超次元ゲイムネプテューヌ Origins Zenith 作:シモツキ
女神候補生。女神の在り方を学びながらも、己が国の女神の一角として、人を守り導く存在。そして、その女神候補生が支える…国の女神の代表として先頭に立つ者こそが、守護女神。女神候補生の存在しない国はあれども、守護女神の存在しない国はない。仮に守護女神がいなくなったのなら、新たな女神が生まれるか、女神候補生が守護女神となるか…或いは、国が過去のものになっていくかなのだから。
だからこそ、私は妙に思った。ネプギア達がいて、女神候補生であると名乗っていて…それなのに、ネプテューヌ達守護女神の姿が見えないのは。偶々どこかに行っているだけ…って事も考えられたけど、ネプギアやユニはまだしも、まだ幼いロムちゃんやラムちゃんが重要な案件に対応している事からして、何か事情があるんじゃないかと思えてならなかった。例えば──そう、犯罪組織との戦いの時みたいな事があったんじゃないかと。
そんな私からの問いを、ネプギアは受け止めた。受け止め…言ってくれた。私を、信じられる気がするって。
「…いますか?オリゼさん」
私が訊き、ネプギアが答えてくれてから、私は一度使わせてもらっている部屋に戻った。ネプギア達が、話し合う事が出来るように。私は個人じゃなく、守護女神全員の事を訊いたし、ネプギアの反応も守護女神全員が同じ…恐らくは全員が不在の状況だと察する事が出来たから、自分から部屋に戻る事を伝えた。
「その…ごめんね?避難計画を話してる途中だったのに、別の話し合いをさせちゃって」
「そんな、気にしないで下さい。昨日も今日も、オリゼさんはマホちゃんやアンリちゃんに…わたし達に、力を貸してくれたんですから」
部屋の扉を開け、謝った私に対し、ふるふるとネプギアは首を横に振る。その丁寧で、けど親しみを感じる雰囲気は、正にネプギアって感じで…本当に、昨日のあの怒りが信じられない。一体何をしたら、ああも怒りを向けられるのか…想像も付かない。
「それで…どうなったの?」
「…はい。付いてきてもらっても、いいですか?」
こくり、とネプギアは頷き、一歩隣へ。そして私が廊下へと出ると、ネプギアは歩き出す。それに私は付いていく。最初はまたリビングに当たる部屋に行くのかなと思っていたけど…予想に反して、ネプギアはそこを通り過ぎる。
「…あれ?ネプギア、どこ行くの?」
「えっとですね、説明するのは難しいというか…直接、見て頂きたいんです」
見る?と私は疑問に思ったけど、一旦は飲み込む。だって、説明するのは難しいって言ってるんだから。訊いたところで、今と同じ答えしかネプギアも言えないだろうから。
となると、外に出るのか。私はそうも思ったけど、再び私の予想は外れる。あくまで向かう先はプラネタワーの中のようで……
(…あれ?この先って……)
この仮想空間の次元のプラネタワーは、信次元のプラネタワーと概ね同じ作りになっている。だから何階に何の部屋があるかも大体分かっているし、分かっているからある程度進めば、行き先の予想も付く。でも…それ故に、私は困惑した。どうしてここに?この先にあるのなんて…と、リビングに当たる部屋を通り過ぎた時以上にその意図が分からなくなった。だって、今私達がいる廊下の先にあるのは……シェアクリスタルの間なんだから。
「皆、お待たせ。オリゼさんを呼んできたよ」
廊下の奥、扉の前…そこにはマホ達も集まっていた。皆、真剣な顔をしていた。
「ネプギア、どこまで話したの?」
「ううん、まだ何も。…先に話しておいた方が良かった?」
「別にいいわ。急いで伝えなきゃいけない事でもないんだし」
ネプギアの声音は普段通りだけど、その表情は皆と同じ。そしてここは、プラネタワー…教会にとっての、最重要区画。まだどういう事なのかは分からないけど…否が応でも、私も緊張してくる。
「…もしかして、心の準備が必要だったりする?」
