英雄、銀の咆哮を穿つ ~舞踏装甲姫ミステイル~ 作:東出八附子
尻尾付きの少女——ラッテに巻き込まれる形で
名前、住所、仕事など、ごく基本的な個人情報。そしてラッテと出会った経緯。出された質問に対し、マヒロはできる限りの情報提供で対応した。
ぞんざいな扱いを受けたとはいえ、彼らと敵対する理由も無い。そのうえ、マヒロも現状を把握しきれていない。たとえ不利な結果になろうとも、今は従順が最善の策であった。
「——よろしい。協力、ご苦労」
オリーブグリーン色の軍服を着た壮年の将校は、淡々とした口調で聴取を締めくくった。ホッと胸をなで下ろすマヒロ。歩兵輸送用の軍事トラックの幌の中、後ろ手でベンチシートに拘束されたままの質問攻めは、いくつもの荒事を乗り越えてきたマヒロでも慣れないシチュエーションだ。
「君の立場はおおよそ理解した——つまり、我々の騒動に巻き込まれただけ、と。災難だったな」
ようやくの解放を期待するマヒロだったが、その様子は全く見られない。幌の出入り口でマヒロを監視する女兵士や、将校の横で調書を取るもうひとりの女兵士もまた、マヒロを絶対に逃さないとばかりに視線を向けている。
将校は、萎縮するマヒロの近くにパイプ椅子を置き、座った。大仰な動作で足を組む。
「無関係と分かっていただけたなら、拘束を解いていただけると——」
「拘束を解いたら、君は牢屋や処刑場まで大人しく歩いてくれるかね?」
「………………」
「もはや後戻りできない立場なのだよ、今の君は。我々への
心を縛り上げるかのように張り詰めた声で返答する将校。その返答に対し、マヒロは咄嗟に上手い返しを思いつかなかった。
「君は我が軍で拘束させてもらう。だが理由も無しでは大人しくもできまい」
バリトン歌手のような低い声は、簡易取調室と化した軍用トラックの幌内によく響く。マヒロは、その威圧的な声をただ受け入れるしかない。
将校による状況説明が始まった。
「我々
マヒロは心がざわつくのを感じた。ラッテを全く人間扱いしていない。その露骨すぎる嫌悪が、マヒロには受け入れがたかった。
「たったひとりの女の子を連れ戻すのに、随分と大所帯じゃないですか。それも特殊部隊が直々に」
「
「国家機密……」
「君に話せるのはここまでだ」
思わず邪険になってしまったマヒロの指摘に対し、将校はうんざりした面持ちで言った。
人間の少女に生えたマーキュリアの尻尾——そんなインパクトの強いビジュアルを目にしている以上、将校の説明に納得せざるを得ない。
「その機密、随分とバレてるんじゃないですか? 随分と歩き回っているように見えましたけど」
「心配無用。あれは自分がどれだけ危険な立場なのかを弁えている。そのように
将校はニヤリと笑いながら、得意げに語った。
「だが君はその国家機密を知った。一般国民の誰もがまだ知らない秘密を、一介の
「……いつまでですか」
「我々が良しとするまで、未来永劫」
「そんな!」
無慈悲な宣告を聞き、マヒロは一瞬、めまいを催した。『
ラッテが撃たれた直後の言葉を思い出す。マヒロに「ごめん」と謝った理由は、マヒロが拘束されるか、口封じされることに対してだったのだ。
「私としては、拘束で済ませているだけでも穏便な判断と思っているがね。なにせ君には感謝しているのだから」
「感謝だって?」
「あれはたいそう敏感でな。気付かれずに接近する手立てがなかなか見つからなかった」
将校は立ち上がり、マヒロの傍までゆっくりと歩み寄ると、肩に手を乗せた。
「そんな折に、君という存在が現れた。あれの関心を引き、足を止め、隙を晒させたのだ。おかげで楽に包囲網が敷けた。任務もスムーズに達成できたよ。ゆえの拘束止まり、ゆえの状況説明——私なりの温情だ。いますぐ
「この……何様のつもりだっ!」
自分すら人間扱いしない態度に我慢ならず、マヒロは声を荒くして叫んだ。立ち上がろうとするが、ベンチシートと繋がれた手錠がギシリと音を立て、マヒロの手首に食い込む。
マヒロの無意味な抵抗を鼻で笑いながら、将校は腰のホルスターからリボルバー拳銃をゆっくりと引き抜き、マヒロの頭に狙いをつけた瞬間、マヒロは冷静になった。もちろん、女兵士たちの銃口も、しっかりとマヒロに向けられている。
「神様を気取るつもりはないがね。だが、他人の生殺与奪を握れる程度には偉大だと思っているよ。権力こそ正義——それがこの時代の真理だ」
リボルバーの撃鉄が起こされる。マヒロの頭を躊躇いなく撃ち抜くことが予感できる、きわめて冷徹な瞳だった。
その瞳を、マヒロが睨み返す、その最中。
「何事ですか、大佐!」
一触即発の緊張感の中で、少尉と呼ばれた男性の兵士が怒号と共に割り込んだ。