習作:マブガル世界にTS転生した一般レイヴンのお話 作:ぱんそうこう
恥ずかしい。
噂の指揮官さんに会いに行ったら完全に手玉に取られた。
シリウスシュガーが勝ったのを見て、これもしかしてラスティムーブするチャンスじゃない?とか思ったのが運の尽き。シリウスシュガーにお祝いしに行った足で挨拶しに行ったら物凄いイジられた。彼女たちも日々あんなイジられ方されてるのかと思うと涙が出るね。ラミちゃんとかラミちゃんとか七彩さんとか格好のエサにされそう。あの人真面目な時と真面目じゃない時の差が激しすぎて温度差で風邪引いちゃうよ。
なにが「出来ちゃダメだろ、人として」だよ!こちとらチームプレイなんかできないから暴力!暴力!暴力!って感じで無理やり食い破るしかないんだよ!「呆れるほど有効な戦術」とかってさぁ!
あとあの人に会った感想として、自分に対する評価が結構高かったのは素直に嬉しい。ユリアとの模擬戦もそうだけど、もしかして学内に残ってる戦闘記録とか見てくれたのかな。実力は確かみたいだし、そういう人に高く評価されてるのって心があったかくなるよね。
ただそれはそれとして私のことをさも化け物みたいに言ってくるのは勘弁してほしい。確かに私はレイヴンみたいになりたくて目指せドミナントしてるけど、結局のところ私はMGに乗って空を飛びたいだけなのだ。あの本物たちに比べればまるで及ばない。
そう、こっちに生まれてMGに乗ってると、あのイレギュラーたちがどれだけ頭のおかしい存在なのかが嫌でも分かってしまう。普通の人間は集団による戦術を個人の力量だけでどうにかできやしない。まして神様が作った深い仕組みを一人で破壊することなんかできっこないんだよ。
◇ ◆ ◇
シリウスシュガーとカオスメイデンの試合を終え、「指揮官」は安堵した様子で柊校舎を歩いていた。
この2チームによる公式戦はシリウスシュガーの勝利に終わった。これで自分の生徒会としての初仕事は一段落、それ以上に血の滲むような努力をした彼女たちが報われたという事実に胸を撫で下ろしたのである。
そんな時だ。ふと前の方から、一人の女子生徒が歩いてくるのが見えた。それはさっぱりとした黒髪にガラス玉のように輝く黒い眼、ボーイッシュな雰囲気、そしてどことなくユリアに似た、強い覇気と圧力を持つ美少女。
彼女は自分を見つけると、表情を華やげてこちらに駆け寄ってきた。
「初めまして、あなたが噂の指揮官さんですね?私は『スティールヘイズ』の黒鉄羽音といいます」
その名前には聞き覚えがあった。ユリア・バーンズの脅威を知ったあの日に彼女と戦っていたというパイロット。そういえば沙耶が柊校舎の所属だと言っていたな……と思いながら、自身も改めて名乗り返した。
「まずはあのカオスメイデンへの勝利、おめでとうございます。同じ校舎の人間として心から祝福させてください」
「ありがとう。だがあれは皆が自分たちの力で掴み取った勝利だ。俺がやったのはせいぜい、土台を整えてやることぐらいだ」
「あなたならそう言うと思っていました。ですが、その土台なしに彼女達が勝つことはなかった。違いますか?」
「む。そうだな。そういうことなら素直に受け取らせてもらおう」
軽く挨拶を済ませ、誰が決めたでもなく二人で並んで歩く。始めに口を開いたのは彼女だった。
「彼女たち、ずいぶん見違えましたね。前に少し見た時はもっと生温くて、何がしたいかも分からないチームでしたが」
「ハハハ……辛辣だな。まぁ事実なんだが」
「それが目に見えて現れたのがあのオッズでした。……あの通り、あの場にいた全員がシリウスシュガーの勝利を信じていませんでした」
「そりゃあな。言っちゃ悪いが、あの時点でのあいつらの評価は無名の落ちこぼれだ。外野から見ればそうだろうな」
「ですがあなた達は勝ちました。類稀な成長を遂げて。これで、学園中の人間があなたとシリウスシュガーの名前を強く記憶したことでしょう。…………この私と同じようにね」