「そんな事は……どう、かしらね」
「えぇ……?」
「まぁ、どう感じるか次第…みたいな?」
何故か曖昧な締め方をしたアンリの言葉で私が反応に困っていると、マホが代わりに答えてくれる。ただ、マホの答えでも抽象的である事には変わりなくて……ならばもう、心の準備はしておこう。そう思い、私は大丈夫だとネプギアへ頷く。
「それじゃあ…行きますよ、オリゼさん」
くるりと振り向き、ネプギアは扉へと手を開ける。扉は開かれ、まずネプギアが入り…その後に続くよう、皆が視線で伝えてくる。だから私は、真っ直ぐに中へ。
とはいえ、ここにあるのは女神の核となるシェアクリスタルだけ。そう、私は思っていた。思っていたからこそ……自分の目に映ったものが、最初は理解出来なかった。
「──え……?」
足が止まる。思考が止まる。どういう事なのか、どうしてなのか…訳が分からなくなる。
シェアクリスタルの間。そこに存在するのは、静かに浮かぶ結晶一つ…それが私の知る、本来の状態。けれど今は、この空間では、違う色の輝きを灯した四つのシェアクリスタルが浮かんでいて──その周囲を囲うように、ネプテューヌの、ノワールの、ベールの、ブランの…守護女神の、姿があった。鼓動するように、微かに明暗が変化し続ける複数の魔法陣…それを備えた結界に、身体を包まれた状態で。
(これは、四神封晶…!?…いや……)
女神による封印術。見た瞬間私の頭に浮かんだのは、犯罪神の核を封じるのに使われたあの術で…でも、違う。はっきりとした事は分からないけど、女神としての感覚が、あれと同じではないと伝えてきていて…何よりもまず、四人は結晶ではなく、結界に包まれている。四人が何かを包んでいるのではなく、四人自身が包まれている。
「…ネプギア…これは、一体……」
「…この人達が、わたしのお姉ちゃん…守護女神の、皆さんです」
半ば呟くようにして言った私の問いに対し、返ってきたのは少しずれた答え。恐らくネプギアは、私が守護女神の事をよく分かっていないと思っていて…でもネプギア達は私を記憶喪失だと思っているんだから、そういう解釈をしてもおかしくはない。だから私はそれに頷き、改めて問う。
「守護女神の皆は、何をしているの?見たところ、何かの術…みたいなのが発動しているみたいだけど……」
「おりちー、あんりーがした街の結界の事、覚えてる?」
「え?うん、それは覚えてるけど…って、まさか……」
「…そ。この四人が、結界を維持してくれてるの。力を合わせて、それに専念する事で」
(専念、って……)
結界の中の四人は目を閉じていて、私達の存在に気付いた様子がない。それどころか、意識があるのかどうかも分からない。
「…ごめん、ちょっと待って。少し、考えを纏める時間が欲しい」
「構わないわ。と、いうより…貴女が思ったより冷静でほっとしている位よ。この光景、見る人によってはかなりショックを受けるだろうし」
だろうね、と私は内心で同意。守護女神の敬虔な信者であったり、そうでなくても女神を絶対の強者であると思ってくれているような人にとっては、信じ難い光景である事は間違いない。けど…私が待ってと言ったのは、そういう理由からじゃ…ない。
時間が欲しい、と私が言ったのは、言葉通り思考を整理する為。この場にあるもの、ネプテューヌ達の状態を見た事で、私の中では幾つもの疑問と推測が浮かんだ。でも私は記憶喪失をフリをしている以上、質問の内容、言葉選びには気を付けなくちゃいけないし…たとえ仮想空間の存在だとしても、ネプテューヌ達のこんな姿を見たら、動揺の一つや二つはする。それも収めてからじゃないと、自分の首を絞めるような発言をうっかりしかねない。だから断りを入れた上で、私は頭の中で自分の思考をきっちりと言語化していき…そんな中で聞こえてくるのは、皆の声。
『おねえちゃん……』
「…もう少し、待っていて。アタシが…アタシ達が、必ず……」
