習作:マブガル世界にTS転生した一般レイヴンのお話 作:ぱんそうこう
みんなマブガル 、やろう!
朝起きたら、窓の外がやけにうるさい。ざわざわ、ざわざわして、やけにたくさん人がいる。どないなっとんねん。
寝ぼけ眼を擦りながらニュースを見てると、どうでもいい記事が目に入った。あのさぁ、もっと他に書くことないの?すぐに記憶を消して次へ。次。次。うーん、それっぽいのだと龍宮ちゆるの記事しか———ん?龍宮「ちゆる」?
違和感を覚えたので記事を開く。するとまあ、見覚えのある顔写真がデカデカと。
「ちゆるちゃんじゃん。どしたの」
載せられていたのはシリウスシュガーの「月ヶ瀬ちゆる」の顔写真。彼女とはたまにお話ししてるし、彼女の「メイズ同好会」には私も何度か顔を出したことがある。彼女のメイズシフター研究の資料、面白くて好きなんだよね。で、「月ヶ瀬ちゆる」が実は「龍宮ちゆる」で?新元素研究の第一人者で?このままシリウスシュガーに置いとくのはどうなのって?
……はえー。ちゆるちゃんって名字違ったんだなぁ。うん、それしか思わないや。いやだって、シリウスシュガーにいないちゆるちゃんとか本人めちゃくちゃつまんなさそうだもん。ナイナイ。
で、こっちは?うわ、めっちゃ指揮官叩かれてるじゃん。なになに、プレ・クラス-Aの指導中の事故?それってあれだよね、パイロット養成学校の問題児を集めたとこだよね?それに指揮官が指導してて怪我したって?…………素人は黙っとれ案件でしょ、これ。はあ。何がしたいのか知らないけど、暇なのかな。それで今度は?
[新着メッセージ 一件]
あれ?新規メッセージ。こんな朝早くから珍しいな。普段から私に送ってくるの、指揮官と会長とカオスメイデンの皆とシリウスシュガーの一部面々ぐらいなんだけど。あれ、私の交友関係、狭すぎ……?
[送信者 四王天神楽]
……会長じゃん!眠気全部吹っ飛んだよ。なになに、ちゆるちゃん争奪戦?ノヴァセレスとリバティがちょっかいかけてきてて、自分は立場上手出しできないからシリウスシュガーの力になってほしいって?当たり前じゃん!シリウスシュガーから一人でも欠けたらみんな嫌だろうし、参戦するよ!目の前の敵全部粉砕して解決!!!うん!決まり決まり!!!
「待っててね皆!今新鮮な暴力をお届けしに行くよ!!!!!」
◇ ◆ ◇
そうして喜び勇んで柊校舎に来たはいいものの。
うわぁ、物凄い数の記者。皆校舎入れなくなってるじゃん。こういう弁えないマスコミって迷惑極まりなくて嫌い。
あ、指揮官。それにシリウスシュガーと……あの見慣れない子たちは……ああ、例のプレ・クラス-Aだっけ?うわ、完全に取り囲まれちゃってる。指揮官が頑張って守ってるけど人数多くて追いついてない。しょうがない。ちょっと散らすか。
「あっ、黒鉄さん……」
七彩さんと目が合ったので、殺気を飛ばしてマスコミの波を割って入る。気分はちょっとしたモーセだ。
うわ、めるちゃんとかバリバリ囲まれてる。捕食者に囲まれた小動物状態じゃん。いくらなんでもかわいそうが過ぎるでしょ。
「やっほーシリウスシュガーのみんな。災難だったね、身体の調子はどう?君らは確かプレ・クラス-Aのメンバーだよね?いやあ、無事でよかった」
「あ、ありがとうございます……?」「うわ、うわわ。本物の黒鉄さんだぁ……威圧感すご……」
えっ何今の。もしかして私のファンだったりする?まあいいや、後で聞こう。とりあえず今は。
「ちゆるちゃんも大変だね。とりあえずうるさいのに捕まる前に校舎に行こう。こういう面倒、嫌でしょ?」
「う、うん。ありがとう……」
「いいよいいよ。あ、お礼はメイズシフター図鑑の新作でいいよ!また読ませてね!」
そろそろ役立たず以下の連中が再起動するころだ。まずはみんなを校舎に逃して、私もさっさと離脱しよう。
「黒鉄!?」「黒鉄って、あの!?」「スティールヘイズの!?」「シリウスシュガーとの関係は!?」
そら来た。私がこういう場に殆ど出ないんで食いついてくる。あとは引き撃ちの要領だ、私が壁になって時間を稼いで、一当てしたらすぐに抜ける。
「今回の件で何か一言!」「柊校舎の見解を!」「同じパイロットとして、シリウスシュガーの能力について疑問は……!」「教導指揮官の指導適性についてもなにか……!」
は?????なんだこいつら。私の口から否定的な意見聞きたいだけだろ。
シリウスシュガーの努力と指揮官の奮闘を馬鹿にするなよ、殺すぞ。