彼女が蠱惑的に微笑む。十代とは思えない色気を醸し出し、耳元で囁くような声色で、誘惑するかのように振る舞う彼女を前に、俺は———。
「それってつまりお前もあいつらのこと覚えてなかったってことか?」
全力で茶々を入れた。
瞬間、凍りつく彼女の微笑み。すると先ほどまでの色気はどこへ吹き飛んだのやら、身振り手振りでわたわたしながら言い訳をするように捲し立てた。
「あっ……いやいや、これはその、言葉の綾というものでして。チームリーダー同士、七彩さんとはお付き合いもありますし!決して!決して覚えてなかったわけでは!!!!」
「なにっお前ら、そういう関係だったのか……?」
「違います!お付き合いの意味が!まったくもう。七彩さんも苦労してそうですね……ああ七彩さんといえば。あの対ユリア戦術は素晴らしいものでしたね。あれ、これから他チームでも対カオスメイデン戦術として研究されるようになると思いますが……指揮官さんはどう思いますか?」
流れるような軌道修正と戦術眼にほう、と思わず感嘆のため息が出る。
実際、今回のカオスメイデン戦はユリアをどう抑えるかに全てが掛かっていた。攻撃の起点やチーム全体の士気向上など、彼女が担う役割は中心的なものが多い。
「そうだな、君の考えは正しいと思う。実際ユリアを抑えられるかどうかが今回の鍵だったことは言うまでもないが、真っ当なやり方ではまず難しいだろう。だが今回の作戦で最も重要な点は作戦の普遍性の高さにある。たとえチーム全体としての練度で相手に及ばなくても勝つことが出来ることの証明……君の着眼点もそこなんだろう?」
「はい。偽装退却によって抑えが効かない性格のユリアをキルゾーンに引きずり込み、過剰火力で回避の暇を与えないまま1-1交換に持ち込む。落ちこぼれとされるチームがこれだけの戦果を挙げたと考えれば驚異的であり、他のチームも自分たちの動きに取り入れられないか研究を始めるでしょう」
「そしてユリアが最初に落とされた事実はカオスメイデンに相当なショックを与えました。彼女達のパフォーマンスは良くも悪くも個人のテンションに依存していますから、そこから士気の低下に繋がり、敗北の一因となったと考えます。『兵とは詭道なり』———カオスメイデンの僅かな隙をついた素晴らしい戦術でした」
「孫子か。やっぱトップチームともなるとよく勉強してるもんなんだな」
「いえいえ。指揮官さんほどでは」
なんというか、楽しい。こういう戦術レベルの話をするのは久しぶりなように思える。パイロットとしても一流、戦術も理解している。話も合うしこれが完璧美少女ってやつか???
「あはは……評価していただいているところ申し訳ないんですけど、私戦術とか戦略とかそういうのあんまり得意じゃないんです。『スティールヘイズ』だって、チームとは名ばかりで私しか所属してませんし……」
「えっなにそれは。今黒鉄一人でカラフルブーケと同格って言った?」
「言ってません。ただ、私のチーム自体が特例なんです。個人でもチームと同等の力量があれば文字通りのワンマンチームが組めるという仕組みがあって、その許可を生徒会長からいただいてまして……。なので私が得意なのはどちらかというと戦術も戦略を超えた全てを焼き尽くす暴力の方でして……」
「やだ……うちのトップチーム、怖すぎ?」
「こ、怖くないですよ!?ちゃんと訓練を積めば誰だってできますから!」
「いや、出来ちゃだめだろそこは。人として」
「私いま人じゃないって言われてます!?!?!?」
「ユリアの強さはかなり無法だが、性格という付け入る隙があった。だが俺の所見では黒鉄はそういった目に見えた弱点もなく、戦術だの戦略だのを理解した上で丸ごと叩き潰してくるタイプだ。される側からすればユリアと大差ないと思うんだがな」
「真面目に返すのもやめてもらえます??????」
