精霊の山跡地にて、エルフィンとネルたちは救助活動に勤しんでいた。
後からやって来たカンナを中心とした調査隊と共に、現地の精霊や竜族たちを瓦礫の下から救い出し、救助していった。
「はぁ……。感謝いたしますわ、司祭長様」
「いえ、とんでもありません。困ったことがあったらお互い様ですから」
瓦礫の下から救助されたダーヤがネルに深々と頭を下げる。ダーヤの後に続いて続々と他の竜族も救助され、お互いが無事を確認しあった。
しかし、命が助かったのは良いものの、竜族が長い年月をかけて築き上げたものすべてが失われた。それは、ダーヤとて例外ではなかった。
「はぁ……。私の王国が……。竜族の社会が……。いったいどうして……」
ダーヤが膝を折り、絶望に暮れる。崩壊した王国を前に絶望するダーヤに、今まで気丈な姿を見せていた姿はなく、痛々しく悲嘆する姿は目を伏せたくなるようだった。
「司祭長殿っ!」
「カンナさん?」
カンナがネルに向かって小走りでやって来た。その後ろから少し遅れてガヴィアもやって来る。
「そちらの様子はどうでしたか?」
「はい、おかげさまで救助活動も順調に進んでいます。しかし、変ですね。竜族からも聞き込みをしているんですけど、みなさん突然の出来事で何が何やら分からないようで……」
「ええと、それなんですけど……」
その時、突然大きな哀叫が聞こえてきた。
「うわあああああああああああああああん!!!私の大事な書蔵がああああああああああああああああ!!!!」
「ジェイドさん……」
カンナが悲しげな視線をちらりとジェイドに向けると、咳払いを一つして、佇まいを直した。そして、鎮圧班の隊長らしく、はっきりとした声でネルに語りかけた。
「大地の上位精霊であるガヴィアさんから貴重な話が聞けました。司祭長殿もどうか、ガヴィアさんから話を聞いてください」
「はぁ……」
そして、カンナはガヴィアに今回の地震について話すよう促した。
「……!」
身振り羽振り手を動かして何かを語るガヴィア。その声はとても小さかった。
「……うん…!」
「どう思いますか?司祭長殿」
「あ、あはは……。何が何やらさっぱり……」
「何が分からなかったのですか!?こんなに分かりやすい説明のどこが!?」
ネルはガヴィアの声が全く聞こえていなかった。一方で大きな耳を持つカンナは、しっかりとガヴィアの声が聞こえているようだった。ただ耳が大きいだけではないエルフの耳は、しっかりとガヴィアの小さな声を聞き取っていた。
「……つまり、今回の地震は大地の精霊が起こしたものではなくて、自然に起こった事でもないという事なんです。ガヴィアさんが思うに、誰かが意図的に起こした可能性が高いと考えているようなのであります!」
「なるほど……。しかし、これほどの規模の地震をどうやって……?」
「それはまだわかりません……。まだ調査が必要かもしれません」
その時、ネルの頬に何かが触れた。
「あら……?」
「雨……でしょうか?」
ぽつぽつと雨が降ってきた。その雨粒は妙に大きく、黒く濁っていた。
「ネル!雨が降ってきた!っていうかなんか黒いんだけど!?」
「奇妙な雨ですね。墨ではないようですし……」
「と、とりあえず雨をしのげるところを探しましょう!雨の中で救助活動をするのは危険であります!」
そう言って、カンナたちは撤収を始めた。
だが、雨をしのげる所はどこもなかった。ウラノスの起こした核爆発によって、辺り一帯は吹き飛び、瓦礫の山が広がるばかりだった。必死になって辺りを見回し探すが、一面に広がるのは、崩れた山の土砂と瓦礫のみだ。
一歩一歩進む間にも、黒い雨はカンナとエルフィンたちを汚していく。放射性降下物と、未だ漂う放射能がエルフィンたちの身体を蝕んでいく。徐々に侵される見えない毒に、皆が気付かないでいる。
そうしてしばらくさまよっている内に、カンナの端末に通信が入った。
『カンナ、聞こえるか?』
「市長殿!どうかされましたか?」
『今すぐ撤収しろ。救助活動は中止だ』
「ど、どうしてでありますか!?」
『……どうも思った以上に深刻な事態が動いているようだ。既に救助した奴らがいるなら全員を引き連れてモナティアム病院に向かえ。お前たちも全員だ。分かったな?」
「はぁ……。了解であります」
通信を聞いていたネルがカンナに問いかける。
「何かあったのですか……?」
『むっ……?その声は誰だ?』
「ああ、市長殿。妖精王国からも司祭長殿たちが調査に来ていたのですよ」
『なんだと!?今すぐ現場の妖精たちも全員モナティアム病院へ向かわせろ!!!ああ、まったく、なんだって余計な事をしてくれるんだ……!!』
そう呟き、エレナは乱暴に通信機を切った。
なにがなんだか分からない二人はキョトンと顔を向かい合わせ、首を傾げた。そしてカンナとネルたちは、エレナの指示通りモナティアム病院へと向かっていった。
☆☆☆☆
ネルたちがモナティアム病院に着いたとき、中ではエレナとヒルデが深刻な表情で皆の帰りを待っていた。
「カンナ、ただいま帰還したであります!……って、市長殿?どうしたでありますか……?」
「……その恰好、既に黒い雨に打たれたようだな」
「はぁ……。それがどうかしたでありますか?」
「ヒルデ、皆を治療室に案内してやれ。あたしは他にやることがある」
「わかりました。さあ、みなさん、こちらに付いて来てください」
ヒルデに導かれるままに皆がヒルデについていく。何が何だか分からない様子のカンナは、ヒルデに今の状況をたずねた。
「ヒルデ医務官、何が起きているでありますか?いったいどうしたでありますか?」
「……カンナさん。あなたたちが調査に向かった後、シーラさんがケガを負ってここにやってきました。その時に、重大な話をされたんです」
「重大な話……でありますか?」
「はい……。あの地震……いいえ、正確には爆発は、一人の竜族が起こした可能性が高いという事なんです」
「爆発?竜族?話が見えないのですが……」
ヒルデの話にカンナが疑問を浮かべる。しかし、ヒルデは続ける。
「ウラノス……。確定した話ではありませんが、現在の状況から推測するに、あの地域一帯でウラノスというウランの竜族が核爆発を起こした可能性が非常に高いそうなんです。カンナさんたちが浴びた黒い雨も、微細な放射線粒子と灰が熱で巻き上がって、急速に発達した雨雲と混ざり合ってできたもの……と考えられています」
絶句した表情でカンナが固まる。そして、カンナは震える声でヒルデに問いかけた。
「じゃ、じゃあ、私たちは……」
「はい……。急性放射線障害に罹っていてる可能性があります。完全な治療は難しいですが、できる限りの事はさせてもらいます」
そう言って、ヒルデはカンナたちを治療室へと入れていった。