習作:マブガル世界にTS転生した一般レイヴンのお話 作:ぱんそうこう
今日はシミュレータ室に行ったらカラフルブーケの皆が練習を頑張ってた。
今度カオスメイデンとの公式戦が組まれたみたいで、それを前提とした訓練をやってるんだと。
ウチの校舎の最強格と、スカラ校舎の最強格の試合。見立てじゃカオスメイデンが微有利ぐらいだし、そりゃあ勝つためならいくら訓練したってし足りないよね。
その様子をぼんやり見てたら、リーダーの葵ちゃんに仮想ユリアとしてのスパーリング相手をお願いされた。他のチムメンにいいの?って聞いたら私がいいらしい。ビビりがちなうるうちゃんだけ泣きそうになってたけど。
まあ私がスカラ校舎に出入りしてるのはみんな知ってるし、私を経由して私が戦ったユリアと戦おうとしてるんだろう。
結果は、上々……ってことでいいのかな?
一応勝ちはしたけど、かなりギリギリだった。盾を構えた葵さんはタンク役としてずっと私の近接攻撃振るのをマークしてくるし、キララちゃんは私がちょっとでも隙を見せたらすぐに斬りかかってくるし、泉花ちゃんの砲撃は一撃食らえば落ちるからいつも冷や汗ダラダラものだ。おまけにうるうちゃんも舞亜さんも嫌なタイミングで援護を撃ってくるから結構無茶をしないといけなかった。結局推進剤カラッポになるまで使い切ったし、本当にあとちょっとで負けるところだった。
カオスメイデン微有利って思ってたけど、これだけできるなら五分ぐらい持っていけそう。あとはユリアか翠蘭を先に落とせれば6割くらいまで有利取れるかなあ。
うーん、いつも思うけどやっぱ5対1はしんどいなぁ。囲んで棒で叩くのはいつだってレイヴン殺しの定番なんだよね。おまけに私は仮想ユリアとして武装がブレードとミサイル固定。いつもだったらここに突撃砲も入ってるから、ちょっと手数が物足りない。でもま、大事なのはカラフルブーケの特訓の方だしね。とことんまで付き合うよ。
カラフルブーケの皆は私より早くにチームとして成立した、経験豊富なベテランパイロットチームだ。この前指揮官さんが私のこと「カラフルブーケと同格」って言ってたけど、正直あんまりピンと来てない。
そりゃ勝ったり負けたりはするけど、チームとして考えれば私の方がずっと下だ。戦闘能力だけの私と違ってみんなは柊校舎の皆から頼りにされてる。そういう精神的支柱といった側面も考えれば、私の方が一歩も二歩も落ちる。エースにはエースの役割、暴力には暴力の役割がある。だから、一言に同格だなんだと言ってしまうのはちょっと雑なんじゃないかと思う私なのです。
◇ ◆ ◇
「いいか各機!相手は『例外』だ!全員で囲んで確実に殲滅する!」
「「「「了解(です)!」」」」
今度に控えた公式戦。シリウスシュガーに続き、今度は私たちがカオスメイデンと戦うことになった。
彼女たちはあの劇的な勝利以来、教導指揮官共々学園中の注目の的になっている。その結果、柊校舎のパイロットたちにもアマツからの期待が集まりつつあるのだ。今回私たちが戦うことになったのもシリウスシュガーに続けと、校舎のトップチームの一角として期待されていることの証左なのだろう。
彼女たちへの対策は既にある。回避しきれぬほどの飽和攻撃……シリウスシュガーはいいデータを残してくれた。あれを私たち用にチューンして応用すれば、勝ちの目は十分に生まれる。だからこそ「彼女」にスパーリングを依頼した。
私たちと同じ柊校舎のトップチームの一角。それでいてたった一人でチームに匹敵すると認められた、「例外」。
黒鉄羽音。
その名の通りの羽ばたくような戦いぶりは、一度見たなら脳に焼き付いて忘れられないだろう。空力を重視した「黎明」のスペックを限界以上に引き出すことで自由に空を舞い、自由に大地を駆ける少女。
操縦桿を握る手が緊張で汗ばむ。こうも離れているというのに、既に彼女のプレッシャーが戦場を支配しつつある。少しでも隙を見せたなら、私たちは即座に取って食われるだろう。
「クララは私と同行、キルゾーンを構築する!」
「了解よ、葵!」
「泉花、うるう、舞亜は援護を!生半可な弾幕は奴には通じない、徹底的に道を塞ぎ、詰ませろ!」
「作戦の発動タイミングは任せて!確実に仕留めるわ!」
ここまでしてもなお、倒せるとは言い難い。それが黒鉄羽音とユリア・バーンズという怪物たちなのだ。
プレッシャーが一段、重くなった。空を裂くブースターの音と、機体越しに滲み出る圧力。来たのだ、奴が。
「ッ!相変わらず、とんでもないわね、あの子!」
