13 運命
「エマ、急ぎだ!
回線は何でもいいアシュクロフト少将へ繋ぎたい、通信室と回線は空いてるか?
…緊急だ!」
臨時回線は受付が一元管理している。
普段使っている秘匿回線やミーティングルームも同様だ。
エマ嬢は俺の剣幕に目を丸くしながら黙ってしまった。
「しょ~さ〜…少佐!
エマさんが困ってますって。
今、情報統制のせいで、秘匿回線はおろか一般回線ですら規制されています」
カーターが追いかけてきた。
エマは残念そうに頷く…
俺は拳をテーブルに叩きつけそうになり、エマ嬢の怯えた顔をみて手を止めた。
「……くっどうにかして少将との連絡を取りたい……方法は……
何か無いのか!」
俺は苛立ちが隠せず声が大きくなってしまった。
「少佐、可能性はありますよ。
補給に使ってる固定回線は、まだ規制の対象に入っていません!」
「補給用固定回線?」
「クロスさんの所を経由すればおそらく…」
「早く言え!
直ぐに向かうぞ!
って事でエマさん通信室の空きありますか?」
黙ってエマ嬢がカードキーを俺に手渡してくれた。
……
………
モニターにクロスが映った。
『おぉ、これはこれは…
この上司にしてこの部下ありの師弟ではないですか?』
いきなり、嫌味モード全開?どうした?
「クロス、何か言いたいのなら直接言え…今は時間が惜しい」
画面のなかのクロスが固まる…
『本当、お前らムカつくな…
何か?お前のとこの部下だろ、そこのカーターってのは』
「カーター…何があった?」
カーターは首をかしげた。
『分かってねーのかよ!
通信だって呼び出されて来てみたら、てめぇの聞きたいことだけ聞きやがって!
一方的に通信切りやがったんだぞ?分かってるのか?』
クロスが起こっているのはもっともだ…
しかし、カーターとしては本当に時間が無かった…俺のせいでもある。
「すまん…俺が急がせた」
「まったく、カーター…バーク…
優秀なのはわかるけど、そこまで似せるな!
常識をちゃんと教えとけ!
まぁ、この件は終わりだ…
悪いが、もう一つクレームだ!
手短に話すからちゃんと聞け!」
時間が惜しい。
大人しくしているしかない。
黙っている事を肯定と捉えたのか話し始めた。
『アシュクロフト少将って知ってるな…』
「あぁ、まさにそのこと…」
『先ずは聞け!!』
クロスが手を上げて俺を制した。
『俺の所に連絡があってな、ソロモンの立て直しを行う。
お前の力を借りたい手伝え…
だとよ…
何で俺のことを知ってるのかって聞いたら『ハーディングを引き抜こうとしたら、俺よりも優秀だって、お前を勧められた』
だと……
迷惑だ!
まだ補給が8割しかできてないんだぞ?
わかるか?』
「8割終わってるのか?
凄いな……
いや、少将…ソロモンに居るのか?」
『あぁ、別室にいるぞ…
呼ぶか?』
「頼む」
モニターからクロスが消えると無言のままカーターと視線を合わせた。
程なくして、クロスが現れ…アシュクロフト少将も姿を見せた。
「……ご無事で……
…ご無事で何よりです」
少将の顔が少し歪んだ。
『将軍からな、ソロモンを早急に使えるようにしてくれと頼まれてな……』
初めて見る苦悶の表情だ…
「では…レビル将軍は…」
『うむ…デギンを道連れに鬼籍に入られた…』
返す言葉に詰まる。
将軍は長年の盟友だったのだろう。
「……そうですか…」
俺は言葉を絞り出した。
『しかし、良く通信が繋がったの…情報統制をしているはずだが…』
隣を見ると、カーターの表情が少し硬い。
人を食ったように飄々としているカーターですら、少将の前では緊張するらしい。
「補給用通信回線は、まだ使えますです。」
『そうなのか、人のやることだ、完全には程遠いな……』
少将が寂しげに見える。
「少将、込み入ったことをお聞きして大丈夫でしょうか…?」
『うむ…
ジオンも今頃は盗聴どころではないだろう…
許可する』
「ありがとうございます。
少将の進めておられた『和平交渉』これは……」
暗く疲れた顔…一瞬の間があった。
『…そう…失敗じゃな……』
言葉が出ない。
和平工作…
このタイミング…
成功する確度は決して低くなかったはずだ……
全てはあの光が呑み込んでしまったと言うのか……
『ハーディング君』
顔を伏せたまま…それでも静かに続ける。
『デギン亡きジオン、戦局はどうなると考える?』
アシュクロフト少将…
その目は死んではいなかった。
「……どうでしょうか…」
俺は言葉を選びながら思考を整理する。
「……ギレン・ザビ……
偉大な父と言う『抑え』が外れた今……」
……
考えがまとまらない…
「戦局は…泥沼?
和平への道筋が想像できません…」
俺は素直に言葉にした。
『じゃな、私も同意見だ』
少将が決意に満ちた顔に変わった。
『ハーディング少佐。
サイド3での決戦を見据えた作戦行動立案を命じる』
俺は顔を上げ背筋を伸ばした。
『ただし…現在の連邦軍にはもう人材、物資……余裕など一切ない…
可及的速やかにサイド3を占拠、占拠後ザビ家の私財を抑えることを念頭に立案せよ』
……その命令の意味を理解した瞬間…
鼓動が1瞬止まった。
体は鉛のように重くなった。