結界に触れ、ロムちゃんとラムちゃんはブランを見つめる。ユニは決意を固め直すように、胸の前で拳を握る。ネプギアもまた、一言では言い表せないような眼差しを見せている。
(…私は……)
本来いる筈、その責務を果たすべき筈の守護女神がいない理由の一つとして、犯罪組織との戦いで起こった一件のような、そういう何かを考えたけど…その結果は、当たらずとも遠からず。でも、それに私が関わっている…それも、原因側であるというのは、心が苦しくて仕方なかった。
「……ありがとう、皆。私にこれを、教えてくれて。私の事を…信用してくれて」
戦闘能力はマホとアンリが証明してくれるとはいえ、逆に言えば私は、それしか証明していない。そしてここは、守護女神の今の状態は、そう易々とは明かせない事な筈。それなのに、私に明かしてくれた、明かしても良いと思ってくれた皆には、感謝しかなかった。…あぁ、でも、だからこそ…そんな皆を実質騙している自分に、心が痛む。
「…いえ。ネプギアにマホ、アンリがオリゼさんなら…って言ったのを、アタシは信じただけですから」
「あ、ぎあちー聞いた?あーし等、ゆにちーに信じられてるみたいじゃん?」
「ふふっ、ありがとねユニちゃん。わたしもユニちゃんの事、いつも信じてるよ」
「ちょっ…茶化さないでよね……!」
かぁっと顔を赤くするユニに対し、ネプギアとマホはにっこにこ。それに私は苦笑し…少し待ってから、咳払いを一つ。
「…皆、幾つか質問してもいいかな」
「あ、はい。…場所を、移しますか?」
「その判断は、皆に任せるよ」
判断は任せる、と言った私の言葉を受けて、ネプギアはユニ達を見る。それから、私達はリビングに当たる部屋へと戻る事になった。ネプテューヌ達の状態は分かったし…やっぱり、皆としてはこの場に居続けるのは、切ないものがあるらしいから。
「さてと。じゃあ、改めて…まずは最初の質問だけど、守護女神の皆は、結界の維持に専念しなきゃいけない…というより、常時専念しなきゃ結界は維持出来ないの?」
「そうです。結構複雑な結界なので、一度解除してしまうと、再度展開するのに時間が掛かってしまうので」
「再展開するまでの空白を突かれてしまうリスクがある、って訳ね。因みに、複雑っていうのは……」
「信仰に応じて可視不可視が変わったり、出入り自体は普通に出来る事だったり、色々らしいわ」
初めの質問に答えてくれたのはユニで、掘り下げに対してはアンリが答えてくれる。多分だけど、難易度自体は単純な結界、物理的な壁を作り出す方が楽なんだと思う。ただ、それでは場所が分かってしまうし、出入りも出来ないから、結界の外から避難してきた人達に対応出来なくなる…恐らくは、そういう事。
「それじゃあ、二つ目の質問。これも実際にそうしてるんだから、そうなんだろうけど…結界は、四人でなきゃ維持出来ないの?」
「お姉ちゃん達が四人で維持しているのは、結界の質を複雑にする為です。でもこれは、さっきユニちゃん達が言った複雑とは少し違って、えっと…四人のシェアエナジーを掛け合わせる事で、結界の解析を困難にしている…ん、だったよね?」
「そう、かも……?」
「もー、なんでちゃんとわかってないのよ」
次の問いに対する答えも、方向性としては同じ。より安全性を、より確実性を求める為に四人で維持しているのだという事は分かった。
(どうしてネプギア達女神候補生じゃなく、ネプテューヌ達守護女神が結界の展開と維持を担っているのかは…訊かないでおこうかな)
頭の中にあった三つ目の質問は、口にせず飲み込む。複雑な結界故に、女神候補生の皆じゃ難しいと判断したのか、ネプギア達の事を気遣って自分達が…と決めたのか、或いは別の理由なのかは分からないけど、どんな理由であろうとも、皆の顔を曇らせてしまう気がする。それに、訊かずともその必要があった事は十分予想出来るんだから。
「ありがと、結界についてはある程度分かったよ。細かい話は…聞いても、分からないかな?」
