習作:マブガル世界にTS転生した一般レイヴンのお話 作:ぱんそうこう
「あわわわわわわわ……ものすごい怒ってますよ黒鉄さん。会長さん、これホントにフルートたち入ってもいいんでしょうか……」
「大丈夫ですよ。確かに怒ってはいますが、決して話が分からない人ではありませんから」
「とはいえ、これは少し危うすぎるな……お嬢様、少し下がった方がよろしいかと」
「それには及びません。これしきの圧力、受け止めずして何が貴族でしょう。会わずして退くのは誇りに悖ります」
『入ってきなよ、会長。私の獲物、連れてきてくれたんでしょ?早くその顔を見せてよ』
「うぅ、もうフルートたちを獲物認定してます……怖すぎですよぉ」
「ふふふ……面白い方ですわね。わたくしたちを『戦う』相手ではなく『狩る』相手として見ているとは。生まれてより一度として経験のないこと……流石はかの『黒い凶鳥』ですわ」
「あってはダメでは?……まずは、彼女を落ち着かせないと話にもならないのではないかと思われますが」
「ともかく呼ばれたからには入りますよ。お三方も、くれぐれも呑まれてしまわないように」
◇ ◆ ◇
教室の入り口に会長の気配を感じたんで呼んでみた。
案の定会長だ。後ろに連れてるのは、「貴族」と「技術屋」から来た人たち。
あー誰だっけ。そうそう、「ピクシス・マスール」のドロテアさんとリュシーさん、あと「トレブル・クインテット」のフルートさんだっけ?
災難だね。いい人そうだけど、まぁ余計なことした自分のバックを恨んでよ。
「……言いたいことは分かりましたが、まずはその怒りを収めていただけますか、羽音さん」
「無理でしょ」
即答。当たり前じゃん。ここまで舐めたことされて、黙ってられると思ってる?
「会長の言う通りだ、羽音。周りをよく見ろ」
指揮官が重い語調で話しかけてくる。言われた通りにすると見えてきたのは涙目のめるちゃん、険しい表情の七彩さん、純粋に驚いているちゆるちゃんとラミちゃん、表情の読めない白奈さん。プレ・クラス—Aの皆に至っては抱き合って震えている。
……あぁ、しまった。ドアの向こうをちょっと脅かすだけで良かったんだけど、私は自分が思ってたより怒ってたみたい。これじゃ八つ当たりだ。
「……皆ごめん。そんなつもりじゃ、なかったんだ」
流石にこれは私もバツが悪い。指揮官も私の肩に手を添えて、落ち着くように求めてくる。
「羽音。ここはまず落ち着いて話だけでも聞くぞ。詳しいことはそれからだ」
「……分かったよ」
どうあっても私がやることは変わらない。目の前の敵を全て焼き尽くす、ただそれだけ。それまでの待ち時間くらいは、誤差みたいなものだ。
「黒鉄さんも落ち着かれたようですので改めて。わたくし、チーム『ピクシス・マスール』のドロテア・カークランドと申しますわ。こちらが従者のリュシー・ムーアクロフト。以後お見知り置きください」
「先ほど主より紹介に与りました、リュシー・ムーアクロフトです」
「アゲぽよ〜!LOC『トレブル・クインテット』のフルート・メルヴィルでーす!よろしく!あ、龍宮さんって呼ぶのもなんだし、ちゆるちゃんって呼んでもいい?」
「い、いいけど……」
あのちゆるちゃんが押されてる。やるねフルートさん。キャラの濃さで言えば上位だ。
あっちのドロテアさんは結構やり手っぽい。私の威圧を受けても涼しい顔してたし、戦い慣れしてる感じ。後ろのメイドさんは明らかに私を警戒してる。まぁ他の校区からしたら私は仮想敵だしねぇ。というか、柊校舎を相手取ること自体私が出張るのとほぼ同義だ。なので雑魚を出せば準備運動にもならないわけで。つまりあっちもけっこう本気みたいだね。潰し甲斐がある。
「それでその3人が、例の?」
「はい。ちゆるさんを引き抜きたいと、手を挙げている校区の代表パイロットの皆さんです」
