超次元ゲイムネプテューヌ Origins Zenith   作:シモツキ

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第五話 結界の街

「ふー、ぅ……」

 

 プラネタワーにある客室。至極当然の事として、お客が使う事を想定したこの部屋のベットで、私はゆっくりと息を吐く。

 誰もいないと思っていた街、そこで出会ったマホとアンリに案内される形で、私はここへ……プラネテューヌの中心街、そしてプラネタワーへ訪れる事になった。この時点でも大分想定外ではあったんだけど…更にその直後、私はネプギアと遭遇した。この仮想空間で初めて会った相手であり、私に激しい怒りを抱いていたネプギアと、あまりに早い再会となった。

 

(…気付いてなかった、よね……?)

 

 あの時私は焦った。速攻で私の隠し事がバレ、再び攻撃されてしまうのを覚悟した。だけど私は攻撃される事なく…それ以前に、まるで初対面の相手であるかのように、普通に私を受け入れてくれた。勿論それはありがたい。折角友好的に接してくれてるマホとアンリとの関係が崩れずに済んだって意味でも助かった。

 けれど、だから良し…とはならない。なる訳がない。だって、最初に会った時と、次に会った時とで全く反応が違うだなんて、明らかにおかしいんだから。

 

「あの時会ったネプギアは、私の幻覚…な、訳がないか……」

 

 流石にそれはない。実体はあったし、立ち回りはどう見てもネプギアのそれだった。それすら某完全催眠か何かによって誤認させられていた…とか考えだしたら、何もかもに確信がなくなる。

 だとすれば、まず思い付くのはネプギアが私を騙す為、初対面のフリをしているという可能性。けど、あの流れでネプギアがそんな芸当を出来るかっていえば、怪しいところ。もし出来るなら、一度目の遭遇の時ももっと私に駆け引きを仕掛けてきた筈。となると、次に考えられるのは……

 

「…まさか、別人……?」

 

 初めに遭遇し、私に怒りを向けてきたネプギアと、私を初対面の相手として自己紹介してくれたネプギアは、別。普通に考えればあり得ない事だけど、別次元の存在を考えればその可能性はゼロじゃない。この仮想空間に複数のネプギアがいるんだと考えれば、一応の説明が付く。…って、いうか…よく考えたら、ここは仮想空間なんだから、何かしらのバグで別次元の同一人物ですらない、完全に『同じネプギア』が複数存在しちゃってる…って事も、あり得なくはないか…ここが普通の状態じゃない事は、明確なんだし…。

 

(確かめたいところだけど、あんまり変な事を言ってこっちが怪しまれても困るし…うぅ〜、なんかずっと歯痒い……)

 

 分からない事があるだけでももやもやするのに、それを下手に訊く事も出来ないっていうのは、本当にもどかしい。私はベット上で仰向けからうつ伏せになり、脚をバタバタとさせ…けどそんな事をしたってもやもや感が消えてくれる訳もないんだから、再び仰向けになって溜め息を漏らす。

 

「…そういえば、最後にプラネタワーの客室を使ったのっていつだっけ……」

 

 私は神生オデッセフィアの守護女神となる前はプラネタワーに住んでいたし、そこの一室を自分の部屋にさせてもらっていた。神生オデッセフィアの守護女神となってからも、プラネタワーに泊まる時はここに、って事で、私が使っていた部屋はそのままにしてもらっている。だから長らく客室を使った事なんてなかったし…だからこそ、変な感じ。

 そしてそれは、このプラネテューヌ自体もそう。街並みやその雰囲気からは、確かにプラネテューヌだって感じられるんだけど、私の知る信次元のプラネテューヌとは何だか違う。これも、仮想空間の設定で現実そのままの環境にはしていないだけか、不具合の影響なのか、色々思い浮かぶ可能性はあるけど断言は出来ない。…本当に、もやもやする。もやもやしちゃって仕方がない。

 

「…はぁ、やめやめ。こんな思考してたら眠れなくなるし、明日からまた少しずつ調べていけばいいよね」

 

 思考が沼へと入り込む前に、ここまでにしようと私は打ち切る。分からない事は多いけど、森林に一人だった時と比べれば、状況は大きく前進してる。だから一先ずは安心しよう、と私は自分に言い聞かせ、電気を消して目を閉じる。結構大変だった事もあって、その日はすぐに眠りへと落ち…翌日は、すっきりと目覚める事が出来るのだった。……だからって、何かが好転した訳ではないけど。