「あ…え、えっと…だいじょうぶ、だよ……?(ちらちら)」
「そーそー。わたしたちもわからないけど、ばっちりやってるもの!」
「それは胸を張る事じゃないでしょうが…。…オリゼさん、まだ訊きたい事があるんじゃ?」
鋭いね、と私はユニに軽く頷く。結界についての概要は分かったけど、私の疑問はそれだけじゃない。むしろ結界に対する質問は、ある程度回答も予想出来ていた事。だけどここからの質問は、疑問は…違う。
「…ユニ、ロムちゃん、ラムちゃんはネプギアと同じ女神候補生でも、同じ国の女神じゃない…そう言っていたよね?」
「うん。わたしはルウィーの、女神候補生で……(ちらっ)」
「わたしもロムちゃんと同じ、ルウィーの女神候補生よ!」
「…えーっと…ユニは……」
「はは…アタシはラステイションって国の女神候補生です」
ロムちゃんが自分の事だけ言ってラムちゃんを見たものだから、ラムちゃんも自分の事だけを言い、しかもそのまま締め括ってしまった。私はユニと苦笑しつつ肩を竦め合うのだった。…こほん。
「三人は、この国の女神じゃない。それなのに、この国…えぇと……」
「あ、プラネテューヌです」
「ん、了解。…この国、プラネテューヌにいる。それどころか、守護女神の四人もここにいて……今日結界の範囲について少し知ったけど、四つの国を全てカバーしているようなものじゃなかった。これは、どういう事?」
少しわざとらしいかな、とも思ったけど、プラネテューヌの名前をネプギアに教えてもらうやり取りを挟んで、私は本題部分へ踏み込む。
その瞬間、ネプギア達は微かに肩を震わせる。この瞬間の反応で、ネプギア達の表情で、私は半ば確信を得た。答えへの確信を、得てしまった。そして、数秒の間を経て……ネプギアが、言う。
「…イリゼさんが思った通り、結界は四ヶ国全てをカバー出来るようなものじゃありません。いえ…厳密に言えば、前はもっと広い範囲をカバーしていたんですが、避難の状況に合わせて縮小してきたんです。色々工夫のされた結界ですが、それでも絶対無敵ではありませんから」
「つまり、それは……」
「はい。ラステイション、ルウィー、それにリーンボックスという国にはもう──人が、いません。少なくとも、国としてはもう、人が住んでいる状態ではないんです」
……それは、その答えは、予想の範疇だった。結界の範囲を知った時点で、そうだろうと薄々思ってはいた。だけど…それでも、実際に答えを聞くと、心にくるものがある。
(…って、あれ?神生オデッセフィアは……?)
ショックを受けた私だったけど、数拍の間を置き、私の国の名前が出なかった事に気付く。リーンボックスは出てきた以上、女神候補生のいる国だけを挙げた…って訳でもない筈。
じゃあこれは、どういう事か。神生オデッセフィアは、避難の必要がないって事か。結界抜きに安全が保たれているとか、某精霊の祭りが行われる村ばりに強者揃いになっているのか…或いはそもそも、神生オデッセフィアが存在していないのか。それも気になるところだけど、『イリゼ』関連は下手に訊くとどうなってしまうか分からないから、一先ずこの疑問は胸の内に留めておく。
「…ごめんね。こんな事訊いちゃって」
「いえ。目を逸らしてなんていられない事ですし…辛いのは、わたしよりも皆ですから」
「そ、っか。……なら、もう少し踏み込ませて。今は多くの人が…数え切れない程の人が、避難を余儀なくされている筈。不安や恐れを日々抱いている人だって、沢山居る筈。それなのに……どうして皆は、明るくいられるの?」
「……っ、オリゼそれは……!」
息を呑み、それから抗議をするような声。それは、アンリの声だった。ネプギア達でも、明るいマホでもなく、クールなアンリが真っ先に私へ声を上げていた。
やっぱり、皆は仲が良いんだと…互いを思いやる絆があるんだと、そんなアンリから感じる私。でも私は、だからこそ私は、アンリの言葉に待ったを掛ける。