ちょっと流石に聞くに堪えない。本気でやる。
「おい」
「その口を閉じろ」
「邪魔だ、どけ」
目一杯の威圧と、路上の排泄物を見るような、目一杯冷たい目で罵倒する。こういう時、「俺」の感覚はすごく役に立つね。あんまり役に立ってほしくはなかったけど。
ま、所詮安全圏にいることしか能のない奴らだし。明日には私をぶっ叩いてるだろうけど……まあどうでもいい奴らのどうでもいい記事だ。気にするような価値もない。
じゃ、みんなと合流しようかなーっ、と。
◇ ◆ ◇
「はぁ、酷い目に遭いましたぁ……」
羽音のおかげでなんとか離脱した俺とシリウスシュガー、同行していたプレ・クラス-Aの面々は校舎の中に避難していた。全員の胸中は、今のめるの一言に全て詰まっている。一晩だぞ?まさかたった一晩でこんなことになるとは……。
校舎の前は今も記者でごった返している。これじゃそうそう外を出歩けそうにない。
「ザルトゥーム島中の記者だのリポーターだのが押し寄せてるっぽいね」
「黒鉄さんには感謝しないといけませんね。彼女が引き受けてくれなければどうなっていたことか……」
「こうなると逆に心配。マスコミの命が」
「白奈さんは怖いこと言わないでください!?」
「そうだぞ。羽音は自分のやりたい事に一途なだけで、きちんと理性を以てあの力を振るっている。いかに相手が無礼者だからといってそうそう人を傷つけるような真似はしないさ」
……あれ、なんだこの空気。なんで俺こんな冷たい目で見られてるの?
「……指揮官さん。いつの間に、黒鉄さんとそんなに仲良く?」
「あ、ああ。この前、ちょっとな」
「ま、まさか、この前指揮官さんとカフェデートしてたって噂は本当だったんじゃ……」
「カフェじゃないカフェテリアだ!それにあれは彼女の映像をもとに戦術機動の検討をしていただけで、ちゃんとした勉強会だったんだ!」
俺は一体なんの言い訳をしているんだろう。あれ、なんでいつの間に俺が浮気したみたいになってる???
「へー。じゃあ私にデートしようって誘ったのは嘘だったの?」
「」
ギギギギギ……と壊れたブリキのような動きで声の方向を向くと、そこには教室の入口でジト目になって俺を睨む羽音の姿が。は、早すぎる……!流石羽音だ、あの程度の連中は足止めにすらならないとは……。
「お待たせ皆。軽く追っ払ってきたよ」
「ありがとうございます黒鉄さん。ところでさっきの話についてお聞かせいただいても?」
「後でゆっくりね。それより今はちゆるちゃんが優先。そうでしょ?」
それを聞いたちゆるが表情を曇らせる。
……確かに結果だけを見れば、こうなった発端はちゆるだ。だが彼女には彼女の事情があるはずで、それに本当に悪いのは俺たちを嵌めた人間だろう。なのに彼女は自分を責めているのか。
「……ごめん。あたしのせいで皆に迷惑かけちゃった。羽音もありがと。助けに来てくれたんだよね」
「別にちゆるちゃんのせいじゃないでしょ。結局指揮官とシリウスシュガーの足引っ張りたい暇人が何かしただけでしょ?ちゆるちゃん被害者じゃん、完全に」
「いいえ、これはあたしの責任。身分を隠して柊校舎に入ったのも、研究成果を流出させちゃったのも———全部あたしのせい」
「お前は仲間だ。気にするな」
「その優しさが逆に辛いな……本当にごめんね」
俺は別に優しくしたわけじゃない。事実を言ったまでだ。
そうは言ってもちゆるは納得しない。それに半端な慰めは逆効果……だったら。
「こうなってしまったものは仕方ない。だから聞かせてくれないか?どういう経緯でこうなっているのか」
そして語られるのは、ちゆるのこれまでの功績と来歴。父親が発見したタツミヤ鉱から生成されるT1、T2元素のこと、T2元素は本当は自分が幼い頃に発見していたこと、父親が彼女を守るためにこの学園に入れたこと、そして会長が手を回して彼女に便宜を図っていたこと。
「それで、つい先日まとめた『T2元素の応用』という研究成果がどこからか流出したみたい。本当はあれもお父さんの名前で発表する予定だったんだけどね」
「……なるほど。それであのマスコミの群れってことね」
「あーあ、もうちょっと『ただのメイズオタク』でいたかったんだけどなー。実家は好きなんだけどね」
「でも、それって悪いことなの?」
「それだけの才能があるなら、もっといい施設で研究したいと思わない?立派な施設なら護衛をつけることも可能だと思うんだけど……」
