習作:マブガル世界にTS転生した一般レイヴンのお話 作:ぱんそうこう
「それで、どのような経緯で自機に搭乗することになったと?」
いやその、皆の事が放っておけなくてェ……。
「風紀委員会からの通達は見ましたよね?」
いやその、見る暇がなくってェ……。
「しかし、武装勢力による攻撃である事は察していたのですよね?」
はい……仰る通りです……。
「まさか、ろくな情報収集もなく武装勢力に向かっていこうとしたのですか?」
だって……せっかくの皆の晴れ舞台を邪魔されたくなくって……。
「……はぁ。普通はそれだけで武装した敵の中へ突撃していくのは自殺行為でしかないのですが……いえ、貴女にそういう『普通』を求める方が間違いでしたね」
うへぇ。私そんな様子おかしい人だと思われてる?
「当然です。普通のパイロットはブレード一本で完全武装の違法パイロット集団を撃滅したりしません」
そんなぁ。皆練習すればできるようになるって!
だからもっとMG戦、しよう!?
「貴女がそれを言うと冗談に聞こえないから困りますね……。そもそも貴女の言うその『練習』を行うのは睡眠以外の全ての時間でしょう?それは練習の域を通り越して拷問のようなものです」
「貴女の善性は確かなのですが、とにかく力で解決できそうだと思った時に突っ走る癖が……いえ、これ以上はやめておきましょう」
ゆ、ゆるされた……。
実績は大事。積み重ねておくとこういう時に強いのだ。
「決して全てが許されたわけではありませんよ?」
アッハイ。
「今回は功績の方が遥かに大きいので大事にはしません。ですが規則や通達を初めから守らないのも問題です。とにかく、一人で突っ走る前にまずは周りを見てください。熱くなった勢いで突撃してはいけません。よろしいですね?」
はーい分かったよ。
次からはもっと考えながら突撃するね……。
「どうしましょう会長。彼女、まるで反省していません」
「困ったものですね……」
◇ ◆ ◇
そういう感じのやりとりがあったのも数日前。
「シリウスシュガーの皆、無事一緒にいられるみたいだね。おめでと」
「ああ。ドロテアとフルートが報告書を出してくれた。『シリウスシュガーの戦闘力に申し分なし』ってな、お蔭で移籍論も立ち消えになった。……本当に良かった」
今日の私は指揮官と喫茶店でちまちまとパンケーキやら紅茶やらをしばきながら、その後についてお話をしていたのである。打ち上げだね、実質。
ちなみに指揮官はコーヒーセットだ。ケーキを食べてるだけで絵になるの、とってもずるいなぁ!!
「いいねそういうの、戦友の絆って感じで」
「お前だって戦友だろ?あの二人、お前にすごく感謝してたぞ。……俺も、お前がいなかったらこうしてケーキを食べることも出来なかったかもしれないしな」
「あはは、別にいいのに。お礼なんか……うん、5回ぐらい戦ってくれれば十分だよ」
「そこはいらないわけじゃないのか……」
「貸し借りはちゃんと精算しないとね。じゃないとどこで尾を引くことになるかわかんないでしょ?」
「それはそうだが……そういうところ、羽音って割とシビアだよな」
そりゃね。そこら辺はきっちりしとかないと、どこで変な負債背負わされるか分かんないし。まして私は一人だからね。結局のところチームのことは自分以外に頼れないから、こうしておかないといけないんだよ。
「ま、一人でチームになるってそういうことだよ。私以外だとスカラに『榊野ヒイロ』って子がいるし、機会があれば会えるかもね」
「嘘だろ?羽音みたいな奴がまだいるのか?……んが」
「それってどーいう意味なのかなー?」
何やらナチュラルに失礼なことを言われた気がするのでその鼻をつまんで引っ張ってやる。なんか、うん。鼻って脂肪がないから思ったより伸びないよね。
しょうがないので標的を変える。より効果的な方を狙うのが私の戦い方なのだ。
「失礼なことを言う生意気な口はこれかー!そのほっぺごとこうしてやるー!」
「痛い痛い痛い!悪かった!俺が悪かったから!」
「うむ。分かればよろしい」
まったく失礼しちゃうね。
スカラ校舎には私と同じ、一人でチームを作ることを許されたもう一人の例外である「榊野ヒイロ」という生徒がいる。割とこう、天然入ってるところはあるけど、様子のおかしい自由人揃いのスカラ校舎の中じゃ割と大人しめな方だ。戦い方もかなりスマートでクレバーだし。
私もたまーにメイズの中で遭遇して戦ったり、校舎に遊びに行ってたまたま会った時に遊ぶ仲だ。最近だと「黒い凶鳥」が気になってるらしい。すごい猛獣らしいからぜひ狩ってみたいって言ってた。これには私もニッコリ。闘争本能が高まってくる。
と、それはさておき。
「そういう雑な扱い方、あんまり他の女の子にしちゃダメだよ。私は別に気にしないけど、皆が皆そういうわけじゃないんだから」
「分かってるよ、流石に俺も相手は選ぶ。羽音ってなんというか、同性の気安い友人みたいでさ。俺もついそういうノリになってしまうんだよ」
分かるよ。この喫茶店とかバーガーショップとかで雑に駄弁るような空気感と関係性、気楽で私も好きだもん。
「あは。じゃあ『同性の友人』らしくこれからゲーセンでも行こうよ。来てくれたらこないだの貸しはチャラにしてあげるよ」
「それ断らせる気ないやつだろ!いや、別にいいけどさ……ていうか羽音ってゲーセンとか行くんだな」
「だってMGのイメトレにいいからね」
「ああ、そういう……羽音はやっぱ羽音だったな」
やったぜ。これで合法的に指揮官を連れ回せるって寸法よ。
え?指揮官を連れ回して何をするかって?決まってるでしょ。ゲーセン行くんだから対戦ゲームしかなくない?
