キリトがナーブギアに脳を焼かれ記憶を全て失ったら   作:富福

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駅前の喧騒の中。

アスナは、ようやく会えた相手を呆然と見つめていた。

けれど次の瞬間、その視線が下へ落ちる。

「……足」

男の右足。

不自然に庇っている。

立ち上がろうとして、僅かによろめいた。

「やっぱり怪我してるの……?」

男は露骨に嫌そうな顔をした。

「別に大したことない」

「大したことなくないでしょ!」

思わず声が強くなる。

男は眉をしかめる。

「うるさいな……」

再び立とうとする。

だが足に力を入れた瞬間、

「っ……」

鋭い痛み。

顔が歪む。

そのまままたバランスを崩しかける。

咄嗟に転倒から身を庇うように手を出そうとする。

それより速くアスナは反射的に腕を掴んだ。

「危ない!」

「触るなって――」

振り払おうとする。

だが踏ん張れない。

足が言うことを聞かない。

その隙に、アスナは半ば強引に肩を支えた。

「じっとして!」

「……」

男は露骨に不機嫌な顔になる。

だが実際、一人で立てる状態ではなかった。

急に走り出そうとしたのが悪かったのか、足首の痛みがぶり返してきたようだ。

人混みの視線も集まり始めている。

アスナはそんな周囲を気にする余裕もなく、必死だった。

「いつからそうなの!?」

「一昨日」

「病院は!? 診てもらったの!?」

「捻挫」

「なんでそんな状態で普通に歩いてるの!?」

「歩けるから」

「そういう問題じゃない!」

やり取りだけ見れば、昔からの恋人同士とまではいかなくとも親密な関係みたいだった。

アスナの表情には心配や焦りが滲んでいる。

だが男の表情だけが決定的に違う。

困惑。

疲労。

居心地の悪さ。

まるで知らない人に過剰に心配されているみたいに。

男は小さく舌打ちする。

今度はそれに怯まずアスナは真っ直ぐ視線を逸らさない。

「……離して一人で立てる?」

「…無理」

しばしの沈黙の後に観念したように男は答える。

それを聞いてアスナはさらにしっかり支える。

男は数秒抵抗しようとして、諦めたように息を吐いた。

「……めんどくさ」

「そんな言い方しないで」

震える声だった。

男はそこで初めて、少しだけアスナを見る。

近い。

近すぎる。

この距離感が当たり前だった相手なのだろう。

《キリト》にとっては。

でも今の自分には、どうしても落ち着かない。

アスナの目は、ずっと自分だけを見ていた。

失くしたものを、必死に確かめるみたいに。

男は視線を逸らす。

「……プリン拾って」

ぽつりと呟く。

あまりにも締まらない一言だった。

アスナは一瞬ぽかんとして、それから小さく笑いそうになる。

泣きそうな顔のまま。

「……うん」

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