「私は別に、今の皆をどうこう言いたい訳じゃない。むしろ、それで良いと思ってる。だから、訊きたいの。皆の思いを。皆が、明るくいようと思った理由を」
これを訊くのは、少しリスキーだと思った。記憶喪失だと思われている私がこんな事を尋ねるのは、変だと思われてもおかしくないから。だけど、私はそのリスクより、ネプギア達の心象を確かめる事を選んだ。そこに、どこまでの意味があるかは定かじゃない。間違いなく不具合を起こしているとはいえ、ここは仮想空間。誰も彼もが機械的に、情報から出力されただけの存在に過ぎない筈。そんな皆へ尋ねたところで、情報学的な意味での価値はあっても、女神として得られるものがあるのか……分からないけれど、それでも訊いた。訊いて、みたかった。
訪れたのは、静かな時間。言葉に詰まったとか、狼狽えているとか、そういうものじゃなくて…確かに私の言葉を受け止めてくれたからこそ、沈黙。そしてその沈黙の末に…初めに唇を震わせたのは、ラムちゃんだった。
「……だって、わたしたちは、おねえちゃんに頼まれたから」
「うん。みんなのことを、お願い…って」
ラムちゃんの言葉に、ロムちゃんが頷く。頼まれたから…そう言ったラムちゃんと、頷いたロムちゃんだけど、だから仕方なく明るい振る舞いをしている…そんな風には思えない。そんな、外から与えられた理由だけで明るくいられる二人じゃないと、私は思う。
「…アタシ達はまだ、未熟な女神候補生です。でも、皆からすれば、女神は女神。アタシ達が不安がっていれば皆も安心して暮らせないでしょうし…そうでなくても今は、心から安心して暮らせている人なんて、極僅かだと思います。だから…アタシ達は、いつも通りでいようって決めたんです。表面的にだけでも、皆の不安を和らげられるように」
次に声を発したユニは、真っ直ぐ私を見つめ返す。女神としての責任感、こう在りたいという思い、皆への気持ち…それ等全てをひっくるめての今なのだと、言い切った。そしてまた、一拍の間が空き…最後にネプギアが、言う。
「わたしは…わたし達は、思ったんです。もしお姉ちゃん達が…守護女神の皆さんが、同じ立場なら、どうしていただろうって。わたし達の憧れる、皆の事をずっと前から守ってきた『女神』は、どんな姿を皆に見せるだろうって。…今、わたし達は、お姉ちゃん達を頼る事は出来ません。だけど、お姉ちゃん達の見せてくれたものは、見てきた背中は、ちゃんとわたし達の中にある…って言ったら、ちょっと格好付け過ぎですかね…?」
真剣な面持ちで語っていったネプギアは、最後にはにかむ。憧れを隠さない、憧れを前に進む気持ちへ変えるその姿は、私の知っているネプギアのそれで…私はゆっくりと、首を横に振る。ネプギアの言葉は、思いは、格好付け過ぎなんかじゃない。
「皆の思い、聞かせてもらったよ。それに、分かった気がする。守護女神の皆…ネプギア達のお姉さんが、皆に託そうって思えた事が」
「…そうね。私も、そう思うわ」
「大丈夫だよ、皆。皆の事は……あーし達が、支えるから!」
『わわっ!?』
ばっ、と両腕を広げて飛び込むマホ。四人をぎゅーっと抱き締め…るには流石に腕の長さが足りないからか、抱き締めるというか腕と手を引っ掛けるような格好を取り、その行動にネプギア達は目を白黒させる。
(…力に、なりたいな)
そんな皆を見て、私が抱くのは一つの思い。初め私は、この仮想空間から現実に戻る事を目的としていた。今だって、それを断念してはいない。だけど…ネプギア達の、力になりたいとも思っていた。たとえただのシミュレーションでも、私の心は、既にただのデータだとは思えなくなっていた。
それに、考えてみれば最初以外、不具合らしきものは何も発見出来ていない。現実への帰還にしろ連絡にしろ、凡ゆる機能が一切作動しなくなる程の異常事態なら、他にも色々なところで不具合が起きている筈で…それなのに痕跡すら碌に見当たらないという事は、単なる不具合とも違うという事も考えられる。だったら、ただ現実へ戻る事へ躍起になるよりも、もっと今出来る事をした方が道は開ける…かもしれない。
