超次元ゲイムネプテューヌ Origins Zenith 作:シモツキ
女神の権限、発言は、自国において絶対的な力を持つ。それは、制度や立場によるもの以上に、国の在り方、統治の形が大きく影響している。思いが、シェアが女神の根源であるからこそ、理想の体現者であるからこそ、その言葉は望まれたものであると、その選択は理想的なものなのだと、自らの存在理由が証明し、示している。
けれどその絶対性が担保されるのは、あくまで自国内に限った話。これが信次元全体となると、話は変わってくる。でもそれも、当然の事。信次元に存在する国は一つじゃないのだから。信次元には複数の国があって、それぞれに女神がいて、国のない場所にも人の生活圏はあるのだから。信仰こそが絶対性を担保する以上、信次元全体となれば女神の数だけ絶対性は分散するし、そもそも通用しない事だってある。だからこそ、信次元全体に関わる事となれば、女神にも協調性が求められる。話し合いが、大切になる。
「──人の未来を守る事は、その次元の未来を守る事と同義。次元を変える力は特異なものではあっても、唯一無二のものではない事は明確なんだから、別次元の危機や脅威を取り除く事は、信次元にそれが及ぶ可能性を未然に防ぐ事にも繋がる。加えて手助けをする際に、次元の一部を割譲や共同開発するという条約を結ぶ事が出来れば、信次元にとっても大きな利益になる上に、貸し借りじゃなくて取引という形になるから相手に変な引け目や遠慮を抱かせる事も避けられるし…それに何より、別次元だろうと何だろうと、人を守るのが女神の務め。そうでしょう?皆」
私は私の考えを皆に伝え、ゆっくりと見回す。一人一人の顔を見ていく。今私達がいるのは、神生オデッセフィアにある信国連…信次元国家間連携機構本部の、会議室の一つ。そこで私は、守護女神の皆と話し合いをしていた。
「そうね。私はイリゼに賛成よ。今は私達にも余裕があるし、過去には私達も別次元の女神に力を貸してもらった事があるんだから、私達も出来る事はするべきだわ」
「言いたい事は分かるわ。それを真っ向から否定するつもりもない。でも、少し前のめりが過ぎるんじゃないかしら。実際に助けを求められたのなら、出来る限り力を貸すべきだとは思うわ。だけど、求められてもいないのにっていうのは、思考が先行しているんじゃないの?」
信国連が掲げる計画、トリニティプランを推し進めるべきだという私の提言に対し、ノワールが賛成の、ブランが否定の姿勢を示す。思考が先行している…ブランからのその返しに対し、私は少し考えて、それから答える。
「ブラン。それは、具体性がないって事?無数に存在する、物理的に繋がっている訳でもない別次元の内、どこの次元が助けを必要としているかなんて、一体どう調べるのか…というより、ちゃんと探し出す事が出来るのかって話?」
「まあ、そうね。そもそも碌な手掛かりもなしに、別次元を探す事なんて出来るの?それは、砂漠で落とし物を探すようなものじゃないのかってわたしは思うわ」
「うん。確かにそれは、一理あると思う。一体どうやって探すのかって話は、ちゃんと考えなきゃ企画倒れになる事は私も理解してる。けど…逆に言えば、その手段さえ確立してしまえば問題ないって話でもあるよね?」
「それはまた別の話よ。わたしはこれからの仮定じゃなくて、今現在の話をしているんだもの」
「ふぅん…まぁ、いいわ。というか、ネプテューヌとベールはどうなのよ」
残念ながら賛成であるとは言ってくれなかったブランの発言を踏まえ、今度はノワールがまだスタンスを示していない二人に振る。するとまずは、ベールが口を開く。
「難しい話ですわねぇ。その時々で、臨機応変に…では駄目かしら?」
「いや駄目でしょ…臨機応変な対応は大事だけど、この場においてそれは何も答えてないのと変わらないわ」
