習作:マブガル世界にTS転生した一般レイヴンのお話 作:ぱんそうこう
羽音ちゃん「野郎ぶっ潰してやる」
コトハ「」
会長「」
風紀委員会「あの、それ私たちの仕事…」
飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。ついでに邪魔してきた違法パイロット集団を撃破して飛ぶ。
急げ。急げ。このままだと皆が、指揮官がどうなるか。
格納庫に着いたら学園中にMGでの行動自粛しろって強めの指示が出てたらしく、出撃するしないで現場に詰めてた風紀委員会と揉めた上にそのせいで時間を食ってしまった。その時のごたごたのせいで普段使いのブレードしか装備出来てない……。
会長、いつの間に風紀に手回してたんだよ。俺の考えは分かりやすいって?そうだね……(納得)。
こっちに向かってきた連中はいくらかしばき倒したが、単発の襲撃にしてはやけに展開数が多い。ついでに移動を邪魔してきたんで少しばかり落としてきたが、しかしどいつもこいつも粗製パイロットだ。今指揮官を襲撃している奴の周到さとは似ても似つかない、そういう感じがする。
指揮官との連絡は繋がらない。シリウスシュガーがどうなったのか、あの偉大なルーキーたちはどうしているのか。他のチームは?もう墜ちたのか?
何もわからないということだけが分かる。それはつまり妨害を受けているということ。
なおかつこうして違法パイロットを方々に展開しているということはこれも妨害目的だろう。風紀委員会によほど動いてもらいたくないらしい。戦闘力の質は悪いが、作戦を立てた奴の質は高いようだ。
「……見つけた」
だがそれももう終わりだ。敵と相対する指揮官の「霞光」を視認した。周囲には行動不能の「フロンティア」と力尽きた「キャバリエ」。そして頭からビルに突っ込んだ大破状態の「輝映」が倒れ伏している。
「よくもまぁ好き勝手してくれたもんだ。その分の落とし前、きっちりつけろよ、テロリスト共……!」
加速。さらに加速。
Gが身体を圧迫する感覚を味わいながら、敵のど真ん中に俺は突っ込んだ。
◇ ◆ ◇
ドロテア機が抜かれ、フルート機も力尽きた。
敵は違法パイロット集団、「双頭の斧」。
何機かが撤退した機体の追撃に向かったことで残りは敵のリーダー格を含めて5機。動けるのは俺一人で、おまけに霞光は武装ゼロの機体だ。状況は最悪だと言ってもいい。
辛うじて敵の目標だったちゆる、そして最後まで残っていたシリウスシュガーとプレ・クラス-Aも下がらせることが出来たのは唯一の幸いか。これも、大破した機体を無理やり動かして敵を撹乱したジュリーの奮闘のおかげだ。そのジュリーは今、無茶をした代償としてビルの壁の中で身動きが取れない。最悪、このまま人質に取られかねない。
–———俺がやるしかない。
『その機体、武装がないようね』
「だからどうした!」
『そう……そんなに落とされたいんだ』
覚悟は決めた。勝負は一瞬。向こうが俺を侮っている隙に落とす。
射線は既に見えている。そこから外れさえすれば、どうということはない!
敵機の砲口が火を噴いた。その瞬間、機体を振って身を捩らせて射線を離脱、そのまま跳躍ユニットを吹かせて懐へ飛び込まんとする。
「双頭の斧」首領の驚愕した声が聞こえる。
その隙をついて拳を振りかぶり、その一撃を届かせんとする——。
———が、俺は失念していた。既に一機が、俺の背後に回っていたことを。
「ぐあっ!」
(メインブースターが、イカれたか……っ!)
今のでもう機体は動かなくなってしまった。このままだと動けないジュリーが人質にされる。最悪ここの全員皆殺しか……。全員の生命を、なんとかして救う手はないのか。なにか、何か手は。
歯を食いしばって、頭を回して。それでも———なにも、思いつかなくて。もう終わりかと。そう思い、空を見上げたとき。
空から炎の翼を広げた黒い鳥が、高速で迫り来る。
轟音と共に、黒いMGが地に舞い降りる。
それは、一途に空を飛ぶ少女。
それは、柊校舎が誇る圧倒的な暴力。
それは、全てを焼き尽くす黒い鳥。
「『スティールヘイズ』、現着」
「お調子こいたテロリストに暴力執行のお時間だ……!」
———黒鉄羽音が、その代名詞たる黒の「黎明」が、大地に降り立った。
「来てくれたのか、羽音!」
「最速でここまで走り抜けてきたぜ。間に合ってよかった……派手にやられたな指揮官。いつもより男前になったんじゃないか?」
歓喜混じりの俺の声に彼女が薄く微笑む。
というか、なにかいつもとキャラが違くないか?
