超次元ゲイムネプテューヌ Origins Zenith 作:シモツキ
もう何作も続いているシリーズである為、初見でも楽しめる…というのは流石に無理がありますが、それでも出来る範囲で分かり易く書いていきますので、是非ご覧下さい。
──人生は、長い旅の様なもの。初めは何もかもが手探りで、不安と心配、それに好奇心を胸に抱きながら歩み出す。どこを、どのように、どれだけ歩むかは人それぞれで、平坦な道を進める時もあれば、山や谷を越えていかなければいけない時もある。楽な道だと思っていても、急な雨に襲われたり、事故や騒動に見舞われたり、病気や怪我で歩みを止めなければならなくなる事が、いつでも、誰にでも起こり得る。
進む内に、少しずつ旅には慣れてくる。恐れていたもの、難しかった事も、いつの間にか障害ではなくなっていく。同時に発見も、初めてだと感じられるものも少なくなっていき…いつしかありふれた、彩りの欠けた旅になっていく。詰まらない、ただ繰り返すだけのものへと変わっていく。…だけどそれも、気の持ちよう次第。大きな驚き、深い興奮は減ったとしても、小さな発見、細やかな喜びはいつだってある。気付き難いだけで、それぞれ楽しいと、良いと思えるものは、近くにも遠くにもきっとある。全てを知った、何もかも見てきたなんて、思わなくていい。
そして人生には、必ずどこかに終わりがある。それが望んだ結末になるか、望まない終焉になるかは、誰にも分からない。分からないからこそ、今を大切に、一歩一歩の歩みを懸命に、やりたい事もやるべき事も目一杯やる…それは中々出来ない事だけど、そうする事でいつかの終わりを迎えた時、少しは後悔を減らせるかも、ちょっとは満足を感じる事が出来るかもしれない。人生という旅は、そういうもので……女神もまた、同じ事。女神の歩みも、長い長い、果てしない旅の様なもの。だからこそ、どんな形であれ、女神の歩みにも、女神の物語にも──いつかは終わる。
*
それは正に、圧倒的な力。強い、手強い…そんな言葉じゃ表しきれない、理不尽や異常という表現すらも生温い、そもそもの格が違い過ぎるとしか言いようのない猛威。
「くっ、ぅ……!」
襲い掛かるその猛威に対し、求められるのは一瞬の判断。躱すか、防ぐか、迎え討つか…その判断を、一瞬で下す。回避も防御も凌ぎきるには不可能だと、私は迎撃を選択する。
「……っ、負けるかぁああああッ!」
左手にシェアエナジーを圧縮する事で、バスタードソードを精製する。右手の長剣と共に、二振りの剣で迫り来る猛威を…殺到する無数の武器を斬り払う。
「天舞壱式・桜ッ!」
ただ剣を振るうだけでは間に合わない。だから圧縮シェアエナジーの解放を身体に受け、その勢いを乗せて斬撃の乱舞を叩き込む。それでも足りない分は、精製と解放を組み合わせた武器の射出で撃ち落とす。一歩も退く事なく、逃げる事なく、私は猛威に抗い続け……
「──遅い」
次の瞬間、猛威の根源が私の背後に迫る。咄嗟に、本能的に、私は長剣を振るった勢いを利用して振り向き、更にその勢いのままバスタードソードを掲げて防御をするけど、それが限界。振るわれた刃の一撃に防御を崩され、間髪入れずに放たれた殴打で吹き飛ばされる。
「ぁ、ぐ……ッ!」
ただの打撃とはとても思えないような、突き刺すような痛みが腹部を貫く。それに苦しむ暇もなく、吹き飛ぶ私へ瞬時に追い付いてきた存在が、蹴撃で私を叩き落とす。受け身もまともに取れないまま、私は大地へ打ち付けられる。
私が女神でなければ、この時点でもう身体は砕け散っていてもおかしくない。それ程の威力、それ程の攻撃。それを放っても尚…或いはそんな攻撃が出来るからこそ、相手に容赦はない。衝撃で歪む視界の中、相手は次なる攻撃に移ろうとし…横に刃を振るう。その刃は、側面から仕掛けた女神と斬り結ぶ。
「それ以上は、させないわッ!」
二振りの剣を縦に連結させた大剣を両手で握り、押し合う存在。真っ向からぶつからんとする…セイツ。それを相手は、片手持ちの剣で受け止め…直後に弾き返す。