「えぇ、分かっていますわ。…けれど、臨機応変に、という考えそのものは、本当に大事な事ですわよ。積極的に進めるのであれ、慎重な姿勢を取るのであれ、固執せず状況に応じてスタンスを変える心持ちがなければ、判断を見誤りますわよ」
冗談めかして肩を竦めたかと思えば、ふっ…と真剣な面持ちになり、ベールは釘を刺すように言う。ベールの言う事は確かに大事で、自分の主張を通す事、相手を言い負かす事が目的になってしまえば、本来目指すべきだった『答え』からは遠ざかる。皆もベールの言葉には深く頷き…けれど同時に、少しズルいなとも思った。何せベールは、きちんと自分の考えを明かしてはいるものの、賛否という立場については全く答えていないんだから。しかもそこを下手に問い詰めようものなら、今し方皆が納得した『スタンスへの固執』に引っ掛かりそうなものだから。全く…穏やか雰囲気を残したまま、さらっとこういう事を出来るんだから、本当に凄いものだよ。
「じゃあ、ネプテューヌは?これまでもネプテューヌはあまり積極的な立場を取ってこなかったけど…それは、今回も変わらない?」
「うーん…そうだね。どうかって言われたら…そう、かな」
一先ずベールへの追求は傍に置き、ならば…とネプテューヌに問う。わたしの問いに、ネプテューヌは数秒考え、そうだと言う。
ただ、その返しの言葉は歯切れが悪い。一応は立場を明らかにしているから、それについてどうこう言うつもりはないけど…思えばいつも、これまでの話し合いでも、ネプテューヌはこんな感じだったように思う。
「前から思っていましたけれど、ネプテューヌが慎重…というより、消極的な立場を取るのは少し意外ですわね。別次元の危機を救うという事であれば、むしろ乗り気になりそうなものですのに」
「まぁ、自分の事だけど確かにね。けど、なんて言ったらいいのかな…イリゼやノワールの言う事と、わたしの思う事とは、ちょっと違うような気がするっていうか……」
『違う?』
「うん。ほんと、なんていうか……ブランの言葉を借りちゃうと、わたしも『求められてもいないのに』って部分が引っ掛かるというか…いや、求められなくても全力で手を掴みにいくのがわたしではあるんだよ?あるけど……」
そう言って、ネプテューヌは黙る。だけどそれは、言葉を締め括ったという感じではなくて、それよりは自分の中のもやもやしたものを形にしようとしているようで……そんな沈黙の末、ネプテューヌは呟く。
「…これってさ、本当に守る事…助ける事になるのかな?わたし達ってさ、これまで一人一人が頑張って、皆で力も合わせて、それでも無理な時はもっと沢山の人の力を借りたり、別次元の皆に手を貸してもらったりしてきたでしょ?だけど、これじゃ…そういう積み重ねを、全部奪っちゃう事にならないかな…?」
ぽつりぽつりと語るネプテューヌ。その言葉、語りには私が話した時のような自信は感じられない…けど、考えさせられるものがあった。私達だって、初めから別次元の皆の力を借りていた訳じゃなくて、いつもまずは自分達で何とかしようとしてきた。誰かを頼るのは大切だけど、初めから頼る前提でばかりいると、自分自身を磨く機会を失ってしまう……ネプテューヌが言いたいのは、きっとそういう事だと思う。それは理解出来るし、そうだとも思う。……でも。
「…そうだね。ネプテューヌの言う事は、全然間違っていない。…だけど、それは強者の…自分で生き残る事が出来る側の考え方じゃないかな。私達の介入が、成長や未来の強さを奪うかもしれないって事は分かるけど…今危機に瀕している、未来そのものが失われそうになっている人達がいるなら、私はそういう人達を助けたい。未来の『かもしれない』を理由に、今助けを必要としている人をおざなりになんてしたくない」
