超次元ゲイムネプテューヌ Origins Zenith   作:シモツキ

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第四話 出会いと再会

 再び訪れた街、そこで発見した存在。モンスターの群れと、群れから逃げる二人の少女。それを目にした私は、助けに入る事を選んだ。利害じゃない。利益不利益での判断ではない。純粋に、単純に……当然の事として、私は女神として為すべき事を選択した。

 

「そこの二人!そのまま走って!」

 

 振り返る事なく、モンスターの群れから目を離す事なく、私は二人へ向けて言う。もし彼女達がパニックになっているのなら、下手に声を掛けない方がそのまま走ってくれる可能性が高いだろうけど、恐らく二人は違う。多分まだ、二人はそこまで追い詰められていない。

 

「へ?は、走ってって……」

「貴女、は……?」

「その話は後!…私は大丈夫だから、ね?」

 

 驚きと困惑の混じった声が、後ろから返ってくる。どうも二人は足を止めてしまったようで…まあ、それならそれで仕方ない。私が逆の立場でも、似たような反応をしていたと思うから。

 ならば、この場は任せても良いと、大丈夫なのだと思ってもらうだけ。私は睨みを利かせていたモンスターの群れに向けて、一歩前に出る。そして私の動きに群れが威嚇を返してくる中、前に出した足で強く踏み切り…突進。

 

「せぇいッ!」

 

 接近から、間髪入れずに片手で斬り上げ。バスタードソードの刃で先頭のモンスターを強かに斬り付け、続けざまの回し蹴りを胴体に叩き込んで後続へと蹴飛ばす。威嚇こそしていたものの、私の動きも速度もモンスターの方は見誤っていたのか、蹴飛ばしたモンスターは狙い通り複数のモンスターに当たって倒し…そこへ一気に私は踏み込む。片手持ちの素早い連撃を群れへと浴びせ、深追いはせずに後ろへ跳ぶ。群れの内側から外側に戻る事で、再び群れが二人を追う為の道を塞ぐ。

 

「これで退いてくれるようなモンスター……じゃ、ないか…!」

 

 構え直した私へと、モンスターが唸りを上げて突っ込んでくる。それを私は両手持ちに切り替えた得物で受け止め、この個体も蹴り飛ばす。

 そこから私は、意図的に大立ち回りでモンスターの群れを相手取る。単に迎撃するだけなら、対多数戦なんだから包囲されないようにしつつも慎重に立ち回るのが定石だけど、今求められるのは二人をこの場から逃がす事。その為に、群れを引き付け、この場に留める事。だから派手に動いて、蹴り飛ばし吹っ飛ばす事で、私を無視出来なくさせる。

 

(女神化すれば、こんな事せずとも圧倒出来るけど…早まるな、私。今ならまだ、誤魔化せるかもしれない)

 

 最優先すべきは、彼女達の安全確保。でもそれは別に、私が元々していた事を諦める…って話じゃない。女神が公務で人前に出る時は、基本女神としての姿を見せるものだから、今ならまだ二人共私を女神だと気付いていないかもしれない。誤魔化せるかもしれないのなら、その可能性を見す見す逃す理由はない。

 とはいえそれも、今の姿のまま群れを引き付けられればの話。だから私は小さく息を吐き、向かってくるモンスターの姿を目で捉えながら次の動きを……

 

「とりゃー!」

 

──そう、思った時だった。私の横をすり抜ける形で、二人の少女の内片方が前に出て…そのまま跳び膝蹴りをモンスターの顔面へと喰らわせたのは。

 

「へ……?ちょっ…え……!?」

「そこ……!」

 

 全く予想していなかった展開に、思わず足を止めてしまう私。跳び膝蹴りを放った少女は、軽やかに着地し…更にその直後、少女へ反撃をしようとしていた複数のモンスターを、同じく後方からの射撃が襲う。援護を受けた少女はその場から飛び退き……私の隣にまで後退する。

