バイトや何の用事もない休日。
部屋の隅には、ゲーム機が積まれていた。
据え置き機。
携帯機。
VR対応デバイス。
SAO事件の反省を踏まえて開発されたアミュスフィアという次世代ハード機。
全部、菊岡が「リハビリになるかもしれない」と持ってきたものだった。
あるいは、《キリト》なら反応すると思ったのかもしれない。
男は特に期待もせず、一通り触ってみた。
剣を振るゲーム。
RPG。
FPS。
オンライン対戦まで試した。
だが。
何も感じなかった。
勝っても達成感がない。
負けても悔しくない。
画面の中でキャラクターが笑っていても、ただのプログラムにしか見えない。
他のプレイヤーとの交流もすぐに切り上げた。
VR、仮想世界。
かつて二年間閉じ込められていた世界。
命を懸けて戦ったはずの場所。
同時にそれ以前から桐ヶ谷和人はフルダイブ技術そのものに強い興味を持っていたらしい。
なのに今は、全部が薄っぺらかった。
ふとあるVRMMOをプレイしてみた。
もしかしたら続けてみれば少しは興味が湧くかもしれないと根気よくプレイしてみた。
レベルを上げクエストをこなし、装備を揃えた。
そして遂に最初のボス戦まで辿り着き、挑む。
あえて適正レベルギリギリでソロのままで臨んだので、中々に苦戦した。
派手な効果音。
攻撃パターンを覚え、回避してタイミング良く攻撃。
そうしてしばらくの奮闘の末、ようやくボスを倒せた。
祝福の表示。
《Congratulations》
《LEVEL UP》
獲得したボスドロップや戦闘にかかった時間などのリザルト。
無言。
数秒見つめた後、そのままログアウトしアミュスフィアを頭から外す。
部屋が静かになる。
男は積み上がったゲーム機達へ視線を向けた。
そして何も言わず、段ボールへ詰め始める。
コードをまとめる。
ソフトを入れる。
蓋を閉じる。
淡々とした動作だった。
翌日。
マンションの粗大ゴミ置き場。
朝の薄い空気の中、男は段ボールを静かに置いた。
《ゲーム機類》
貼られた処理シール。
しばらくそれを見下ろす。
もし《キリト》なら。
きっと新しいゲームに目を輝かせたのだろう。
VR世界へ飛び込み、誰より夢中になっていたのかもしれない。
でも自分には無理だった。
何も感じない。
現実も。
仮想世界も。
全部、どこか遠い。
男はポケットに手を入れたまま踵を返す。
去り際、一度だけ後ろを見る。
積まれたゲーム機は、まるで誰かの遺品みたいだった。
男は小さく目を伏せる。
それから何も言わず、朝の街へ溶けるように歩き去っていった。