「それは……。…うん。イリゼの言う事だって、正しいと思う。だけどさ、わたし達がその次元をずーっと守る訳じゃないでしょ?どこか一つだけだったらまだ出来るのかもしれないけど…イリゼはもっと広く、もっと沢山の次元を考えて言ってるんでしょ?だったらやっぱり、駄目だよ。ネプテューヌがそれを言う?って思うかもしれないけど…そういうのは、良くない勝手さだよ。多分だけど」
じっとネプテューヌは、私を見てくる。見つめる私を、見つめ返してくる。さっきまでの、自分でも答えを探すような口振りはもうない。はっきりした声と意思で、それじゃ駄目だと示している。
うん、分かる。手を広げれば広げる程、守るものが増えれば増える程、大切なもの全てを守るのは難しくなる。それは、国を興し、守護女神となった事で、深く感じるようになった。それを、守るって事の現実をちゃんと見ているのかっていうのが、ネプテューヌの言葉で…だからこそ、私は返す。分かっていると。その上でだと。
「──出来るよ、ネプテューヌ。だからこその割譲なんだよ。それは単に、土地や資源を得るってだけの事じゃない。そこを信次元の…領地の一部とすれば、気兼ねなく戦力を常駐させる事も出来る。守って、助けて、それで終わりじゃなくて、その次元の力を適切に管理し鍛える事で、導く事で、自衛能力を高める事だって望める。私や私達女神だけじゃ無理な話だろうけど、皆でなら、『皆』の輪を広げる事が出来れば、決して無理な話なんかじゃなくなるって、私は本気で思ってる」
「……エゴだよ、それは。イリゼ、わたしはイリゼが良い人、良い女神だって知ってる。イリゼの中にあるのが、個人としての私利私欲じゃなくて、自分を信仰してくれる人達の事も、国民の事も、信次元の事も…これから出会うかもしれない、別次元の人達の事も全部思って、一番の理想を追求してるんだって分かる。だけどそれは…そこに、相手の目線は入っているの?本当に、一方的なものじゃないって言えるの?相手の為になるなら、理解されなくてもいい……そんな風には、わたしは思えないよ」
「それは…!…私だって、理解されなくてもなんて事は……」
数拍の沈黙を経て、ネプテューヌが浮かべたのは悲しそうな顔。それに、その言葉に…思わず私は、感情的な反応をしてしまった。してから、私は「しまった」と気付いた。こういう場において、感情的になるのは相手の主張を認める…枝葉の部分ではなく、核心の部分で認めざるを得ないと示しているようなものだから。
…思えば前にも、似たような指摘をされた事があった。私は上から目線だと、自分の感性を押し付けていると。だからひょっとすると、私は心のどこかで、ネプテューヌの指摘を『図星』だと思ってしまったのかもしれない。
だけど、だとしても、食い下がる訳にはいかない。どんな事情があろうと、背景があろうと、人を助けない理由にはならない。そこに間違いがあったとしても…だなんて私は思わない。人を守り導く事、それが女神の望みであり、本懐であり、女神の歩みは初めから正誤を、善悪を超えたものであって……
「──さて、そろそろ休憩に致しませんこと?」
「え、今……?」
そんな中、不意討ちのようにベールが言った。それはあまりに予想外で、しかも内容も想定外で…反応しつつも、私はぽかんとしてしまった。ネプテューヌ達も、「えっ……?」という顔をしていた。
「今ですわ。今が丁度、紅茶のベストタイミングですの。嘘ですけれど」
「何その速攻自白!?そんな即座に嘘だってバラすなら、そもそも嘘吐く意味もなくない!?」
「あ、因みに嘘というのは今がベストなタイミングだと断言した事に対してであって、紅茶のベストタイミングの存在そのものはあるかもしれませんし、ないかもしれませんわ」
「そっちの掘り下げなんて求めてませんけど!?」
マイペースな発言を続けるベールに振り回される私。一体ベールの中で何があったのか、さっぱり分からない。べ、ベールって、こんな真面目な場をぶち壊すような発言するタイプだっけ……?