とはいえそれは、セイツも想定していた様子。弾かれる…即ち距離が空く事を利用して、握る得物の連結を解除。双剣へ戻すと共に斬っ先を向け、圧縮シェアエナジーを弾とする遠隔攻撃を撃ち込む。二発同時ではなく、一発を撃ち、相手の動きに合わせて二発目を放つ姿勢を見せ…けれどその時点でもう、私と同様に肉薄されていた。
「な……ッ!?」
驚きながらも腕を引き、セイツは射線に捉えようとする。それよりも早く、相手は連結剣の腹を手で張る事で体勢を崩し、袈裟懸けで攻撃。刃がセイツを斬り裂く寸前、セイツは圧縮シェアエナジー弾を撃つのではなく、プロセッサ・ユニットの手甲部カートリッジから放つ事で推進力にし、辛うじて斬撃から逃れる…けど、それが限界。更に踏み込んだ相手に蹴り飛ばされ、一直線に吹き飛んでいく。
その攻防は、ほんの数秒。たったの数秒で、セイツはあしらわれ、ダメージと共に大きな隙を晒し…でもその数秒で、私は立て直す事が出来た。だから私は上昇を掛けながら、進路妨害の為に左手のバスタードソードを投げる。同時に注意を引き付けるべく、フルスピードで突進する。
「まだ、まだぁああぁぁッ!」
圧縮シェアエナジーの解放を立て続けに使い、猛攻撃。解放による爆発を直接受けるのは、当然身体に負荷が掛かるものだけど…そんな事は、気にしていられない。そんな事を気にしようものなら、その時点で叩き潰されて終わる。
私の攻撃は、まるで通用しない。全て眉一つ動かす事なく防がれる。ただ、その間にセイツも復帰していた。私が仕掛けるのに合わせて、セイツも背後から斬り掛かり、同時に挟撃。それすら微塵も無駄のない攻撃で躱されるも、私達は喰らい付く。
(強い…果てしなく、強い……ッ!)
思考をフル回転させ、片手持ちと両手持ちを忙しなく切り替えながら長剣を振る。セイツも連結と分離を、順手と逆手を幾度も変えながら攻め続ける。歯を食い縛り、力を注ぎ込み……でもそれすらも、私とセイツの連携をも、片手で、剣一本で凌がれる。どんなに仕掛けようとも、打ち込もうとも……あまりに高く、遠い。
「…足りないな。そんな剣撃が、この私に届くものか」
ほんの一瞬、それよりも短い刹那の隙。そこを突かれ、セイツは連結剣を振り上げていた腕の肩を踏み付けるように蹴り抜かれる。直後にセイツを足場とする事で私へ肉薄し、横薙ぎ…と見せかけて、防御しようとした私の手首を掴み、抵抗も許さず振り回す。私の視界は滅茶苦茶になり…持ち直そうとしていたセイツへ強かに叩き付けられる。セイツともみくちゃになった私の身体を、更に鋭い痛みが貫き…それが打ち込まれた掌底によるものだと気付いたのは、セイツと共に再び地面へ落ちた後だった。
「はぁ…はぁ……」
「ぐっ……」
落下した時、セイツが下に、クッションになってくれたおかげで衝突のダメージは軽減されたけど、ここまでのダメージは積み重なっている。セイツも同じで、私達は息が上がっている。そして、その私達を見下ろすのは……ただひたすらに真っ直ぐな双眸。
「立ってみせろ。剣を向けてみせろ。己が力はこんなものではないと、女神の…人の力は折れなどしないと、証明してみせろ」
冷たい訳ではない。悪意が籠っている訳でもない。むしろ純粋で、どこまでも真摯で…だからこそ厳しい声。それを私の、私達の心に響かせる──原初の女神。
分かっている。言われずとも、屈するつもりなんてない。だから私は立ち上がる。セイツもまた、自分の力で立つ。
「そうだ。それでこそ、女神の在るべき姿。だが、強くなければ意味がない。如何なる脅威をも打ち払う力がなければ、人を守る事など出来ない。あまり私を──」
微かに、僅かに、原初の女神…オリゼの表情は柔らかくなる。されど瞳は、声音は厳しいまま。そこに手心なんてものはない。そしてオリゼは、地上の私達へ更に仕掛けようとし……次の瞬間、巨大な剣と槍、螺旋の力を帯びた刃と多数の魔力弾が空中のオリゼへと襲い掛かった。
「──待たせたわね、二人共」
突然の事態に私達が驚く中、その私達の前に人影が舞い降りる。聞こえた声は、馴染みのあるもので…舞い降りた影も、一つじゃない。