 

「助太刀サンキュ、おねーさん。でも……」

「ここからは、私達も加勢するわ」

 

 ぱちんっ、とウインクする少女に続いて、もう一人の少女も後ろから来る。か、加勢って……。

 

「…でも、貴女達はさっきまで……」

「逃げてたっしょ、って?まあ確かに、二人だとちょーっちキツいかな〜って思って逃げてはいたんだけど……」

「貴女が協力してくれるなら、話は別よ。見たところ、かなり動けるみたいだし」

 

 さっきまでとは状況が違うから、と二人は言う。言われたところで、私は気付く。二人が冷静である事に。この状況に、恐れを抱いている様子がない事に。

 私は二人の事を知らない。幾ら私でも、いつでも誰でも無条件に信じる訳じゃない。今は戦闘中なんだから、安直に信じる事は二人の身を危険に晒す結果に繋がるかもしれないし…けれど今の様子や、逃げている時の走り方から、二人が素人ではない事は分かっている。そして二人は、私の力を信頼出来ると思ってくれている。だったら……

 

「……分かった。何か作戦はある?」

「作戦、という程でもないけど……二人が時間稼ぎと誘導をしてくれれば、これで一掃してみせるわ」

「りょ!じゃあ早速、反撃開始〜!」

 

 これで、と言って少女が構えたのは、肩掛けで扱う大型の火器。それの威力、火力は十分に知っているようで、もう一人の少女は動き出す。私もまた、こちらの動きを伺っていた群れとの戦闘を再開する。

 

(当たり前だけど、格段に戦い易くなった…!)

 

 さっきまで、私は一人で戦っていた。それが今は、三人で戦っている。未だ多勢に無勢ではあるけれど、こっちの物量は三倍になった訳で…当然その分、一度に相手取らなきゃいけない数は減ってくれる。加えて先程までのような大立ち回りは、もうやる必要がない。そのおかけで、私はある程度余裕を持って立ち回れる。

 そしてやっぱり、二人は素人じゃなかった。火器を扱う少女…ショートカットの少女はモンスターの攻撃を躱しながら攻撃に丁度良い位置を探しているし、ポニーテールなもう一人の少女は打撃主体でしっかりとモンスターにダメージを与え、倒している。ただ、一つ気になる事もあって……

 

「あの、ちょっと訊きたい事があるんだけど!」

「え、なになに?」

「武器は、それだけなの…?」

 

 左手の掌底で一体沈めたところで、私は問う。ポニーテールの少女が装備しているのは、右腕の盾だけで…当然盾は、攻撃の為の物じゃない。サイズや戦い方次第では殴打に使う場合もあるけど、だとしても、盾とは別で武器を装備し、それを攻撃の主体とするのが普通で…そんな疑問を抱いた私に対し、少女はどこか穏やかな表情を浮かべて、言った。

 

「あーしの力は、傷付ける為のものじゃなくて、守る為のものだから……」

「へ、へぇ……あ、後ろ!」

「え?おっと!」

 

 両手を胸の前で握り、祈るようなポーズを取った少女。その少女の背後に、モンスターが迫り…私が声を上げた直後、少女は鋭いターンを掛け、裏拳を放つように盾をモンスターへ叩き付けた。頭に直撃した事もあり、モンスターは一撃でダウンしていた。…なんというか、随分と過激な守る為の力だった。

 

「ここなら……」

「お、ベスポジ決まった感じ?じゃあ……」

 

 自分は下がる。それをジェスチャーで伝えてきた少女に頷いて返し、私は更に前に出る。私は前衛として注意を引き付け、ポニーテールの少女は足を止めたショートカットの少女を守りに行く。

 

「ふッ、はっ、よっ…とぉッ!」

「すっご、おねーさんキレッキレじゃん!」

「えぇ、大したものね。出来ればもう少し、群れを手前に引き付けてくれるかしら!」

 