「まあ今の発言は冗談ですけれど…正直イリゼもネプテューヌも熱が入り過ぎですわよ」
「…だから、一回仕切り直した方がいい…って事?」
「その通りですわ。…けれど、二人共不服なようですわね…では、このまま続けるというのなら……」
『言うのなら……?』
「イストワールに言いつけますわ」
『それは止めて!?』
今度は何を言うかと思えば、ベールは私とネプテューヌの両方に刺さる発言を放ってくる。イストワールさんは、私にとっては頼れる姉であり、ネプテューヌにとってはお世話になっている教祖。早い話が、どっちにとっても頭の上がらない存在な訳で……ベールの狙い通り、私達は引き下がるしかなかった。
「二人共、落ち着きまして?」
「……一応」
「まぁ、うん…」
という訳で、半ば強制的に突入した休憩。私は紅茶の入ったティーカップを両手で持ち、口元に触れるかどうかの位置を保持したまま小さく頷く。私に続いて、ネプテューヌも言葉を返す。
因みに今日は、お菓子を作ってきてはいない。話し合いというマイルドな表現をしてはいるけど、全員が国の長な以上さっきみたいに意見がぶつかる事も少なくないし、そういう場で手作りのお菓子を持ってきてはいどうぞ、なんていうのは流石にちょっと…という話。
「けどまあ、ネプテューヌの言いたい事は分かるわ。私は今回…というか、別次元関連の方針については、イリゼと重なる部分が多いけど、私からしてもイリゼはちょっとパターナリズムが強い気がするし」
「む…ノワールまで言う……?」
「言うわよ。これは仲良くお喋りしようって場じゃないんだし。だから言うべきだと思った事は言うし、イリゼだって皆だって、言いたい事があれば言ってくれていいわ」
それが私達ってものでしょう?と言うように、ノワールは軽く肩を揺らす。自分は遠慮なんてしないから、皆も遠慮しなくていいというのは、ノワールらしいスタイルで…それに無言で頷いたブランは、私へ視線を移して言う。
「わたしは逆に、イリゼの意見に待ったを掛けた訳だけど…考えてみれば、イリゼはこれまで別次元と関わる機会も多かったし、トリニティプランに関わる事はイリゼが主導していた…いえ、イリゼに主導を任せていた部分も確かにあるもの。わたし達とイリゼとでは、見えているもの、感じている事は少し違うのかもしれないわ」
「えー?別次元との関わりなら、ディテンジョントリッパーであるこのわたしが…と、言いたいところだけど…前に似たような話をした時よりも、更にイリゼの別次元経験増えてるもんね…もう、ディメンショントリッパーも世代交代なのかな……」
「そんな世代交代ってある……?」
確かに何度も、ほんと何度も別次元や別世界とは関わってきているけども…と、私は困惑気味に突っ込む。ただでも確かに、ネプテューヌもそこそこ関わってはいるんだよね…今ここにいるネプテューヌではないけど、大きいネプテューヌしかり、ミラテューヌ然り、『ネプテューヌ』という存在自体が別次元との関わりを持ち易い気がするというか、なんというか……。
「まあ何にせよ、常に冷静に考えるべき事だと思いますわ。積極的に関わるにせよ、慎重さを最優先にするにせよ…信次元のこれからに、大きく影響し得る話なんですもの」
「…そうだね。ごめん、イリゼ。わたしちょっと、冷静さに欠けていたかも」
「分かってくれればいいのですわ。…と、偉そうに言ってはみましたけれど…ネプテューヌは、自分の失敗も踏まえているのではなくて?」
「…あはは、バレた?」
恥ずかしいな…と言うように、ネプテューヌは頬を掻く。ネプテューヌの失敗…それを聞いて思い出すのは、プラネテューヌ総合大博覧会の事。私はそのプレオープンの時、神生オデッセフィアを離れていたし、色々とそれどころじゃない事態に陥っていた訳だけど…そこでネプテューヌが大きな挫折を味わった事は聞いている。
その時のネプテューヌも、やる気に満ち溢れていて、自信を持っていて、だからこそ積極的に動いていて……問題に、自分の至らない部分に、気付けていなかったんだとか。そうなってしまった時のネプテューヌと私とじゃ、この件とでは、色々違うだろうけど……それとこれとは別の話だ、と一蹴出来る程軽いものではない事は、私にも分かる。