「全く、突っ走るんじゃないっての」
「そうですわ。何も、合流する余裕がなかった訳ではないでしょう?」
「まあ、相手が相手だ。真っ先にぶつかりたい気持ちは分かるけどな」
私達の前に立つ、四人の女神。ネプテューヌ、ノワール、ベール、ブラン。それぞれの声が、私の耳に届いて……たったそれだけでも、心強いと心から感じる。単に人数が三倍になったからじゃない。皆の実力を知っているから…それだけじゃ足りない。幾つもの戦いを、共に乗り越えてきた…苦楽を共にしてきた皆だからこそ、新たな活力が湧いてくる。
「…………」
それぞれの攻撃が炸裂し、空中にシェアエナジーの爆発が巻き起こる。そうしてその場に残ったのは、全くの無傷な…まるで何もなかったかのような雰囲気で依然として宙に立つオリゼ。そのオリゼの姿が見えた事で、微かな嘆息が聞こえてきた。
「分かってはいた事ですけれど…ああも涼しい顔をされると、心にくるものがありますわね」
「えぇ。全力を込めて叩き込んだ筈なのに、ね」
その言葉と共に、ネプテューヌとベールが肩を竦める。とはいえ、当然二人に怖気付いた様子はない。二人の…皆の纏う気迫は、微塵も変わらないまま。
「さて、流石に六対一じゃ卑怯か?…と言いたいところだが……」
「このまま全員で戦わせてもらうわよ。そっちだって、そのつもりでしょ?」
「当然だ。今の世を守り導く女神、今一度その力を示してみせろ。無様な姿を見せる事は…許しはしない」
二人も六人も変わらない…そう思っていてもおかしくないような面持ちのオリゼは、構える姿を見せない。けれどそれは、油断している訳でも、攻撃を誘っている訳でもない。悠然と、超然と、女神として天に君臨する…それこそがオリゼだと、私は知っている。それが、原初の女神の…人の思いに応える存在としての始まりを築いた、オリゼの在り方。
「…まだやれるわよね?イリゼ」
「勿論。神生オデッセフィアの守護女神として、この程度で膝を屈してなるものか。私の、オリジンハートの強さは…こんなものではないのだから」
「そうね、その通りよ。…はっきりと示してみせようじゃない。オリゼに、皆に……今のわたし達の、強さを」
セイツと言葉を交わし、私達は前に出る。私達を守るように立っていた四人…そこへ私とセイツも並び立つ。
ここまで私達は、手も足も出なかった。仕掛けも小細工も一切ない、純然たる力の差がオリゼとの間にはあって…それはネプテューヌ達四人がいれば埋まるだなんて、楽観視をするつもりはない。
けれど、通用するかどうか、勝てるかどうかなんて、関係ない。強さとは力じゃないのだから。守る意志、貫く思いが女神の真髄なんだから。だからこそ私達は、力を合わせ、思いを束ね、オリゼへと立ち向かう。嘗てネプテューヌ達四人が、今の女神の在り方を示さんとしたあの時の様に。全力で、全身全霊で……私達は、原初の女神と激突する。
*
「だーっ!負けたぁぁーー!」
部屋の中に、よく通る声が響く。その声を聞きながら、私は身体を起こし…皆と共に、肩を竦めた。
「もう、五月蝿いわよネプテューヌ」
「だってだって、負けたんだよ!?しかも、六対一でこてんぱんのけちょんけちょんって…これもう完敗以外の何物でもないじゃん!」
「こてんぱんのけちょんけちょん…また昔ながらの表現をしますわね……」
「というか、随分と元気ね…そのパワフルさだけは羨ましいわ」
悔しさを隠さない声に、ネプテューヌの様子に、今度は苦笑する私達。…とはいえ、その気持ちは分かる。悔しいと思っているのは…私も同じ。
「けどほんと、微塵も鈍りを感じさせないわね…人の姿では、今でも剣を振っているとはいえ……」
「多分、それもオリゼの強さなんだろうね。それも含めて…全部、全部」
隣のセイツと、小さく頷き合う。そして、逆側に目を向ければ……そこではオリゼが、難しい顔をしていた。
「……オリゼ?」
「…前、よりは…マシに、なった…と、思います…。で、でも…もっと、強くあってくれ、なければ…困り、ます」