 

 

*

 

 

 この仮想空間に訪れて(というのも少し変な表現だけど)から、二日目の朝。私はマホやアンリ、ネプギアと朝食を食べた後に、少し外に出て、プラネタワー周辺を歩く事にした。

 

「うーん…やっぱり、少し違う……」

 

 散歩するように回り始めてから、凡そ数十分。昨日も感じた違和感は、じっくりと回ってみて更に増した。

 明らかに違うって訳じゃない。見覚えのある施設や建物もあるにはあるし、そもそもプラネテューヌの象徴とも言えるプラネタワーが、この仮想空間の次元にも存在している。だけど、私と知る信次元のプラネテューヌと同じって訳でもなくて…その中途半端さが、どうにも気になる。

 

(それに……)

 

 とはいえそれはまだ、そういうものだと考えられるレベル。仮想空間の設定一つで変わってくるし、不具合の影響で参照するべきデータが場所毎にズレちゃってる…なんて事もあるかもしれない。そういう風に、街並みから感じるものは、自分で納得出来る程度の違和感であり…けれど私が違和感を抱いたのは、街並みについてだけじゃなかった。

 

「やぁ、今日も良い天気ですね!」

「あ、おはようございますっ!」

「…………」

「……どうも」

 

 ジョギング中の人。お店の前を掃除している人。買い物帰りらしい人。ベンチに座っている人。当然街には色々な人がいて、それぞれの生活をしている。そういう人達に挨拶をすれば、明るく声を返してくれる場合もあれば、そうではない場合もあって…それもまた、当然の事。現実でも、どの国でも、当たり前にある光景。

──だけど、違う。個々の反応は、そこまでおかしいと感じるものでもなかったけど……返ってくるのは、やけに明るい反応か、分かり易く暗い反応ばかり。まぁ、挨拶とはいえ見知らぬ相手にいきなり声を掛けられても普通に返事が出来るような人は、コミュニケーション能力も高いだろうから明るい反応を返せるのも分かるし、逆もまた然り。ただ、でも…それにしても、極端過ぎる。そう感じる程に、明確に明るいか暗い人ばかり。それは、そういう仕様になっている…なんて風には考えられない。

 

「(これも不具合が絡んでるのか、それとも元からなのか…)…っと、流石に離れ過ぎちゃったかな」

 

 私は今、記憶喪失だと思われている。その私が長時間戻ってこないとなれば、マホ達を心配させちゃうだろうし、街の作りも少し違うから、遠くに行き過ぎると帰り道が分からなくなる可能性もある。だから私は踵を返し、プラネタワーへと真っ直ぐに戻る。…あ、勿論寄り道しないでって事であって、直進のみして戻る訳じゃないよ?

 とまあ、そんな感じで私の散策は終わった。迷う事なくプラネタワーに戻り、正面出入り口からエントランスに入り……

 

「あ、オリゼさーん」

「……?オリゼさん?」

「…知らない人……(そわそわ)」

「なになに?だれ?」

 

 直後、私はネプギアと、そのネプギアと話す三人の少女…ユニ、ロムちゃん、ラムちゃんと遭遇した。昨日ネプギアと突然再会した時の経験があったおかげで、何とかぐっと堪える事は出来たけど…この瞬間私は、内心で「おわぁッ!?」と仰天してしまっていた。

 

「え、えぇと…ネプギア、この子達は…?」

「三人は、わたしと同じ女神候補生の、ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃんです。あ、でも、同じ女神候補生って言っても、国は違っていて……」

 

 本当は知ってるけど…と思いながら、初めて会うフリをして私は問う。その私の反応にネプギアは疑問を抱いた様子もなく、三人の事を紹介してくれた…ん、だけど……

 

(…うん……?)

