穏やかに生きたいTS村娘。今日もヤンデレ女勇者様が結婚を迫ってきます。 作:汝とせがらを愛せよ
「ほらほらぁ、もっとムード作らないと駄目だぞぉ」
野次が飛ぶ。
「んー、その告白は安直すぎるんじゃないかぁ?」
野次が飛ぶ。
「かーっ、女心が分かってないねぇ」
野次が飛ぶ。
……
…………
………………
「あーっ! もうっ! ソロルはうるっさいなぁ!」
ソロルさんがこの村に居ついてからというもの、勇者様が私への結婚を申し込んでくるたびに、ソロルさんが茶々を入れるものだから、勇者様は怒り心頭だ。
今はこうしてソロルさんへの怒りを畑にぶつけている。鍬を振りかざして、土を耕すことで。
私としては、畑が耕されるのはありがたい限りだ。
「まるでお母さんみたいですね」
「そうなんだよ。昔っから僕の保護者面ばっかりしててさぁ」
昔というと十年前か。
勇者様が旅立たれたのが十年前だものね。
「勇者様ってお年は十八歳でしたっけ?」
「うん? そうだよ、今年で十八」
この世界では数え年なので、十年前は八歳だ。
八歳の時から面倒を見てたら、確かに保護者と言ってもいいかもしれない。
というか鬼畜すぎない? 八歳の女の子を魔王討伐の旅に出させるって。
もっと成長してからでもいい気はするんだけれど。
いや、止めておこう。
詳しくない私が政治批判をしても何にもならない。
ましてや私は権力者でもなくただの村娘。
できることなど何一つとしてないのだから。
「ソロルさんと勇者様ってどうやって出会ったんですか?」
「あー、どうだっけなぁ。旅立ってすぐの事じゃなかったんだよ」
流石に十年前だけあって、記憶も曖昧らしい。
私も十年前の事なんて覚えてないもんね。
三歳のころは何してたっけな……。よくお父さんの目を盗んで近所の森に遊びに行ってたとは聞くけれど。
危ないから止めろって何度も言われてたらしい。
「聞きたいかい?」
「聞きた……わあ!」
いつの間にかに背後にソロルさんが立っていた。
初登場もそうだったけれど、この人は足音立てずに人の後ろに立つのが趣味なのかな。
とても心臓に悪い。
「まあそんなに面白い話でもないさ。この子が魔塔に転がり込んできたんだよ」
「魔塔に?」
魔塔について詳しくはないけれど。
それはすごいことだ。
「誰よりも強くなりたい。っていうものだから。面白そうなので私が面倒見てあげることにしたのさ」
「雑っ!」
思った以上に簡潔にまとめられてしまった。
というか、魔塔の主である賢者様がそんなにフットワーク軽くていいんですか!?
「あの時の決意が凄かったもんさ。開口一番何て言ったと思う?」
「ちょっと! その話は――」
流石に恥ずかしくなったのか、勇者様が口を挟んでくる。
そんなに聞かれたくない話なのかな?
「いいじゃないか、減るもんでもないし」
「でも……」
ちらりちらりとこちらを見てくる勇者様。
一体なんだろうか?
ソロルさんは小さくため息を吐いた後、続きを話す。
「『恥ずかしいとは思わない。私には、何をしても守りたい人が、約束がある』って言ったのさ」
「おおぉー」
かっこいい。
ザ・勇者様って感じだ。
……ん? 私?
「勇者様って、自分の事“僕”って言うんじゃないんですか?」
「あっ、えっ!?」
急にきょどってしまう勇者様。
な、なんだろう。聞いちゃまずいこと聞いたのかな。
ソロルさんは意地の悪い笑みを浮かべて、補足してくれる。
「この子が僕って言い始めたのは旅の途中からだねぇ」
「へぇー」
「ちょうど聖女様と合流したころあたりだったかな? どうだったっけ、勇者」
「覚えてないよ! もう、ソロルの馬鹿!」
勇者様はすっかり不貞腐れた様子で、畑仕事に戻って行ってしまった。
聖女様と合流したあたりからかぁ。
何か大きな心境の変化でもあったのかな。
「……ん?」
勇者様が唐突に動きを止めて、特定の方向を向いて固まった。
何だろう。
「……ちょっと待っててね」
「どうかなさいましたか? 勇者様」
「うん、ちょっと野暮用ができたみたい」
ソロルさんがどこからか取り出したキセルで煙を吹いている。
その様子は、少しばかり真剣みを帯びている。
「そうかい。早めに終わらせるんだよ」
「まあ大した手間じゃないからすぐに終わらせるよ」
?
