英雄、銀の咆哮を穿つ ~舞踏装甲姫ミステイル~ 作:東出八附子
アインザム・ゲイトの人生を表す言葉は『喪失』であった。
軍人の名家に生まれ、一族の期待を背負い軍務に就くと、数々の功績を打ち立てて出世街道を走り抜けた。良縁にも恵まれ、妻と2人の子どもを家族に迎えた。地位も名誉も我がものとした、まさに生まれた時から栄光を約束された男であった。
しかし、その栄光は儚く消え去ることとなる。転機は
いわば人間のクズである奴らを葬り、手柄を立てるチャンスであった。ゲイトにとって、ただの通過点。勲章をひとつ増やすだけの単なる業務だ。
だが、失敗した。作戦は順調だったが、内通者による裏切り、そして予期せぬマーキュリアの介入により一気に劣勢へ。そして調子づいた『
ゲイトは捕らえられ、激しい拷問を受けることとなる。『
大規模作戦の失敗による罰則は、彼の一族すらも巻き込む重いものであった。降格処分。多額の補償金の支払い。信用と地位の失墜。地方左遷。世論からの批判——考えうるすべての処罰を一身に浴びせられた。
不幸はまだ続く。帰還を喜び、迎え入れてくれる筈だった妻と子ども達。彼女らは既に亡き者となって墓石へと姿を変えていた。
こうして、アインザム・ゲイトという男は地位と名誉、そして家族を失った。誰もがゲイトという男の消失を確信していた。
しかしゲイトは腐らなかった。尋常ならぬ執念で功績を積み上げ、またたく間に地位を取り戻した。
その手腕はまさに非情。世論操作。軍事工作。要人暗殺。自分の地位を押し上げるために謀略の限りを尽くした。その徹底した実益主義が功を奏し、
アインザム・ゲイトは復活を遂げた。もはや彼が軍役を退くことは無いだろう。
自分の地位と名誉を奪った、
奴らを地球上から根絶する、その日まで。
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そして現在。アインザム・ゲイトは、とある任務についている。脱走した
任務の半分となる回収を終わらせた彼は、側近の兵士2名を引き連れ、『TAIL1』が収容されたトラックの中へ移動していた。『TAIL1』の様子を把握するためだ。
『TAIL1』の全身は囚人用の拘束衣により完全に固定され、ぐったりと
(見世物としては上出来か)
ゲイト大佐は『TAIL1』を忌々しげに睨みつけながら、心の中で呟いた。見た目は麗しい美少女である。拘束趣味を持つ客層であれば多額の金が動きかねない光景だ。事実、側近の男女2名の兵士は『TAIL1』に尋常ならぬ視線を送っているほどである。
その様子に鬱陶しさを覚えつつ、ゲイトは『TAIL1』の拘束を担当している科学者に質問した。『TAIL1』の
「目覚めるまでの予想は?」
「麻酔の投与量から計算すると、約24時間後です」
「なるほど。私は臆病になりすぎたようだ」
捕獲の際、万全を期すため、多めに麻酔を打ち込むように指示を出していた。相手は人外。人体の常識は通用しない。臆病でちょうど良いのだ。
『TAIL1』とゲイトの関係は浅い。『TAIL1』の軍事演習に、監査役として数回立ち会った程度である。その際の彼女は命令に忠実で、手際よくマーキュリアたちを撃滅する兵器であった。違反などとは皆無な、不気味なほどに優秀な兵士であった。
だからゲイトは『TAIL1』をよく知らない。知らないまま命令を遂行している。
任務を早く終わらせ帰投したいゲイトは、『TAIL1』の身体にナイフを突き立て、血を抜いて麻酔の効果を薄めたい——そんな野蛮な衝動に駆られた。しかし上層部から、可能な限り無傷での確保を求められている。手出しができず、もどかしい。
眺めていても
「う……」
『TAIL1』からうめき声が聞こえた。直後にゲホゲホと咳込むと、赤い血の混じった唾液が床に飛び散った。気を失う前に、気付けのため舌を噛んでいたようだ。その程度の小細工でどうにかなる量の麻酔ではなかったのだが——と、大佐は内心で舌を巻く。報告と違う結果を問いただすように、ゲイトが科学者をひと睨みすると、彼は怯えて身をすくませた。
「やはり化け物か」とゲイト大佐は呟くと、即座に『TAIL1』の元へ詰め寄り、彼女の目前に立った。
「起きろ」
ゲイト大佐の冷たい声が響くと、『TAIL1』は項垂れたまま薄っすらと