指揮官こういうの上手そうだからね、MGで戦えないからこっちで美味しくいただくってわけ。
支払いを割り勘して店を出る。次の移動先はいい感じのゲーセン。
いい感じに騒がしくて、いい感じに下品な、多少騒いだぐらいじゃ別にどうってことないみたいな場所。戦って、バカ笑いして、バカ騒ぎするにはちょうどいいぐらいのところ。
クレーンゲームには目もくれない。欲しいのは、戦いの歓びと勝利の美酒と敗北の苦汁だけだからね。
というわけで、いただきまーす。
「あははははは!愉快な遠足の始まりだ!」
「待……っ!やったなお前!分からせてやる!」
「や、やられる!?……なーんて、この程度想定の範囲内だよぉ!」
「俺だって!もう様子見は終わりでいいよな!!!」
「やるんなら本気でやろうか!?その方が楽しいでしょ!アハハハハ!」
「おらっ!落ちろよ!!!!!!」
「ぐえーーーーーーー!……ふふふ。認めましょう。今この瞬間から、あなたは私の、敵……」
「いや、カッコつけても意味ないが???……まぁ、楽しそうだしいいか……」
なんか呆れられてる気がするけど知らない!!!!楽しい今が全て!!!
私の予想通り、指揮官は結構強かったね。推定軍人の体力と頭脳をフルに活用してきた。そりゃもうどれだけリード取っててもいつ逆襲してくるか分かったものじゃない。でも、そういう相手だからこそ私も燃えるってものよ。
もうゲーセンに何時間いたか覚えてない。エアホッケー、シューティング、格ゲー他もろもろ……とにかく対戦系をやりまくった。戦うと元気になるなあ兄弟!
「はー満足した。じゃ、これであの時の貸し借りは無し!精算済みってことで!」
「お、おう。羽音もなんだかんだで体力バグってるよな……」
「そうかな?うーん、まあ戦うと元気になるからね!そういうものでしょ?」
「そうはならんだろ」
「なってるんだよ!」
◇◆◇
楽しい時間はあっという間だ。いつの間にか外はとっぷり、夜の闇に包まれていて、俺たちは一緒に晩ごはんのラーメンを啜ってから帰途についていた。
「ありがとう指揮官。今日は楽しかったよ!」
「それは良かった。俺も楽しかったな。ずっと連れ回されたのは流石に疲れたがな……」
「あはは。まあまあ、そうなるのも見越して、今日は一日予定空けてくれてたんでしょ?……まあ、でもそうだね。じゃあ少し休もっか」
羽音に手を引かれるまま、手近な公園のベンチに二人で並んで座る。どちらかが喋るでもなく、ただ静かに時間だけが過ぎていく。余計な喧騒も不要な気配もない、透明な時間。
無防備な横顔を晒す羽音は夜空を見ている。ここからだと街の明かりで星も見えないだろうけれど。それとも、星を見ているのではなく「星の向こう側」に想いを馳せているのか。
……静かだ。この世界に俺たち二人しかいないような錯覚。
羽音は何も話さない。今日の賑やかさからは想像できないほど。だから、俺は。何となく思ったことを彼女にぶつけてみることにした。
「……今日は、いい気分転換になったか?」
「…………へ?」
「いや、上手く言えないんだが、何となくそんな気がしてな」
「あはは。……うん。そうかもね。ちょっと気になることがあって」
彼女は少し口籠もりながら、柄にもなくおずおずと俺に話を切り出した。
「指揮官は、『空が狭い』って思ったことある?」
……もしや。あの双頭の斧のリーダーに言われたこと、気にしているのだろうか。
でもそれはおかしな話だ。どこまでも広がる空に狭いも何もないだろうに。
「無い、な。そもそも、空に果てなんか無いだろ?場所が変われば、それこそ島の外に行けばまた別の空が見られるはずだ」
「だよね。私もそう思うよ。でも、あのパイロットは違った。まるで、空が限られた範囲にしかないみたいで。……指揮官。『偽りの空』ってどういう意味なのかな」
「偽りの空で飛んでいろ」、か。MGで自由に空を飛び、戦うことを望む彼女には聞き捨てならない言葉なのかもしれない。
敵の言うことだし気にすることではない……そう思ったものの。彼女はそうは思わなかったらしく、考察を続けていく。
「あのパイロット、明らかに動揺してた。私が星の向こうまで飛べばいいって言った途端に」