「…まぁ、私達が置かれている状況は、ざっくり言ってこんな感じよ。正直、良いか悪いかで言えば間違いなく悪い。少しずつ、生活圏も狭まっている。…それでも、私達に協力してくれる?」
「勿論。そう思っていなければ、ここまで訊いたりはしないよ」
五人がわちゃわちゃしている様子を眺めていたアンリは、私の方を向いて問う。それに私は首肯で返し、小さく笑う。元より、協力するかどうか迷っていた訳ではない。でも…今ははっきりと、協力をしたいと思っている。
「ま、マホちゃん…そろそろ、苦しい……」
「そーよそーよ!そんな強く引っ張られたら、服がやぶけちゃうでしょ!」
「あ、ごめんごめん。それで、何の話だっけ?」
『えぇぇ……?』
割と本気で忘れてそうなマホの発言に、全員で困惑する私達。まあでも、大方訊きたい事は訊く事が出来た。後は……
「…あ、そうだ。今日皆が出掛けてたのは、結界関連?それともまた別の用事?」
「はい。今日は、避難生活をしている人への慰問をしていたんです。避難出来るようにするのも大事ですが…避難したらそれで終わり、なんて事はないですから」
「そっか…。…そういえば……」
それも大切な事だよね、と頷いた私は、朝の散歩をしていた時の事……明るく元気な人と、陰鬱とした人…そのどちらかばかりで極端だった事を思い出す。そして、私を見て小首を傾げている皆に、その時の事を話すと…皆の表情は、複雑そうなものに変わる。
「…それは、結界の影響です。これは意図した事ではないんですけど、結界内はシェアエナジーで包まれているからか、人の精神状態に影響を及ぼす場合があるみたいで……」
「シェアエナジーが、人の精神に……それは、何となく分かるかも。元々シェアエナジー…というか、シェアは人の心から生まれるもの…なんでしょ?…けど、それで明るくなるのは分かるけど、暗くなるのは……」
「影響には個人差があって、強く影響を受ける人もいれば、あまり作用しない人もいるんです。だからその、影響が薄い人か…或いはそもそも、アタシ達への信仰自体が薄い人だったか、だと思います」
影響を受けても暗いのではなく、影響を受けていないから暗い…その可能性を、ユニは言った。更に言うと、シェアエナジーの影響は一日中ずっと表れる訳じゃなくて、寝起きだったり疲れていたりすると、影響が表れ易い…つまり、極端に見えたのはまだ朝の早い時間だったからだも考えられるんだとか。
思いがシェアに、シェアエナジーになるのなら、逆にシェアが思いの源である心に影響するというのも理解は出来る。ただ…出来る事ならば逆、陰鬱とした人が何かの影響を受けている、という方が良かった。だって、影響を受けていないという事は、それがその人の素の感情…本当に、不安で明るさを失ってしまっているという事だから。
(…納得は全てに優先する…って訳じゃないけど、やっぱり……放っておけない)
どこまでいってもデータはデータ。それでも私は、私の心は、力になりたいと思っているし…ここで打算や合理的思考で判断するなんて、私らしくない。ならやっぱり…私の選択は、一つ。
「……皆、最後にもう一つ質問をしても?」
「あ、それ聞いたことある」
「オリゼさんは、けいじさん……?」
「いや違う違う、私はうちのカミさんがね…とか一度も言ってないでしょ…?そうじゃなくて……」
手を横に振って否定を示した私は、気を取り直して質問をしようとした……ところで、不意に聞こえた「くぅぅ……」という音。それによく似た音を、昨日私は聞いていて…でも私の方を見やったマホとアンリに、再び違う違うと手を振って否定。今のは…今のお腹の音は、私じゃない。
「今のって…もしかして、ロムちゃんとラムちゃん?」