 威力重視の両手持ちと、手数と範囲重視の片手持ちを瞬時に切り替えながら、間合いに入ったモンスターを片っ端から斬り付ける。更に斬られたモンスターが怯んだ瞬間を見逃さず、その個体の頭部を踏み付ける形で跳んで後方宙返り。路面と並行になった瞬間にバスタードソードを投げ放つ事で別の個体を貫き、着地をすると同時に引き抜く。すぐさま走り、群れからの反撃を躱す。

 ちらりと後方を見れば、ポニーテールの少女はショートカットの少女の側から離れる事なく、カウンター主体で襲ってくるモンスターを返り討ちにしていた。大きなダメージを与えられていなかったとしても、追撃はせず護衛を最優先に立ち回る…その動きから感じられるのは、彼女の軽い調子とは対照的に冷静な思考と、確かな経験。この様子なら、向こうを心配する必要はなさそうだと私は確信し、目の前のモンスターに、自分の立ち回りに集中する。そして……

 

「──準備完了よ。離れて……!」

 

 背後から、待っていた声が聞こえてくる。それに私は、振り向く事なく頷き…突進。突っ込み、その上で敢えて隙を晒し、ギリギリまで引き付けた上で、喰らい付いてきたモンスターの肩を掴む。跳び箱の要領で躱すと共に跳び、別のモンスターの背中を踏み付け、飛び移りながら走っていく。最後に思いっきり、目一杯の力で群れの外へと飛び退き……次の瞬間、ショートカットの少女が砲撃を放つ。構えられた巨砲から、一発の砲弾が群れへと撃ち込まれ……閃光と共に、一瞬で爆炎が群れを飲み込む。

 

「……っ!」

 

 武器が凄いのか、それともショートカットの少女に何か能力があるのか、私が目にしたのは単なる砲撃とは思えない程の爆発。轟音が街へと鳴り響き……あっという間に、言葉通りに、モンスターは一掃された。残りはたったの数体。二人の方へ向かっていた為、砲撃を免れた個体だけ。

 

「とっととどこかに行きなさい。仲間の後を追いたくないのなら、ね」

 

 砲撃を終えた少女が、そのままゆっくりと砲口を残るモンスターへ向ける。その直後、残ったモンスターは尻尾を巻いてすぐさま逃げ出す。当然彼女の言葉が、モンスターに通じている訳がない。…だとしても、たった今群れを殲滅したばかりの武器の存在は、モンスターを恐怖させるには十分過ぎるだけの影響力を持っていた。

 

「…ふぅ。これにてあーし達の大勝利!」

 

 モンスターは退散し、周囲にはもう別の気配もなければ、特に聞こえてくるような音もない。そして、これで戦闘終了、と私が気持ちを緩めたところで、ポニーテールの少女が声を上げ…何やら携帯端末を掲げると、自撮りをしていた。その所作は、何とも慣れが感じるもので…それに軽く苦笑をしつつ、私は二人へ歩み寄る。

 

「お疲れ様、二人共。加勢してくれてありがと」

「いやいや、お礼を言うのはこっちだって!…あ、でもさっきちょっと言ってたんだっけ?」

「言ってたわね。でも、二回言っても別にバチが当たったりはしないんじゃないかしら」

「だよねー。って訳で、助けてくれてマジ感謝!」

「わたしからも感謝を伝えるわ」

 

 再びウインクをするポニーテールの少女と、じっと私を見つめて言うショートカットの少女。二人の温度差に、私は一瞬ぽかんとなり……でもそれから、二人の感謝へと深く頷いた。

 

「それにしても、おねーさんはどうしてこんなところに?逃げ遅れた…って訳じゃないよね?」

「あ…えぇと……」

 