プレ・クラス−Aのジュリーが疑問を呈する。同じチームに属する黒森ラウラもそれに同調している。確かに、彼女の才能「だけ」を見ればそうだろう。しかし———。
「うーん、多分無理。ここまでになると政治が関わってくるんじゃない?」
「そうですわね。ザルトゥーム学園は一つの学園ですが、出資した各地区の行政府の利害がぶつかる場でもあります。少なくとも身分を明かした今、ちゆるさんの能力で他の行政府より先んじたいと考えるところは少なくないでしょう」
「そうすると、今まで通り自由に研究なんかできなくなってしまいますね……」
羽音と七彩、めるが次々に見解を述べる。
そうだろうな。少なくとも、行政府側が望んだ研究だけが仕事になるだろう。それはちゆるにとって何よりも避けなければならないことだ。
「それに今回の件で悪い意味で注目を集めてしまいましたわ。……この記事を見てください」
七彩が出してきたネット記事を覗き込むと、出るわ出るわ。どれもこれもシリウスシュガーの力を疑問視する記事ばかりだ。なんならちゆるを早く引き離してより強い、安全なチームに入れろと煽るものまである。
「はぁっ!?何よこれムカつく!好き勝手言いやがって!ラミ達、カオスメイデンにだって勝ったのに!」
記事を見たラミがキレ散らかしている。俺だって腑が煮えくりかえる思いだよ。
だがこれで見えてきたものがある。要は全て仕込みだ。
「俺たちは昨日、いるはずのない巨大タイプのメイズシフターと交戦した」
「そうなの?」
「羽音は知らないんだったな、その通りだ。これはおそらくプレ・クラス-Aをシリウスシュガーの『足枷』に使い、被害を出させることが目的だったと推察する」
「そうなればシリウスシュガーへの責任追及は免れない。その流れでちゆるを他のチームへ転籍させる口実にする……こんなところか。幸い、お前達全員の成長のおかげで被害は最小限に抑えられたが———」
「被害はゼロではなかった。少しでもつけいる隙があれば私たちへのバッシングの材料にすると、そういうことですか……!」
さすが七彩。話が早い。
「……そしてその結果、色んなとことの間でちゆるちゃんの争奪戦が起こる見通しになってる。だったらそろそろ覚悟、決めた方がいいかもね」
……ん?どうした羽音。なんか、らしくないぞ。それじゃまるで諦めろって言ってるみたいなんじゃ。
「なによ!ラミたちにちゆると別れろってーの!?」
「逆逆。ちゆるちゃんと皆を引き離そうとする敵、ぜーんぶ燃やし尽くす覚悟だよ」
……おっと。思ったより過激なのが出てきたな。食ってかかったラミも、ちゆる本人も、完全に空気に呑まれて何も言えなくなっている。表情は柔らかく笑っているように見えて、目だけがまるで笑っていない。
もしかして羽音、結構怒ってる?
「私さ、いまちょっと怒ってるんだよね」
「朝起きたらつまんない連中が屯してて、知ってる顔が一方的に利用されて、挙句の果てに本人だけを置いてけぼりにして外野の方が盛り上がって—–———冗談じゃない」
「ましてやそれでちゆるちゃんは自分の好きなものを奪われるかもしれないんだよ?ありえない。誰だって自分の翼でしか飛べないんだよ。それを他人が勝手に付け替えようなんて許されると思う?ありえない。ラインを超えてる」
「お高く止まった貴族、文明の光に目が眩んだ技術屋、こんなことのためにやらかした奴も、何もかも燃やし尽くす。————全てを焼き尽くす暴力の意味を、教えてやる」
この場の全員が息を呑んだ。その身体から溢れ出る殺気と圧力は、まるで触れるもの全てを焼き尽くす業火。プレ・クラス–Aの皆に至っては抱き合いながら恐怖で震えている。
……そうだな。お前は誰よりも自分の好きなものに一途だものな。それが奪われることは誰よりも許せない。その気持ちはよく分かる。だが少し待ってくれ。
「……随分具体的な名前を出したな。貴族……てことはノヴァセレスか?技術屋はわからんが、もしかしてお前何か知ってるのか?」
「……うへ。わたしとしたことがうっかりうっかり。その答えはイエスだよ指揮官。というか、それが目的だしね」
「私は、シリウスシュガーの皆の力になるために来た。こんな連中のために皆が離れ離れになるなんてあっちゃいけない。今こそ私の力の使い所。立ち塞がる障壁全てを壊し尽くす。だからさ」
「入ってきなよ、会長。私の獲物、連れてきてくれたんでしょ?早くその顔を見せてよ」
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