 

 その紹介の最中、違う国の女神候補生なのだとネプギアが言ったタイミングで、ふっ…とユニ達の表情が曇った。どこか暗い面持ちになって…でもその表情は、すぐに戻る。ネプギアが話を終えたところで、順に挨拶をしてくれる。

 

「そっか、皆は女神なんだね。それじゃあ皆にも、女神としての姿があるの?」

「そーよ。見てみたい?」

「えぇ、っと……」

「別に今のはそういう意味で言ったんじゃないと思うわよ。因みに、今がその『女神の姿』だとは思いませんでした?」

「あー…ほら、雰囲気って言うのかな。女神には見た目から感じる、独特な雰囲気があるというか……」

「…そうなの?」

 

 目を瞬かせ、ロムちゃんが首を左に傾ける。同じタイミングで、ラムちゃんもまた首を右へ傾げる。…私の存在を疑っている…という訳ではないだろうけど、流石にユニは鋭いな。だって知っているから…なんて返しを出来る訳ないんだから、やっぱり発言には気を付けなきゃいけないし、ミスった場合はすぐ誤魔化せるようにしないと…。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん、それをオリゼさんに訊いても困らせちゃうだけだと思うよ。…ところで、オリゼさん。何か、思い出せましたか?」

「それは……ごめんね。特段何か、思い出した…って事はないかな」

「そうなんですか…えっと、謝らなくても大丈夫ですよ。思い出せなくて大変なのは、オリゼさんの方なんですから」

「ありがとう、ネプギア。でも、謝らせて」

 

 一体何故?という顔をするネプギア。私が謝ったのは、本当は記憶喪失ではないし、記憶喪失じゃないんだから思い出すも何もないのに、あたかもそうであるかのように振る舞っているから。疑いを抱かれないようにするには、こういう発言も控えるべきではあるけど…それでもやっぱり、私は謝っておきたかった。

…と、そこで私は、ユニ達が不思議そうな顔をしている事に気付いた。続いて、私は自己紹介をしていなかった事を思い出し、オリゼという仮の名前と、ここに来るまでの経緯を軽く伝える。どうやらユニ達もマホやアンリとは面識があるらしく、三人共そういう事ね、と納得してくれた。

 

「そうだ。マホとアンリは今出掛けてるの?それとも──」

「おりちー呼んだ?呼んだよね?」

「うぇっ!?」

 

 何気なく訊いた私に対し、返ってきたのは背後からの声。ぎょっとしながら私が振り向けば、そこには正にマホとアンリがいた。…この背後からいきなり、の流れ、仮想空間に来る前セイツからもやられたっけ…。…あ、あの時と違って、二人と私とはそこそこ距離が離れてるからね?近付かれてたのに気付いていなかった…ってパターンじゃないんだからね?

 

「なんでどこぞのお風呂好きみたいな言い方なのよ…戻ったわ、ネプギア」

「お帰りなさい、マホちゃん、アンリちゃん。良さそうなの見つかった?」

 

 良さそうなの?と今度は私が首を傾げる。もしかして、私が散策に出ている間に何かあったのだろうか。例えば、貴重な物資に関する情報が入って、それを回収に行ったとか…と、何気なく思っていた私だったけど……

 

「そりゃもうバッチリ!ほらほら見てこの欠片、HP0になっても回復出来そうでしょ?」

「わぁ本当だ…ってそれは戦闘不能になった時に使うやつだよ!?二人が買いに行ったのって、作業しながらでも食べ易いものとか、疲労回復の栄養ドリンクとかだよね!?」

「元気の欠片…おんなじ名前、おんなじ効果…これって、いいの……?」

「もしかして、これってパク──」

「ちょっ、ストップストップ!表記は違うから!一応全く同じって訳じゃないから!」

 

 マホのボケ(…だよね?)を皮切りに、一気にしっちゃかめっちゃかとなる流れ。ネプギアとユニは突っ込みで大変そうだった。

 

「ねぇねぇ、ほかにはなに買ったの?見ーせてっ!」

「らむちー気になる?気になっちゃうー?」

「あ、グミ…おいしそう……」

「これはマホが、貴女達が好きそうだと思って買ったのよ。あげるんでしょ?」

「あっ、それあーしが言って『マホちゃん分かってるぅ!』って反応されたかったのにー!」

「あはは…でもほんと、よく分かってるわね」

「まぁねー」

「え…マホちゃん、それは何か違くない……?」

 

 色々買った物が入っているらしき手提げバックをロムちゃんとラムちゃんが覗き込み、そんな二人の様子にネプギアとユニ、それにアンリが肩を竦める。

 それは何とも、微笑しい光景。少なくとも、昨日今日知り合ったばかりとは思えないやり取り。

 

「…ふふっ」

「……?オリゼ、どうかしたの?」

「ううん。仲良いんだなぁと思って、ね」

「あ、分かる?分かっちゃう?」

 

