焼かれていく。耐えられなかったら……」
「真っ黒に焼き尽くされる、か」
「そう。……たぶん、皆それを察してる。だから言えなかった」
そうか。恐らく普段のカオスメイデンなら問題ないのだろう。だが、今のスランプに陥った皆だと……。
「炎」とは言い得て妙だ。1人で5人を相手に勝利する様子は手に汗握るし、あいつがいればどんな逆境でも覆せるような気がしてくる。だが、あいつの強さは、自由さは、そうそう真似できるものじゃない。ただ1人それが可能なのがユリアで、そのユリアさえ不調なのだとすれば……。
「なるほど、な。とても参考になった。ありがとう」
さて、こうなると次はユリアか、アニスか。
どっちから聞くか……と思って振り向くと。
「とりゃーー!」
「ふふ、つーかまーえた♪」
「どわぁっ!」
不意打ちで2人が俺に突撃してくる。
あ、危うく吹っ飛ばされるところだった。鍛えてて良かった……こんなところで情けない姿は見せたくはない。
ぐいぐい。
ぐいぐい。
だが2人の攻勢が終わらない。2人とも構ってほしいのか、寄りかかったままさらにどんどんと力を強くしていく。
「ええい、どかんかお前ら!俺は誘拐されたのに真面目に話聞いてたんだぞ!」
「えー!別につまんない話なんかいーじゃん!それよりも遊ぼーよー!」
「そうそう。暗い話なんかしても仕方ないでしょう?最近皆が構ってくれないの。ね、だから構ってちょうだい?」
……なるほどな。2人は
かなり気が滅入っていて、そもそもそういう話をしたくない側。まあ、気持ちは分からんでもない。楽しいことのためにピクニックに来てるんだ、そうなるのも理解はできる。だが……。
「すまんがアニス。後で構ってやるから、ちょっと待っててくれるか?」
「あら、そう言ってあたしのこと放置するの?寂しいわぁ……」
「お前も全員が調子崩して相手して貰えないから寂しいんだろ?何とか出来るかもしれないから、な?」
今それはまずい。特にユリアには。それこそ、この機会を逃したら本当に取り返しがつかないかもしれない。
「…………ふふ。お見通しなのね。はーい、じゃあいい子にして待っておくわね」
手を振るアニスに手を振り返して、ユリアに向き直る。……ここで引き下がらない辺り、アニスもかなり気が滅入ってるんだな。
「で、どういうことなんだ?」
「……むー、お説教?」
「いや、ユリアに聞いておきたいだけだ。どうしてこんなことをしたのか」
一瞬不機嫌になりかけたユリアの目を真っ直ぐに見る。すると彼女はため息をつくと、少し目を逸らしながら俺に言うのだった。
「んー、どうしてかぁ。……だって、今はたのしくないからかな」
「楽しくない?」
「うん。戦ってても楽しくないんだよね。なんかさ、今までだったら面白かったんだよ。色んな戦い方があって、色んなことができて。でも負けてばっかりになって、やれることも少なくなって」
「悔しいけど楽しいんじゃなくて、辛くてイヤーな気持ちになるだけ。楽しいからパイロットやってるのに、たのしくないんだよ」
「なるほどな。全員が全員スランプってわけか」
「そ。だからもっと楽しいことを探そうって思ったの!指揮官も探すの、手伝ってくれるよね!」
確かに、筋は通っている。楽しいからしていたことを、楽しくなくなったからやめる。よくある普通のことだ。
だが、ユリア自身分かっているのだろうか。自分がまだ諦められていないことを。
「そうは言うが、本当にパイロットを辞める気なのか?」
「え?そりゃ、やめよーって思って」
「それなら俺を誘拐する必要はない。本当に辞める気ならMGに近づくこともしないはずだ」
「……それは、だって……」
ユリアが口をもごもごさせて口ごもる。こういう詰め方をするのは少し気が引けるが……やむを得ん。
「何の目的もなく楽しいことなんて見つからない。今のユリアは苦しい状況から逃げようとしてるだけだ」
「……そんなわけないもん」
「そうかそうか。それで、羽音にも同じように言えるのか?」
「………………」
「あいつ、ユリアのこと心配してたそうじゃないか。チームじゃなく、個人として。しかも何度も何度も一緒に『たのしいこと』をした友達なんだろ?だったら……」
「うるさいうるさいうるさい!羽音ちゃんは関係ないでしょ!?」
だったら、と続けて口を開こうとした時。後の言葉を遮るように、突如としてユリアが感情を爆発させた。
……俺はユリアが余裕そうに、楽しそうに笑っている姿ばかり見てきた。だからかなり驚いたが……どうやら他のメンバーも似たようなものだったようだ。沙耶、アニス、フィーにも動揺が走り、緊迫感がこの場を包む。
「もう知らない!私のこと理解してくれないなら何にもいらない!」
「ちょっと、ユリア!?」
「ユリアさん!?」
「おい待て!ユリア!」
激情のまま、走って機体に乗り込むユリア。そのまま起動してこの場を離れようとした……その瞬間、聞き覚えのある声が、今このタイミングで一番聞きたくなかった声が、山中に響いた。
『仲間外れはよくないなぁ、俺も入れてくれないと』
「その声は……羽音!?一体何を!?」
『いやいや、ちょっとお手伝いをね!てなわけで翠蘭ママ、よろしくゥ!』
『誰がママですか!……ユリア、今ならまだ間に合いますから!一緒に帰って解決策を考えましょう!』
学園から連れ戻しに来る人間がいるのは予測していた。
だがこれは最悪だ。よりによって、よりにもよってお前なのか、羽音。
これは、まずいことになるかもしれない。
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