……なんだったか。確か、コクピットに座ると性格が変わるって前に七彩が言ってたような。
いや変わりすぎじゃないか?ボーイッシュな見た目も相まってちょっと胸がときめいてしまったぞ。
……ともあれ、これで全ての条件がひっくり返る。生き残りの目が見えてきた。羽音には、そう思わせるだけの力がある。
「羽音さん……なのですか……?」
「ああ。正真正銘、俺が来たぜ。ドロテアお嬢さん」
「……ふふ。本当に良いところを持っていかれるのですね。まるで御伽話の騎士のよう」
「ふわぁ……今の羽音ちゃん、ものすごくカッコいいです……!」
「あとは任せな、フルート。柊の精鋭に偉大なルーキー相手で疲れただろ?少し休んでな」
ドロテア、フルートの両名が短く頷く。それを確認すると、通信の中の彼女は表情を真剣なものに変えて双頭の斧の首領と相対した。
先に口を開いたのは、双頭の斧。
『『黒い凶鳥』……随分早いご到着じゃない』
「風紀に追われながらだったんでな、少し遅くなったが……随分と派手にやってくれたじゃねえか、テロリスト共」
「せっかくあいつらが借り物じゃない、自分自身の翼で飛ぼうって時によ、非道いことしやがって」
『……そう。それは悪かったわね。でもこっちだって譲れないものがあるのよ』
「そうかい。まあ、俺の知ったことじゃないな。……潰してやる」
『……!来るわよッ!』
ブースターによる0から100への超加速が敵機の眼前へと機体を運ぶ。リーダー機は反応が間に合い、ミサイルを撒きながら咄嗟に下がることに成功した。だが彼女の狙いはそこではなく、反応が一番遅れた弱者。意識の隙間を縫うような緩急、そして一切澱みも迷いもない彼女の業の前では、その程度の下っ端では反応することさえ許されない。
「ひとつ!」
『………速いっ!』
撃墜まで2.5秒。ここでようやく敵が羽音の危険性を頭でなく、心で理解した。
リーダー格が前に出て羽音の相手をし、取り巻きは羽音の背後に回って援護の姿勢。
まるで手慣れているかのように包囲陣形を取る。
『そんな貧弱な武装でッ!』
「温いな!カラフルブーケの連携に比べりゃ情けないにも程があるぜ!」
……向こうの言う通り、今の羽音は余程急いで来たのか、ブレード一本しか装備していない。敵機の装備は軒並み中〜遠距離を前提とした火器で固められている。装備の差では羽音が圧倒的に不利。だが俺は知っている。この状況は、彼女にとっては「いつものこと」でしかないのだと。
「安い奴から片付ける!」
とても普通のテロリストとは思えない、訓練された一斉射撃。だがその一瞬前に彼女は既に空へ飛び立っていた。突然の敵影消失に下っ端が引き金を引く事を躊躇い、リーダーは咄嗟に砲口を上に向ける。やはりリーダー格だけあって練度が高い。だがもう遅い。空中でブースターを吹かし加速と減速を繰り返す凶鳥の眼差しは、既に獲物を見定めている。
「ふたつ!……今日の俺は機嫌悪いんだ!ここで出会った不幸を呪えや!」
『ダ、ダメですボス!捉えられません!』
『たかが一機にこんな……うわぁっ!』
『こいつの相手は私がする!各機は援護しつつ離脱を優先!』
「させると思うかよ!みっつ!」
ついに残り一人となった手下が残弾を無造作にばら撒きながら下がっていく。
凶鳥がズタズタに引き裂いた陣形はもはや無いも同然。まして、三機落ちたとあれば手数も何も足りないだろう。
身動きの取れないジュリーを狙う余裕も無くなったようで、そちらには目もくれずにまっすぐ離脱を図る。……羽音への若干の恐怖もあるのか、半ば潰走に近いかもしれない。そんな中で唯一、あのリーダーだけは規律を保ったまま、部下を庇いつつ引き撃ちによって羽音との距離を一定に保ち続けていた。
……装備の差と消耗があったとはいえ、ドロテアとフルートをあっさりと落としたところも含めてかなりの腕だろう。現に今も、こまめに砲口の向きと各種火器の弾道を調整して彼女が飛ぶ軌道を制限し続けている。だがそれでも凶鳥の飛翔は止まらない。急激に距離を詰める行為を咎める程度に留まっている。
———いや、あの羽音相手にそれで留められるあたり、その技量は見た目以上のものがある、と考えるべきか。
『これが『黒い凶鳥』……ッ!これほどの力を持ちながら!』
「知らねえよ!俺は俺の翼で、どこまでも自由に飛んでいってやるだけだ!」
『この狭い空の下で!?冗談は休み休み言いなさいよっ!』
「だったら!