いやあ、楽しい。打てば響くようないい反応。とても話しやすくて会話がするすると伸びて時間を忘れそうになる。おまけにこんな真面目ボーイッシュ系美少女の顔をして、得意なのが純粋な暴力。ギャップ凄すぎて風邪を引きそうだ。
「もう……それじゃあ、私はこの辺で。お話に付き合ってくれてありがとうございます。くれぐれも、七彩さんたちのこと、あんまり弄りすぎないようにしてあげてくださいね?」
こうして俺と彼女のファーストコンタクトは終わったのだった。
僅かな時間だったがとても得難い時間で、俺の脳には「黒鉄羽音」という少女のことが強く焼きついたのだった。せっかくだし彼女の戦闘記録、漁ってみよう。
◇ ◆ ◇
いやこれは怖いだろ。
俺は真顔でそう思った。
他校舎のチームとスティールヘイズの公式戦の映像があったので再生してみたが、なかなかの恐怖映像ぶりに冷や汗が出てきた。
相手が一人ということで、相手側は部隊を散開させ、三機と二機に分かれて行動を開始。そして前衛三機が高高度からのミサイル爆撃で炙り出し、出てきたら距離を保ちつつ射撃戦に集中。アウトレンジから削り殺すか、合流を待って五機がかりで仕留める。一人にぶつけるにはいっそ過剰な戦力だろう。
遮蔽物からミサイルが上空の三機を襲う。これを難なく回避し、戦いは地上戦へ移行した。その瞬間、三機の真正面から「黒い鳥」が匍匐飛行で強襲をかける。それを見た三機は散開して半包囲。エースと思われる長物とシールドを装備した一機が凶鳥の相手をし、もう二機が援護に回る。
だが凶鳥は止まらない。ブレードを構え、するすると蛇行しながら滑らかに後退する敵エース機を、さらに上回る速度で追い回しながらスラスターを巧みに使い、僅かずつ位置を変え、体勢を変え、速度を高めながら二機の弾幕の中をすり抜けていく。そしてそのまま敵エースがカウンターで突き出した長物をジャンプで躱し、後方上部から背面を滅多撃ちにした。
背中をやられた相手はそのまま撃墜判定が下りた。それが分かっていたかのようにその場を離脱すると今度は残った二機に狙いをつける。援護役に徹していた二機はエースがあっさりと落ちた事実にまだ動揺しており、機動力が落ち込んでいる。その隙を逃さず突撃砲を飛ばし、ミサイルを回避先に置いて二機目を撃墜、最後の一機も返す刀で頭部を切り飛ばして撃破。
ここまで接敵から僅かに2分とかかっていないにもかかわらず、既に敵チームは半壊状態に陥っていた。
だがそれすらも黒い凶鳥を止める理由にならない。上空に飛び立ち、獲物を狩る猛禽のようにまんまと近づいてきた残敵に狙いを定めると、その背後に回り込んで強襲。頭上を抑え、円の動きで追い込みながら全火力を投射、身動きが取れなくなった敵機をそのまま中央突破で撃破。その羽ばたくような戦いぶりに、心が熱くなるのを感じた。
だがそれ以上に、戦術すら覆す突出した「個」の力に戦慄を覚えた。
あのユリアと正面切って戦える時点でかなりの腕なのは予想していた。今回の相手チームの格が一枚も二枚も落ちるものだったというのも否めない。だが、少なくとも最初に落ちたエース機自体は技量、判断力ともに決して悪い腕ではなかった。
「それが、1分と持たなかったのか」
そうする必要があったのは理解できる。時間をかけるほど不利になるのは彼女の方だ。どれだけ強くとも囲んで棒で叩かれれば誰だって負ける。だからそうなる前に片付けなければならなかった。
相手もそれが分かっていて、遅滞戦闘に持ち込むつもりだっただろう。
だがそうはならなかった。その結果がこの蹂躙劇だった。
「全てを焼き尽くす、暴力」
彼女はそう言っていた。
ああ、まったくその通りだ。戦術を食い破り、戦略を破壊する戦場の上位者。全てを黒く焼き尽くす、死を告げる凶鳥。
「
あの時なんとなく口をついて出た言葉だったが、彼女を指すのにこれほど相応しい言葉はない。
素直にそう思った。
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