「あ…はい……」
おどおどとした雰囲気が拭えない、いつものオリゼの様子のまま…はっきりばっさりと発された言葉。オリゼからの評価は厳しいものだろう…そう思っていた私も、まさかいきなり言われるなんて事は想定していなかったから、軽くショック。
「こんな気弱を窺わせる喋り方だというのに、内容は厳しさ100%だと、一部の界隈に受けそうですわね……」
「成立しないでしょ、それ…こんな態度、人に対してはしないんだから……」
基本穏やかでおっとりとした雰囲気を纏うベールも、これには何とも言えない顔で頬を掻く。その表情と共に発された言葉にノワールが突っ込み…私達も、乾いた笑い声を漏らす。
私達は、オリゼと戦った。でもそれは、現実の話じゃない。今のオリゼに、全盛期の……オデッセフィアの女神であった頃の力はない。だから私達が戦っていたのは、ついさっきまで私達がいたのは、仮想世界形成装置によって作り出された仮想空間の中。そこで私達は、オリゼと模擬戦をしていて…その結果が、ネプテューヌの言った通りの完敗だった。
「う〜…ネクストフォームを、せめてネクストフォームを使っていたらまだ違う結果になってたかもしれないのに……。…あっ、別にネクストフォームが使えなくなったとか、普通の女神化の時点でネクストフォームの要素を取り込んだプロセッサを纏ってるとかじゃないよ?」
「誰に何の説明をしているの貴女は…。…今回は地力を測る、純粋な力で今のわたし達がどれだけ通用するかっていう勝負だったのは分かっているでしょ」
数瞬前までの悔しさが消失でもしたかのような、ネプテューヌの切り替えの早さ。まあそれはともかくとして…実際のところ、敗因の一つはリバースフォームやネクストフォームといった、切り札を最後まで使わなかった事。全力全開ではあったけど、持てる手の全てを尽くした訳じゃない。……まぁ、だとしても負けは負けだし、リバースフォームやネクストフォームを使っていれば勝てたかっていうと、それは分からないけども。
「そうよネプテューヌ。それに、そうしていた場合どうなると思う?」
「……?何か起こるの?」
「えぇ。リバースフォームもネクストフォームもないわたしが、一人蚊帳の外になるわ」
『…………』
「そしてその場合、今みたいな空気感になるわ。お互い凄く気不味くなるわよ?」
更に予想外の流れで飛び込んでくる、セイツの自虐。ここまでセイツが狙っていたのかは分からないけど…割と本当に、気不味い雰囲気になっていた。
「…ちょっと、どうするのよこの状況」
「えぇ…!?なんでそれを私に振るの……!?」
『だって、セイツの妹でしょう?』
「いやそうだけども!でも普通、姉の尻拭いを妹がする!?」
「尻拭いって…さらっと言葉で刺してくるわねイリゼ……」
理不尽なノワールの振りと続くネプテューヌ達の言葉で動揺した私は、思わずオブラート皆無な発言をしてしまった。…ごめんね、セイツ…。
「…ま、まあでもうん。各々良い訓練になった…そうだよね?皆」
「強引に纏めたわね…まぁ、それを否定するつもりはないけれど」
「は、はい。イリゼも、セイツも、皆さん…も、今後ももっと鍛錬して、修練して…もっと強くなって…下さい」
分かっている、というようにブランが肩を揺らし、皆もそれに小さく頷く。そしてそこからの、オリゼの言葉には…再び何とも言えない顔をしていた。…まぁ、そうだよね…そもそもの在り方、望まれた形が違う以上、同じ女神でも強さに開きがあるのはある種仕方のない事かもしれないけど…それでもやっぱり皆からすれば、この結果も、オリゼに上から目線で言われるのも、面白くはないよね…。
と、思っていたところで、また一つ声が聞こえてくる。でもそれは、この場にいる誰かの声じゃない。
「えっと…すみません。そういう事でしたら、今回のデータを皆さんのところにそれぞれ送っておこうと思うんですけど、どうしますか?」