 何気なくこの場に留まっていた私は、問われたところで「しまった…」となる。正体を隠さなくてはいけない以上、本来必要以上の接触は避けるべきところ。二人はかなり戦えるみたいだし、群れを撃破出来た時点で姿を眩ますのが恐らくは無難な選択だった。

 じゃあ、そのタイミングを逃した今はどうするか。質問を無視して、今からでも逃げるべきか。それを私が考える中、口籠った事へ別の解釈をしたのか、今度はショートカットの少女の方が口を開く。

 

「その前に、まずは自己紹介をするべきじゃない?」

「っと、それな!」

 

 自己紹介。言われてみれば確かに、私は共闘した二人の事を何も…それこそ名前すら知らない。そしてショートカットの少女の言葉に、

ポニーテールの少女は手を叩き…私の方へ、向き直った。

 

「こほん。あーしはマホ。見ての通りの美少女デベロッパーで、こっちが……」

「アンリよ。マホの保護者…みたいな事をしているわ」

「保護者って…そこは普通にマブダチでいいじゃーん……」

 

 何で初対面の相手にそんな…とばかりに肩を落とす、ポニーテールの少女…否、マホ。シュシュで一纏めにしたローズレッドの髪と、赤みを帯びた琥珀色の瞳を持つ女の子。そのマホの隣で、もう一人の少女…肩を擽る位の白い髪と、空色の瞳をした女の子アンリは、マホの反応に嘆息を漏らす。

 やっぱり二人の性格は、何とも正反対。でも、マホは勿論、アンリもマホの事を気心が知れた相手だと思っている感じで……って、うん?

 

「美少女デベロッパー?」

「そそ、美少女デベロッパー。それで、おねーさんは?」

 

 美少女はともかく、一体どの辺りからデベロッパー要素を感じれば良かったのだろう…と私が思っていると、マホは軽く首を傾げながら訊いてくる。それに私は答えようとし…再びしまった、と気付く。

 どうやら二人は、私が女神だと気付いていない様子。でも、名前を名乗ってしまえばそれでバレる可能性は否めない。しかも、ここで答えなければ、二人に不審がられるのは必至。更に察しが良かった場合、「名前を訊かれた途端に様子が変わった=隠し事がある」とまで思考が回る可能性すらある。

 

(ど、どうする私…!ここは正体を隠して、聖徳マシンガンイリゼとか、グレートイリゼマンとか名乗っとく…!?)

 

 ヤバいヤバい、とテンパる私。とにかく何でもいいから名前を、と頭を働かせてはいるけど、全然良さ気な名前が思い浮かばない。あまり適当な名前にすると自分が呼ばれてると気付けず、偽名であるとバレてしまうだろうから、気を抜いてても自分の事だと認識出来るような呼び方じゃなきゃその場凌ぎにしかならない。

…と、考えている間も、二人は私に注目している。このままじゃ、変に思われるのは時間の問題。そして、私は追い詰められ……

 

「い…今は『荼毘』で通してる……」

『貴女あの人なの!?』

 

 なんか、とんでもない事を口走ってしまった。変に思われない為の名前を考えていたのに、ぎょっとされてしまった。

 

「……って、言うのは冗談でして…」

「そ、そう…まあ、そうよね…。…じゃあ、名前は?」

「それは……」

 

 ギリギリ誤魔化せた(?)ものの、現状は振り出しに戻っただけ。それどころか、アンリの私を見る目が若干変わっている。もう冗談で誤魔化せるような状況ではなく……そんな中、不意にマホは手を叩いた。

 

「ね、もしかしてだけど…おねーさん、記憶喪失になっちゃってる系?」

「へっ?…あ……」

 

 なんとマホは、私の様子が変なのを、記憶喪失…即ち、自己紹介したくても記憶が…って事だと思った様子。こ、これは…いける……!