「各機来るぞッ!作戦通りにッ!」
その重圧に舞亜が驚嘆の声を上げると共に、全機に警戒の声を飛ばす。瞬間、「黒い鳥」が毎度のように匍匐飛行で仕掛けてきた。
うるうが「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。それでも体に染みついた動きは正確だ。散開し、それぞれがそれぞれをフォロー可能な位置につき、私とキララであの凶鳥を迎え撃つ。
舞亜とうるうが2人がかりで銃弾とミサイルをばら撒き、その足を止めさせようとする。だが彼女とて無策ではない。両肩のミサイルを一気に投射、そちらへの対処を強要させに来る。
「だがッ!」
私のブレードと奴のブレードが交錯し、火花が散る。私のやるべき事は奴を少しでも長く釘付けにする事。少しでも足を止めさえすれば背後からクララに斬らせるか、うるうか泉花が砲撃で仕留めるか。そうでなくとも舞亜に削らせるだけでもいい。いずれにせよ、対バーンズ戦術を発動するいいタイミングになる。だがそんな事をあちらが考えていない筈がない。凶鳥は僅かに身を引き、背後を狙う泉花を牽制しつつ旋回、シールドを避けて斬撃を仕掛けてくる。
これだ。凶鳥は戦う位置を選ばない。足を止めれば袋叩きに遭うと分かっているから、全く足を止めることなく山猫のように縦横無尽に戦場を駆け抜ける。
「泉花!クララ!奴を檻に入れるぞ!」
「「了解!」」
私たちの「黎明」が「黒い鳥」を三方から囲い込む。さらにその外からは舞亜とうるうが旋回しながら凶鳥に狙いを定め続けている。
完全な包囲態勢。だがまだだ。上手く行ったのだと安堵したくなる気持ちを理性で抑え込み、握った一刀に魂を込める。手負いの獣ほど恐ろしいように、凶鳥は追い詰められるほどにその圧力を増していく。
そして凶鳥は飛び立つ。砲撃を放ち、反動で僅かに隙を見せた泉花を踏み台にして。
「きゃあっ!」
「それぐらい読み通り!もらったわよっ!」
「ううう撃ちますっ!当たってください!」
だが当たらない。当たらない。当たらない。空を舞う凶鳥を捉えることができない。
だがもたついてもいられない。凶鳥は常に止まらない。既に次の獲物を見定めているだろう。そしてここまで妨害を受けてきたことを考慮すれば、次に狙われるのはうるうか舞亜。
「ひいっ!こ、こここ、来ないでくださいぃ!」
「うるうっ!落ち着いて行動すればどうということはありません!作戦に変更なし、包囲殲滅します!」
獲物と見定められたのはうるうだった。それを悟ったことで、彼女が怯えた声を上げる。
しかし元よりうるうは優秀で、口では怯えていてもそれが行動に与える悪影響はほぼない。凶鳥を前に震えた声を出していようと、その射撃は正確無比。加えて泉花の激励もあって、冷静さを取り戻しつつある。
滑らかな後退、そして引き撃ち。再び包囲する形に持ち込むことで味方には正確な連携を、敵には絶対の孤立を与える戦型。だがそれさえも、凶鳥は食い破る。
正面と背後、二方向からの弾幕を嫌ったのか、その場で一度羽ばたくように跳躍。同時に救援に向かうこちらに両肩のミサイルを一通り投射して足止めをこなしつつ、身体にかかるGなど知らぬと加速しながら急降下。うるうがそれを認識し、後退しつつENキャノンを構えた頃には既に目の前。キャノンを斬り捨て、至近距離で発射されたENミサイルを真横に回って回避。後退を図ったうるう機との相対速度に合わせ、真横から斬撃を「置く」ように胴体を斬り捨てる。
「すまないうるう。だがこれで……!」
貴重な援護役を失い、こちらがかける圧力も大幅に落ちた。だがまだ終わってはいない。凶鳥は常に飛び回るもの。特に獲物を仕留めた後は、必ず空へ飛び立つ。だから———。
その分析は間違っていなかった。凶鳥は確かに飛び立ち、その後背をクララが脅かす。奇襲としては完璧なタイミングだった。背後を襲う斬撃を、未だ風に乗れていない凶鳥は避けようがない。そう、思った。
「フラットスピンだと!?」
その時、凶鳥が突如として失速、そして水平姿勢のまま錐揉み回転。所謂、フラットスピン現象を引き起こし、乾坤一擲の一撃は空を切る。本来なら失速後、制御不能に陥って墜落する恐れがある荒技、だが奴に限って操作ミスなどある筈がない。
「ごめん!仕留め損なったわ!」
「問題ない!あれで仕留められるなら苦労しないからな!」
凶鳥は態勢を立て直すと再び加速し一時離脱。またしても仕留め損ない、仲間も失った挙句怪物を檻の中から出してしまった。
