月末。
男はATMの明細を見ながら、小さく頷いた。
「……やっと入ったか」
そこに記載されたのは先月のバイト代。
そこまで多くはないが、今月はまずタクシー代を返そうと思っていた。
借りは嫌いだ。
特に、ああいう形で世話になったままなのは落ち着かない。
男はスマホを取り出す。
《結城明日奈》
送金方法でも聞くか、と考えたその時だった。
着信。
相手はアパートの管理会社。
嫌な予感しかしない。
数分後。
「……マジか」
部屋のエアコンが壊れていた。
修理が必要とのことだった。
想定外の出費。
なぜよりによってこのタイミングで。
ただでさえギリギリだった口座残高が、一気に削られる。
さらに追い打ちみたいに。
スマホ料金。
保険。
細々した引き落とし。
全部まとめて来た。
男は部屋へ戻り、通帳アプリを見つめる。
沈黙。
「……終わった」
ぽつりと呟く。
返済用に確保していた金が、綺麗に消えていた。
今月の生活費を出せばもうギリギリだ。
ソファへ倒れ込む。
天井を見る。
どうするべきか。
選択肢を考える。
親に相談。
「無理」
即却下。
あの家へ連絡するだけで気力を使う。
しかも理由が“金欠”は普通に嫌だった。
しかも足を怪我してアスナにタクシー代を出して貰ったなんて特に言いたくない。
となると。
「……食費削るか」
静かな結論。
別に飢え死にするわけじゃない。
しばらく安いもので凌げば何とかなる。
ケーキや和菓子、あとコンビニデザートなどを控えればかなり浮く。
そこまで考えて。
男は数秒黙った。
「……いやでも」
葛藤。
かなり真剣な葛藤。
冷蔵庫には期間限定プリン。
テーブルにはポイントカード。
それに今月は今月で楽しみにしていたコンビニスイーツの新作などもあった。
男は顔を覆う。
「……地味にキツいな」
呟きが妙に情けなかった。
命懸けのデスゲームを生き残った男とは思えない悩みである。
だが今の彼にとっては割と重大だった。
アスナへの返済。
生活費。
そして甘いもの。
天秤にかけた結果、男は深くため息を吐く。
「……今月だけ我慢するか」
その声には、心底名残惜しそうな響きが混じっていた。
別にアスナからはいつまでに返せなど言われていない。
彼女は恐らくそんなことは言わないだろう。
だからといってそれに甘えて引き伸ばすような真似はしたくない。
ため息をつきながら脳内で今月をどう乗り切るか考える。
「もうちょい日頃から貯金とかしとくべきだったかな」
記憶のない自分などいつどうなってもいい、そんな思いで普段から生きていた。
それがこんな形で返ってくるとは思いもしなかったと、男はまたため息をついた。