崩壊世界のRe:ワールド~器と銀と黒の物語~   作:クロネコアラ

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俺は今日1日で後何回投稿すればいい?



修正版に変えました。


第8話-鳥籠-

 

 ——世界と次元の狭間。

 いずれの世界にも属さず、定まった空も大地も存在しない境界領域。

 青、赤、紫。

 無数の光が川のように暗闇を流れ、その合間に異なる世界の景色が浮かんでは消えていく。

 青空に覆われた大地。

 赤黒い雲が渦巻く荒野。

 天を貫くほど巨大な樹木。

 煙突と歯車が並ぶ機械都市。

 本来なら決して隣り合うことのない光景が、砕けた鏡の破片のように漂っていた。

 その暗闇の中に、崩壊した研究所と格納施設が浮かんでいる。

 長い年月をかけて積み上がった埃。

 錆びついた機械。

 根を張った植物。

 少し前まで、そこには三人の声が響いていた。

 名を得た少年。

 銀の魂。

 小さな電子精霊。

 彼らを乗せた多次元航行試験艦が狭間の外へ旅立ってから、施設には再び静寂が戻っている。

 そして、研究所から遠く離れた場所。

 巨大な鳥籠が、今も暗闇に浮かんでいた。

 山脈さえ収まりそうな、あまりにも巨大な檻。

 黒い支柱が円を描くように並び、その周囲には幾重もの鎖が巻きついている。

 鎖の表面に刻まれた術式は、ほとんど光を失っていた。

 かつては隙間なく重なっていた封印も、今では僅かな光を明滅させるだけだ。

 そのうちの一本には、細い亀裂が走っている。

 レイジたちがこの場所を離れた時に生じた、小さな綻び。

 だが、それ以降、鳥籠に変化はなかった。

 内部から響いていた衝撃も、今は止んでいる。

 まるで中にいるものが、再び眠りについたかのように。

 静かだった。

 あまりにも静かで、その存在自体が狭間の闇へ溶けてしまったように見える。

 ——その時。

 遠く離れた空間に、細い光が生まれた。

 光は一直線に暗闇を裂き、やがて巨大な楕円形へ広がっていく。

 次元門。

 青白い稲妻が縁を走り、その奥から一隻の船が姿を現した。

           ◇

「次元境界を突破」

「全艦、狭間領域への進入に成功しました」

「座標の再確認を急げ。長距離観測装置も起動しろ」

 先頭を進むのは、黒い装甲に覆われた大型艦だった。

 その左右と後方へ、六隻の護衛艦が展開している。

 いずれの艦にも共通の紋章が刻まれていた。

 三つの輪を、一本の槍が貫く意匠。

 だが、どの世界の国家に属する艦なのかを示す表示はない。

 大型艦の艦橋では、何人もの乗組員が忙しなく端末を操作していた。

「周辺空間、安定率四十一パーセント」

「次元流の乱れを確認。右舷十二度から高密度流が接近します」

「障壁出力を上げろ。艦列を崩すな」

「了解」

 正面の巨大画面には、複雑に絡み合う次元流が表示されている。

 その中心に、一つの赤い光点があった。

「目標座標まで、あと三万二千」

「反応に変化は?」

「ありません。微弱ですが、同一の波形を維持しています」

「ここまで来て偽物ということはないだろうな」

「記録に残された封印波形と、九十七パーセント以上一致しています」

「なら進め」

 艦橋の中央。

 黒い軍装をまとった男が、背後で手を組みながら画面を見つめていた。

 年齢は四十代ほどに見える。

 灰色の髪を後方へ撫でつけ、左目には細い機械式の観測具を装着している。

 その表情に、長い探索で疲れた様子はない。

 むしろ、目的地へ近づくほど、その口元には抑えきれない笑みが浮かび始めていた。

「何年かかったと思っている」

 誰へ向けるでもなく、男が呟く。

「失われた座標を復元し、消された記録を集め、狭間を漂う残骸を一つずつ調べた」

 男の機械眼に、赤い文字が流れる。

