撃たない戦争   作:川口のミネ

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5 タバコの煙と汗の臭いとコーヒーの薫り

5 タバコの煙と汗の臭いとコーヒーの薫り

 

 翌朝、私は何時もより少し遅く出勤した。

 夜中、事務所の経費から24時間開いているスーパーで大量にドリンク剤と食料品を購入…

 1度帰り、シャワーを浴び、3時間ほど寝た。

 荷物は重い…

 でも、少佐達は寝ずに議論をしているはずだし……私にできることは限られている。

「おはよーリンダ、今日は朝番?」

「あっ。

 おはようございますマーサさん…

 その荷物…昨日の放送で例のアレ開催中ですか?」

 うちの『籠る』はこの建物ではちょっとした名物になりつつある。

「そう、今『アレ』やってる(笑)」

 リンダは楽しそうに受付から出てきた。

「前回は3日間ですもんね〜

 あの時ってみんな顔が死んでましたよ(笑)

 それ食堂ですか?持ちます!」

 袋を持ってくれたけど、受付を離れて良いのだろうか?

「助かるけど、大丈夫なの?受付」

「大丈夫ですよ〜

 ちょっと長いトイレだと思えば良いんです!」

 リンダ……

 物を持ってくれるのは嬉しいんだけど、少し私の緊張感が…(苦笑)

「今回も会議室の周り、できるだけ人払いしときますね〜」

 リンダは走りながら受付へと戻って行った。

 やれやれだ。

 食堂の大きな冷蔵庫を間借りして、ドリンク剤だけ持って第4会議室の扉を開けた……

 白い煙が層になって漂っている。

 予想通り…

「くっ……臭い!

 はいはい!みんな休憩!

 換気しますよ〜」

 私は1人ずつにドリンク剤を手渡す。

 カーターはいつの間にかモニターを3台追加しているし、バークは休憩って私が言った瞬間に机に突っ伏した。

 ハーディングはテーブルを人差し指でコンコンと叩きながら、私を見ているようで見ていない…

 テーブルの上はたくさんのバツがつけられた紙が散乱しているし、空いている紙コップも1つや2つじゃない…

 パーテーションには汚い字で書いた紙が無造作に貼り付けられ…また落ちている。

 ホワイトボードには3人がそれぞれ書いたのだろう断片的ではあるけれど…もう少し丁寧に書けばいいのに…

 読めるのは…

『ザビ家と和平交渉』

『ソロモンとア・バオア・クー』

『ソーラーシステムの成否』

『ジオンの新兵器の可能性?』

『ドズル・ザビ人物解析』

『逃走の可能性、逃走ルートの…』

 ええい!あとは読めない…

 矢印はいっぱいあって、まるで囲まれたものや、大きく上からバツがついているものまで…

 よくコレ3人とも話が通じるものだ。

 空気を入れ替える事と休憩を挟むことは、良い事だとハーディングさんが言ってた。

 ダラダラと長く会議を続けるよりも、一度ブレイクすることで、客観的な見方ができるらしい。

 私からすれば、お腹を空かせたまま何時間も会議を続けて、いい作戦なんて浮かぶはずがない。

 って思ってるから、私は私の戦線で戦うだけだ。

 そう、やはりココは前線…

 いや最前線だ。

 ハーディングは思い出したように立ち上がると廊下に出ていった……

 顔でも洗うのだろう、足元はまだフラフラにはなっていないから大丈夫だ。

 今のうちに灰皿を交換しておこう。

 カーターは…モニターを見ながら書き物をしている。

 この3人のなかで最年少だからか?まだまだ元気そうだ。

 バークが最年長なのは知っているけど、彼が1番疲れている様だ。

 テーブルの上には輸送ルートや補給量を何度も計算し直した紙が山のように積まれている。

 どれも赤ペンで何度も修正されていた。

 紙が散乱しているし、1番タバコの吸殻が多い…

「バーク?少しはタバコ控えたら?」

「あっマーサ…タバコのなくなっちゃった、買おきない?」

 私は換気して、みんなにコーヒーを淹れると、とりあえず静かに部屋をでた。

 ……

 ………

 アレから何度か8時間毎の食事休憩を強制的に取らせていた。

 かれこれスタートから30時間ほど過ぎたところで、みんなが戻ってきた。

 バークは入ってくるなり自分の机で突っ伏した…

「マーサ〜、甘いもの無い?」

 と聞いてきた。

「あれ?会議室にお菓子置いとかなかったっけ?」

「カーターに全部食われた(泣)」

 私は自分用のお菓子を袋ごと渡してあげた。

「やっべぇ、ネットワーク繋ぎっぱだった」カーターが慌てて廊下を戻っていく。

「マーサ、3時間後に資料を纏める、手伝ってくれ」

「ダメです。

 6時間後です。

 それまで寝てください」

 ハーディングは普段のスマートさが微塵も感じられない雑な動きで、ドカリ大きな音を立ててソファーに腰を掛けた。

「…3時間……いや…

 そう…だな

 あと…マクレラン准将とアシュ……あの少将に」

「はい。

 アシュクロフト少将ですね。

 会議の申し入れをしておきます。

 いつ行かれます?」 

「……」

 返事がない…

 ハーディングは話しながらソファーで横になると目を閉じて…既に寝息を立てていた。

 私はブランケットをハーディングに掛け、事務所を出て会議に向かった。

 ……

 ………

 会議室の扉を開けた…

 さまざまな臭いが入り混じった部屋…臭いけど嫌いじゃない。

 カーターがまだ作業している…

 いや、寝てる…

 何とか最後の仕事はちゃんとしたのだろうか?

 モニターを覗き込むとオフラインと出ている…

 回線の接続は切れているようだ。

「カーター?」

「あぁマーサさん…ちゃんと終わりました。

 少し寝かせてください」

「別にいいけど寝るなら仮眠室行けば?

 ここ片付けるけどいい?」

 返事はなかった。

 ただの睡眠不足の若者のようだ。

 さて…機密書類っぽいのもたくさん散乱してるからこのままには出来ないし、誰かに片付けて貰うわけにも行かない。

 さて、ここからは私の仕事だ!

 落ちている書類を読める範囲で分別し整理していく…

 読めないものは筆跡から書いたであろう人のファイルに入れていく。

 ホワイトボードには大きくまるで囲まれた『ザビ家との和平』の文字が眼を引く…

 カーターを起こさない様に私は静かに腕まくりした。

 このタバコの煙と汗の臭いの入り混じったこの部屋…

 最後に自分の為にコーヒーを淹れるぐらいは構わないだろう。

 芳醇とまではいかないが、いつものインスタントコーヒーの薫りが心地よかった。

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