4 事務方舐めるな
カーターにとりあえず欲しい情報のポイントを説明し送り出す。
数時間後には驚く量の情報が上がってくるだろう。
コーヒーの薫りを嗅ぎ目を閉じていたはずが…
どうやら少しの間、本気で意識を手放していたようだ。
並々注がれているコーヒーは、すっかりぬるくなっていた。
一口すするも…薫りが無く酸味が強く…一言で言うなら不味い…
マグカップを流しへ運び、手を止める。
あいつが俺に熱々で淹れた理由くらい分かっている。
苦笑しながら、改めて黒い液体に視線を落とすと、俺は一気に飲み干し口を拭った。
そして俺は第4会議室へと足を向ける。
…
……
エレベーターの扉が開いたところで俺の足は止まった。
薄暗い廊下の先、第4会議室の扉が開いていて明かりが漏れている。
いや、俺の足を止めたのはそんなことでは無い、部屋内からの罵声?そしてボヤキ?
「ちょっと、まだ反撃型ファイアウォール2(ツー)の展開できないの?」
…マーサの声だ…
「いや〜待ってよ…
コレ手順多すぎだろ?
普通ここまでやらないぜ?」
嘆いているのはもちろんバークだ。
他にも机を並べる音や何かを移動する音が聞こえている…
複数人で作業をしている様だ。
「ほらほら、文句言わずに手を動かす!
カーターならもうとっくに展開終わって、ハーディング型仮想サーバーへの誘導接続まで終わってるわよ?」
反撃型ファイアウォール?
ハーディング型仮想サーバー?
聞いたことないワードが聞こえてきている。
驚いて立ち止まっていると、背後から声をかけられた。
「少佐、どうされました?」
カーターだ。
「カーター…
いま、マーサが反撃型ファイアウォールとかハーディング型?サーバーがなんだとかとか言ってなかったか?」
俺はこのチームで知らないことは無い…
は、言い過ぎかもしれないが、大概のことは知っているつもりだったのだが…知らない。
「あぁ、マーサの修羅モードですね。
少佐はご存じないかもしれませんけど、例のガルマ作戦からは、籠る時はこんな感じですよ?」
「反撃型ファイアウォールって何だ?」
「あぁ、俺が開発した攻撃を受けると、襲ってきたところへ自動的にハッキングするファイアウォールで、今はバージョン2です」
「じゃあ、俺の名前の入ったサーバーは?」
「あぁ、ファイアウォールが突破された時にミスリードする先にあるサーバーのことです」
「オレの名前?」
「あれマーサが命名したんですよ。(笑)
ファイアウォール突破した奴らが俺達のデータサーバーだと思ってドンドンデータを抜いて行きます…データ自体は10数年前に本当にハッキングされた本物の連邦軍のデータですから疑う奴は居ないでしょう…」
「それでなんで俺の名前が付くんだ?」
「実はこのサーバからダウンロードすると、裏で隠されたコマンドからわれわれ所有の民間のダミー会社へデータコピーする作業が勝手に始まります。
当然、お客さん側にはとんでもない負荷がかかりしばらくは処理速度が著しく落ちます。
原因を把握する頃には外のサーバーにコピーが完成…
気づかれて追跡されても感知した瞬間、ダミー会社のサーバーは自動的にダウン…
後日ゆっくりと我々はデータをまるっといただきます。
誰かさんみたいにいい性格してるでしょ?」
「ずいぶんと凄いプログラムだけど…過剰スペックじゃないか?
そこまでする必要あるとも思えんが…」
「少佐…ハッキングしてくるのは何もジオンだけじゃないんですよ?」
「……
まさか…」
「そのまさかです。
前回のオレが作った反撃型ファイアウォールを最初に突破してきたのは『連邦軍宇宙艦隊本部』でしたよ。
まぁ、途中に秘匿回線まで使ってあったので、辿るのに少し時間がかかりましたがね…
いや〜さすが少佐!
お客さんが多い多い(笑)」
気が付くと俺は左手で頭を抱え天を…と言っても廊下の低い天井しか見えないが、天を仰いでいた。
「そんなに心配しないでください。
少佐の敵は俺達の敵!
来るものは叩き伏せます!
俺のファイアウォールは使い捨てではあるけど、とても優秀です。
最新のハッキングが来てもファイアウォールだけで、20時間は持たせてみせます。
突破されてもそこからはハーディング型が大量のダミーデータダウンロード地獄とデータ転送地獄へ落とし、直ぐ相手をパンクさせますよ!」
カーターはそこまで言うと俺の肩を軽く叩き、部屋へと入って行った。
「遅くなって悪い、バーク代わるよ!」
「わりい、オレこれ苦手だ(笑)」
カーターとバークのいつもの会話だ…
まったく奴らいつの間にそんな凄い事をやってたんだ?
気が付かないなんて俺も上司失格だな(苦笑)
もっと部下のことも観察しないと、そのうちオレ抜きでしれっと恐ろしいことをやってそうだぞ?
俺はみんなの邪魔をしないように静かに部屋へ入って行った。
……
………
大型のモニターを持ち上げテーブルに置こうとようとしている奴がいる…バークの部下だ。
オレは声を掛けて一緒に持ち上げて設置した。
「次は何を運ぶんだ?」
「あぁスミマセン。では、ホワイトボードクリーナーで汚れを落としといてもらえますか?
これクリーナーと雑巾です」
奥の壁際にパーテーションが並べられて、その前には一際大きなホワイトボードが設置されている。
ホワイトボードは一応消してはあるのだが、確かに汚い…
オレはクリーナーを吹きかけると、雑巾がけを始めた。
少し奴らの笑い声が聞こえた。
が、みなチラリと見るだけで作業の手は止めない。
そんなにオレが掃除してるのが珍しいか?
……
………
コの字型に長テーブルが設置されているがテーブルとテーブルの間は広めに取られていて人が簡単に出入りすることができるようになっている。
部屋の中央には島が作られており、現在マーサがサンドイッチと各種ポットを設置している。
紙コップと紙皿が持ち込まれてきた。
「ファイアウォール展開終了!
今より20時間の安全圏確保!
引続きハーディング型仮想サーバーへの誘導導線の構築を開始します」
部屋全体にカーターの声が響く。
「分かりました。
終了見込みは?」
マーサがサンドイッチを並べる手を止めることなく訪ねた。
「10分で終わらせます!」
「焦らなくて結構!
カーターそこは我々の生命線です…ミスの無いように慎重に急いでください!」
カーターの手元がすごいスピードで動いている。
「主任…お腹すいた〜」
カーターが声を上げるとマーサはサンドイッチとコーヒーをお盆に乗せてカーターの前に置いた。
「サンキューっす」
右手を動かし、目はモニターを見つめたまま、左手でサンドイッチを口に運ぶ…
カーターってこんなに器用なのか(笑)
バークが台車を押して中に入ってきた。
大量のコピー用紙とマスキングテープだ。
そう、『籠る』時のマストアイテムだ。
この仲間。
ソーラーシステムよりもよっぽど価値を感じるぜ。