「…こっちこそ、ごめん。私も意固地になってたっていうか、自分を省みる事が出来てなかった……かも」
「んーん、大丈夫。さっきブランが言ってた事もそうだけど、イリゼは自分で国を興して、一から…とも違うけど、ちょっとずつ発展させてるんだもんね。そんなイリゼだからこそ、わたし達とは違う経験もしてて、違う視点や思いも持っている…のかも?って事は、分かってるから」
「ネプテューヌ…貴女、そういう事も言えるようになったのね……」
「いやぁ、それ程でも……って、ノワール?なんかそれ、評価の仕方がおかしくない?」
自分を省みる。それは自己研鑽であれ、人付き合いであれ、生活する上で忘れちゃいけない事。必要であると同時に、当たり前の事。だけど、するのを忘れていたり、しているつもりでも出来ていなかったりするのもまた、自分を省みるって行為で…現に私も、そうなっていた。別次元へ積極的に関わっていくのは、ハードルもリスクも多い。だからこそ、信次元内での…皆との歩調を合わせて、協力体制を整えなきゃいけないのに、そこへの考えが私は抜け落ちていた。
「うん。私、もう少し練り直すっていうか、ネプテューヌやブランの理解を得られるように考えを洗練させるよ。でも……私は私の考えが、目指すものが、間違っているとは思わない。それだけは、表明しておくよ」
「…なんというか…イリゼも大概意地っ張りよね。少なくとも、自分で思っている以上に」
「わたくしもブランに同感ですわ」
「いや、そんな事は……え、あるの…?」
自分はむしろ、寛容なタイプでは?…と思っていた私だけど、ベールどころかネプテューヌやノワールもうんうんと頷いていた。くっ…こんな形でアウェーになるとは…というか、これも私が自分を省みる事が出来ていないって事なの……?
「ではそろそろ、再開すると致しましょうか。会議は踊る、されど…になっては本末転倒ですけれど、この件は一足飛びに進めるのではなく、話し合いを積み重ねなければどこかで大きく躓くか、誤った方向に進んでしまう気がしますもの」
「まぁそうね。…って、なんでしれっとベールが仕切ってるのよ」
「あら、ここは中立派のわたくしが取り仕切るのが、一番角が立たないのではなくて?」
「…貴女、さっきから美味しい立ち回りばっかりしてるわね……」
「っていうか、さっきのベールの格言ってなんだっけ?某暗黒ライトノベルの元祖の事だっけ?」
『全然違う……』
全く…とノワールとブランが半眼をベールへと向ける中、ネプテューヌが口にしたのは冗談なのか本気なのかよく分からない発言。それに私達は全員で突っ込み…本来の話に戻る。
今日の会議では、明確な答えは出なかった。これまでもそうで、紛糾している感は否めない。とはいえベールの言う通り、簡単に進められる話でも、進めていい話でもない。だからこそ意見を出し合い、聞き合い、皆で答えに近付いていく必要がある。その為の、そこへ向けた話し合いであれば、答えは出ずとも価値はある。
(自分の意見を貫き通す、けどそれは周りの考えを捩じ伏せるんじゃなく、理解を…納得をしてもらった上で、自分の道を行く……全く、難しいね)
容易な事でないのは、分かっていた。ただ、頭で理解し想定するのと、実際に躓くのとではやっぱり違う。それを経験出来た事もまた、一つの価値。
まだ先は長い。前途多難でもある。だけど、大丈夫。だって、私には、貫きたい思いも、貫くのだという意思も…そんな自分を信じる心も、あるんだから。
*
話し合いを終え、私は教会へと戻った。まずは執務室に直行して、今頭の中にあるものを簡潔に纏めた。内容的には、別に執務室でやる必要もないんだけど…やっぱり環境っていうのは大事。同じ作業や内容でも、場所によって捗り具合は変わってくる。
「…まあ、こんなものかな。後は……」