まあ二人の雰囲気から危ない用事ではなさそうだけれど。
「気を付けて行ってきてくださいね」
「うん、すぐに終わらせて戻ってくるよ」
鍬を私に預けて、勇者様は村近くの森の方へ走って行ってしまった。
ソロルさんは動かず、そのままキセルをふかしている。
なんの用事なんだろう。
トイレなら森の方じゃないだろうし。
まあ、話してくれないってことは秘密の用事なのだろうし。
それは詮索しない方が良いでしょう。
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森の中、ある程度の深さまで潜ったところで僕は足を止める。
腰の剣に手を当てて、いつでも引き抜けるようにして。
「やあ、随分と熱心なラブコールだね」
誰もいないように見える空間に声をかける。
見た目上は何もいない。けれども、濃厚な殺気が他の何よりもそこにいるってことを指し示している。
「……キキキ。あれがお前の弱点か、勇者」
透明なまま、声が聞こえる。
姿を現す気はないみたいだ。
「誰かと思えば、魔族の残党?」
「お前が魔王様を討伐したおかげでな。俺らは自由になった」
魔族は魔王によって支配されていた。
その支配がなくなったことで、魔族は統率が取れなくなり散り散りになったと聞く。
魔族ってのは、そもそも個人主義だ。それを実力でまとめていた魔王がどれほどの実力だったかは……語るのも難しいね。
本当に、強かった。それぐらいしか。
「それで、今更残党風情が何の用事?」
「そういうな。俺らの中には、お前らに感謝している連中もいるのだ」
感謝? 僕らに?
「お前らが魔王様を倒してくれたおかげで、我々は支配者を失った。おかげで、再び魔族同士の戦乱の時代だ」
「なあに、次代の魔王の座でも狙おうっての?」
「その通り、と言いたいところだが俺はそんなことに興味はない」
なんだ、じゃあ何をしに来たんだろう。この魔族は。
「キキキ。言っただろう? お前らに感謝していると」
「君たちの言う感謝が、僕らの言う感謝と同じ意味だとは思えないね」
「ならば、忠告だと受け取っておけばいい」
忠告? 魔族が? 僕に?
「何を企んでいるの?」
「キキキ……次代の魔王が生まれれば困る奴らもいるってことだ」
「それと、僕らに何の関係が?」
話が要領を得ない。
これだから魔族は嫌いなんだ。
迂遠な話を得意として、煙に巻いてくる。
「分かりやすく言ってやろう。勇者よ、今後お前を狙いに魔族が大勢訪れるぞ」
「っ!?」
「魔王を倒したお前を倒せば、そいつが次代の魔王候補だ。魔王を目指す連中は、こぞってお前を殺そうとしにくる」
――魔王を倒せば終わりだと。僕らはそう思っていた。
でも、違う。
一度魔王の下で天下を取りかけた魔族は、魔王という偶像に脳を焼かれている。
次代の魔王を生み出そうと、魔族内での覇権争いが繰り広げられているのだと。
そのトロフィーとして、僕らが狙われている。
「しばらくは魔族内の階級争いが繰り広げられるだろう。だが、それが終わればお前の番だ、勇者よ」
「……それを、どうして僕に?」
「何度も言わせるな。お前らに感謝している連中もいるのだ、そして、魔王が生まれれば困る奴らもいるのだ」
こいつはその魔王生まれると困る側ってこと?
要するに魔族の中の変わり者ってことだ。
「できるなら俺も畑を耕して暮らしたいんだがな、キキキ……」
本当に変わり者みたいだ。
「それで、結局何が言いたいのさ」
「――お前の大事なものから目を放すな。お前は最強かもしれないが、知っての通り、お前の弱点を見つけて攻めない程あいつらはぬるくない」
つまり、ティアちゃんを狙うと?
――はっ。
「いいよ、狙ってみなよ」
「――キ?」
もしもティアちゃんに一歩でも傷をつけてみろ。
彼女の願いを邪魔してみろ。
「女神の御名の下に、立ちはだかるものは全て切り伏せる。僕は――選ばれし勇者だ」
絶対に、僕はそいつを許さない。
僕を勇者にしてくれた人を、傷つけることなんて許さない。
本来ならば監禁して守りたいぐらいだけれど。
それは彼女が悲しむからしないだけで。
本気になれば、彼女を守る方法なんてごまんとある。
姿は見えないが、変わり者の魔族は満足げに笑っている。気がする。
「それでいい。俺らの平穏も守ってくれ、勇者」
「しかし、魔族ってのは全員好戦的だと思ってたよ」
「キキキ……だから俺らは肩身が狭い」
俺ら、俺ら、ね。
少なくとも、彼らは彼らで自分たちの身を守るためのグループを作ってるってことか。
「では、忠告はしたからな」
「まるっきり信じたわけじゃないけれどね」
「それでいい。じゃあな、女神の勇者」
気配が消える。
姿を消せるだけじゃなくて、気配も消せるのか、あの魔族。
本気で敵に回ったら厄介そうだ。
「……結婚してくれたら、より守りやすいんだけどなぁ」
もちろん、下心はあるのだけれど。
ティアちゃんはどうやったら僕の告白を受け入れてくれるのだろう。
まあいいや、気長にやろう。
女神さまも……思うがままにせよっておっしゃったし。
「とりあえず、戻ったら一回告白してみようか」
ソロルに茶化されるのは、この際諦めよう。
とにかく、僕らの今後のために。
結婚を急ぐとしようか。