それでもとクララが前に出て、反撃を私がシールドで封じるスイッチ戦術を確立。背後から泉花と舞亜が援護することで反攻に転じる。流れるような連携が息をつく暇を与えず、泉花が移動しつつその背後側面を脅かす。今度こそ、今度こそ。
『捉えられるとでも思ったか?』
普段の明るい彼女とは似ても似つかない、暗く冷たい声が通信に入り込む。
動揺したのは一瞬。だがそれが命取りとなる。二人の攻勢の出だしを潰すように凶鳥がブレードをノールックで横へ投げつけた。この一手で移動先にブレードを置かれた泉花機がメインカメラを失い脱落。前に出た私のシールドを蹴り付けて飛翔、舞亜機をミサイルで引き剥がしつつ、着地狩りを狙ったクララ機を地面に引き倒して匍匐飛行で引き摺り回し、壁に捩じ込みながら残ったミサイルを撃ち込み撃墜判定。たった一手で包囲網は完全に崩壊、さらに戦力を失ってしまった。
そこからは蹂躙に近いものだった。一人ずつ、一人ずつ丁寧に撃墜し、最後に残った私も他のメンバーより長く生き残っただけの結果に過ぎなかった。
そうして精神的に強く疲弊し、少しふらつきながらシミュレータを出ると。
「シールド持ちはやっぱり硬くてめんどくさいなぁ。なんなら3人に斬りかかられただけでかなりしんどいし。もっと無理してでも前に出るべきだった?いやーでもどうだろ、葵さん上手かったからなぁ。私ももうちょっとシールドの戦い方研究してみよっと。……あ、みんなお疲れ様!やっぱカラフルブーケの皆は連携上手いね!楽しかったよ!」
さっきの冷たい声などどこへ行ったのか、凶鳥の中身は一人元気に笑顔で反省会をしていた。
———なんだこれは。あれだけやってもなお、まるで消耗というものを感じない。
「どう?私、ユリアみたいにできたかな?」
「……ええ、十分すぎるぐらいです。とても参考になりました」
そう絞り出すことしか出来なかった泉花を誰が責められるだろう。
「んー、結論だけ先に言うけど、今でもカオスメイデン相手には十分通用すると思うんだよね」
「そ、そそそうですか?今日は全く歯が立たなかったと思いますけど」
「いやいや!みんなすっごい強かったよ!もう推進剤カラッポになっちゃったし、あとちょっとでも耐えられてたら勝てなかったもん!私も楽しくてついハッスルしちゃった。みんな私の動きバッチリ読めてたから、このまま練習を続けてれば勝率も6割くらいまで上げられると思うんだ!」
そしてなんでもないように告げる。
「だからさ、もっかいやろっか」
さらっと発せられた声に言葉が出なかった。
やはり、怪物。普段の善良な姿は擬態なのかと思えるほどに。
凶鳥の凶鳥たる所以は、その羽ばたくような戦いぶりのみならず本人の戦闘に対する圧倒的な適性にもある。そしてそれ故にあれだけの激闘を終えてなおまだ継戦が可能、と。
目の前の壁はどこまでも高く厚い。それを今、再認識した。
「すまない。それは次の機会にしてもらってもいいか?全員、集中しすぎて消耗が激しい。それに今日の反省点も上げていかねばならないからな……今日は協力してくれて本当に助かった。ありがとう」
「そう?じゃあ私が必要になったらいつでも言ってね!こちらこそ今日はありがと!」
あいむしんかーとぅーとぅーとぅーとぅとぅー。
ご機嫌な様子で、知らない曲を歌いながら去っていった。
……ようやく、ようやくほっと一息つけた。シミュレータ室のど真ん中で、全員揃ってへたり込む。
「おかしいでしょ、アレなに?前より強くなりすぎじゃない?」
「ううう……最初に落ちちゃいました……ごめんなさい……」
「いいのよ、彼女はもうああいう生き物だから」
「つくづく、バーンズはよくアレと戦い続けられるな……」
彼女に依頼したことを後悔はしていない。
一人のとてつもない戦力を前にした時の連携や戦型の確認のためには、これも必要な経験だったと思う。
「あと少しで負けるところだった」と言うが、私たちからすればその「あと少し」があまりにも遠い。前々から感じていたが、彼女はどうにも自らを過小評価しているのではないか。普通の人間は5人に囲まれれば負けるしメインカメラを壊されればどうしようもないし戦術を暴力で覆せはしない。
これを「練習すれば誰でもできる」と言うところに、ある種の「ズレ」を感じる。
明るく善良な少女の裏にあるもの。あの指揮官なら、何か分かるのだろうか。
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