今の自分に、何が足りていないのかは分かっている。だからその不足しているものを私は早速埋めようとして…椅子に座り直す。急がば回れ、ではないけど…さっき言われた通り、私は自分を省みて、一度落ち着く事にした。
(自分を省みる事なく、己が意思を貫こうとする方が、楽…なんだよね。はは…焦ったいな)
冷静になるべく、数度ゆっくりと深呼吸。。覇の道、修羅の道…辛く過酷な道は色々とあるだろうけど、自分を…もっと言えば周りも省みずに進むというのは、結局のところ『やりたい事』だけを考えていればいいだけなんだから、ある側面においてはむしろ楽なのだろうと思う。
ただそれは、私の望む道ではない。だから今日はもう、これ以上は考えないようにし…当初予定していた仕事を予定通りに行って、業務を終了。教会の居住エリアに戻って、皆と普段のように夜を過ごす。そしてしっかりと休んだ上で、明日を迎える。
「ふーむ…あまりランダム性を排しちゃうと、想定通りになるようにした内容で、想定通りの結果が出たってだけの話になっちゃうから……」
コンソールを操作し、設定を調整していく。私が今いるのは、仮想世界形成装置が設置された部屋。モニターと睨めっこをしながら、どういう設定で仮想空間を作り出すか考えて……
「イーリーゼ♪」
「わひゃぁっ!?」
そんな中、突如として私は背後から襲われた。後ろから、ぎゅっ、とされた。
「あら、その反応…もしかしてオリゼだった?」
「オリゼじゃなくても、いきなり後ろから抱き付かれたら驚くよ!?」
私は襲撃者…セイツを振り解き、首を傾げるセイツへと抗議をする。というか、この顔…ちゃんと私だって分かった上で、わざと言ってるな……?
「まあまあ、落ち着いてイリゼ。わたしの行動はともかく、その様子じゃわたしが入ってきた事にも気付いてなかったでしょ。ここは教会内とはいえ、流石に少し油断し過ぎじゃないかしら?」
「ぐっ…それは、まぁ……」
ふざけたかと思えば真っ当な事を言ってくるセイツに、何だか悔しい気持ちになる。でも実際、私は女神…それも守護女神なんだから、普通に背後を取られるのは不味い。もしセイツに敵意があったら、その行動に危険性があったのなら、直感的に反応出来ていただろうけど…それは言い訳ってもの。
「で、イリゼは熱心に何をやろうとしていたの?…もしかして、金髪イケメンを侍らそうとか?」
「しないよそんな事……」
「じゃあ、幼女?」
「だからしないって」
「…まさか、『性別:○○』とか、そういう系統の……」
「そもそもそういう方面じゃないんだけどぉ!?」
一体私を何だと思っているのか、と再度私は抗議。猛抗議。まあ、セイツが言うような事も、設定次第では出来るけど…やる訳がない。
「…というか、そういうのはむしろセイツがやりそうなイメージあるんだけど……」
「する訳ないでしょ。仮想世界形成装置が作り出すのは、所詮仮想の…データの空間に過ぎないんだもの。心の、感情のない人になんて興味はないわ」
「…セイツだって、イケメンを見たら『わぁ、格好良い』って思ったり、美人を見たら『素敵だなぁ』って思ったりする…よね……?」
「するわね。するけど、わたしにとってそれは二の次よ」
真面目…とも違う、ある種冷めた雰囲気で、きっぱりと言い切るセイツ。趣味嗜好は人それぞれだし、何か不味い事がある訳じゃないけど…なんというか、拗らせてるなぁ…と思う私だった。…これが単に拗らせてるだけ、なのかどうかも実はよく分からないけど……。
「…こほん。私がやろうとしていたのは、トリニティプラン用のシミュレーションデータ収集。皆との話し合いがどうなったかについては、昨日の夕飯の時に話したよね?」
「あぁ、それの事ね。でも、トリニティプランはそもそも……」
「別次元への接触を前提にしている、でしょ?…だから今回は、思い切って別次元まで出力してみようと思ってるの。でも、そうなるとこれまでとは色々変わってくるから、慎重に設定を決めなきゃいけないなと思って……あ、そうだ。折角だし、モニタリングしててくれる?」
