16 闘い
概要を詰めたところで俺達は急いで行動に移して行く…
もう後戻りする余裕は無い…
足りないところは走りながら考えるしか無いのだ。
「バーク!アナハイム社とは面識あるな?」
「ジャブロー付きの責任者なら大丈夫っす」
「ではカーターと共にまとめたものを早急に形にしろ、時間的余裕は無い、多少高くついても金で抑え込めるなら構わん、なんとかする」
「俺もですか?」
カーターが不思議そうに顔を上げた。
「本来なら俺が行きたい所だ、1人だと間違えもあるかもしれん。コンセプトさえ合っていれば多少の事は2人に任せる」
2人は今まで書き殴っていた資料を纏めると急いで部屋を出ていった。
「マーサ、少将と通信して来る。
その後まだ忙しくなるから少し休んでいてくれ」
マーサは目を丸くし深々と頭を下げてきた。
俺もそれに尻目に部屋をでた。
受付のリンダ嬢から通信室のカードキーを貰いクロスを呼び出す。
クロスと共にアシュクロフト少将が画面に出てきた。
「少将、サイド3無血占領計画、
概要が固まりました。
現在、製造中のモビルスーツ10機を改造します。
少将にはモビルスーツパイロットを10名と作戦開始時に外の陽動をお願いいたします」
少将…いや前線は忙しく動いているのだ、疲れた顔は皆そうなのだろう。
『うむ…今は詳細を聞いている時間はない。
考え抜いたいい顔をしているな…
良いだろう、信用してやる。承認しよう。
存分に手腕を示せ』
通信中、少将の元へメモが届いた。
少将は一瞥するとコチラを見据え…姿勢を正した。
『ア・バオア・クーの戦端が開いた。
ハーディング、間に合わせろ』
一方的に通信は切られた。
本当に時間が無い。
ア・バオア・クーの戦端は開いてしまった。
だが、ソロモンに続いたア・バオア・クー戦。
大規模行軍の連戦だ、これ以上は流石に一旦ブレイクしないと。物資が底をつく…短い会話だった。
第4会議室へ戻る…すっかり自分達の事務所より、ココにいる時間の方が長くなってしまっている。
扉を開けると…空気が入れ替わっている…
淀んだタバコの煙は排気され、吸殻で溢れていた灰皿は綺麗に片付いて…部屋の隅にあった食い散らかされた食料品は整然と並べられている。
「少佐、早かったですね、目的は果たせました?」
マーサが目をこすりながらコーヒーを持ってきた。
「あぁ、最低限の承認はもらった…
ア・バオア・クーの戦いが始まった…もう後戻りはできない」
「はい、とりあえずコーヒーよりもコチラでしたか?」
マーサのポケットからドリンク剤が出てきた。
「そうだな、両方もらおう」
俺はドリンク剤を飲み干すと、コーヒーを片手にズムシティの地図を眺める。
ハッチからの最短ルートを落とし込む…
1箇所からの突入が良いのか?
それとも複数箇所から同時に?
俺は何本も薄く戦を引いていく…
改めて思う…アシュクロフト少将がソロモンに居てくれて本当に良かった…
おかげで、予算、パイロット、軍艦への陽動等の雑事?が丸投げできた。
ならば俺のすることは、可能な限りわかりやすい作戦ルート、困ったときの行動指針を早急に取りまとめることだ!
カーターが戻ってきた。
「バークはもう少しかかります。
ガンキャノンはキャノン砲のついていない状態の物が10機確保できました、装甲板を張るだけなので決戦迄には何とかなりそうです。
ハルバードなのですが1本は何とかなります…
他は槍のような形状になります」
……
………
俺はタバコを吸いながら首を揉んだ。
ホワイトボードには大きく
『サイド3無血占領計画(低予算)』
議論が白熱する度に何度となく丸で囲んでいる。
その下に両腕に小さな盾を付けた雑なモビルスーツの絵が貼り付けられている。
横にはハルバードの絵と棒の先が鋭くなった槍まがいの絵も見受けられる。
バークがアナハイムとの打ち合わせ時に決まったこのガンキャノン…ガンもキャノン砲もついていない。
今はこの機体の基本戦術を決めようとしているのだ…
「ハルバード…斧で叩けば相手に被害が出るでしょう。
だから戦闘になったら斧の方は使わずに柄の方で殴りつける、突く、払うでどうでしょう?
コレならハルバードと槍で武器を替えたとしても、同じ攻撃パターンを学習させればデータを短期間で作れるってメリットもあります」
「少佐?聞いてました?」
「すまん、コーヒー…」
「オレもコーヒーっす」
マーサが3人分のコーヒーを入れに壁際に移動すると…
エマが駆け込んできた。
「ハーディングさん!」
エマの声が、やけに遠かった。
「いま!戦争が……」
「戦争が、終わりました」
言葉が落ちた瞬間、空気が止まった。
誰も反応しない。
カーターが椅子の上で、何かを言いかけて止まる。
バークが口を開いたまま、言葉を失う。
音が、一段ずつ消えていく。
俺はその間も、地図を見ていた。
「……ここを三点同時に押さえて——」
声が出ていることに、あとから気づく。
「少佐……?」
カーターの声が、やけに小さい。
バークが机に手をついたまま動かない。
……何だ?
何が終わった?
俺はコーヒーに手を伸ばす。
カップが少しだけ揺れて、机に戻った。
「……終わった?」
その言葉が、自分の声だと理解するのに時間がかかった。
誰も答えない。
タバコに火をつけようとし手が、止まった。
世界が、そこでようやく追いついてきた。
音が、遅れて崩れた。
床が、やけに近い。
その時だった。
「……お疲れさまでした」
マーサの声だけが、いつも通りだった。
誰に向けたのかも分からないその一言と一緒に、コーヒーのカップが、そっと俺の前に置かれる。
湯気だけが、まだ現実みたいに揺れていた。