 

「あ、あはは…まあ、なんとというか…目覚めたら、自分の記憶が何もなかった…って経験はしてるかな……」

「やっぱり?いやー、あーしも変だとは思ってたんだよね。記憶喪失だったら、こんなところに一人でいたのも納得だしさ」

「記憶喪失、ね…そういえば、貴女も……」

「そ、あーしも記憶喪失経験者だかんね。だから、ピンと来た…的な?」

 

 分かる分かる、大変だよね、とばかりにマホは何度も頷く。それならば仕方ないか、とアンリも一先ず納得してくれた様子。完全にマホの勘違いに救われた形ではあるけど…何とか私は、正体バレのピンチを乗り切る事が出来た。

…別に私は、嘘を吐いてはいない。ただ、その経験をしたのがずっと前だって事と、記憶喪失かどうかについては、肯定も否定もしていないだけ。…それでもやっぱり、意図的に誤解させてる事については心が痛むけど……。

 

「そっかそっかぁ、記憶喪失かぁ…じゃあさ、取り敢えず名前…っていうか、呼び方決めよ?おねーさんも、仮も名前がなくちゃ困るでしょ?」

「そ、それはまあ…そうだね。でも、呼び方って言われても…うーん……」

「仮の、なんだからそんなに深く考える必要はないんじゃないかしら。例えば、身に付けてる物から取るとか」

「身に付けてる物…おねーさんの剣って、なんて名前なの?」

「これ?これはバスタードソードだけど…や、止めてね?仮でも名前がバスターとかは嫌だよ…?」

「いやいや、あーしもそんな可愛くない名前にはしないって。…んー…リボン…シュシュ……」

 

 バスターという言葉そのものは悪くないけど、私は一応女の子なんだから、もうちょっと可愛いというか、柔らかい感じの方が良い。

 そして、マホが私の格好を見ながら色々と呟く中、私も考える。そういえば、私の友達の中には記憶喪失の時に「グリモ」って呼ばれてたらしい子もいるけど、それを丸パクリするのもあれだし……あ。

 

「…オリゼ、ってどうかな……?」

「オリゼ?まあ、悪くないと思うけど…何か、由来があるの?」

「まあ、その…一応、ね」

 

 ぱっ、と頭に浮かんだ、もう一人の私の通称。私自身への呼び方じゃないけど、聞き慣れているし、そもそも言葉としても似ているからしっくりとくる、ある意味『イリゼ』の代わりとしてはこれ以上なく最適な名前。他でもない私自身が提案した名前だからか、二人もいいんじゃない?と反応してくれて……私の正体を隠す為の名前、ここでの仮の名前が決まる。

 

「オリゼ、オリゼ…ね。ん、りょーかい。それじゃあ宜しく、おりちー!」

「おりちー?…あっ、渾名か…ふふっ、宜しく」

「おりちー…なんか、舌足らずな子が言う『美味しい』みたいね」

「そそ。可愛いと思わない?」

 

 可愛いかどうかはともかくとして、渾名で呼ばれる事は嫌じゃない。嫌じゃないというか、普通に嬉しい。でも、イリゼからは言葉としてちょっと離れてるから、気を付けないと……。

 

「じゃ、行こ?折角モンスターの群れを返り討ちにしたのに、ここで長話してたからってまた襲われたら馬鹿馬鹿しいしさ」

「…え、と…行くって、どこに?」

「え?普通にまだ皆がいる街にだけど?」

「……!」

 

 それは、私にとって渡りに船な提案。同時に、二人へと助太刀に入り、尚且つ姿を眩まさなかったこその展開。

 

「普通にも何も、オリゼは記憶喪失なんだから分かる訳ないでしょ」

「あ、それもそっか。いやー、メンゴ」

「全く…そこそこ距離があるけど、大丈夫?休憩してからの方が良さそう?」

「ううん、大丈夫。じゃあ…案内、お願いします」

 