「ようやく辿り着いたのだ。今さら偽物であってもらっては困る」

「前方に人工構造物!」

 観測員の声が艦橋へ響いた。

「距離二万四千。大型建造物を確認!」

「映像を出せ」

 画面が切り替わる。

 次元流の光が晴れ、その向こうに巨大な影が映し出された。

「…………」

 艦橋から声が消えた。

 巨大な黒い支柱。

 山のように太い鎖。

 上部を覆う重々しい天蓋。

 艦隊すべてを並べても、なお小さく見えるほどの規模。

「鳥籠……?」

 一人の乗組員が呟く。

 黒衣の男は、画面へ一歩近づいた。

 機械眼が何度も明滅する。

「封印術式を照合」

「照合開始……一致しました!」

 観測員が振り返る。

「間違いありません! 記録に残されたものと同一です!」

 その報告を聞いた瞬間、男は両腕を広げた。

「ようやく見つけたぞ!」

 歓喜を隠そうともせず、声を上げる。

「カルバスアルマの負の遺産!」

 長い探索の末に目的を果たした者の声が、艦橋へ響き渡った。

 だが、ほかの乗組員たちは素直に喜べずにいた。

 画面越しであっても分かる。

 あれは単なる遺跡ではない。

 外からの侵入を防ぐためではなく、内側の何かを決して外へ出さないための構造だ。

「閣下」

 副官らしき女性が、慎重に声をかける。

「記録では、内部に何が封じられているのですか?」

「正確な記述は残されていない」

「残されていない?」

「カルバスアルマに関する記録の大半は、意図的に消去されている。存在そのものを歴史から隠すためにな」

「では、危険性も不明ということですか」

「危険だからこそ、これほど厳重に封じたのだろう」

 男は当然のように答えた。

「そして、危険なものほど利用する価値がある」

「…………」

「恐れるな。長い年月を経て、封印機構の大半は停止している。残されているものを調査し、回収するだけだ」

 副官はなおも鳥籠を見つめていた。

「回収できるものなら、ですが」

「そのために我々が来た」

 男が手を上げる。

「全艦、調査配置へ移行。封印術式の解析を開始しろ」

「了解」

 七隻の艦が速度を落とし、巨大な鳥籠を囲むように展開していった。

           ◇

 鳥籠の内部。

 外から届く光はない。

 完全な闇。

 上下も奥行きも分からない空間に、微かな音だけが響いている。

 ——ギィ……。

 硬いものが擦れる音。

 ——ズル……。

 濡れた肉が動く音。

 その闇の中には、生き物がいた。

 一匹ではない。

 十でも、百でもない。

 数千。

 赤黒い身体を持つ異形の魔獣が、巨大な鳥籠の内部を埋め尽くしている。

 痩せ細った長い首。

 翼と一体化した前肢。

 鳥を思わせる後ろ脚。

 獲物を貫くための槍のような尾。

 皮膚は乾き、骨の形が浮かび上がるほど肉が削げ落ちている。

 頭部に並ぶ眼は固く閉ざされ、口も細い裂け目にしか見えない。

 死骸の群れ。

 そう見えても不思議ではなかった。

 だが、その中の一体が、ゆっくりと首を持ち上げる。

 鼻先を動かす。

 外から流れ込んだ、微かな匂いを探るように。

 ——パチッ。

 一つの眼が開く。

 赤く濁った光が、闇の中へ灯った。

 続いて、その隣の個体が目を開く。

 一つ。

 十。

 百。

 やがて、数え切れない赤い眼が暗闇の奥まで広がっていく。

 彼らの名は、ギリオン。

 遠い時代に、複数の世界へ深刻な被害をもたらした肉食の翼竜型魔獣。

 性別による交配を必要とせず、単為生殖によって数を増やす。

 食料がなくとも、数が尽きない理由。

 それは同時に、この閉ざされた場所で彼らが生き残った理由でもあった。

 生まれる。

 増える。

 飢える。

 弱い個体を殺し、喰らう。

 幼体を喰らう。

 傷ついた同族へ群がる。

 そして、喰らった個体が新たな命を生み、再び数を増やす。

 何百年もの間。

