習作:マブガル世界にTS転生した一般レイヴンのお話 作:ぱんそうこう
「ねむ……ねむ……」
試合当日。私は夜明け前から起きて自室でネット配信の中継画面を開いていた。
今回の試合、非公式戦だけど懸かったものが大きい上にメンバーも豪華ってことでずっと配信されるらしい。学園中が試合会場なのに大丈夫なのかとも思ったけど、ライブカメラを使ってやるからそんなに手間はかからないとかなんとか。
あの日、シリウスシュガーの覚悟を見せてもらった時から試合まで2日くらい空いたけど、私は一度も皆に連絡していない。もちろん、指揮官にも。あっちもそのつもりだったんだろうね、向こうからの連絡も一切無かった。
お互い、通じ合ってるみたいでちょっと嬉しいね。
七彩さんが啖呵を切った時、私はものすごく笑った。笑って、笑って、笑って、嬉しくなった。テンションも上がりまくり急上昇、もう手助けしようなんてこと、考えられなくなった。その代わり指揮官からは「なんなの、この人……」みたいな目で見られたけど。
でも私の力なんかいらないなんてここ暫くずーっと聞かなかった言葉だったしね。そりゃ嬉しくもなるよ。何より皆はそれを「自分で選んだ」。
選ぶのはいいことだ。それが困難な道なら、自分の翼で「飛ぶ」ことならば尚更。
だから私は皆に必ず勝ってよね、って。
自分たちの意志を、最後まで貫き通してね、って。
そう期待を込めて言った。
「証明してみせて、その翼でどこまで飛べるか。皆ならそれができるはずだよ」
相手は格上2チーム。だけど、それぐらいで勝率を測れるほど戦いは甘くない。そして可能性があるなら、どれだけか細くてもそれを掴みに行く。少なくとも、カオスメイデンとの試合で見た皆はそうだった。
だから、頑張れ。
ちなみに会長からのシリウスシュガーに手助けしてくれって件、無理だよごめんねって言ったら構いませんよって言ってもらった。何でも、すごく良いものを見せてもらったのでこれで手助けをするのは逆に無粋だって。あの人も話が分かるね。この話はこのまま無かったことになった。まあ知ってるの私と会長だけだし、それでいいか。
おっと、中継が始まった。
私はまだちょっとうつらうつらしてる。けど、夜明け直後から試合開始だし、早いとこスイッチ切り替えないと。
確かレギュは何でもあり、だったはず。実戦想定で、学園全体を使った戦闘になる。
「指揮官ならぁ……開始直後から……隠れてこっそり動くかなぁ……」
今のちょっと寝ぼけ気味でふわふわした頭でもそれぐらいは分かる。
巧遅は拙速に如かず。孫子を理解してるあの人ならそう言うだろう。何より学園全域がフィールドとはいえ、他チームの態勢が盤石に近づくほどシリウスシュガーは不利になる。それはシリウスシュガーが勝つために避けなければならないこと。つまり。
「最速でドロテアさん落とすかぁ、リュシーさん落としてバランス崩すかなぁ……」
私ならそうする。教室から帰った後に対戦相手の戦闘動画を一通り漁ってみたけど、ピクシス・マスールの他3人はあの2人と比べて格が少し落ちる。もちろん水準としてはかなり高いのは事実なんだけど、どうしてもあの2人が別格だからね。そしてエースはドロテアさん、必然参謀役はリュシーさんが務めることになるので、どっちかを落とせばチームとしてのパワーは落ちる。あとは数でどうにか……って感じ。
トレブル・クインテットは……どうだろ。リーダーが他メンバーと比べてそこまで強くないっていう珍しいタイプだからなぁ。精神的支柱としてのリーダー?って感じ。なんというか、なんとも言えない。チームプレーも個人プレーも水準はLOCでもトップクラスに高いけど、純粋な戦闘能力だけなら同じ校区の「トリニティ・ジュエル」のほうが人数の少なさで私的に評価が高いからね。格上で強いのは事実だけど今の皆なら勝てない相手ではない、と思う。
あーでも。
「そこ2つが組んでくるパターン……?」
これが一番危険かも。
ていうか、一番あり得そう。向こうは最初私を相手にするつもりだったと思うし、そうすると形は違っても裏でこっそり……は十分ある。あれ、もしかして私のせいで難易度上がっちゃった?