 思わず笑みを零してしまった私の言葉に、マホは分かり易く嬉しそうな顔をする。隣に立つアンリは、再び肩を竦め…けれどその表情は、満更でもなさそうだった。

 

「ロムちゃん、食べよ?」

「うん。皆で、食べよう…?(にこにこ)」

「こーら。アタシ達にはやる事があるでしょ?」

「やる事?」

「はい。だからロムちゃん、ラムちゃん、それが終わったら一緒に食べようね」

 

 どうやらネプギア達は何かをする為に集まっていたらしく、ロムちゃんとラムちゃんはそうだった、という顔をする。二人の反応からして、やりたくないとか、面倒だけど仕方なく…って類いの事ではないらしく…でもそれ以上の事は分からない。

 

「えっと…それは、私にも手伝える事?もしそうなら、手伝いたいと思うんだけど……」

「え?あ、いや、大丈夫ですよ?時間は掛かりますけど、別に大変な事とかではないですし」

「そう?それなら、いいけど……」

 

 何をするのか、という探りも兼ねて申し出てみた私だけど、結果は空振り。下手に食い下がって変に思われるのは好ましくないから、それ以上は踏み込まなかったけど……無人と化していた複数の街や、その上空をネプギアが飛んでいた事と、何か関わりがあるんじゃないか…そんな風に、私は思っていた。

 

「じゃあ、そういう訳だから行ってくるわ。オリゼさん、初対面なのに色々見苦しいところを見せてしまってすみませんでした…」

「い、いやそんな…皆明るくて、仲も良くて、凄く素敵だと思うよ。それって、皆で同じ目標を目指す上で、大きな力になってくれる事だし…女神としても、沢山の人に見せたい姿……でしょ?」

 

 律儀に頭を下げたユニに対し、そんな事はないと私は返す。相手がネプギア達だからこそ、ついいつもの調子で言ってしまって……マホやアンリを含め、全員が目を丸くした事で、やってしまった事に気付く。

 

「…な、なんてねっ!現場からは、以上です!」

「えっ、オリゼさん中継やってたんですか?」

「そんな訳ないでしょ……でも、その通り…ですね」

 

 間に受けていたネプギアを尻目に、ユニは真面目な顔で小さく頷く。ロムちゃんとラムちゃんもまた、顔を見合わせ、頷き合う。ここにいる四人は、私の知る信次元の四人とは違うけど、この素直さは正しくネプギア達で……だけど私は、見逃さなかった。真っ直ぐな瞳を見せる直前、再び皆の…今度はネプギアの表情も、一瞬だけど曇った事を。

 そうしてネプギア達は、プラネタワーから出ていった。行くのはあくまで四人だけらしく、マホとアンリは私と共に見送っていた。

 

「いやぁ…なんていうか、微笑ましいよねぇ。無邪気なろむちーとらむちーに、二人を窘めるゆにちーと、フォローをしてあげるぎあちー…はー、尊い。マジ尊過ぎる」

「尊いんだ…。…まあ…分からなくもないけど」

「え…貴女もそっち側なの……?」

「むしろあんりーは分からない?特に何も思う事はない的な?」

「……そういう訳じゃ、ないけども」

「んもー、あんりーってば素直じゃないなー」

 

 にやりと笑うマホに対し、アンリは無言で横を向く。その方向へマホが回り込めば、更にアンリは顔を背ける。こっちはこっちでやっぱり仲が良いというか、気心が知れている感じで…だからこそ、改めて私は思う。仮想空間の緻密さは、凄まじいと。本当にここは仮想空間なのか…そう思ってしまう位だと。

 

「ところで二人共、その買い物は作業用だって話だけど…何をするの?」

「あー、そういえば話してなかったんだっけ?…んー……」

 

 仕切り直すように言った私の問いに、マホは頬へ指を当てて考える。そして数秒後、よし!と言って手を叩く。

 

「おりちー、ちょっとあーし達の手伝いしてくんない?」

「二人の手伝い?」

「そそ。ちょっとある物を持って指定された場所に行ったり、お喋りしたりするだけの簡単な仕事だから安心して?」

「その説明だとむしろヤバい気しかしないんだけど……!?」

 

 マホは一体私に何をさせるつもりなのか。我が身の不安を感じて私が一歩退くと、アンリは左手を腰に当て、右手で額を押さえる。…普段から苦労してるんだろうなぁ……。

 