 彼らは鳥籠の中で、増殖と共食いを繰り返してきた。

 飢えは満たされない。

 同族の肉では、もう足りない。

 それでも外へ出ることはできなかった。

 封印が彼らの身体と魔力を押さえ込み、外の世界から完全に切り離していたからだ。

 だが今、外から新しい匂いが届いている。

 魔力。

 生命。

 熱を持った肉。

 長い年月、忘れていた餌の匂い。

「ギィ……」

 一体の口が開く。

 細い裂け目だった口は、縦と左右の三方向へ裂けた。

 内部に並ぶ無数の牙から、粘ついた唾液が落ちる。

 その小さな声へ呼応するように、闇の奥で何千もの翼が動き始めた。

           ◇

「封印術式の残存率、十一パーセント」

「固定鎖、全二十四系統のうち十七系統が機能停止しています」

「内部走査は?」

「遮断されています。残存術式が観測波を弾いています」

 船団は鳥籠から一定の距離を保ち、解析を続けていた。

 各艦から細い光が伸び、鎖や支柱の表面を走査している。

 だが、鳥籠の内部だけは暗闇に閉ざされたままだ。

「残存術式へ干渉波を送れ」

 黒衣の男が命じる。

 副官が振り返った。

「危険です。封印の構造が分かっていません」

「だから調べるのだ」

「封印出力は低下しています。干渉によって均衡が崩れる可能性があります」

「完全に破壊しろとは言っていない。観測窓を一つ開くだけだ」

「しかし——」

「内部を見ずに、何を回収するつもりだ?」

 男の声が低くなる。

「実行しろ」

「……了解」

 副官は表情を硬くしたまま、操作員へ合図を送った。

「封印干渉装置、起動準備」

「各艦、出力を主艦へ同期」

「同期率八十……九十……完了」

 七隻の船から放たれた光が、主艦の前方へ集まる。

 複雑な幾何学模様が空中へ展開され、一本の白い光線となって鳥籠へ伸びた。

 光線が触れたのは、かろうじて形を保っている封印術式の一つだった。

「干渉開始」

 魔法陣の表面へ波紋が広がる。

「術式構造を解析」

「第一層を確認。分離を開始します」

「出力二パーセント上昇」

 封印術式の一部が、ゆっくりと薄くなっていく。

 男の口元に笑みが浮かぶ。

「見ろ。何も問題はない」

 その時だった。

 ——ビキッ。

「…………?」

 一人の操作員が顔を上げる。

「どうした?」

「今、別系統から反応が……」

 ——ビキッ。

 再び音が響く。

 干渉している魔法陣ではない。

 そこから離れた場所。

 以前から亀裂の入っていた鎖の表面で、残存術式が明滅している。

「封印出力が変動!」

「干渉波が、別の固定鎖へ流れ込んでいます!」

「切断しろ!」

 副官が叫ぶ。

「干渉装置を停止!」

「停止操作を受け付けません!」

「なぜだ!」

「封印側から逆流しています!」

 白い光線が激しく揺らぐ。

 鳥籠の各所で、消えかけていた術式が次々と点灯した。

 一瞬だけ、鳥籠全体が眩い光に包まれる。

「出力が上昇しています!」

「封印が再起動したのか?」

「違います!」

 操作員の顔から血の気が引く。

「残存していた力が、一ヶ所へ集中しています!」

 光が集まる先。

 それは、亀裂の入った一本の鎖だった。

 ——ビキビキッ!

「まずい! 全艦、干渉波を遮断しろ!」

「間に合いません!」

 ——バキィィィン!!

 巨大な鎖が砕けた。

 術式を構成していた光が、無数の破片となって暗闇へ散っていく。

 同時に、鳥籠を覆っていた魔法陣の一つが完全に消滅した。

 ほんの僅かな隙間。

 巨大な鳥籠全体から見れば、小さな穴にすぎない。

 だが、内部で待ち続けていたものにとっては——十分だった。

 ——ゴン。

 鳥籠が揺れた。

「何だ?」

 ——ゴン。

「内部から衝撃!」

「生体反応を検出!」

「数は!」

「解析中!」

 ——ドゴンッ!!