させると思う?ちょっぴり怒りが漏れそうになる。でも流石に続いて同じ過ちを犯すわけにはいかない。とりあえず今は黙って歯を食いしばっておく。ついでに自分で腕をつねって、痛みで怒りを誤魔化す。じゃないと余計なことまで言ってしまいそう。あくまで私は用心棒。本命はシリウスシュガーなのを忘れちゃいけない。
「先に経緯から述べておきましょう。まず、学外からの干渉については私の方で抑え込んでいます。より良い研究機関に、という話もありましたが、全てちゆるさんの意思を無視していましたから」
「ですが一方で、シリウスシュガーではない別のチームに移籍させるべき、という話も各所から出ております。こちらについては私でも、いえ、私だからこそ抑え込めていません」
「どういうことでしょうか?」
めるちゃんに同意。別に会長ならそれぐらいできると思ってたけど。
「ちゆるさんはシリウスシュガー所属の状態で何度か危険な目に遭っています。その責任は許可を下した私にもあるとのことで……学園の理事会からの圧力もあり、それらの意見に対し中々ものを言える状態ではないのです」
そう右手で頭を押さえながら言う。よっぽど悩みの種みたいだね。
ふーん理事会だっけ。覚えとこ。いざって時に必要が生まれるかもしれないし。
「ちゆるちゃんには、うちのLOC校区のウルトラ快適な施設で研究するとか超アリよりのアリなんじゃないかなって!」
「我々ピクシス・マスールであれば月ヶ瀬さんをよりメイズの深層まで他のどのチームよりも安全に、確実に送り届けられます。……彼女にとっても悪い話ではないと思いますが?」
「も、もちろんフルートたちだってちゆるちゃんを守れますよ!?全っ然負けてませんのでっ!」
うへ。好き放題言っちゃって。
でもなんとなく分かるよ。二人は多分善意で言ってる。自分たちがたくさんバックアップして、ちょっとでもちゆるちゃんにとっていい環境にするのがいいことだと思ってる。それは正しい部分もある。だから嫌なんだ。二人の校区の考えが見えにくくなる。
———パイロットを代理人にしたのはこれか。校区の運営側を出さないことで善人面をしようとしてる。腹の底じゃ何考えてるか分からなくしてる。ACの企業みたいなものだ。めんどくさい。
「もちろん転籍の意思は個人の自由です。ですが、『学園の大切な宝はより安全な場所で管理すべき』という意見が強いのも事実」
「ちょっと!黙って聞いてれば宝とか管理とか!ちゆるのことを物かなんかだと思ってんの!?」
「そ、そうです!ちゆるさんはシリウスシュガーの大切な仲間なんです……!」
……分かってる。会長はあくまでそういう意見があるということを言っているだけ。それでもその意見の身勝手さは頭に来る。ラミちゃんは既に怒り心頭、めるちゃんも珍しくムッとした表情を隠そうともしていない。
ちゆるちゃんも追い詰められた表情をしている。まさか、自分から転校を申し出たりしないよね?
正直そろそろ限界だ。いけないことだとは分かってるけど、シリウスシュガーの皆を置いてきぼりにして爆発しそう。
こういう時。あなたならどうするの。指揮官。
どうやって、こっち有利にひっくり返す?
指揮官はこめかみを揉んでいる。
ふと、視線を上げた指揮官と目が合った。そして感じた。何か始まる。
「……一つ、確認させてくれ。移籍の話は要するに、『シリウスシュガーでは彼女を守るのに力不足』という話から始まっているんだな?」
「ええ。そういうことで間違いはないかと」
「であれば、だ。逆に言えば、ちゆるが所属するに足る実力を有したチームであれば極論どこでもいい、と」
「……ええ。その通りです」
「なら簡単だ。———そうだろ、皆?」
…………?……!そうか、この流れは!
「……っそうですわね!実力で証明するのが一番だと思いますわ!」
「シリウスシュガーとあなたたち……」
「どっちが強いか、白黒はっきりさせたらぁ!」
「負けない」
「み、みんな!?」
暴力確定演出だ!指揮官も粋な計らいしてくれるじゃん!
すごいよ!激アツタイム始まった!私の怒りゲージも急降下!すごくわくわくしてきたよ!