いや、でも七彩さんがあんな実質勝利宣言かましたわけだし、先に落として後から取り合い組で雌雄を決するのは不思議じゃないか。もしその展開に決まったら勝つのは「ピクシス・マスール」だね。たぶん。
———まあどっちでもいいや。あれだけの啖呵を切ってくれたんだし、きっと勝ってくれるよ。私は皆の可能性を信じてるからね。
中継に目を戻すと、めるちゃんが試合開始の口火を切っていた。奇襲そのものは成功したものの、浅くてドロテアさんもリュシーさんも落とし切れていない。
仕留め損ねためるちゃんに他の皆が合流、そこにピクシス・マスールの弾幕が襲う。……弾幕にやる気がないね。落とす気ゼロってこと?
ここで時間稼ぎする理由はあんまり、いやあるかな。
皆の意識の外側から5機のMGが強襲をかける。トレブル・クインテットだ。やっぱり組んでたんだね。先にシリウスシュガーを落とすために。
苦戦するシリウスシュガー。実質2対1×5。かなり良い動きをしてるけどだいぶきつそう。ここから勝つならあちらの予測を上回る完全な「イレギュラー」が必要になる。
どうするの?指揮官。
配信映像越しに視線を向けても指揮官は変わらず、皆の指揮を続けている。なにもしないのか、それとも「する必要がない」?
その時、状況をハラハラしながら見守る私の目にトレブル・クインテットを襲う新しいMGの姿が映る。
マッシブな機影。風紀委員会の機体に似た、旧式の練習用カスタム機。
「輝映」。そしてそれを操るチームに心当たりは、一つしかない。
あはっ。
これは。もしかして。もしかすると。
「あっははははははははははは!!!!!」
「ひー、ひー、おっかし、げほっ!げほっ!」
「あはははははははははは!!こひゅ、ひゅっ、はー、はー」
「む、むり、しんじゃうっ!いきできないっ!あははははは!!!!」
「そ、それ、いくらなんでも、無法すぎでしょ!!!ふくくくくくく……!」
「あーもう!」
「ばーーーーーーーーか♡」
ばんばん。ばんばん。
じたばた。じたばた。
自室のベッドの上で枕に顔を埋めて、手足をバタバタ動かして、枕を力いっぱい叩きまくって、この溢れ出る喜悦で脳を震わせている。
どうしよ。私、いま人に見せられない顔してる。
だって思わないじゃん!?「参加チーム登録もしてないプレ・クラス–Aの皆が乱入してくる」なんてさぁ!
皆、純粋な実力ではこの場のどのチームにも劣る。それでも恩義あるシリウスシュガーのために、かな?自分たちでこの場に来ることを「選んだ」!戦うことを「選んだ」!!!本来戦いの場に立つことさえ許されなかったはずの子たちが!!!
そしてそれが今、この戦場の「イレギュラー」として場を掻き回してる!最高だよさいっこう!皆どれだけ私を喜ばせたら気が済むの!?
たまんないよぉ……興奮するぅ……。脳みそからいけない液体がどぱどぱ出てくるよぉ……。頭主任になっちゃうううう!!!
なんかもう…………みんな愛してる!!!!最高!!!大好きー!!!
◇ ◆ ◇
「証明してみせて、その翼でどこまで飛べるか。皆ならそれができるはずだよ」
七彩の啖呵を聞いて、自ら身を引いた彼女はそう言っていた。
正直、七彩の啖呵のどこが彼女の琴線に触れたかは分からない。ただ、彼女はひとしきり笑って、笑って、笑いつづけて、笑いながら喜び勇んで身を引く決断をした。会長はうんうん頷いていたあたり、真意を理解していたようだったが……。
それから今日に至るまで俺たちは彼女との普通の連絡すらしていないし、互いに示し合わせたでもなく彼女も連絡してこなくなった。
ここまで徹底するんだな、という気持ちと、互いに考えていることが同じであることに少し嬉しさを感じた。
柊校舎の人間でスティールヘイズを、黒鉄羽音という少女の強さを知らないパイロットはいない。それはシリウスシュガーの皆だって例外じゃない。
同じ校舎のパイロットとして、その遥か遠い背中を見てきた彼女たちは、自分たちの意志で彼女が持つ規格外の「力」という甘い誘惑を振り切った。
だからこそ、これまで積み重ねてきた全ての力で勝つ。
未登録チーム———プレ・クラス—Aというイレギュラーの参戦。誰も予想だにしていなかっただろうが、これもシリウスシュガーが積み重ねてきたもの、その結実だ。
敵も味方も若干「これ、いいのか……?」みたいな反応しているが知ったことじゃない。経緯を考えれば彼女たちだって当事者だ。それを蚊帳の外に置くのは、違うだろ?