 黒い支柱の一部が、内側から歪んだ。

「生体反応、十……百……!」

 観測員の声が震える。

「まだ増えます!」

「正確な数を報告しろ!」

「できません!」

「何?」

「多すぎます! 内部全域が反応で埋まっています!」

 巨大画面の中で、赤い光点が爆発的に増えていく。

 百。

 五百。

 千。

 そこで計測表示が限界を超え、警告へ切り替わった。

「測定不能……」

 艦橋の誰かが呟く。

 鳥籠の隙間から、何かが頭を押し込んでいた。

 痩せ細った長い首。

 赤黒い鱗。

 閉じられていた眼が開き、濁った赤い光を放つ。

 口が三方向へ裂けた。

「ギィィィィィィィィッ!!」

 甲高い咆哮が、狭間を震わせた。

 ギリオンが鳥籠の外へ飛び出す。

 一体。

 翼を広げ、初めて触れる外の空間を旋回する。

 その眼が、船団を捉えた。

 装甲の奥にいる、無数の生きた人間を。

 温かな血と肉を。

「迎撃準備!」

 副官が叫ぶ。

「待て」

 黒衣の男が制止する。

「閣下?」

「殺すな。捕獲しろ」

「ですが——」

「これこそ我々の探していたものだ。傷つけずに確保する」

 ギリオンが主艦へ顔を向ける。

 喉の奥へ赤黒い光が集まった。

「高魔力反応!」

「防御障壁を!」

 直後。

 赤黒い閃光が放たれた。

 ——ドォォォン!!

 左側に展開していた護衛艦の一隻へ直撃する。

 障壁が歪み、船体の装甲が大きく吹き飛んだ。

「第五護衛艦、被弾!」

「左舷区画に損傷!」

「まだ撃つな!」

「しかし、このままでは!」

 二体目のギリオンが隙間から這い出す。

 三体目。

 五体。

 十体。

 黒い翼が次々と鳥籠の外へ広がっていく。

「ギャアアアアアアッ!!」

 群れが損傷した第五護衛艦へ殺到した。

 牙が障壁へ食らいつき、翼の先端が装甲を切り裂く。

「障壁出力、急速低下!」

「外装を破られます!」

「閣下、迎撃許可を!」

 副官の声に、男は一瞬だけ沈黙した。

「……脚と翼を狙え。殺すな」

「その命令では守れません!」

「何だと?」

「第五護衛艦の乗員が死にます!」

 副官は男の返答を待たず、全艦通信を開いた。

「全艦、迎撃開始! 味方の生存を最優先!」

「貴様——!」

「処罰は生き残ってから受けます!」

 護衛艦の砲門が開く。

 青白い光線と魔導砲弾が、一斉にギリオンの群れへ放たれた。

 一体の翼が吹き飛ぶ。

 別の一体が胸を撃ち抜かれ、狭間の闇へ落ちていく。

 だが、その後ろからさらに多くの影が現れる。

 二十。

 五十。

 百。

 鳥籠の奥では、数千の赤い眼が出口を求めて蠢いている。

「数が多すぎる!」

「右舷へ回り込まれます!」

「第三護衛艦、船尾を損傷!」

「次元障壁が維持できません!」

 砲撃。

 咆哮。

 警報。

 翼が船体を打ち、牙が装甲を砕く。

 それまで静かだった狭間は、一瞬で戦場へ変わった。

 黒衣の男は、混乱する艦橋で巨大画面を見つめていた。

 護衛艦が襲われている。

 乗組員の悲鳴が通信へ流れ込んでいる。

 それでも、その顔から笑みは消えていなかった。

「素晴らしい……」

「閣下?」

「これほどの数が、これほど長い時を生き延びた」

 男の機械眼が、鳥籠から溢れ出すギリオンを捉える。

「これだ。これこそ、カルバスアルマが世界から隔離し、歴史から消し去った負の遺産!」

「今は感心している場合ではありません!」

 副官が叫んだ、その時。

「次元反応!」

「何?」

「鳥籠周辺の空間が崩れています!」

 戦闘によって発生した膨大な魔力。

 砲撃の衝撃。

 長期間固定されていた鳥籠の封印崩壊。

 複数の要因が重なり、周辺の次元空間が耐えきれなくなっていた。

 ——ピシッ。

 暗闇に亀裂が走る。

 ——バキン!

