・本作は東方projectの二次創作カップリングを含みます。
どうもどうも。カイロスです。今回も紫霖ですね。ちょっと大人な雰囲気を目指して書いてみました。大人びた者同士、大人な恋愛を……
パチュ霖後半戦は全くもって手を付けておりません()
幻想郷の冬は厳しい。僕が普段着ている服には、軽度ではあるが耐寒の術が施されているはずだ。それなのに、肌寒く感じる。……が、僕が言いたいのはそういう事ではない。
当然、この寒さを凌ぐために人々は様々な対策を立てている。僕の場合、それは「ストーブ」と呼ばれる外の世界の道具だ。動かすためには「灯油」というこれまた外の世界の物質が必要である。無縁塚に転がっている事もあるのだが、当然消耗品である為それだけでは賄えなくなるのだ。
つまり、誰かから手に入れる必要がある。
「あら、相変わらず辛気臭い顔してるわね」
「……紫。いい加減扉から来てくれないか?寿命が縮む」
「無理。これは私のアイデンティティなのよ?」
「どんなアイデンティティだ」
「こんなアイデンティティよ」
何の脈略もなく、八雲紫がそこに立っていた。紫は帳場の前の椅子に座り、頬杖をついて微笑んだ。彼女の事を知らない人間の瞳には、それは妖艶に映っただろう。が、僕には胡散臭さしか感じられなかった。
「まぁまぁ。ほら、これ。」
スキマから赤色のタンクが現れ、どすんと音を立てて地面に落ちた。
「あぁ。ありがとう。助かるよ」
「ん。代金は……そうね。これは何?中々面白そうじゃない。カメラ……では無さそうね。」
そういうと紫は、棚の上に置かれた掌サイズの機械を手に取った。
「あぁ。それはプロジェクターと言ってね。壁や天井に映像を投影する機械なんだ。……と言っても、使い方はまだわからないんだけどね。これから調べるつもりさ。だから、それは非売「毎度ありー」……」
言い終わる前に、プロジェクターはスキマの中へと姿を消した。
「非売品ならなんでここに置いてるのよ」
「……確かにそうだね」
……そう。幻想郷の冬は厳しいのだ。財布に。
◇◆◇
「……ところで、帰らないのかい?」
「あら酷い。お邪魔だったかしら?」
「いや、そういう意図じゃないんだ。もうここでの用事は終えたろう?」
紫は僕との取引(半ば差し押さえのような払い方だったが)を終えた後も帰ろうとしない。上客を追い返す訳にもいかないので、彼女に付き合う事にしよう。
「えぇ。でも、今の私は客じゃなくて友人よ。もしかしたらまた客になるかもしれないけどね」
「そうかい。友人が来たならお茶の一つでも出さないとな」
「緑茶がいいわ」
「はいはい」
安楽椅子から立ち上がり、僕は台所へと向かった。どうやら霊夢や魔理沙には盗まれていないようで、高めの茶葉を使う事が出来た。紫に出す物という点で見れば……まぁ、僕の腕前を鑑みても及第点と言えるだろう。
お茶が沸くまでの間、紫はぼんやりとした目で商品達を見ていた。彼女にとって、この店の商品に目新しい物は少ないはずだ。それなのに、紫は飽きずにここへやって来る。
お盆の上に湯呑を二杯乗せて戻ると、紫の目がある一つの商品に留まっている事に気付いた。古い懐中時計──動かなくなって久しい代物だ。
「悪いね。それは売り物じゃないんだ。客に動かない物を売りつけたとなれば、香霖堂の名が廃る」
「わかっているわ。ただ、時の止まった道具というのは……少し、考える所があるのよ」
「……なるほど。時間も境界という事かい?」
「そう。過去と未来、昼と夜……それらには全て境界が存在するわ。でも、この時計は、その時計自身の『今』という境界の狭間で止まっている。それは、私もなの。」
紫は湯呑を手に取って、一口啜った。僕はその少し物憂げな姿を、ただただ見つめていた。いや、見つめている事しか出来なかった。
「……ねぇ、霖之助さん」
「どうしたんだい?」
「貴方のその能力で、私の事を見てくれないかしら?」
「急だね。僕の能力は道具に対してしか使えないよ」
「まぁ、いいから」
言われるがまま、僕は紫に「道具の名前と用途が判る程度の能力」を使用する。当然の如く、僕の頭には、名前も、用途も、浮かばない。
「言った通りだ。何も頭に浮かんでこないよ」
「……そう。良かった」
「……ちなみに、意図を教えてくれるかい?」
紫は深呼吸をして、僕の目を真っすぐ見た。
それがひどく、不安定に見えた。
「……怖いの。私が私でなくなってしまうのが。自我がなくなってしまうのが。……幻想郷を存続させる為だけの、道具になってしまうのが」
紫は笑顔の出来損ないを浮かべて、ゆっくりと言の葉を紡いでいく。
「勿論、私が始めた事なんだから、私が管理しないといけないのはわかってるわ。逃げるつもりはない。でも、もしあの時計のように、役割さえも全うできなくなってしまったら……」
紫は、口を閉じ、目を伏せた。もう、胡散臭さはどこにもなかった。
「……そう憂う必要もないんじゃないかな。君がここへ訪れるのも、僕が非売品と言ったプロジェクターを回収するのも。感情があってこそだろう?」
一瞬、紫は虚を突かれたような顔をした。それから、いつもとは違う、少し柔らかい笑みを浮かべた。
「……貴方にしては、上出来な答えね」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
障子の向こう側では、雪は降りやむ気配を見せずにしんしんとその結晶を落としていた。
「そういえば、ここも貴方も、境界の狭間のようよね。人間と妖怪の狭間である貴方と、外の世界と幻想郷の道具を繋ぐ香霖堂」
「僕は人妖神霊関係なく商売をしたいからね。前者は兎も角、後者は当然さ」
「うふふ。面白い人。それじゃあ、私はもう少しここにいても構わないかしら。私は今の所『妖』なのよね?」
「妖ではあるが客ではないな。……他の客が来なければ、構わないさ」
「あら、それじゃあお泊りの用意でもしようかしら」
紫は目を閉じて、淡くはにかんだ。
僕は、紫がどれだけの時間を過ごしてきたのかを知らない。どんな過去があって、どういう思いでここへ来るのかも知らない、無理に知る必要もない。が、今目の前にいる彼女とこうして言葉を交わす事は、これからも続くのだろうと、少し思えた。