ピクシス・マスールが初めからトレブル・クインテットと組んでいたことには驚かされたが、彼女たちの介入で崩壊しつつあった戦線は完全に息を吹き返している。
友人を守りたい、ともに居続けたいという強い意志が。
自分たちを強くしてくれた師にその恩を返したいという強い願いが。
彼女たちに力を与え、逆襲へと至るピースとなり、次々と敵を撃破していく。
「ちゆるさんとこれからもずっと一緒にいたいんです!誰も欠けてほしくない……だから、負けられません!」
「後から出てきてちゆるを横取りするなんて、悪辣にも程がある。ちゆるが欲しいなら、わたし達を倒してからにして……!」
「どいつもこいつも自分勝手なことばかり言って……誰かひとりでもちゆるのことを考えてモノ言ってんのかよ、ああん!?」
「知らなかった……自分以外の誰かのために戦うと、こんなに力が湧いてくるなんて!」
「みんなと一緒なら、どんな強敵にも勝てそうな気がしてくる!」
「戦闘技術だけがこの世の全てではありませんわ!仲間を想う絆こそが……戦況をいつだって覆しますの!」
猛攻にさらされたドロテアがちゆるに言う。
より良い施設、メイズのより深いところに潜れるチームの協力が欲しくはないのか、と。やりたいこと、成したいことに近づけるのだと。
「……という、ノヴァセレスからの宣伝文句です」
これだけのものを見せられて、彼女も本気で誘うつもりはもう無いのだろう。およそ誘い文句としてはやる気のない義務的な文言で彼女を誘う。
だが、その答えはもうちゆるの中で決まっている。
「……ごめん。いい研究施設も深層の探索も魅力的だよ。だけど———今のあたしはこのチームを離れたくない!」
「あたしは、シリウスシュガー所属、月ヶ瀬ちゆるだから!!!」
魂をこめた一撃。渾身の砲撃が、トレブル・クインテットを完全に撤退へと追い込み、完全に逆転を果たした。残るは一人、ピクシス・マスール最強格のドロテア・カークランドのみ。
言ったな、羽音。その翼でどこまで飛べるか証明してみせろと!
よく見ておけ。これが俺たちの、シリウスシュガーの証明。どこまでも飛んでみせる意志だ!
ドロテア機の圧力が増していく。
最後の一機になってもなお、誇り高く戦う意志が俺たちにプレッシャーを与えていく。
次の交錯が文字通り最後の決着になるだろうという予感を与えていく。
だが結果として、その予感が当たることはなかった。
俺たちの全く予期しないところから。
この場においては本来有り得ざる実弾が、轟音と共にドロテアも含めた俺たちに襲いかかった。
◇ ◆ ◇
轟音。配信画面から、聞き慣れた実弾の音。
中継が終わる。画面が砂嵐に切り替わる。
その瞬間、もう私は自室を出て格納庫へ走り始めていた。
手元の端末が震えるけれど見ている暇はない。
でもここまでのあれこれから察するに、第三者が来た。それもガチで武装してるやつ。
へー。
ふーん。
ほー。
あー、そうなんだ。そういうことするんだ。
悲しいよ。皆の晴れ舞台がこんなになるなんてさ。
決着まで後ちょっと。皆の「翼」が勝利を掴もうってときにさあ、無粋なことしてくれるじゃん。もうちょっとでも待てなかったの?
どこの誰だか知らないけれどさぁ、ちょっとそれはライン超えてるよ。
だからさ。
「潰してやる」
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