「そうだな。俺にも見えた。つまり『星の向こう』を知らないか、お前が知っている筈がないと思っていたかのどちらかになる」
「実は後者だったりしない?だったら空が狭いって言わないでしょ。そう言うのは、私が狭い空で満足していると思ってるからじゃないの?」
「それはお前のことを馬鹿にしすぎなんじゃないのか?そういう奴ならとっくにお前に落とされてるだろ」
「うーん。……うーん、さすがにお手上げ。情報足りなすぎ。もっと締め上げて吐かせないと」
「捕まえた違法パイロットから何か上がってないのか?」
「ムリムリ。双頭の斧の連中、風紀の動き遅らせるために方々にパイロット散らしてたんだけど、そういう連中の大半がちゆるちゃんっていうエサで釣られた雇われだったみたいでさ。まともな情報持ってないって。なんとか回収した双頭の斧の構成員もダンマリ決め込んでる。中々忠誠心高いよ、あいつら」
「ボスに不利益なことなんか言えるかー!」だってさ。
お手上げのポーズをしながらそう言って彼女は笑う。
「他の連中は粗製……雑魚だけど、あのリーダーだけは別格だね。戦い慣れてるし、統率力と指揮力もある。節々から訓練を受けた跡も見えるし、実は違法パイロットは隠れ蓑で本当は別の目的があったりして。……オーバーシアーみたいに」
「何か言ったか?」
「ううん、なにも。……とにかく、次会ったらまたボコしてやんないとね」
「そうだな。その時は俺も手伝うさ」
「……へぇ、私一人で十分とか言わないんだ?」
「言うわけないだろ。……俺は教導指揮官だからな。お前らが生き残れるように全力を尽くす。それが俺の仕事だ」
きょとん、と。羽音がなにを言われたか分からないという顔をする。
な、なんだ?俺はそんなおかしな事言ったつもりはないんだが。
でも彼女は、心底可笑しいという風に腹を抱えて笑い始めた。
「あっはははははははははははははは!!!!!」
「お、おい!そんな笑うことないだろ!」
「おっかしー。私にそういうこと言えるの指揮官だけだよ。みんな私の力を信じきってるのに」
「確かにお前にはそう思わせるだけの力があるのは事実だ。だが戦場に絶対は無い。たとえお前でも『まさか』は起こり得る。お前だって、自分の力が絶対だなんて思ってないだろ?」
「そうだよ。私だって数で囲まれれば落ちる。思考が止まるか、足が止まるかするだけでも落ちる。回る歯車が小さな砂の一粒でダメになるみたいに、ちょっとしたミスがあるだけで落ちる。だから練習し続けるんだよ。私は死なない神様じゃないから」
ま、指揮官が助けてくれるなら私も少しは楽できるかもねー?
そう揶揄うように笑う彼女に、もうさっきの迷いのようなものは無かった。
「……やってみせるさ。お前を助けるのも、俺の仕事だからな」
月と街灯で青白く照らされた彼女の頬に、ほんのりと朱が混じった、ような気がした。
◇ ◆ ◇
「どう?ファルファッラ。結果は出た?」
「……ああ。出たには出たのだけど……ダメね。まるで理解できない」
「何よ。まさか、アンタほどの力でも分からなかったの?」
「逆よ。全て分かった。いっそ怪しいほどに全てが分かった、のだけど……」
「?勿体ぶる必要は無いわ。率直に言って」
「………………何も無かったわ」
「あのイレギュラーがあれほど強い理由も、『思考の枷』を受け付けていないであろう理由も。背景は何一つなかったわ。スカラ・アカデミーや、レドフカの実験のような特殊な背景も何一つ。あれはただ普通に生まれ、普通に育ち、普通に進学を希望し、普通に強くなり、普通に生きているだけの———ただの人間よ」
「——————は?何よ、それは。ふざけてるの?」
「ふざけてるのはアレの存在そのものよ。イレギュラーがそうであることに理由などない、そういうことかもしれないわね。これはいくら『奴』とて理解できるものではないでしょう。予測するだけ無駄な存在、外れ値の極致」
「でも、そんなものがこの島に生まれ落ちてしまった———変わるかもしれないわ。何かが」
「今は見極めるべきだと思うわ。あの『黒い鳥』が、何を以て羽ばたくのかを」
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