 ぺこり、と頭を下げる私。そうして私は、二人に同行する形で皆の…人のいる街へと向かう事になった。因みに、二人も休憩は必要ないらしい。モンスターの群れから逃げていた上、そこから一戦交えた訳だから、何も疲れてないって事はないだろうけど…やっぱり二人共、争い事にはかなり慣れているらしい。

 

「ところで、二人はどうしてこの街にいたの?普段はここに住んでる…って、訳じゃない…よね?」

「調査の為よ。逃げ遅れた人がいないかとか、さっきみたいな群れが住処にしていないかとか、色々な事を確認しにきたの」

「あーし達、普段からこうして色んなところに行ってんだよね。重要な物資を回収したり、その為の偵察だったりする時もあるしさ」

 

 ふむふむと、私は聞きながら考える。そういえば、ネプギアもこの街の上空を飛んでいた訳だけど…ネプギアの目的は、何だったのか。この街に用事があったのか、それとも単に通過していただけなのか。気にはなるけど、それは考えても分からない事。

 

(と、いうか…よく考えたら、最初からオリゼって言えば良かったんじゃ……?)

 

 今更考えても仕方ないし、最初は思い付かなかったからこその『記憶喪失』という設定になってしまった訳だけど、そうなった結果、私は記憶喪失らしい立ち回りをしなければならなくなった。記憶がないっていうのはどういう事か…それを私は身を持って知っているけど、知っている事も知らないように振る舞い、記憶がない者として違和感のない言動を意識して行うっていうのは、かなり難しい事な気がする。

 だけど、記憶喪失設定になったからこそ、私は質問をし易くなったとも言える。ネプギア達に対しては、何を言っても神経を逆撫でる事になりかねない状況だった事を思えば、これはかなりありがたい。ほんと、二人を騙すようで申し訳ないけど、この状況を利用して出来る限り情報収集を……そう、思った時だった。私のお腹が、再び音を鳴らしたのは。

 

「あっ……」

「今の音…もしかしておりちー?」

「う、うん…」

 

 人前という凄く恥ずかしいタイミングで鳴ってしまったお腹の音で、私は頬が熱くなるのを感じる。それにマホは苦笑していて…そんな中、アンリは私に青林檎を差し出してくる。

 

「あげるわ」

「…いいの?」

「えぇ。林檎、嫌いだから」

「そ、そうなんだ…(ならなんで持ってたんだろう……)」

 

 いまいち釈然としないけど、これはアンリからの折角の厚意。だから私は受け取り、そのまま頂く事にする。

 幸いだったのは、これが林檎である事。辛かったり口の中が凄く乾燥したりする食べ物ではないから、単体でも普通に食べられる。というか、美味しい。

 

「……あ、一口食べちゃってからこんな事言うのもあれだけど…マホは食べる?」

「いやいや、全部おりちーが食べて。だって、腹ペコっしょ?」

「そ、それは……うん…」

 

 アンリに続いてマホにも気遣われ、再び私は恥ずかしい気持ちに。それを誤魔化すように、二口、三口と食べ進め、歩みも進める。そうしてかなりの距離を進み、かなり暗くなってきた頃、マホが「んーっ」と伸びをする。

 

「ふぅ、戻ってきたー。二人共、お疲れ〜」

「確かに今回は、想定外の戦闘があって疲れたわね」

 

 油断している…とまでは言わないものの、これまでよりも二人の纏う雰囲気が緩む。その様子も、発した言葉も、安全地帯に到達したとばかりのもので…だけど私には、その変化の意味が分からなかった。だって……

 

「…戻ってきたって…どこに……?」

 

 目の前に、二人の歩いていこうとする先にあるのは、ただの自然。開けた草原があるだけで、『皆のいる街』なんて影も形もない。

 これは一体どういう事か。実は地下に街があって…という事なのか、それとも私は騙されていたのか。或いはまさか、二人は幻覚でも見ているのか。私の中に、じわりと不安が芽生え始め……けれど私の顔を見た二人は、殆ど同時に「あ」と言う。