「決まったかな?じゃあちょうどいいね。本番はいつ?全部燃やし尽くしてやるから」
「———いいえ、黒鉄さん。先ほどの話……助力の件、わたくし達は受けるわけには参りませんわ」
え?
◇ ◆ ◇
そうだ。それでいい。よく言ってくれた七彩。
羽音。悪いが、この件にお前を関わらせるわけにはいかない。お前はとてつもなく強い。お前の力があれば、向こうが束になってかかっても……まぁ、9割ぐらいは勝てるだろう。でも、だからこそお前を頼るわけにはいかない。お前は確かにシリウスシュガーの良き友人だ。友人だが——それでも、お前は別のチームで、外野であることに変わりはないんだ。
そして、お前の力を借りたところでそれは根本的な解決にはならない。
火種は燻り続けるだろう。見えるところと、見えないところで。
きょとん、とした顔で羽音が目をぱちくりさせる。熱くなりかけたところを七彩の言葉で水を差されて、一気に冷静になったのか、それとも梯子を外されて戸惑っているのか。
そのおかげかさっきまでの圧力も暴威も一切抜けきって、いつもの明るい羽音に戻っている。
「当然でしょ!?ラミ達があんたの力借りて勝ったとして、あんた頼りだのあんた無しじゃ力不足だのなんだの、好き放題言いまくられるに決まってるじゃない!」
「お前はもう少し自分の力と影響力について理解した方がいいな」
「ラミちゃん!?指揮官!?」
「シリウスシュガーは私たち5人でシリウスシュガーなんです!……その、助けてくれるっていうのは嬉しいんですが、皆のこれからは、皆の力で切り開かないといけないんです!」
「めるちゃん……」
「今回の試合、チートキャラは出禁」
「白奈さん???????」
「ええ。これはいわば、わたくしたちに課せられた試練です。黒鉄さん、貴女は良き友人ですが、だからこそわたくしたちは貴女に頼ってはならないのです。貴女の言葉を借りるなら、今こそ『自分たちの翼で飛ばなくてはならない』のですわ!!」
ドロテアがにこやかに笑っている。この後の戦いが良いものになると確信したのだろう。リュシーも、「敵」の存在を見据えてその目の色を猛禽の如き鋭いものへと変えた。
フルートが表情を輝かせている。確実に近い勝利の道を拒絶し、仲間のために困難な道を選んだ七彩の覚悟に心を動かされたのだろう。
ここに、議論は決した。
言葉を尽くす時は終わり。ここからは意志を示すため、その剣を交える時だ。
「ですので、この場を借りてリーダーとして宣戦布告いたしますわ!わたくしたちは、羽音さんを頼ることなく、力、技、策の持てる全てを尽くして皆さんに勝利いたしますっ!ちゆるさんは……わたくしたちの大切な仲間は!絶対に誰にも渡しませんわ!」
「シリウスシュガーを、舐めないでくださいっ!!!!!」
◇ ◆ ◇
あー。
あー、うん。そっか。
そんなこと言われちゃったらさぁ。皆に任せるしかないじゃんね。
今の私はお邪魔虫。外野にも関わらずみんなの問題に出しゃばった人。
あは。
あはははは。
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!
笑いが止まらない。いつぶりだろ、私の力が「必要ない」って言われたの。
これも指揮官の薫陶のおかげ?それとも、皆の成長のおかげ?
なんでもいいや。こんなの笑わずにはいられない!
最っ高!あのシリウスシュガーが!落ちこぼれと言われた皆が!こんなに強くなってる!特に七彩さん。この場で事実上の勝利宣言なんてすごいよ。覚悟決まりまくってる。
あーあ、わたしもまだまだだなぁ。皆のこと、多分心のどこかで舐めてたよ。ごめんね、本当に。
いつか戦う時がもう待ち遠しい。どうせやるんならもっと強くなってから本気でやろう!その方がきっと楽しいでしょ?
もっと見せてよ皆の強さを!証明してみせてよ!皆の意志を!
だから負けちゃダメだからね!こんなところで!
皆は5人揃ってこそなんだから!!
あっはははははははははははは!!!!!!
最高だよ、シリウスシュガー。
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