モナティアム。エーリアスに流れ着いたエルフたちが独自に建てた町にて、シーラは治療を受けていた。
治療台に横になるシーラがエレナとアメリアに向けて語っている。身体の至る所にできた紅斑と傷跡が痛々しく残る様を見て、二人は苦虫を噛み潰したように顔を歪めている。
「……それで、さっきの地震はそのウラノスという竜族が引き起こしたものだというのか?」
「ああ。見た事もない異様な姿の竜族だった。崩壊した精霊の山から出てきて、そのままどこかへ行ってしまった」
治療を受けながら語るシーラの言葉にエレナが顔を顰める。ウランから生まれた竜族とあって、その危険性をエレナは危惧していた。
ウラン。銀やルビーなどとは違い、常に放射線を放出する、無限のエネルギーを秘めた物質の名前。正しく取り扱えば有用ではあるが、無知なものが扱えば大惨事につながりかねない。ましてや、生まれたばかりであろうウラノスは赤子同然の竜族だ。エレナは彼女がもたらすであろう災いを瞬時に予見した。
「しかし、だとすれば厄介だな。アメリア、調査隊からの報告はまだ来ないのか?」
「現時点ではまだ来ていません。追加の調査班を組織して現場へ向かわせましょうか?」
「いいや、その必要はない。ドローンを飛ばして向かわせるんだ。ガイガーカウンターも装備させておけ」
「かしこまりました」
そう返事をしてアメリアは部屋を後にした。
「ふーむ……。ウランの竜族か……。もし本当だとすれば……」
「……?何かまずい事でもあるのか?」
「ああ。まだ確定してない推測の段階ではあるが……」
エレナはシーラに自身の懸念するウラノスの危険性を説明した。
常に放射線という毒を撒いているのではないか。精霊の山を崩壊させたのも自身の能力を爆発させたためではないか。シーラの症状も放射線の影響によるものではないか。
エレナの説明を聞いたシーラは信じられないといった面持ちでエレナを見つめた。本当にウラノス……鉱石一つにそこまでの作用があるのか信じられないといった様子だった。
「それとほら、アレを見てみろ」
「……?」
エレナが指さした先にシーラが目を向ける。
「なんだ?」
「あたしもアレを直接見るのは初めてだが……。もうあんなに大きくなっている」
エレナが指を刺したのは崩壊した精霊の山ではなかった。そのはるか上空……空に巻き上がった粉塵や灰が混ざりあってできた、巨大な雨雲だった。
「もうすぐあの辺り一帯で黒い雨が降るだろう。草木は枯れ、現地の動物にも深刻な健康被害が生じるはずだ。アレから降るであろう黒い雨はそんな能力を持っている。アレも全部、ウランの力をいたずらに使った産物だ」
そう話している内に、雲の下がにわかに影がかかったように暗くなった。雨が降り始めたのだ。
「エレナ……」
「…………」
エレナは目を瞑って窓から視線を外した。その表情は、目の前の惨劇に対して何もできない自分の無力さを呪っているようだった。
そんなエレナを見て、シーラはベッドから身体を起こした。風の精霊として、あのような命を刈り取る雲をむざむざと見過ごすわけにはいかないと、痛む身体に鞭を打って立ち上がったのだ。
「シーラ?何をする気だ?」
「アレを吹き飛ばすつもりだ。そうすれば、あの一帯を守れるのだろう?」
窓を開けて、シーラが黒い雲を睨む。シーラは、自身の持つ風の力で黒い雲を霧の外へ追いやろうとしていた。まだ身体は痛むが、あの程度の雲であれば十分に吹き飛ばすのは可能だとシーラは睨んでいた。
「大丈夫なのか?まだ身体が痛むんじゃないか?」
「……この程度なんともない」
シーラが呟く。
「私は風の上位精霊だ。世界樹を育て、エーリアスの秩序を守る為に私は生まれてきた。この世界に害を成し、秩序を乱すものがあるのであれば、それを排除して正すのが私の務めだ」
そう言って、シーラは窓から飛び出して行った。
風に乗って、シーラが黒い雲に向かって小さくなっていく。その様子を、エレナは静かに見守っていた。
「……すまないな、シーラ。あたしもできる事をやらなければ……。このエーリアスの住民としてな」
そう呟き、エレナは病室を後にした。