ネプギアの問いに、ロムちゃんとラムちゃんはちょっとだけ恥ずかししそうにしながら頷く。思えばさっきネプギア達はお菓子を食べていたけど、六人で分けていたから食べた量は然程多くないだろうし、あれから結構時間が経っているんだから、今の時刻的にもお腹が空くのは自然な事。同時に、二人のお腹の音で完全に雰囲気は緩み…ご飯にする?というネプギアの言葉に、私達は全員が頷く。
もう一つ、私は訊いておきたい事があったけど、それを訊く事は出来なかった。でも、別にいい。あまり息の詰まるような話ばかりをしていても疲れちゃうだろうし……女神として明るくいようとしている皆は、一見自然に振る舞っているようでも、その実張り詰めている部分がある筈。だったら引き留めず、訊くのはまた明日にでもしよう。…私は明日も、その次も、もう皆の力になると決めたんだから。
*
この仮想空間に入ってから三日目、プラネテューヌに来てからは二日目の朝。昨日の夜に続いて、朝も私達は皆で食事を摂り、一服し、今日もマホとアンリを手伝う形で昨日回らなかった場所の通信状態確認へ出ようとした。その事をネプギアに伝え、プラネタワーの外へ向かおうとした…その時だった。
「あ、ごめんなさいオリゼさん。ちょっと失礼します……え?」
話している途中で、ネプギアの携帯端末…Nギアへと入った連絡。それを受けたネプギアは、驚きの声を上げ…すぐに表情が険しくなる。
「…分かりました。すぐに派遣の準備をして下さい。わたしも状況確認の為に先行します」
明らかに何かあったのだと分かる、ネプギアの返答。短いやり取りを終えたネプギアは、Nギアを太腿のホルダーに仕舞い…座っていたソファから立つ。
「…ネプギア、何事?戦闘?」
「いえ、戦闘ではありませんが……場合によっては、それもあり得ます。…結界の外の街、そこで避難待ちをしていた人達から、連絡があったんです。一部の人が、もう限界だからと出ていってしまいそうだって」
「……!」
今の説明では、状況の全ては分からない。全てを理解するには、今の私には情報のピースが不足している。それでも今の内容から、ネプギアの新刊そのものの声音から、一刻を争う自体である事は伝わってきた。
同じ内容をユニやマホ達にも伝えてほしいと言って、ネプギアはバルコニーへ。走りながら女神化をし、そのまま飛び立つ。
(…ネプギア…そういえば、前も……)
一人で先行するネプギアを、見送る形になった私。状況が状況だし、何より迅速さが求められるのは分かるけど…女神の姿で私がネプギアと対峙した時も、ネプギアはユニ達が来るのを待つ事なく、攻撃を開始した。やっぱりネプギアも、それだけ心の余裕がないという事か、それとも……。
「……いや」
そこで私は思考を止め、振り返る。頼まれた通り、皆にこの事を伝える為、その後を追う為に、廊下へと出る。
考えるのは後。やるべき事は一つ。いつだろうと、どこだろうと、人を助けるのが女神ってもの。そして…力になり、支え合うのが、仲間ってものなんだから。
今回のパロディ解説
・〜〜某精霊の祭りが行われる村〜〜
ドラゴンクエストⅥ 幻の大地に登場する村の一つ、ライフコッドの事。モブの農夫が農具でモンスターと戦っている…というのは、結構ネタにされていますよね。
・「〜〜そんな強く〜〜やぶけちゃう〜〜」
進撃の巨人の主人公、エレン・イェーガーの台詞の一つのパロディ。別に名言でも迷言でもないですが、何故か人気になった台詞ってありますよね。これもその一つだと思います。
・(…納得は全てに優先する〜〜)
ジョジョの奇妙な冒険 スティール・ボール・ランの主人公の一人、ジャイロ・ツェペリの代名詞的な台詞の一つのパロディ。正しいか否かは別として、ぱっと聞いて分かるなぁ、と思える台詞ですよね。
・「〜〜うちのカミさんがね〜〜」
刑事コロンボの主人公、コロンボの代名詞的な台詞の一つの事。最後にもう一つ質問を…というのも、コロンボを思わせる台詞です。後、イリゼにカミさん(妻)がいたら流石にびっくりです。