 

「そっか、もしかしておりちー……」

「かもしれないわね。オリゼ、少し手、いいかしら?」

「あ、あーしもあーしも!」

「へ?」

 

 よく分からないままに、二人に手を握られる私。その状態で二人は歩くのを再開し、私は引っ張られていく。しまった、両手を塞がれた…!やっぱりこれは、罠……!…とは、流石に思わない。分からないけど、私の困惑は加速していく。でも、そんな私の心境とは裏腹に、二人は歩き続け……そして、次の瞬間だった。不意に、突然、見える景色が一変し──大都市が、私の目に映ったのは。

 

「な……っ!?」

 

 まるでTVのチャンネルを変えたかのように、一瞬で変わった景色に私は愕然とする。一方で、マホとアンリは動じていない。と、いうより…ここまでの言動からして、二人には最初から見えていた……?

 

「その様子だと、やっぱり見えていなかったのね」

「あ、う、うん…これは……?」

「結界よ。女神の力による、外部からの認識を阻害する結界。因みに、女神は分かる?」

 

 分かるも何も、自分がそうだから…と内心で言いつつ、私は首肯。そしてアンリは、歩きながら私に説明を続けてくれる。

 

「この結界が作用するかどうかは、外部の存在が特定の女神に対して信仰を…シェアエナジーを発生させているか否かで決まる。というより、対象の女神にシェアエナジーが発生するだけの思いを抱いている人なら、結界に阻害される事はない…って感じかしらね」

「よーするに、女神が好きなら問題なしよりのなしって訳!…まあ、お手軽簡単結界、って訳じゃないけど……」

 

 それは普通になしでいいのでは…?…という突っ込みを、私はする事が出来なかった。続く言葉を発するマホは、これまでとは違う、物憂げな表情をしていたから。

 

「…そうなんだ…でも、それだと不便なんじゃ…?全員が全員、シェアエナジーを生み出せるだけの思いを抱いてる訳じゃない…よ、ね……?」

「その通りよ。だから、阻害を受けている人はさっきの貴女みたいに誰かに手を引いてもらったり、阻害を受けていない人の運転する乗り物に乗ったりするの。貴女の場合は、記憶喪失で信仰も何も…って状態になっていたんでしょうね」

 

 不用意な質問で痛い目に遭った私は、慎重に問う。でも幸い今回は不味い流れとなる事はなく、成る程と納得する。

 でも、その説明の通りとなると、少し…いやかなり厄介。だって、私は…信次元の女神は、シェアエナジーを生み出す事が出来ないんだから。

 

(でも、不可視の街に、認識の阻害…か。なんだか、色々思い出すな……)

 

 同じではないにしろ、似たような経験はこれまでもしてきた、と私は思い出す。それ共に、街の中へと入り……漸く、私は見る事が出来た。街中を、普通に歩く人達の姿が。

 

「……っ…」

「あ、今おりちーほっとしたっしょ?分かるわー、超分かる」

「やっぱり、無人の街っていうのはなんだか落ち着かないものね。…まあ、今回は別の意味で色々と落ち着かなかったけど」

 

 マホはうんうん、と腕を組みながら何度も頷き、アンリは小さく肩を竦める。…本当に、この時私はほっとしていた。別に、何日もこういう光景を見ていなかった訳じゃない。だけどここまで、無人の街を幾つも見てきたから…当たり前の光景が、凄く価値あるものに見えていた。

 

「…さてと。一先ずここまでは案内してきたけど…貴女はこれから、どうしたい?」

「え?どう、っていうのは?」

「このまま私達と一緒に来るかどうか、って事よ」

 

 足を止め、くるりとアンリが私の方を振り返る。その言葉に、私…ではなく、マホが先んじて反応する。

 

