英雄、銀の咆哮を穿つ ~舞踏装甲姫ミステイル~ 作:東出八附子
また助けられた。また助けられなかった。
マヒロは、幼少の頃に死んだ両親を連想し、怒りと悲しみ、後悔の念で胸がいっぱいとなっていた。
自分を守るため、命懸けで助けてくれた父と母。そして、他人である自分を自らの命と引き換えに託してくれた少尉。皆、立派な大人だった。でも、良い人ばかりが先立っていく。
「畜生……いつもいつも躊躇無しで人間を殺しやがって……あんまりだ……!」
少尉より託された<キャサード>の中で、マヒロは涙を滲ませる。マーキュリアの理不尽な凶行に憤りながらも、淀みのない動きでコンソールを操作していく。1秒でも早く、少尉を殺したマーキュリアどもを駆逐したい。そんな怒りで頭が一杯になっていた。
「自爆モード解除……完了! 戦えるっ!」
その宣言は、<キャサード>が操縦可能になった合図。マヒロは怒りに任せて操縦桿を握りしめ、機体を無理やり立ち上がらせる。
あいつらに一泡吹かせてやる。反撃だ。
「痛っ」
不意に、手首に痛みが走った。まだ嵌ったままの手錠の痛み。先ほどのハンドガンの連射による関節や筋肉の痛み。不釣り合いなグリップサイズの操縦桿を無理やり握りしめた痛み。
その痛みに気を取られ、視線が手元に向く。そして、コンソールに刺さった少尉のドッグタグが目に映った。
怒りに満ちた心が凪いでいく。マヒロは思い出したのだ。自分がやるべきことを。
(違う……僕は敵を倒すために、この機体を託されたんじゃない)
手首の痛みと、少尉の形見。まるで少尉が自分の手を叩き、反省を促しているかのような感覚だった。
もう、マヒロは間違えない。
(僕は生き延びなきゃいけないんだ)
殲滅から、生存へ。マヒロは完全に心を切り替えた。
「……整備用プログラムアクセス」
機体の状態をチェックする。データを確認しながら最善の動きが行えるよう、ダメージコントロールと機体調整を行っていく。
「右足首関節部微損。ダメージ関節部を
「上半身、右腕欠損……緊急脱出装置、異常あり。ジャイロ調整……感度最大……操作補正カット、
爆発の余韻でもうもうと立ちこめる煙の中で、桜色の光芒を放つ獣の影がちらついた。敵が近づいている。やがてその影は煙の中から飛び出し、<キャサード>に向けて疾駆する。
「頭部機関砲、残弾は連射3秒ぶん……放電ナイフ、バッテリー残存よし。
だがマヒロのペースは一切乱れない。口早に復唱しながら、現状把握と調整に集中する。
ベストな選択をいつでもできるように、少しでもベストなコンディションに整える。ただそれだけを目指して。
「スクリプ粒子
整備用プログラムをオフにして、マヒロが外部カメラの映像に注目する頃には、敵は残り数十mという距離にまで迫っていた。
小型マーキュリアの群れだ。犬の形をした
マヒロは<キャサード>の頭部にある機関砲を起動させた。がちん、と音を立て発射口のカバーが開く。そして、小型の群れに向けて射撃を開始した。毎分1500発の連射速度を誇る機関砲が唸りを上げ、小型たちの体を次々と粉砕する。残り弾薬を節約するため、背中に懸架したライフルは使用しない。機関砲のトリガーを引く時間を最小限に、指切り撃ちで確実に撃破していった。
そして、機関砲の残弾を半分ほど使い、最後に撃ち漏らした猿のマーキュリアを左手で弾き飛ばして撃破したところで、戦闘が終わった。しかし気は抜かない。なぜなら、群れの中にリーダー格であろう
ライフルを前方に向けて臨戦態勢を保ち、ゆっくりと後退しながら警戒を続ける。
(奴らが人間を見逃すはずがない……いたっ!)
マヒロは視線を感じて、意識と外部カメラのピントを戦場の奥地に合わせた。
横転したトラックの上に立ち、爆煙を背にしながらこちらを観察する1匹の
そいつは高みの見物をするかのように、<キャサード>を見つめていた。
(僕を観察している?)
人間を殺害することを第一目的のマーキュリアらしからぬ行動だ。違和感を肌で感じつつも、1発お見舞いするべく、
放たれた銃弾は、
「なっ!?」
その結果に、マヒロは驚いた。ただし、相手が弾を避けたからじゃない。
「
所詮、マーキュリアは機械である。人間を越える反射速度と金属の強靭さを武器とした鋼の獣だ。自らの身体が傷つき撃破される危険を感じるまで攻勢を止めない。
だが奴は万全の状態だった。距離を詰めることはあっても、後退はあり得ない。
(見覚えのない習性……なんかあいつ、変だ)
背中がぞくりと感じるほどの大きな違和感。ここに留まっていてはいけないと心が告げている。根拠は無い。ただの勘だ。だがその勘が、自分を生き残らせる大事な要素であることを、マヒロは理解していた。
だからこそマヒロは、戦場から全力で離脱することを選んだ。<キャサード>を反転させ、機体に負荷をかけない程度の速度で走り始めた。離脱中も警戒は怠らない。全ての武装を即座に使用できるよう、意識を向ける。
そして、マヒロの勘は当たってしまう。疾走からすぐ、退路上に敵機が現れたのだ。
オリーブグリーンの機体色。右肩に城塞マーク。左肩に五角形の
「
それは紛れもなく、敵による「待ち伏せ」であった。