それは、ネプギアからの通信の声。今回は…というより、今回もネプギアはモニタリングをしていてくれて、尚且つ万が一の事(仮想空間内での事は勿論、活動中に外で何か問題が…ってパターンもあり得なくはない)に備えて、通信回線は開きっ放しにしていた。だから、ここまてのやり取りも全部ネプギアには聞こえていた訳だけど…多分、私含めて全員、その事をすっかり忘れてたよね……。
「ええ、お願いするわネプギア」
「助かるわ。やっぱり、貴女は気が利くわね」
「当然ですわ。ネプギアちゃんはわたくしの──」
「言わせないよっ!ねぷちゃんカッター!」
「いや、何その某お笑いトリオと魔女見習いの合わせ技みたいなの……」
柔らかな表情で答えるノワールとブランに続いて、ベールがお決まりの発言をしよう…としたところで、ネプテューヌが声を被せて阻止。そのネタで言ってるのか、本気で止めようとしているのかよく分からない発言に、私は困惑し…私達のやり取りに、ネプギアは苦笑いをしていた。
「でも、ほんといつも悪いわね。ネプギアだって色々やる事がある筈なのに、これまで何度も付き合ってくれてるでしょ?」
「いーのいーの、だよね?ネプギア」
「うん」
「ちょっとネプテューヌ?お姉ちゃんが妹に対してそんな雑な言い方……え、いいの?」
「はい。仮想世界形成装置の中で走ってるデータの動きはいつも独特なので、見ていて凄く楽しいっていうか、わたしからすれば面白動画を見てる感じなんです」
「そ、そう…それなら、いいんだけど……」
同じ姉として、そんなぞんざいな扱いは見逃せない、とばかりに声を上げたセイツ。でも当のネプギアは、ネプテューヌが言った通り全然構わないって感じで…こう、ネプテューヌと姉妹だけあって、ネプギアもちょっと特殊なところあるよね…。
「さて。では模擬戦も終わりましたし、わたくしはそろそろ帰るとしますわ」
「わたしもそうするわ。帰ってからもまだやる事があるし」
「えー?皆もう帰るの?イリゼのスイーツもまだ食べてないのに?」
「なんで私がスイーツ作ってる前提なの…?……まあ、作ってあるんだけど…」
「作ってあるんだ…イリゼもマメっていうか、ほんとしょっちゅう作ってるわね」
まぁね、と私はノワールに肩を竦めて返す。丁度話が出た事だし、と私は焼いたお菓子を取りに行き…皆が帰る前に、ちょっとだけティータイム。
「しかし、イリゼがお菓子を用意して、ベールが紅茶を淹れて…っていうのが定番になったわね。どっちも美味しいし、私としてはありがたいけど」
「わたくしとイリゼは過去に組んでいた事もある間柄、であれば共同で何かをするのは必然というものですわ。うふふ、羨ましいでしょう?」
「雑な煽りね…と言いたいところだけど、ほんとにちょっと羨ましい…!くぅっ、もっと早くイリゼと出会えていたら……!」
「でも貴女、普段は料理したり紅茶淹れたりもしないんでしょう?…ところでオリゼ、その角砂糖は何個目なの……?」
「うぇ…?あ、あの…か、角砂糖は、沢山入れた方が…沢山、甘くなって…美味しい、ので……」
半眼でのブランの指摘に、オリゼは答える。それをベールは「まあ、美味しく飲んで頂けるのなら…」とばかりの何とも複雑そうな顔で見ていて、私も苦笑し……暫しのティータイムを経て、私とセイツは見送りをするべく皆と共に教会裏手の玄関へ。
「皆、今日はお疲れ様。それとネプテューヌ、これネプギアの分のお菓子だから持っていって」
「ありがと、イリゼ。そういえばさっき、ネプギアが言ってたよ。ここ最近、データにあまり見ない反応があるけど、何か基礎設定を弄ったりしたのかーって」
「え?…うーん…シミュレーションで使う事は多いし、特殊な条件を色々試してみたりはしてるけど、最近基礎設定を弄った事はあったかな……」
「あー、多分それわたしね。わたしも個人的に試したい事があって、設定に手を加える事もちょいちょいしてるんだけど…何か不味かった?」
「さあ?わたしはネプギアに言われただけだし。でも、下手に弄るとカブが全部腐っちゃったりするんじゃない?」
『カブって……』