「私がちゃんと説明するわ…最初に訊いておくけど、結構歩き回る事になっても大丈夫?」

「あ、うん。体力には自信あるからね」

「確かに、昨日の戦闘じゃあれだけ動けていたし、あの後も普通にここまで歩いてきたんだものね。じゃあ、付いてきて」

 

 そう言って、アンリはプラネタワーの奥へと動き出す。それに私は付いていき…マホはアンリではなく私の隣へ。

 

「あんりー、頼りになるっしょ?」

「なるね。でも、戦闘ではマホも頼りになったよ?実力は勿論だけど、判断力もしっかりしてたから一緒に戦い易かったし」

「いやぁ、それ程でも〜…って、戦闘『では』?」

「……さてと、歩き回る事になるなら一応ストレッチしておこうかな?」

「ちょっと!?」

 

 雑談をしつつ、プラネタワーの内装を確認(大体は信次元のプラネタワーと同じだった)しつつ、エレベーターで上層階へ。そうして行き着いたのは、信次元ならネプギアが機械弄りの為に使っている作業場…というべき部屋。

 

「わっ……」

「凄いっしょ?凄いっしょ?」

 

 入った直後、私は部屋内に設置された多数の機材とコードに驚く。明らかに、私の記憶よりも多いし…その多くが、稼働している。

 

「オリゼ。説明と言ったけど、やってもらうのはこれを持って指定した場所へ移動する、そして通信状態を確認する…ってだけの事よ」

 

 アンリから手渡されたのは、トランシーバーらしき…というか、トランシーバーで間違いなさそうな機械。ちらりと視線を壁に向ければ、壁掛けのモニターにはプラネテューヌの地図らしきものが表示されていて、地図にはぐるりと一周するような線が入っている。それは、プラネテューヌの生活圏内全体を囲うような線ではなくて……

 

「おりちー?」

「っと、ごめん。取り敢えず、最初は指定された場所まで行ってくればいいんだよね?…というか、よく考えたらマホの説明も強ち間違いじゃなかったのか……」

「それは、まぁ…うん……」

 

 間違ってはいないけど、これを要点だけ伝えた…みたいな言い方は出来ないよね、と私はアンリと肩を竦め合う。そして、まずはトランシーバーに不調がないか、この場で交信をする事で確認し…私は部屋を、プラネタワーを後にする。

 

「へぇ…やけに大きいモニターが付いてると思ったら、このトランシーバーは地図アプリもあるんだ。…………」

「…おりちー今、それだったらトランシーバーじゃなくて、普通の携帯端末使えばよくない?とか思った?」

「うっ……じ、実はその…はい…」

「分かってないなー。普通の携帯端末と違ってトランシーバー…無線機は直通の電波だから場所を問わず使えるし、おりちーが持ってるのはぎあちーが改造したやつだから、ちょっとしたジャミング位なら乗り越えられちゃう代物って訳」

 

 普通の端末と無線機の違いは一応私も知っていたけど、これがネプギアの改造品だとは思わなかった。…因みにこれ、この作業の為に用意したものじゃなく、ネプギアが趣味で作った物を活用してるだけなんだとか。

 

(これ、プラネテューヌの地理を確認するのにも良いかも)

 

 期せずして遠くへ行く事になった私は、アプリで確認をしながら目的へ向かっていく。一通りの多い場所では悪目立ちしちゃうから自重したけど、そうじゃない地域は走る事で、移動の時間を削減する。そして、暫しの時間を経て…指定された場所へ、到着。

 

「着いたよ、二人共。聞こえてる?」

「感度良好、問題ありません。そちらも鮮明に聞こえていますか?」

「へっ?」

 

 私からの呼び掛けに返ってきたのは、アンリの声……ではあるんだけど、何故かこれまでとは全然違う口調と雰囲気。それに私はぽかんとなり…マホの苦笑が聞こえてくる。

 

「そういえば、説明してなかったっけ。あんりーはねー、お仕事中はビシッとキメたいっしょ。だからオペ子してる時はいつもこんな感じ」

「マホ!余計な事言わなくていいの!」

「オペ子って…でも、その気持ちは分かるかな。こう、自分の中の理想像というか、こう在りたいって形を…みたいな」

 

