I Am Become The Death   作:韓非子

1 / 1
第1話「誕生」

 竜族たちの住まう地下の洞窟にて、一人の竜族が目を覚ました。

 

 錆びた青銅のような薄汚れた身体。その身体は、彼女の特性か緑色に鈍く輝いている。

 

 自らの放つ輝きは、濁った瞳にただ暗闇をただ映させるのみだ。そこには誰の姿もなく、無限に広がる暗闇だけが存在している。

 

 どこからともなく吹く風が、彼女の乱れた髪をなびかせた。洞窟の中で共鳴する低い音は、彼女の産まれた祝福を呪っているようだった。

 

「…………」

 

 立ち上がり、辺りを見渡す。低く呻る風の音と、どこまでも続く暗闇が、深く彼女を包み込む。誰も立ち入ることのない無限に続く空間の中で、彼女は一人立ち尽くした。

 

 ウラノス。ウラン鉱石の竜族。それが彼女の名前だ。絶えず繰り返される核融合と核分裂は彼女に無限のエネルギーを与え、絶えず高速で動く粒子は、彼女に奇異な特性を与えていた。

 

「ぁ………」

 

 急速にウラノスの放つ輝きが強くなる。無限に膨張するエネルギーがウラノスの中で広がっていく。そして、そのエネルギーが限界に達したとき、それは起こった。

 

 

☆☆☆☆

 

 

 とても平和な妖精王国。その平和は、突如破られた。

 

 ゴゴゴゴゴ……。

 

「うわっ!?なにっ!?」

「じ、地震!?女王様!!机の下に隠れて!!はやく!!!」

「う、うんっ!!」

 

 執務室で仕事をしていたエルフィンとネルが机の下に隠れる。突如発生した地震は、せっかく珍しく仕事をしていたエルフィンの手を止め、王国中に被害をもたらした。

 

 地震が治まり、二人が机の下から出てくる。エルフィンたちは、めちゃくちゃになった机の上の惨状を見て、言葉を失った。

 

「そ、そんな……。せっかく頑張ってお仕事したのに……」

「し、仕方ありませんよ、女王様……。私も手伝いますから、もう一度やりましょう?」

「うん……」

 

 涙目になりながらエルフィンが席に着く。そうして、机の上を整理していると、一人の幽霊が執務室に飛び込んできた。

 

「うわあああああああああああん!!!」

「うわっ!?今度はなに!?」

「ス、スピッキーさん!?」

 

 突如部屋に乱入してきたスピッキーに二人が驚いていると、スピッキーは泣きながらネルにしがみ付いた。

 

「た、助けてくださいっ!!妖精たちがスピッキーに怒鳴ってくるんです!!家が壊れたとか家具が倒れたとかみんなが怒ってるんです!!スピッキーは怒られる理由がわかりません!!スピッキーの代わりに怒られてください!!」

「は、はい??どういう事ですか??ともかく、私たちは今忙しいので、後にしてくれませんか?」

 

 そうしてネルとスピッキーがもめていると、次はエシュールが執務室に飛び込んできた。

 

「じょ、女王様!司祭長さん!大変です!!」

「エ、エシュールさん?今度はどうしたんですか?」

「せ、精霊の山が……無くなっちゃってます!!!」

「えぇぇ!?!?」

 

 エシュールの言葉に外に出て精霊の山の方を見ると、全員が言葉を失った。

 

 エシュールの言葉の通り、精霊の山がきれいになくなっていた。精霊の山があった後には、ただ煙がもうもうと立ち込めている。そのあまりもの光景に、ネルたち四人はただ言葉を失って立ち尽くすのみだった。

 

「い、いったい何が……」

「さっきの地震で、精霊の山に何かが起きたとでもいうんでしょうか……?」

 

 そうして精霊の山から上る煙を眺めていると、エルフィンが口を開いた。

 

「……精霊の山って、シーラとか雪の賢者とかが住んでたよね?大丈夫なのかな……?」

「……わかりません。調査してみる必要がありますね」

 

 そう言って、ネルはスピッキーに向き直った。

 

「スピッキーさん。私たちは精霊の山に調査に向かいます。その間、留守を頼みましたよ。いいですね?」

「え、ええ!?スピッキーだけお留守番ですか!?」

「普段のように私に成りすまして、妖精からの意見や不安を受け止めてください。私たちが帰ってくるまで、できるだけ妖精たちの要望をまとめておくこと。わかりましたね?」

「そ、そんな!そんないきなりスピッキーには無理ですよ!!」

「それでは、頼みましたよ!」

 

 そう言って、ネルたちはスピッキーに無理やり仕事を押し付けて出て行った。

 

 

☆☆☆☆

 

 

 精霊の山跡地から、瓦礫をかき分けてウラノスは出てきた。

 

 精霊の山から立ち込める煙が日差しを遮っている。しかし、地下とは比べ物にならない明るさと暖かさを、ウラノスは感じた。

 

 これが地上の温もり……。肌に感じる暖かな空気と新鮮な風を、ウラノスは感じていた。

 

 瓦礫を踏みしめ、ウラノスは精霊の領域から外へと踏み出した。そうして、エーリアスの地へと進み始めたその時、ウラノスを鋭い声が呼び止めた。

 

「止まれっ!!!」

 

 弓を構えたシーラがウラノスを止めた。爆発に巻き込まれたせいか、体中の至る所に傷を負っている。

 

「精霊の山を破壊したのはお前か……!なぜこのような事をした……!名を名乗れっ!!!何者だっ!!!」

 

 ウラノスがゆっくりと振り返る。シーラは、その目を見た時、感じた事もない恐怖を覚えた。

 

「っ……!!」

 

 緑色に濁った目。淡く光る緑色の身体。錆びついたような捻じれ曲がった一対の角。歪に歪んだハネ。そして、全身に感じるピリピリとした刺激……。シーラは、明確な恐怖を感じた。

 

「あなたは……?」

「くっ……!先に聞いたのは私だっ!!先にお前から答えろっ!!」

 

 シーラは叫んだ。その声を聞いて、ウラノスは答えた。

 

「私はウラノス……。ウランの竜族……」

 

 それだけを呟き、ウラノスはシーラから顔を背けた。

 

 再び歩き始めたウラノス。それを見たシーラが再び叫ぶ。

 

「待てっ!!!止まれっ!!!止まらないと撃つぞ!!!」

 

 シーラの警告を聞いたウラノスが、キッと鋭い視線をシーラに向けた。

 

 その瞬間、シーラの身体に異変が起きた。

 

 ジワジワと脂汗が滲んでくる。身体の節々が痛くなり、立っていられなくなる。眩暈、吐き気が現れ、紅斑が全身に広がっていく。

 

「な、なんだ、これは……!お前は……い、いったい……」

 

 全身から力が抜け、シーラは倒れてしまった。薄れ良く意識の中、シーラは最後にウラノスを睨んだ。

 

 濁った瞳でシーラを見下ろすウランの竜族。シーラはその瞳を見て、後悔した。

 

 人知れず生まれ、己の存在意義を問うウラノス。

 

 生、存在、意義、恐怖、疑問、歓喜、祝福。

 

 様々な感情がウラノスの内側から湧いて出てくる。ウラノスは、その感情の答えを知るために、エーリアスの地へと足を踏み出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。