ネプテューヌの発言はまあまず冗談だろうけども、あまり見ない反応…というのは気になる。私は色々…トリニティプラン第三の柱であるオペレーション・ジェネシス…即ち次元創世に繋がる可能性を、嘗て触れる事の出来た片鱗を元に試してみてるし、それ以外にも神生オデッセフィアを豊かにする為に、信次元を更に繁栄させられるように何かとシミュレーションはしているから、それをする中で何か弄っちゃ不味い部分に触れてしまった…のかもしれない。
それに思えば、確かにセイツも最近は何かのシミュレーションをしている事がちらほらある。これまでは何をしているのか特に訊いた事もなかったし、セイツの事だから妙な使い方はしていないだろうけど…。
「まあ取り敢えず、教えてくれてありがとね。こっちも技術者に見てもらって、異常がないか確認してもらうよ」
そうして私とセイツはネプテューヌ達を見送る。私はさっきまでいたリビングへ戻り、ティータイムの後片付けをしてくれていたオリゼと共に食器やテーブル類を片付ける。
「しかし何にしても、仮想空間って便利よね。現実で本当に倒れるまで模擬戦をやろうものなら、その後が大変だし」
「た、確かに便利…です。でも…やっぱり、仮想空間…は、仮想空間、です。現実とは…違う、気が、します。…た、多分……」
「多分って…と、言いたいところだけど…分かるわ。感覚的なものだから上手くは言えないけど、何か違うのよね」
うんうん、とセイツはソファに座り、脚を組みながら数度頷く。その感覚は私も分かる、けども……。
「…あのさ、セイツ。セイツは片付け、手伝ってくれないの…?」
「え、だってもう終わってるじゃない」
「うんそうだね、元々オリゼが殆ど済ませてくれてたしね。でもそういう事じゃなくて……ねぇオリゼ、こういうのどう思う?」
「ふぇ?え、えっと…良くない、と…思い、ます……?」
『なんで疑問系……?』
今に始まった事じゃないけど、セイツはこういうところがある。いつも手伝ってくれない訳じゃなくて、例えばこの場にいるのが私とセイツだけだったら、多分手伝ってくれたんだろうけど…こう、要領良くだらけるというか、上手い事手抜きをする事がしばしばある。で、そんなセイツに対し、オリゼに振ってみたら、何故か断言はしてくれなかった。ただ、疑問系になってしまったのはオリゼとしても思うところがあったのか、オリゼはぽてぽてとセイツの前まで歩いていき……
「え、えとえと…セイツ、そういうのは……めっ、です…!」
何ともまあ可愛らしい、とても注意や叱責をされたとは思えないようなお叱りが、セイツに下るのだった。
「…ねぇイリゼ。うちの家族って、なんでこうも皆可愛いところがあるのかしらね」
「それを私に訊く…?…まぁ、それで言うならセイツも可愛いところあるんじゃないかな」
ふぅ、と一仕事終えた後のようにほっとしているオリゼを見やりながら、私とセイツは小声で話す。…女神の姿ではあんなに威風堂々としてるし、模擬戦且つ仮想空間内だったとはいえ、私やセイツを躊躇いゼロでボコボコにしまくったオリゼが、人の姿ではこうなんだから…本当に、女神って不思議。
「さぁて、今日の予定はもうないし、わたしはもう少し仮想空間を使わせてもらうわ」
「あ、うん。…それは、さっき言ってた個人的に試したい事関係?」
「まあ、そんなところよ。今は平和だし、神生オデッセフィアも現状小さな問題は色々あっても大きな問題に直面してる訳じゃないんだから…余裕がある時に、やりたい事もやるべき事もやった方がいいでしょ?」
軽やかに立ち上がり、軽く手を振りつつセイツはリビングを後にする。…要領良くだらけるし、かと思えばこうやってさらっと真面目な姿を見せてくれたりもするから、セイツに対して困るなぁと思う事はあっても、悪くは言えないというか…多分本当に、切り替えるのが上手なんだろうなと思う。
「オリゼは、この後どうするの?」
「私は街に、出てきます。ま、まだ今日は…ちゃんと回れて、いない…ので」
「そっか。じゃあ、私は……」
