夜。
テレビでは特集番組が流れていた。
《仮想世界で生まれる恋愛感情》
VR技術の発展。
ゲーム内結婚。
現実を超える絆。
そんな内容を、司会者達が面白おかしく語っている。
男はソファに行儀悪く寝転がりながら、コンビニで買ったエクレアを食べていた。
特に興味があるわけじゃない。
ただ、リモコンを取るのが面倒でそのまま流しているだけだった。
画面では、VRMMOで出会って実際に結婚したカップルへのインタビューが始まる。
『最初はゲーム友達だったんですけど』
『気付いたら毎日一緒にいて』
『現実より、あっちの世界の方が本当の自分になれたんですよね』
幸せそうに笑う二人。
その様子を見ながら、男はぼんやりとコンビニで買ったエクレアを咀嚼する。
甘い。
悪くない。
だが次の瞬間、ぽつりと独り言が漏れた。
「……バーチャルの世界でくっついて意味ある?」
特に深い意味はなかった。
皮肉でも、否定でもない。
本当に純粋な疑問だった。
どれだけ現実世界のそれに近づけても互いに本来の姿や声を交わした訳ではない。
それで本当に愛情というのは生まれるのだろうか。
男は自分でも少し考える。
SAOのログでは、《キリト》もアスナとゲーム内で結婚していた。
家を買って。
一緒に暮らして。
未来を語っていた。
ログによれば結婚してからの期間は二週間という短いものだったらしい。
だが少なくとももっと長い時間をかけてそこに踏み切るまでの互いの絆を育んだのだろう。
データ上では、それは確かに“本物”だったのだろう。
でも今の自分には分からない。
仮想世界。
プログラム。
アバター。
そこにどれだけ感情を乗せても、結局ゲームではないのか。
テレビでは専門家が語っている。
『人間の感情にとって、現実か仮想かは本質ではありません』
『共有した時間や経験が重要なんです』
男は小さく鼻を鳴らした。
「ふーん」
適当な返事。
でも否定する気にもなれない。
実際、《キリト》にとっては意味があったのだろう。
デスゲームの中で命を懸けるくらいには。
男は食べ終えたエクレアの袋を丸める。
ふと、ログで見た木造の家を思い出した。
アスナと並んで座っていた《キリト》。
穏やかな笑顔。
あれは演技には見えなかった。
男はしばらく無言になる。
そして数秒後、小さく肩をすくめた。
「……まぁ、本人達が満足なら別にいいのか」
それだけ呟く。
テレビの中では、まだ“運命の出会い”について盛り上がっていた。
男はその音を聞き流しながら、新しくプリンの蓋を開けた。