目的を伝えた私は、ついでに…って事でセイツにモニタリングを頼む。その役を用意するのは、外からリアルタイムの情報を確認する為…というのは勿論だけど、同時に仮想空間の内外で何かあった際に備える為でもある。前にネプギアがやってくれていたのもそうで、当初私は職員の誰かに頼もうかと思っていたけど、セイツがやってくれるのなら、当然そっちの方が手っ取り早い。
「そういう事ね。まあ、別にいいけど…そういえば、前にネプギアが言った件は、何か分かったんだっけ?」
「あ、うん。あの後機器担当に見てもらったんだけど、異常らしい異常はない…というか、こういうのって実際に異常が出ている状態じゃないと、どこがどう悪いか判別するのが難しいんだって。だから、様子見しつつ、異常があればその時の状態を細かく記録しておく…って段階かな」
とことんシステムを調べて物理的にも分解してみれば分かるかもしれないけど、それは手間が凄く掛かるから、一先ず今はこの対応。その事をセイツに伝えた私は、二人で設定を考えて決める。そして、準備が済んだところで機器の接続ユニット…仮想空間への入り口とでも言うべき場所へ横になる。
「それじゃあお願い、セイツ」
「えぇ。…少しでも、わたし達の目指す先に繋がるデータが取れればいいわね」
セイツからの言葉に小さく頷き、私は目を閉じる。そうしてセイツが仮想空間形成を起動させ…私の意識は、現実から仮想世界へと移行する。
暫く待ち、目を開ければ、そこにあるのは真っ白な空間。まずはこの、まっさらな空間から始まって、ここから仮想空間が形作られていく。時間はそう掛からない。大して待つ事もなく、真っ白だった空間は、色鮮やかな仮想の次元へと変化していき……
「……あれ…?」
だけど、おかしい。設定次第で多少の変化はあれど、普段ならとっくに変化が終わっているであろう時間が経っても、一向に風景は真っ白なまま。何か設定に不備があったのか、それとも機材の方に何か劣化や故障があったのかと、私は少し不安になり……でも漸く、景色が変わり始める。変化が始まった事で、私は安堵し──けれどすぐに、気付く。普段はない、あっても一瞬で収まるようなノイズが、大量に発生している事に。
それはまるで、展開しつつある仮想空間を飲み込むように…或いは過去にも一度、今回とは別の形で別次元の存在が大きく関わる仮想空間の形成を行った際に起きた『バグ』を想起させるように、瞬く間に広がっていく。不味い。これはどう考えても不味い。即座にそう判断した私は、私の側からシステムの終了を掛けようとし……次の瞬間、爆ぜるような閃光が一瞬で視界を埋め尽くす。
「……っ!」
反射的に、私は目を閉じてしまった。本能的に防御姿勢を取り、その閃光に耐え、瞼越しでも分かる光が収まると同時に、私は目を開く。そして私が目を開いた時、そこに広がっていたのは……
「…どういう、事……?」
真っ白な空間、ノイズに覆われた空間、本来想定していた空間。そのどれとも違う……どこか、としか言えない場所だった。
今回のパロディ解説
・「……エゴだよ、それは〜〜」
ガンダム(宇宙世紀)シリーズの主人公の一人、アムロ・レイの名台詞の一つのパロディ。こちらではなく、ガンダム00のリボンズの「それは傲慢だよ」の方にしようかな?とも思いました。
・「〜〜某暗黒ライトノベルの元祖〜〜」
されど罪人は竜と踊るの事。因みにベールの言った「会議は躍る、されど(進まず)」というのは、ウィーン会議に対して言われた言葉です。これも国際会議ですし、丁度状況に合っていると言えるかなと思います。
・「〜〜金髪イケメンを侍らそう〜〜」
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズに登場するキャラの一人、カルタ・イシューのある行為(?)の事。イケメンを侍らす仮想空間を作るイリゼ…うーん、嫌ですね。
・「〜〜『性別:○○』〜〜」
創作における、性別がはっきりしない(設定云々というより、単に外見や言動的に)キャラの事(フレーズ)。ですのでパロディとも少し違いますね。因みに私はバカテスの秀吉がまず思い浮かびます。