どうしようかな、と指を頬に当てる。特に予定がないのは私も同じ。でもセイツやオリゼがそういう事をするっていうなら、私だけのんびりするのも気が引ける……と、そこまで考えたところで、私は気付いた。こういう時、セイツだったら休息の選択肢を取れただろうし、その点私は不器用というか、要領が悪いのかも…と。
(まあ、別に良いんだけどね)
セイツ同様リビングを出ていくオリゼを見送り、更に私は考える。若干の自虐はあれど、私はそれで困っていたりはしないし、現状本気で何とかしたいとも思っていない。戦闘や駆け引きにおいても要領が悪い…訳ではないと思うし、日常における要領の悪さがあったとしても、それなら皆に補ってもらえばいいだけの事。
そしてそれは、戦闘においてもそう。私達は六人でもオリゼに敵わなかったけど、決して恥じる事じゃない。私の強さは、女神の強さは、一人で戦う事じゃなくて、皆と力を合わせて、より大きな力にしていける事。それが出来るのも、確かな強さ。…勿論、だからって個の強さを二の次にしてる訳じゃないし…むしろ、個の強さも協力の強さも、どっちも妥協するつもりなんてないのが私だけどね。
「…よし。まずはネプギアからの話を伝えて、その後は……」
結局私は、私ものんびりしない事にする。このままのんびりしても頭の片隅にもやっとしたものが残るだろうし、だったらもう私も私で、セイツの言うようなやりたい事、やるべき事に手を付けた方がきっと気持ちもすっきりする。
それに、今が平和である事は間違いないけど、この平和がいつまで続くかは分からない。平和とは、次の戦争までの準備期間…だなんて言うつもりは毛頭ないけども、平和は決して強固なものじゃないし、今だってどこかで災いの種が芽生えているかもしれない。それに気付けるのは、平和が崩れた瞬間になってから…なんて可能性もゼロじゃない。だからこそ、やれる事はやっておくべきだし…やりたい事も、後回しになんてしちゃいけない。未来を見る事、見据える事は大事だけど、私が…いや、人も未来も『今』を生きているんだから。
──そうして私は、この日もいつも通りに過ごしていた。刺激的な、でも私にとっては非日常じゃない日常を送っていた。可能性を、あり得るかもしれない『もしも』の事も頭の片隅に置いた上で、今出来る事、したい事をやっていた。その判断に、間違いがあったとは思わない。けれど…やっぱりこれが、信次元の宿命なのかもしれない。そう思わせるように、この時にはもう、災いの芽が芽吹いていた。誰にも気付かれない形でその芽を伸ばし、広がり…災厄の蕾を付けていた。そして、その蕾が、私達が明日を掴み未来を描いてきたのと同じように、繋がり紡がれ積み重ねられてきた事で生まれた可能性が花開く時は……もう間近にまで、迫っていたのだった。
今回のパロディ解説
・〜〜強さとは力〜〜守る意志〜〜
ガンダムSEEDシリーズの主人公の一人、アスラン・ザラの名台詞の一つのパロディ。色んな武器を使うイリゼですが、流石にあんな何本も同時展開するのは(射出ならまだしも)無理ですね。普通に生身ですし。
・「〜〜普通の女神化の時点〜〜プロセッサを纏ってる〜〜」
原作シリーズの一つ、超新時空ゲイム ネプテューヌ∞における、旧守護女神組のプロセッサの事。最近は、ネクストフォームの力を通常の女神化でも使えるようになった…という展開も良いなと思っています。
・「〜〜某お笑いトリオ〜〜」
お笑いトリオ、我が家の事。杉山さんの「言わせねぇよ!」は汎用性の高い突っ込みですが、実はこれって下ネタに対する突っ込みなので、元ネタに忠実にしようとすると結構状況が限定されるんですよね。
・「〜〜魔女見習い〜〜」
前橋ウィッチーズにおける、主人公及びメインキャラの立場(要素)の事。更に言えば、ネプテューヌがパロったのは三俣チョコ(知代子)の代名詞的な台詞ですね。
・「〜〜下手に弄るとカブが全部腐っちゃったり〜〜」
どうぶつの森シリーズにおける、カブの事。要は、ゲーム本体の時間の設定を弄ると……という事ですね。本体設定を弄った場合のデメリットとしてまず思い浮かぶのはこれでした。