 一つの亀裂が開いた。

 その向こうには、見知らぬ世界の空が広がっている。

 紫色の雲。

 水晶に覆われた大地。

 ギリオンの一体が動きを止めた。

 裂け目の向こうから流れ込んでくる、濃密な生命の匂いを嗅ぎ取ったのだ。

「ギィ……」

 船団から離れ、亀裂へ向きを変える。

「逃がすな!」

 砲撃が放たれる。

 だが、ギリオンは身を翻し、亀裂の中へ飛び込んだ。

「一体、別世界へ侵入!」

 その姿を追うように、二体、三体と亀裂へ向かう。

「次の亀裂が発生!」

「こちらにも!」

 鳥籠の周囲へ、次々と異なる世界への裂け目が生まれていく。

 青い海だけが広がる世界。

 燃える山々に覆われた世界。

 夜空へ無数の浮島が漂う世界。

 ギリオンたちは本能のまま、より多くの生命を感じる亀裂へ飛び込んでいった。

「封鎖しろ!」

「不可能です! 発生箇所が多すぎます!」

「次元固定装置を起動!」

「周辺座標そのものが乱れています!」

 十。

 五十。

 百。

 解き放たれたギリオンが、複数の世界へ散っていく。

 その時。

 鳥籠から少し離れた場所で、新たな亀裂が静かに開いた。

 ほかの裂け目より大きく、そして安定している。

「大型次元亀裂を確認!」

「接続先を解析!」

 画面に、亀裂の向こう側が映し出される。

 青い空。

 深い緑に覆われた山々。

 遠方には、魔法と機械の光をまとった都市が広がっている。

「世界座標を照合します!」

 表示された数値を見て、観測員が息を呑んだ。

「この座標は……」

 報告が終わるより先に、ギリオンたちが反応した。

 ほかの亀裂とは比較にならないほど濃密な生命の気配。

 人。

 獣。

 魔力を宿した無数の生き物。

 そして、彼方に存在する巨大な銀の魔力。

 群れの眼が、一斉に亀裂へ向く。

「ギャアアアアアアアアッ!!」

 一体が飛び込む。

 二体。

 十体。

 その後ろから、黒い波のような群れが続く。

「止めろ!」

「百体以上が亀裂へ向かっています!」

「砲撃が追いつきません!」

 数え切れない翼が、次々と裂け目の向こうへ消えていった。

 彼らは接続先の世界の名を知らない。

 そこに何があり、誰が生きているのかも知らない。

 ただ、空腹を満たす餌があることだけを理解している。

 その世界は、かつて地球と呼ばれていた星。

 アースブレイクによって数多の世界が混ざり合い、長い時を経て新たに生まれ変わった世界。

 ——Re:ワールド。

           ◇

 同じ頃。

 鳴海沢の山中にある古い神社では、二本の木刀がぶつかっていた。

 ——カァン!

「また左!」

「分かってる!」

「分かってたら受けられるだろ!」

「身体が追いつかないんだよ!」

 ユウトの木刀を受け損ね、レイジが境内を転がる。

「痛ってぇ……!」

「今ので十五回目」

「数えるなって!」

 レイジは土を払いながら立ち上がり、再び木刀を構えた。

「もう一回!」

「少しは休め」

「次は受ける!」

「根拠は?」

「今度こそ勘じゃない!」

「じゃあ何だよ」

「気合い!」

「勘より悪くなってるぞ」

 ユウトが呆れたように笑う。

 レイヴェルは宙に浮かび、二人の修行を眺めていた。

「レイジ。次は半歩早く踏み込め」

「分かった」

『マスターの疲労値は上昇しています。次の一戦後、休息を推奨します』

「フィーネまでユウトみたいなこと言うなよ」

「俺はそんな言い方してない」

 くだらない言葉を交わし、二人は再び向かい合う。

 空は青い。

 町は穏やかだった。

 風が木々を揺らし、遠くから人々の生活する音が届いている。

 レイジも、ユウトも知らない。

 遥か彼方の世界と次元の狭間で、開けてはならない鳥籠が開いたことを。

 何百年もの飢えを抱えた魔獣たちが、すでに世界の境界を越え始めていることを。

 そして、百を超える赤黒い翼が——鳴海沢の空へ向かっていることを。

 

 

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