 今でこそ自然に出てくるけど、前は意図して女神としての口調で喋っていたな…なんて思いながら、私は言葉を返す。

 そこから更に、数度私はトランシーバーでやり取りをする。そうする事で、通信の安定状態を確認し…問題なしとの判断を受けて、私は次のポイントへ。

 

「えぇと、ここからなら普通に真っ直ぐ行けばいい…よね?」

「はい。ですが、気を付けて下さい。結界の外に出てしまうと、戻れなくなるので」

「後、結界の中と外の境付近だとジャミングで通信も出来なくなるから気を付けるよーに。ま、逆に言えば、通信にノイズが掛かったら境に近付いちゃってるよーって事でもあるんだけども」

 

 そういえばそうだった、と私はルートから外れないよう意識して移動する。…あれ、でもジャミングって……。

 

「…もしかして、結界とジャミングはセットで運用してるの?」

「そそ。目には見えなくても、電波とかレーダーでバレたら意味ないっしょ?」

 

 やっぱり、ジャミングは結界によって発生してしまっているものや、外敵による電子攻撃という訳ではなく、結界と同様の防御の為のものだった。と、なると…今やってる作業も、ちゃんとジャミングが機能してるかどうか、ジャミングの範囲が設定通りになっているかどうかのチェック…ってところかな。

 

「ふぅ、もうすぐ着くけど…二人共、聞こえてる?」

「一応……てるけ…ノイズ…酷……」

「っと、これは……」

 

 完全にではないけど、かなり通信に支障が出ている。この調子だと指定場所に着いた時には完全に通信不能になっているだろうと判断し、私は呼び掛けを繰り返しながら来た道を引き返す。すると当然だけど、次第に通信状態は良くなっていって…完全に戻ったところで、ほっと一息。

 

「んー…あんりー、これどういう事だと思う?」

「断言は出来ないけど、確かその辺りのジャミングを発生させている装置は前にも調子が悪くなってなかった?その時は、ネプギアが調整してくれたけど…もしかしたら、ちゃんとした修理が必要なのかも」

「だとしたら、ぎあちーに見てもらわないとね。おりちー、念の為指定ポイントまで行って、完全に通信出来なくなってるか確認してもらってもおけまる水産?もし地図の方もヤバい感じだったら、その時は速攻戻ってくれていいからさ」

「お、おけまる水産…?…あぁ…うん、了解」

 

 多分「OK?」って事だったんだろうな、と解釈し、私は再び二つ目のポイントへ。予想通り、ポイントに到着した時点で…というか、その少し前の時点で全く通信が成立しなくなり、ついでに地図アプリの方も情報の新規取得が出来ない状態に。でも、それまでのデータは保持してくれていたから、私は迷う事なく通信出来る場所まで戻ってくる事が出来た。

 そしてそこからも、マホやアンリからの指定を受けて私は動き回る。もしかしてこれ、結界の近辺全域を回るの?…と思いはしたけど、流石にそんな事はなくて、お昼を少し過ぎた辺りで調査は終了。私はプラネタワーに戻る事になった。

 

「すみません。時間を意識するのを忘れていました……」

「あはは、大丈夫大丈夫。というか二人ももうお腹空いてるだろうし、先にご飯食べてていいよ」

「いやいや、そんな事は…って思ったけど、それを言ったらおりちーは今からだと完全にお昼抜きになっちゃうでしょ?って訳で、おりちーもどっかで食べて。万が一の時用に渡しておいたお金、あるっしょ?」

「そう?じゃあ、そうさせてもらおうかな」

 

 ここで私が我慢する、って言ったら二人も昼食を取り辛いだろうし…と思い、私は外食する事を決める。ここは仮想空間なんだから、食事してもしなくても現実の私には特に影響はない筈だけど…空腹感があるのは事実だし、空腹感は気力や集中力に悪影響を及ぼすもの。だから帰りの道中でレストランにより、遅めのお昼ご飯を食べて、その後にプラネタワーへと帰還。もうすぐ着くよ、と連絡を入れていたからか、エントランスではマホとアンリの二人が待っていてくれた。

 それから私が案内されたのは、これまたよく知る居住エリアのリビングに当たる部屋。そこには私より先に戻っていたらしいネプギア達が、出発前に話していた通りお菓子を食べていて…マホとアンリも、さっきまでは一緒にいた様子。

 

