竜族たちの住まう地下の洞窟にて、一人の竜族が目を覚ました。
錆びた青銅のような薄汚れた身体。その身体は、彼女の特性か緑色に鈍く輝いている。
自らの放つ輝きは、濁った瞳にただ暗闇をただ映させるのみだ。そこには誰の姿もなく、無限に広がる暗闇だけが存在している。
どこからともなく吹く風が、彼女の乱れた髪をなびかせた。洞窟の中で共鳴する低い音は、彼女の産まれた祝福を呪っているようだった。
「…………」
立ち上がり、辺りを見渡す。低く呻る風の音と、どこまでも続く暗闇が、深く彼女を包み込む。誰も立ち入ることのない無限に続く空間の中で、彼女は一人立ち尽くした。
ウラノス。ウラン鉱石の竜族。それが彼女の名前だ。絶えず繰り返される核融合と核分裂は彼女に無限のエネルギーを与え、絶えず高速で動く粒子は、彼女に奇異な特性を与えていた。
「ぁ………」
急速にウラノスの放つ輝きが強くなる。無限に膨張するエネルギーがウラノスの中で広がっていく。そして、そのエネルギーが限界に達したとき、それは起こった。
☆☆☆☆
とても平和な妖精王国。その平和は、突如破られた。
ゴゴゴゴゴ……。
「うわっ!?なにっ!?」
「じ、地震!?女王様!!机の下に隠れて!!はやく!!!」
「う、うんっ!!」
執務室で仕事をしていたエルフィンとネルが机の下に隠れる。突如発生した地震は、せっかく珍しく仕事をしていたエルフィンの手を止め、王国中に被害をもたらした。
地震が治まり、二人が机の下から出てくる。エルフィンたちは、めちゃくちゃになった机の上の惨状を見て、言葉を失った。
「そ、そんな……。せっかく頑張ってお仕事したのに……」
「し、仕方ありませんよ、女王様……。私も手伝いますから、もう一度やりましょう?」
「うん……」
涙目になりながらエルフィンが席に着く。そうして、机の上を整理していると、一人の幽霊が執務室に飛び込んできた。
「うわあああああああああああん!!!」
「うわっ!?今度はなに!?」
「ス、スピッキーさん!?」
突如部屋に乱入してきたスピッキーに二人が驚いていると、スピッキーは泣きながらネルにしがみ付いた。
「た、助けてくださいっ!!妖精たちがスピッキーに怒鳴ってくるんです!!家が壊れたとか家具が倒れたとかみんなが怒ってるんです!!スピッキーは怒られる理由がわかりません!!スピッキーの代わりに怒られてください!!」
「は、はい??どういう事ですか??ともかく、私たちは今忙しいので、後にしてくれませんか?」
そうしてネルとスピッキーがもめていると、次はエシュールが執務室に飛び込んできた。
「じょ、女王様!司祭長さん!大変です!!」
「エ、エシュールさん?今度はどうしたんですか?」
「せ、精霊の山が……無くなっちゃってます!!!」
「えぇぇ!?!?」
エシュールの言葉に外に出て精霊の山の方を見ると、全員が言葉を失った。
エシュールの言葉の通り、精霊の山がきれいになくなっていた。精霊の山があった後には、ただ煙がもうもうと立ち込めている。そのあまりもの光景に、ネルたち四人はただ言葉を失って立ち尽くすのみだった。
「い、いったい何が……」
「さっきの地震で、精霊の山に何かが起きたとでもいうんでしょうか……?」
そうして精霊の山から上る煙を眺めていると、エルフィンが口を開いた。
「……精霊の山って、シーラとか雪の賢者とかが住んでたよね?大丈夫なのかな……?」
「……わかりません。調査してみる必要がありますね」
そう言って、ネルはスピッキーに向き直った。
「スピッキーさん。私たちは精霊の山に調査に向かいます。その間、留守を頼みましたよ。いいですね?」
「え、ええ!?スピッキーだけお留守番ですか!?」
「普段のように私に成りすまして、妖精からの意見や不安を受け止めてください。私たちが帰ってくるまで、できるだけ妖精たちの要望をまとめておくこと。わかりましたね?」
「そ、そんな!そんないきなりスピッキーには無理ですよ!!」
「それでは、頼みましたよ!」
そう言って、ネルたちはスピッキーに無理やり仕事を押し付けて出て行った。
☆☆☆☆
精霊の山跡地から、瓦礫をかき分けてウラノスは出てきた。
精霊の山から立ち込める煙が日差しを遮っている。しかし、地下とは比べ物にならない明るさと暖かさを、ウラノスは感じた。
これが地上の温もり……。肌に感じる暖かな空気と新鮮な風を、ウラノスは感じていた。
瓦礫を踏みしめ、ウラノスは精霊の領域から外へと踏み出した。そうして、エーリアスの地へと進み始めたその時、ウラノスを鋭い声が呼び止めた。
「止まれっ!!!」
弓を構えたシーラがウラノスを止めた。爆発に巻き込まれたせいか、体中の至る所に傷を負っている。
「精霊の山を破壊したのはお前か……!なぜこのような事をした……!名を名乗れっ!!!何者だっ!!!」
ウラノスがゆっくりと振り返る。シーラは、その目を見た時、感じた事もない恐怖を覚えた。
「っ……!!」
緑色に濁った目。淡く光る緑色の身体。錆びついたような捻じれ曲がった一対の角。歪に歪んだハネ。そして、全身に感じるピリピリとした刺激……。シーラは、明確な恐怖を感じた。
「あなたは……?」
「くっ……!先に聞いたのは私だっ!!先にお前から答えろっ!!」
シーラは叫んだ。その声を聞いて、ウラノスは答えた。
「私はウラノス……。ウランの竜族……」
それだけを呟き、ウラノスはシーラから顔を背けた。
再び歩き始めたウラノス。それを見たシーラが再び叫ぶ。
「待てっ!!!止まれっ!!!止まらないと撃つぞ!!!」
シーラの警告を聞いたウラノスが、キッと鋭い視線をシーラに向けた。
その瞬間、シーラの身体に異変が起きた。
ジワジワと脂汗が滲んでくる。身体の節々が痛くなり、立っていられなくなる。眩暈、吐き気が現れ、紅斑が全身に広がっていく。
「な、なんだ、これは……!お前は……い、いったい……」
全身から力が抜け、シーラは倒れてしまった。薄れ良く意識の中、シーラは最後にウラノスを睨んだ。
濁った瞳でシーラを見下ろすウランの竜族。シーラはその瞳を見て、後悔した。
人知れず生まれ、己の存在意義を問うウラノス。
生、存在、意義、恐怖、疑問、歓喜、祝福。
様々な感情がウラノスの内側から湧いて出てくる。ウラノスは、その感情の答えを知るために、エーリアスの地へと足を踏み出した。