その時、敵が息を呑んだ、ような気がした。
行動に一瞬の空白が混じる。その僅かな不覚が絶妙な綱渡りのバランスを崩す。
『!しまっ……!』
「そこだッ!」
弾幕の中に僅かに生まれた空白、その隙間を縫うように咄嗟に姿勢を崩して刃の軌道から退避、同時に左腕の火砲で迎撃を図ったようだが、遅い。その左腕は既に切り落とされている。
左腕装備火器に残されていた弾薬が暴発を起こし大爆発。辛うじて誘爆こそ避けたようだが、あれではこれ以上の戦闘継続は不可能だろう。
とはいえ、羽音も至近距離での機体の爆散を嫌ったのか、一度ターンしてほんの少し後ろに下がり、爆炎の向こう側へそのブレードを投げつけた。
手応えは、あった。爆炎の向こう側でさらにもう一つ爆発が起こる。いよいよ爆散したか———そう思った時、爆煙を切り裂き、両腕と肩部の武装をかなぐり捨てた機体が、ブースターを最大出力で吹かし、高速で離脱する態勢に入っていた。
『今は好きに飛んでなさいよイレギュラー!この『偽りの空』でね!』
「待てよッ!」
捨て台詞を吐いて離脱するリーダー。補助として手下に抱えられており、二機がかりの推力で無理やりにでも逃走を図る。
それを容赦なく追おうとする羽音。だが今はそれよりも。
「もういい羽音!深追いする必要は無い!」
「味方は誰一人犠牲にならなかった!人質にされかけたジュリーも無事だ!あの危機的状況をお前が全部ひっくり返してくれた!……ありがとう。これ以上を求めたらバチが当たりそうだ」
『教導指揮官さんの言うとおりです』
通信越しに、聞き慣れない凛とした声が入ってくる。
そこから数機の風紀委員会の機体と、見慣れないカラーリングの「黎明」が並んで現れた。
「会長!それにポンコツいいんちょ!」
会長……てことはあの黎明は会長の機体か!?初めて見るぞ。
『ポンコツですか!?い、いえそうではなく!これ以上の追撃は無用です黒鉄さん!」
『羽音さん。月ヶ瀬ちゆるさんの保護、各地に展開された敵機体の撃破は既に完了。また、貴女のお蔭で敵勢力の完全な撃退も完了しました。この場で引き続き戦闘を行うより、今はこの場にいる皆さんを安全な場所へ移送するのが優先です。ここから先は風紀委員会に任せてください」
「会長……」
会長の理性的な声が、羽音にも落ち着きを与えつつあるようだ。
本当に、落ち着いてさえいればすごく理性的なんだよな……。一定のラインを超えると全て焼き尽くそうとするだけで。
『それはそれとして貴女には後で山ほどお話があります。逃げないでくださいね?』
「会長??」
ん?流れ変わったな。
『当然ですっ!いくら貴女のお蔭で被害が抑えられたとはいえ、風紀委員会からのMGによる行動の自粛通告の無視!それを見越した会長指示による静止も力ずくで破っておいて、これ以上の違反行為を許すわけにはいきませんっ!』
いや何やってるんだ?????
うわぁ……命令違反のレベル超えててちょっと俺も引く。
ていうか何?風紀に追いかけられてたってそんなことしてたの?
『羽音さん。今回の件は私と大賀委員長の両名で取り調べをします。覚悟しておいてくださいね?』
ひぇっ。会長もマジで怒ってる。
羽音……来てくれたのは嬉しい。嬉しいんだけどさぁ!やりすぎだろ!
もうちょっとこう、後先とか考えるつもりはないのか!?
「分かった分かった。しょうがねえなぁ……」
「あぁ指揮官。ちょっと伝言頼む。プレ・クラス—Aの連中に伝えといてくれよ」
「なんだ?」
「『見てたぜルーキー。お前らの決意と覚悟、最高だった』……ってな」
…………そういう気配りを、会長たちにもしてあげてもいいんじゃないか?
俺はなんとなく、そう思った。
※風紀委員会によるMGの行動自粛通告は原作通り。リリーのtweety参照。
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