「お帰りなさい、オリゼさん。マホちゃんとアンリちゃんのお手伝いをして下さり、ありがとうございます」

「ううん、私はお世話になってる身だからね。…その、お邪魔だった?」

 

 皆が仲良い事は分かっているし、私がいたら気楽に話せないかな、と思って言った私だけど、ネプギア達はぶんぶんと首を横に振る。ロムちゃんとラムちゃんに関しては、まだ私と距離を取って観察してる…って感じだけど、敵対行動を取られないなら今のところはそれで十分。

 と、そこで部屋の中に入った私は気が付いた。ネプギア達がお菓子を並べているテーブル…そこには、書類やタブレット端末も置かれている事に。

 

「…もしかして、今は何かの仕事とか、話し合いの途中だったり?」

「あ、はい。今後の避難計画について…って、オリゼさんはその辺り、知っているんでしたっけ?」

「それは……」

 

 今の私は記憶喪失の一般人…と思われているからか、話しつつ自然な動きで資料に手を置く、そうする事で読めないようにするユニ。その問いに、私は数秒考え…頷く。

 明確に、その話を聞いた事はない。だけど、無人だった三つの街や結界の存在から、その可能性については考えていた。

 

「…………」

 

 それと共に、私は思う。もし今、この仮想空間の次元が大きな脅威に晒されていて、複数の街から人が避難するレベルの事態になっているのなら、女神が対応に当たるのは当然の事。でも、だとしたら……

 

「…今後の、って事は、まだ原因は解決出来てない…んだよね?」

「それは、そう…ですね」

「避難計画って、かなり重要なものだよね?…あ、いや、非難してる訳じゃないよ?ランチミーティングなんてものもあるし」

「あはは…えっと、オリゼさんの言う通り、凄く重要な事ですよ」

「もう一つ、質問良い?四人は女神候補生、って言ってたよね。なら……皆より上の立場の女神がいるんじゃないの?」

『……!』

 

 凄く重要なのに、候補生の四人が主導なの?…と私が問えば、それまで答えてくれていたネプギアは勿論、この場の全員がぴくっと肩を揺らす。そして部屋の中が静かになる中……マホが、言った。

 

「……おりちー。貴女みたいな勘のいいおねーさんは…好きかも?」

「あ、好きなんだ…いや好きなの!?逆じゃない!?」

 

……なんか、最後の最後で方向性が大きく変わった。くっ…いやまあいいんだけども…!

 

「いやぁ、あーし的にはおりちーの事、好きか嫌いかなら好きだからこう答えるしかなかったみたいな?…でも…うん。おりちーの言う通り、ぎあちー達より上の女神が…守護女神って存在がいるよ。いるんだけど……」

 

 そこまで言って、マホは口を閉ざす。判断を求めるように、ネプギア達の方を見る。その意味、意図は分からないけど、ネプギア達は顔を見合わせて…静かに、言う。

 

「…ねぇ、皆。わたしとオリゼさんとはまだ出会ったばかりだし、ユニちゃん達はわたし以上にそうだと思うけど…それでも私は、この人を信じられる気がするの。だから……話しちゃ、駄目かな?──お姉ちゃん達が、今、何をしているのかを」

 

 今の言葉は、マホ達へ向けた言葉。そこから読み取れる情報は、殆どない。それでも私は…感じた。これから先、私が触れる事になるのは…この仮想空間の次元に起きている事、その核心に迫るような何かだって。




今回のパロディ解説

・「〜〜どこぞのお風呂好き〜〜」
みいつけた!に登場するキャラの一人、オフロスキーの事。呼んだよね?…といえばオフロスキーですが、これ単品では普通の台詞過ぎて伝わり辛いかも、と感じる私です。

・「元気の欠片…おんなじ名前、おんなじ効果〜〜」
ポケモンシリーズに登場するアイテムの一つ、げんきのかけらの事。一応ネプテューヌシリーズの方は漢字なんですよね。後、欠片は同じ効果ですが、塊になるとポケモンとは回復量が変わってきます。

・「もう一つ、質問良い?〜〜」、「〜〜貴女みたいな勘の〜〜好きかも?」
鋼の錬金術師の主人公、エドワード・エルリックと登場人物の一人、ショウ・タッカーのやり取りの一つのパロディ。実は最後の台詞だけでなく、質問の流れ(質問の数)も意識しています。
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