「へ?一緒にも何も、おりちーは記憶喪失っしょ?そのおりちーを『じゃあここまでね、バイビー!』とか言って置いてく気?」

「記憶喪失だとしても、本人の意思は確認するべきでしょ。マホと違って、イリゼは一人にしておいたら何するか分からない…ってタイプでもないし」

「あー、それな。…って、それは酷くない!?」

 

 ちょっとぉ!?と抗議するマホに、私は苦笑。…だけど確かに、アンリの言う通り。記憶喪失者になって意思はあるし、自分で決められる事もある。…私は記憶喪失じゃないけど。

 

「…ありがと、気遣ってくれて。なら…もう少し、同行させてもらっても良いかな?」

 

 私は二人に、そう言って頼む。調査の内容からして、二人は色々知っていそうだし…純粋に、マホとアンリとはもう少し話したい、二人を知りたいと思うから。

 そんな私の言葉に、二人は頷いてくれる。そして、二人は活動拠点にまで戻るという事で、私も当然付いていった訳だけど……

 

(…あ、あれ…これって……)

 

 遠くに見える、巨大な塔。何だか見覚えのあるそれに対し、「まさか…いや、まさかね……」と思っていた私だったけど、二人はどんどんそちらへ向かっていく。街並みも、何だか覚えがあるようなとは思っていたけど…うん、これはあれだ。間違いなく……プラネタワーだ。

 

「い、いや、あの……」

「…どうかしたの?」

「あ、もしかして大きさに圧倒されてる的な?あーしも最初はそうだった……って、ぐっとたいみーんぐ!おーい!」

 

 不味い、これは非常に不味い、と焦る中、何かに気付いた様子のマホが空へ向けて手を振る。その動きにつられて私が見上げれば、夜空には一人の姿があって…その人影は、こちらへ向けて降りてくる。

 当然、普通の人は空を飛べない。飛べるとすれば、何かしらの能力を使っているか、或いはそもそも人ではなく…女神であるか。そして、更にいたのは後者であり、女神は…彼女は、私達の前へ降り立つ。

 

「マホちゃん、アンリちゃん、お疲れ様。いつもありがとう……って、その人は?」

「説明しよう!彼女は見ず知らずのあーしとあんりーに助太刀してくれたおねーさん、おりちーことオリゼだよ!」

「……!」

 

 ばっ、と横に移動すると共に、両腕を突き出しマホは私をアピールしてくる。状況が状況過ぎて、私は全く対応出来ず、降り立った女神と……女神の姿のネプギアと、真正面から顔を合わせてしまう。

 思えば、これは考慮しておくべき事だった。個人的な救助活動だけならともかく、街の状態調査や、重要物質の回収なんて、大きな組織が…それこそ国や女神が関係してるに決まってるんだから。けど、今更それを考えたところで時既に遅し。再び対面したネプギアは、私の事をじっと見つめ……

 

「オリゼさん、ですか……初めまして、わたしはパープルシスター、ネプギアです」

(え……?)

 

 ぺこりと、ネプギアらしく私へ挨拶をしてきたのだった。──まるで、私の事を知らないかのように。




今回のパロディ解説

・(〜〜聖徳マシンガンイリゼ〜〜)
ギャグマンガ日和シリーズに登場するキャラの一人、聖徳太子の台詞の一つのパロディ。より元ネタっぽくするなら、オリジンマシンガンハートの方が良さそうですが、ネタとしてはこっちの方が面白いですよね。

・(〜〜グレートイリゼマン〜〜)
DRAGON BALLの主人公の一人、孫悟飯が扮するキャラ、グレートサイヤマンのパロディ。イリゼは女性なので、グレートサイヤウーマンの方が良いのでは?とも思いました。

・「〜〜今は『荼毘』で通してる〜〜」
僕のヒーローアカデミアに登場するキャラの一人、荼毘こと轟燈矢の台詞の一つのパロディ。苦し紛れに捻り出した結果、全然笑えない冗談を言ってしまうイリゼでした。
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